ぶっ飛び哲学アニメを個人制作でテレビ放映? 菅原そうたが語る『5億年ボタン』

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2022年08月04日 19:20  KAI-YOU.net

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ぶっ飛び哲学アニメを個人制作でテレビ放映? 菅原そうたが語る『5億年ボタン』
「頭蓋骨に穴を開ける手術をうけて、生きるか死ぬかっていう経験をしたんですね。結局生き延びたわけだけど、俺はもう『人生の途中』じゃなくて終わりにさしかかってるんだと。

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だから、ボンヤリと『仕事で成功したい』とか言ってる場合じゃなくて、自分の集大成をつくらねばって思って、このアニメをつくり始めたんですよね。全部一人で」



2022年夏クールのアニメとしてTOKYO MXにて放送開始となったTVアニメ『5億年ボタン【公式】〜 菅原そうたのショートショート〜』(以下『5億年ボタン』)。

本作は、5歳児のトニオ(CV:野沢雅子)とその姉であるジャイ美(CV:三森すずこ)、スネ子(CV:大空直美)、そして謎の女性キャラ・井上博士(CV:高野麻里佳)を中心に、ゆる〜い(?)日常と哲学的な思考実験を混ぜ合わせたようなシュールなエピソード、声優陣によるアドリブコーナー、また今やネットミームとなった「5億年ボタン」を取り上げたコンテンツを紹介するパートを詰め合わせたカオスなアニメだ。




原作は、のちにロックバンド・B-DASHのアートワークでも知られるようになるマルチクリエイター・菅原そうた氏が1999年から週刊誌『SPA!』(扶桑社)で連載していた漫画『みんなのトニオちゃん』の単行本に収録されたエピソード。

そのボタンを押した者は何もない空間で5億年過ごさなければならないが、5億年経過した時点でその空間での記憶は消去され、100万円を手にすることができるという「5億年ボタン」をめぐるお話だ。

このアイディアはネットを中心に「自分だったら押すか押さないか」という議論を巻き起こして話題となり、ネットロア的に語り継がれている。



そんな「5億年ボタン」が20年以上たった今、原作者の手によって満を持してアニメ化されたわけだが、いざアニメクレジットを見てみると……「原作/監督/企画/シリーズ構成/構成/脚本/キャラクター原案/キャラクターデザイン/作画監督/音響監督/音響演出/コンテ/Vコンテ/編集/色彩設定/美術監督/プロダクションデザイン/ロゴデザイン/撮影エフェクト/VFX/モデリング/モーション 菅原そうた」と、すでに正気の沙汰ではない。

さらに、アニメーション制作・製作・著作も「STUDIO SOTA」という、菅原そうた氏とパートナーによる(ほぼ)個人のアニメ制作会社でもある。

一念発起した菅原そうた氏が、(ほぼ)個人でTOKYO MXの広告スポンサーとなって、それが実際に毎週木曜24時30分から放送されているというのだから、およそ前代未聞のテレビアニメシリーズだ。

そんなツッコミどころ満載のTVアニメ『5億年ボタン』について、本作のオープニング映像監督を共同で務め、菅原氏とは長年の友人でもある映像作家・大月壮氏にも同席してもらって話を聞いた。





処女作にして最新作『5億年ボタン』 漫画持ち込みから始まった菅原そうたのキャリア



菅原氏が「自身の集大成」と呼ぶTVアニメ『5億年ボタン』を知るために、まずは菅原氏のバイオグラフィーを追っていこう。先述の通り、本作は『SPA!』に連載されていた漫画『みんなのトニオちゃん』に端を発している。

菅原「高校生の時は美術部でも下から数えたほうが早いくらい絵が下手で、美大に行きたかったんですけど全落ちしました(苦笑)。それでお先真っ暗の状態だったんだけど、18歳でMacと出会って、当時3DCGの『Strata 3D Pro』っていうソフトで丸い球体のCGキャラクターをつくってみんなに見せたら『上手いじゃん』って褒めてもらえたんですよ。

