マンネリ気味だった大河ドラマに変化 吉高由里子『光る君へ』は“平安時代の週刊文春”に?

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2022年07月24日 08:01  リアルサウンド

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吉高由里子と大石静(写真提供=NHK)

 2024年のNHK大河ドラマが吉高由里子主演の『光る君へ』に決定した。


【写真】『光る君へ』主演の吉高由里子


 物語の舞台は平安時代中期。吉高が演じるのは「世界最古の女性文学」として知られている『源氏物語』の作者・紫式部。脚本は、大河ドラマは2006年の『功名が辻』以来2度目となる大石静。制作統括は連続テレビ小説『スカーレット』の内田ゆきが担当している。


 つまり本作は、女性が主人公の物語を女性中心のチームが手掛ける大河ドラマとなっている。何より、平安貴族の物語を大河ドラマで観られることが楽しみである。


 戦国時代と幕末を舞台にした物語ばかりが続き、マンネリ気味だった大河ドラマだが、明治末から昭和を舞台に日本でのオリンピック開催に尽力した日本人の姿を描いた2019年の宮藤官九郎脚本の『いだてん〜東京オリムピック噺〜』以降、変わりつつある。


 2021年には渋沢栄一を主人公に幕末から昭和初期までを描いた大森美香脚本の『青天を衝け』が作られ、今年は北条義時を主人公に、平安末から鎌倉時代にかけて描く三谷幸喜脚本の『鎌倉殿の13人』が放送されている。どちらも一般視聴者には馴染みの薄い時代だが、時代背景や登場人物の見せ方が丁寧で、高く評価されている。


 2020〜21年の『麒麟がくる』のような戦国時代を舞台にした作品も、明智光秀を主人公にして帝と武士の関係を描くという面白いアプローチを試みる作品も登場している。2023年に放送される徳川家康を主人公にした『どうする家康』も、主演が松本潤、脚本が『コンフィデンスマンJP』シリーズの古沢良太ということもあって、一筋縄ではいかない作品になることは間違えないだろう。


 このような大河ドラマの近年の傾向を踏まえると『光る君へ』が作られることは、必然的な流れだとも感じる。


 貴族社会が物語の中心となるため、派手な戦闘が描けないことを懸念する声もあるが、三谷幸喜の『真田丸』や『鎌倉殿の13人』が成功しているのは戦にいたる政治的駆け引きや人間関係の機微を丁寧に紡ぎ出しているからだ。


 きらびやかな衣装を身にまとった貴族たちの優雅なやり取りの裏側で熾烈な権力闘争がおこなわれる平安時代は、大河ドラマにうってつけの題材である。何より紫式部は、とても現代的なキャラクターだ。


 紫式部と言うと『源氏物語』の名前が先に出てしまうが、もうひとつの彼女の重要な作品に『紫式部日記』がある。藤原道長の要請で宮中に入ることとなった紫式部が1008年から1010年にかけての宮中での出来事を綴ったもので、藤原道長の娘・彰子の出産や数々の儀式の記録、紫式部が清少納言や和泉式部といった同時代の女流作家に対して彼女がどう思っていたかが記録されている。当時の紫式部はジャーナリストに近い立ち位置で、『源氏物語』も純粋なフィクションというよりは、劇中で描かれる朝廷の様子や貴族たちの勢力図が実話を取り入れたリアルな物語として一部の貴族に読まれていた。


 光源氏のモデルも藤原道長を筆頭に複数の貴族の姿が投影されていると言われており、小説の形を借りたゴシップ記事としての側面も大きかった。宮中に仕えながら、貴族やその妻たちの優雅な生活の中に入り込み、その内幕を記録していた紫式部は現代風に言うと、インフルエンサー兼ルポライターのような存在だったと言えよう。


 吉高由里子が新聞記者を演じた『知らなくていいコト』(日本テレビ系)や相葉雅紀がネットニュース記者を演じた『和田家の男たち』(テレビ朝日系)など、近年の大石静は、ジャーナリズムを題材にしたドラマを手掛けている。おそらく『光る君へ』も「平安時代の週刊文春」とでも言うようなジャーナリズムドラマとなるのではないかと思う。


 同時に気になるのが『源氏物語』をどのような形で取り入れるかだ。『セカンドバージン』(NHK総合)を筆頭に、不倫を軸にしたメロドラマに定評がある大石だが、稀代のプレイボーイとして知られる光源氏が、複数の女性と次々と恋愛を繰り広げる『源氏物語』は、大石がもっとも得意とする題材である。そう考えると、光源氏が主人公の『源氏物語』でも良かったと思うのだが、今回の主人公は女流作家の紫式部である。おそらくここに『光る君へ』を読み解く最大の謎があるのではないかと感じる。


 おそらく本作は、紫式部が貴族の内幕を暴く平安ルポルタージュと、光源氏を取り巻く女たちの姿を描いた『源氏物語』が劇中劇として同時進行していく「入れ子構造」の物語となるのではないかと思う。そして、そこで描かれるのは、現代にも通じる女性が抱える様々な問題だろう。


 高畑勲監督の『かぐや姫の物語』や山田尚子監督の『平家物語』など、アニメでは近年、古典を再解釈し、男社会で苦しむ女性の立場から物語を紡ぎ直すアプローチの作品が増えている。『光る君へ』も、現代女性の視点から、平安時代、紫式部、『源氏物語』を読み解き直すような大河ドラマとなるのではないかと期待している。


(成馬零一)


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  • 戦国武将に幕末の志士はもういいや!文人をやってくれ、何度も書いてる山田孝之で南方熊楠、海外ロケありで。夏目漱石だっていい、ロンドンロケありで。
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