ただ、CGイラスト単体だと商売になりにくいから『やっぱり漫画だ!』って思い、自分で考えた哲学ネタやギャグネタを膨らませたCG漫画をつくりはじめました。

そこからPhotoshopを覚えて、3DCGで30ページの『5億年ボタン』と、合コンでキャラが全員死ぬ漫画を『SPA!』に持ち込みました。編集者から『連載したい』と言ってもらえて、いきなり漫画家デビューできたんです」

時は1998年、菅原氏19歳。『5億年ボタン』が実は処女作でもあったというから驚きだ(「5億年ボタン」は長編エピソードのため、週刊誌連載時には掲載されず、単行本での収録となった)。



実はそれに先立ち、『週刊少年ジャンプ』(集英社)編集部にも漫画を持ち込んでいた。内容は評価されるもフルカラー作品だったため掲載はされず、代わりに同誌のゲーム紹介コーナーのCGの仕事をもらうなどして生計を立てることに。

そして『SPA!』での連載終了後、5億年ボタンのネタで再び『BUTTON』というタイトルの漫画を『少年ジャンプ GAG Special 2002』に31Pで掲載してもらうも、連載には至らなかった。

しかし、当時CGクリエイターは希少で、CGの仕事だけでも十分食べていくことができた。

B-DASHでもお馴染みの「トニオちゃん」は広がっていく





また、菅原氏は高校時代、横浜で行われていた音楽フェスティバル「YOKOHAMA HIGH SCHOOL Hot Wave festival」(通称:HOT WAVE)にバンド「HAGUKI」として出演。その後、実兄であるGONGON氏もバンドに加入し、「HAGUKI-DASH」→「B-DASH」と改名した(菅原氏はバンドでは主にトニオちゃんをモチーフにしたVJ、MV、CDジャケット、グッズ関連のデザインなどを担当することに)。

『5億年ボタン』の主人公であるトニオは、30代半ば以上の読者にとってはB-DASHのジャケットのキャラクターとして認知している人も多いだろう。トニオは、当時のメロコア・エモコア系バンドを紹介するテレビ番組『HANGOUT』(2002年/テレビ東京)のオープニング映像やオリジナルCGアニメ『みんなのトニオちゃん』(MUSIC ON! TV)にも登場するなど、菅原氏を代表するキャラクターとなった(アニメ『5億年ボタン』の第1話でも、B-DASHについて触れられている)。




2000年以降、菅原氏は音楽との関わりから、VJ文化に傾倒していく。またこの頃に漫画家・タナカカツキ氏を介して、大月氏ら映像クリエイターとの交流を深めていった。

大月「当時、カツキさんから『変なヤツがいるんだよね』って、そうたを紹介された。『5GBくらいの映像がメールで送られてきて、頑張って見たらしょーもなくてボロクソ言ったんだけど、しつこく何度も送ってくる』って。カツキさん、メールが来るたびにパソコンが使えなくなるって怒ってた(笑)。そんな感じで知り合ってから20年は経つんだけど、今回そうたの集大成的な、とても大切な作品のOP映像に声をかけてもらえたのをすごく光栄に思ってる」

菅原「タナカカツキさんのところで最初に出会った壮くんとは、映像をつくり始めたころからの親友で。その後もずっと一緒に遊びながらクリエイティブ道を走ってる感覚があります。今回のアニメ『5億年ボタン』OPを頼めたのも運命的なものを感じてて、僕としてもめっちゃ嬉しいです!

タナカカツキさんもよくしてくださって、遊びでつくった不条理映像を送ると、カツキさんがアフレコして動画を返してくれる、という遊びを仕事とはまったく関係なく繰り返したりしてて(笑)。

それで大量に出来た映像を他のバカCG映像とあわせて、『あかるい世界』というギャグCG作品としてポニーキャニオンから出してもらったこともあります。その後の『gdgd妖精s』のアフレコは、この経験から発想したんです。ちゃんとした脚本よりも不条理なものを投げてアドリブでアフレコするほうが、大喜利のライブ感があっておもしろかったりするな、と」

その後、深夜アニメ『ネットミラクルショッピング』(2008年/毎日放送)や『gdgd妖精s』(2011年/TOKYO MX)など、いずれもカルト的な人気を博すテレビアニメを手がけることとなった菅原氏。『ネットミラクルショッピング』は大月氏の知人であるビクターの柴田プロデューサーと知り合ったことから実現した企画だったという。

菅原「『ネットミラクルショッピング』が終わった直後くらいに、モーションキャプチャーがほしくなったんです。なのでヤフオクで検索したら、『ファイナルファンタジー』で使ってるような2000万円くらいのモーションキャプチャー一式が『壊れてます。使えるかどうかわかりません』という状態で50万円で売りに出ていて、それをダメ元で買いました。そこから機材の開発会社を調べて交渉して10万円で修理してもらったら、奇跡的に使えるようになったんです」

当時の先進技術であったモーションキャプチャーを使って、アドリブ大喜利アニメをつくっていた菅原氏。トニオちゃんきっかけで連絡をくれたGEOの福原和晃プロデューサーにその作品を見せたところ面白がってもらい、それがSMP(ストロベリー・ミーツ ピクチュアズ)の別所敬司プロデューサーのもとでの『gdgd妖精s』へとつながっていく。

ただ、当時のモーションキャプチャーはテレビアニメ本編で利用できるほどの精度やクオリティを担保できなかったため、『gdgd妖精s』は最終的にMikuMikuDanceなどを取り入れた手付け3DCGアニメとなった。




菅原「結局、モーションキャプチャーを買った1〜2年後にはKinectが格安で出て、MMD文化でも同じようなことを始めた方々が大勢いました。

このスタイルは方法論さえわかればできちゃうので、数年後にはVTuber(バーチャルYouTuber)も出てきて、今や誰でも手軽にモーションキャプチャーをつかってライブ配信できる時代になりましたね」

時代を先取りすぎた菅原氏はその後も、『gdgd妖精s』2期や劇場版、『Hi sCoool! セハガール』や『なりヒロwww』、『gdメン』、『でびどる!』など、数多くのテレビアニメを手がけるのだった。



死を感じた体験……漫画をアニメにしたいと思った動機



一方で、自身の身に起こったさまざまな経験が心境の変化をもたらしていく。2015年に実父である歌手のすがはらやすのり氏が急性骨髄性白血病のため逝去。2017年12月には菅原氏が低髄液圧症候群と慢性硬膜下血腫という大病を発症し自身の死とも直面し、一命をとりとめた2019年には子どもが誕生するなど、多くのライフイベントを体験した。

菅原「その頃から自分が死ぬまでを逆算するようになって、19歳で漫画家デビューした時に思っていた『いつか自分の漫画をアニメに出来たら』という夢を叶えたいと思ったんです」

大月「2019年に、そうたと一緒に共通の友人であるアーティストのファンタジスタ歌麿呂さんに会いにニューヨークへ行ったんですよ。それで、ニューヨークの街を歩いてる時に、そうたが突然『5億年ボタンの続きをつくろうと思う』って言い出して、街中で急に座り込んで、たびたび作品構想のメモを書いてたよね(笑)



菅原「ニューヨークの街に立ってて、『ここにいる外国の人に俺を紹介するとしたら、なんて紹介すればいいんだろう?』って思ったんですよ。それで、自分はどういう人間なのか、どういう作品をつくっているのか、自分を紹介できるモノをつくりたいと思ったんです」

こうして、2019年から菅原氏は個人で『5億年ボタン』の制作を開始する。思春期には「この世界ってなんだろう?」「神がいないなら善悪はどうやって判断するんだ?」といったことを考え続ける少年だった菅原氏は、大人になってから哲学書を読み漁るようになっていた。



作品の中には、自分が日頃興味を持っていた哲学・宗教的思想などをふんだんに盛り込み、自身の世界観を余すことなく体現することにした。

菅原「自身の世界観については、家族みんなバラバラだけどしょっちゅう話し合って、僕は哲学方向でいろいろ考えてましたね。あと、父親が亡くなる数週間前、自宅療養中に習字で『宇宙はエネルギー』って書いて自室に貼ってたんですよ。僕も汎神論として同じように感じることもあったし、あぁ、父ちゃんはこれを残したかったんだなって感動しました(笑)」

大月「遺言がそれってヤバいね(笑)」



『5億年ボタン』は、業界への反骨精神?



そして、3年という年月をかけて『5億年ボタン』が完成した。ここからは、そんな本作のツッコミどころ……もとい、魅力について深堀りしていこう。



まず目を引くのは、冒頭でも触れた通り、本編のほぼすべてを菅原氏1人で手がけていることだ。これには、「自身の集大成」という意味合いに加えて、VJ文化や数多くのTVアニメを経験してきた菅原氏が感じた“引っ掛かり”がその背景にある

菅原「かつてのVJ文化やMVなどには超天才クリエイターが多くいたけれど、音楽の世界ではやはり音楽が中心でアーティストが前面に出てくるので、映像制作者はなかなか表に出てこなかったり、見る人からは認知されていなかったりという状況があると感じていました。アニメについてもやはり基本は集団制作なので、クリエイターがどこからどこまでを手がけたのか、外側にはしっかりと伝わらない部分も多い。

それでも、自分のやった仕事はちゃんと評価してもらいたいし、評価されることでクリエイターにファンがつくのであればそれは商業的にもプラスだし、もっとクリエイターが尊重されるようになればいいのにと思っていたんです」

大月「映像制作のスタッフは『裏方の仕事』って言う人がいるんだけど、チームワークの仕事に本当は裏方なんていないんだよね。っていうか、スタッフに裏方気分で仕事されるのもクソ迷惑。裏方っていう意識はこの世から消滅したほうがいい(笑)。

だからか、そうたはクリエイターをすごく尊重してて、クレジットにも本当にすごいこだわるよね。俺も最初、オープニングのクレジットで自分の担当した箇所が細かく書かれていて、こんなに細かく書かなくていいよって(笑)。クレジットをどう表記するかで何度もやりとりした」



菅原「最初、壮くんはCGカットとタイポグラフィだけだったんだけど、その後色々担当してもらったから"監督"にしたほうが良いかなって。これまで自分の実績があまり表に出てこなかったからこそ、相手に失礼があったらいけないなって思って……。そうしたら、壮くんからは『俺は監督やってないじゃん。俺だったらもっと良い監督するし』って返ってきた(笑)」

大月「コンテはそうたが描いてたし、今と構成も違ったからさ(笑)」

自身の仕事が自分の名前と共に世に出るということは、クリエイターにとっては喜びでもあるし、そもそも死活問題でもある。しかし、特に集団制作ではなかなか表に発信しきれない部分がどうしても生じてしまう。

例えば過去のアニメ作品で、監督として脚本や音声編集も兼任していても「菅原そうた」というクリエイターの名前は下手なCGをつくるだけの人という印象で、哀しい思いを抱えることもあった。

こうしたモヤモヤをバネに、今回(ほぼ)個人アニメーションとも言える作品として結実した。



テレビアニメ全12話を一人で……秘訣はアセットにあり



菅原「アニメ本編は自分で一通り出来たんですけど、やはりオープニングとエンディングを自分で歌うわけにはいかなかったので、THINKRさんに相談してKAMITSUBAKI STUDIO所属のアーティスト・幸祜さんと理芽さんの素晴らしい楽曲を使わせていただくことになりました。

そして、音楽は自分じゃないから、もうオープニングとエンディングは別物として『めちゃくちゃ格好良い映像をつくれる人にお願いしたい』と思い、オープニングを壮くん、エンディングはビームマンPさんにお願いすることにしたんです」



それでも、本編尺約20分のテレビアニメ全12話をほぼ1人で作成するのは、0→1では不可能に近い。そこで『5億年ボタン』では、数多くのアセット(作品内で使える素材。「資産」の意)が用いられている。

メインキャラクターであるジャイ美やスネ子らの3Dモデルやテクスチャーも商業利用可能なVRoidという、ピクシブが開発する3Dアバターサービス上のモデルを購入した上で活用し、背景素材などの多くはアセットだ。

菅原「今回はめちゃくちゃアセットやVRoidショップさんに助けられましたね!」

大月「ははは(笑)。まあ、アセットや素材集をガンガン利用して作業コストを抑えながら1人で作品全部をつくり上げていくってスタイルは、知り合った時から一貫してる。

昨今のCG業界的にもUnreal Engineとかはアセットを利用することが前提になってきてるし、そういう意味では時代にフィットしてきたのかも。そうたの中でやりたいことっていうのは、画とかじゃなくて脚本とか世界観なんだろうね」



菅原「僕はCGが下手だけど面白いものを『アイデアと発想』でつくる作家だ、と自分では思っていて、自分がこだわりたいところはカメラワークや間や見せ方だし、やりたいのはVコンテ(ビデオコンテ)。

例えば1週間と制作の時間が限られている場合、背景は固定アングルの静止画でイラスト1枚、みたいな表現で終わらせてしまうことも多い。でも、現代の技術やCG機能で出来ること、出来ないことを加味しながら、3DCGアセットを駆使して一ヶ月かけて背景をつくっていくと、ギリギリのコスパでちゃんと3Dモデルで動くCGやアニメ表現として、自分の脳内イメージに近づけられる。

だから1話に一ヶ月以上もの時間をかけて、今の形になっているんだよね」



アセットをフル活用して作品をつくるこうしたスタイルはテレビアニメでは類を見ないが、一方で近年のインディーズゲームを彷彿とさせるだろう。2019年にネットを騒がせたゲーム『ファイナルソード』や、『オーバーダンジョン』や『クラフトピア』といったアセットをフル活用しさまざまなゲームシステムを組み合わせて魅力的なゲームを世に送り出している株式会社ポケットペアの作品などが代表例として挙げられる。

実際に、菅原氏も数年前にUnityを使ったVRゲームを自主制作しており、「UnityとUnreal Engineを覚えてからアニメに帰ってきた」と話す。また、アニメ『5億年ボタン』のアセットもゲーム制作時にUnityとUnrealそれぞれで数百万円以上を投資して購入したモノを使っており、本作用に購入した素材はほとんどないのだという。

菅原「アニメ『5億年ボタン』に登場するラップパートも、2007年に音楽制作ソフト『GarageBand』にハマって、当時つくったラップと映像をほぼそのまま流用しています。変えたのは、映像の中に登場する人物の3Dモデルをアップデートしたくらい。

音楽もそうですけどやっぱり1stアルバムの良さというのがあって、1stアルバムにはそのアーティストのすべてが詰まってるんですよ。僕はBACK DROP BOMBが好きなので、僕の『MICROMAXIMUM』(BACK DROP BOMBの1stアルバム)みたいなもの(笑)。このラップを今やれと言われてもできませんね」

こうして出来上がった菅原そうた(ほぼ)100%のアニメ『5億年ボタン』。一方で、野沢雅子氏や銀河万丈氏、三森すずこ氏といった超豪華声優陣も目を引く。この起用も、菅原氏のこれまで築いてきた仕事が実を結んでいる。



菅原「野沢雅子さんがNiziUのダンスをするCG映像をつくる仕事があって、その撮影のタイミングで野沢さんに『アニメつくってるんですけど、出てくれませんか?』と聞いたら『いいわよ』って言ってくれたんです。超優しいですよね(笑)。三森さんとは『gdgd妖精s』と『でびどる!』でご一緒させていただきましたし、ほかのキャストの方も、全員主役と言えるような方々に集まっていただけました。みんなのやさしさに協力してもらって出来上がってるアニメなんだと思います」




ちなみに、『ネットミラクルショッピング』の時からアフレコを先に収録するプレスコ収録だったが、今回のアニメでは、菅原氏自身が声入れをした映像で声優陣に声をあててもらっている。その際にどうしても多少のリップズレが起こってしまったところは、声優陣による音源に合わせて映像リップを再調整しているという。



菅原「『5億年ボタン』アドリブパートは去年の年末までつくってなかったので、声優の音声を収録してから追加でつくりました。声優の動きや表情がかわいいって思ってくれている視聴者さんがいたら申し訳ないんですが、あれは音声を聴きながら自分で演技したフェイスキャプチャーデータを合成したので、声以外はおっさんがやっています



奇才の人生が高濃度に詰まった異色のアニメ『5億年ボタン』裏話





さらに驚くべきは、本作がTOKYO MXで流れるということだ。菅原氏は、全12話をつくり終えたタイミングで本作をどう世に出したらいいかわからず、『でびどる!』(TOKYO MX)のまさたかPに相談した。

TOKYO MXのアニメビジネス部の方を紹介してもらい、個人名義での放送は叶わないと言われたため、2021年11月に「STUDIO SOTA」を設立。菅原氏のこれまでの実績もあり、無事テレビ放送が決定した。

また、TOKYO MX側の尽力もあって数多くの配信会社と配信契約を結び、なんと28もの動画サービスでの配信も実現。

こうして実質、個人アニメーションのテレビアニメシリーズ放送という前代未聞の作品、『5億年ボタン』の座組が整った。製作・著作は自身の事務所である「STUDIO SOTA」が担当することとなった。

菅原「例えば漫画家は、単行本印税で10%くらいもらえますよね。アニメ監督も、死ぬ気で頑張ってる。でも、DVDとかBlu-rayの印税は1%くらいしかもらえない。自分で歯を食いしばりながらほぼすべてをやれば、1作品でアニメ100本分儲かっちゃうんだと思ったんですよね。

ただ、実際には原価製造費などで、パッケージ売上も30%程度しか入ってこなかったりと、そんなに単純な計算じゃないことがわかりました(苦笑)」

作品の内容や参加クリエイター、また放送の枠組みなど、テレビアニメ『5億年ボタン』は、まさに"菅原そうた"という人物がこれまでの人生で得たクリエイティビティや人とのつながりといったアセット(資産)によって出来上がった、奇跡のような作品でもある

菅原「ありがたいことに、『5億年ボタン』というアイディアはネットで長く愛されてきて、これまでも多くの人が取り上げてくれました。もともとネットで盛り上がっているコンテンツに、『あれをつくったのは自分です!』と前に出ていくのはどうかな? と思っていた部分もあったんです。実際に、東方Projectや初音ミクもみんなに開くことで愛されてきていますし。

それでも自分の人生の集大成をつくるとなった時に、やっぱり『5億年ボタン』をやりたいと思った。だから、自分の手でアニメにすることにしたんです」

ここまで読んでくれた方には伝わったと思うが、菅原そうたという1人のクリエイターの執念が実を結んだのが、このアニメ『5億年ボタン』という作品だ。その経緯を含め、非常にDIY的で、クリエイターにとってはもしかしたら新時代のアニメ製作方式のひとつのモデルケースとなりえるかもしれない。ただ、現時点で収益としては赤字だという。

それでも実現させる執念は、「そうたの自己の妄想を具現化したいっていう欲求の強さ、すごいよ本当に」と、長年の付き合いとなる大月氏も唸らせる。

大月「特に、第4話にとても感動して。3話までは哲学や思想のことを勉強っぽい感じで頭で理解するって感じだったんだけど、4話ではそれが感覚的に体感できるようになっててめちゃくちゃ気持ち良かった。それこそサウナの後のととのった時みたいに、観た後に外に出ると街の風景が活き活きと感じられるような、そんな感じになった。本当に、笑って学んでブッ飛んで気付かされる、超良い作品だと思う

第4話には、世界的な名曲と共にアシッドムービーさながらの強烈なシーンがある。テレビからバキバキのトリップ映像が流れてくるという痛快さも、本作ならではの魅力だろう。



大月「今回の作品である意味そうたは自分の我を出し切ったけど、ほかにも面白そうなクリエイターに『自分だったら5億年ボタンをどう表現するか?』ってのをやってみてもらいたい。あなたの"わが世界観"(哲学者シュレーディンガーの著作名)はなんですか?って」

菅原「この作品でもう自分は全部出し切って、タイトルにも自分の名前を入れて、クリエイターとしての自己紹介も終わったから、もはや無私の境地だね(笑)。『5億年ボタン』の権利も、初音ミクのpiaproみたいに『全然安心して今まで通り使って良いよ』と解放していこうと思ってます。

次はみんなでアニメ『5億年ボタン』のショートショートをやりたい。いろんなクリエイターの『5億年ボタン』を、テレビアニメで見たいです」



1人の奇才クリエイターの人生が高濃度に詰まった異色のテレビアニメ『5億年ボタン 菅原そうたのショートショート』。ここには、きっと何人かの人生を変えてしまうほどの力があるはずだ。興味を持った人は、ぜひその宇宙……もといエネルギーを自身の目で確かめてみてほしい。

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