土村芳「今の自分ができることを存分に」 『二十四の瞳』での子供たちからの学び

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2022年08月08日 08:01  リアルサウンド

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土村芳(撮影:梁瀬玉実)

 これまで何度も映像化されている壺井栄の小説『二十四の瞳』。土村芳が主演を務め、吉田康弘が脚本・演出を手がける8月8日放送の特集ドラマ『二十四の瞳』(NHK BSプレミアム、BS 4K)は、11回目の映像化となる。


【写真】大石久子演じる土村芳


 昭和3年、瀬戸内海の島。岬にある分校に赴任したのは、女学校を出たばかりの土村演じる大石久子だ。キラキラ輝く瞳の12人の1年生は皆、明るく朗らかな久子にすぐに懐いた。自転車に洋服姿でさっそうと登校する久子は、保守的な村人たちからは敬遠されるが、子どもたちはいつも久子の味方であり心の支えであった。


 歴代、何人もの女優たちが演じてきた大役へのプレッシャーや共演した子役たちから受けた刺激について、久子を演じた土村芳に聞いた。


■子どもたちへの感情を大切に


――『二十四の瞳』はこれまで何度も映像化されている作品ですが、撮影前の気持ちはいかがでしたか?


土村芳(以下、土村):これだけ長い間ずっと描かれ続けているので、本当にたくさんの人たちに愛され続けてきた作品なんだなとすごく感じました。そんな作品で私が大石久子先生役をやらせていただくというのはすごく驚きましたし、プレッシャーはものすごくありました。


――これまで映像化されている作品の中で参考にした部分はありましたか?


土村:錚々たる方々の作品を拝見して、「自分はどうする?」と思ったときに、出口のない思考回路にズブズブはまっていったんです。でもだいたい頭で考えすぎると良いことなくて(笑)。考え過ぎて、またよくない方に行ってるなーと思っているときに、ちょうど子どもたちと事前にリハーサルできる日があったんです。初めて子どもたちと会ったその瞬間から、みんながかわいくて。リハーサルをしていてもすごく楽しかったですし、鬼ごっこをしたり、歌の練習をしながら電車ごっこをしたり……。その経験で実際に子どもたちに対して湧き上がってきた愛おしさや、そのときに触れ合って出てきた感情を信じれば、私なりの大石先生になっていくんじゃないかなと思って、その気持ちを大事にしようと思って演じました。


――考えすぎていたことは、子どもたちと会ったことで吹っ切れたと。


土村:そうですね。プレッシャーは常にどこかには存在しているんですけど、子どもたちが自分の拠り所になってくれたことがすごく大きかったです。


――教室で大石先生に名前を呼ばれた子どもたちの目が本当にキラキラしていました。


土村:子どもたちがすごく重要な作品なので、子どもたちと私との関係性を監督が大事にしてくださりました。言葉を多くやり取りせずとも、こちらのリズムや気持ちを汲んでくださる監督だったので、現場でもそんなに言葉がいらなかったというか。撮影の最中はいっぱいいっぱいだったんですけど、終わってみると助かっていた部分がたくさんあったなと思います。


――多くの子役と共演する上で、演技についてどんなコミュニケーションを取りましたか?


土村:お芝居はみんなもう天才的でした。全員がとっても自然で。すごいなっていう言葉しか出てこないんですけど、私が小さい頃だったら絶対こんなんじゃないなって(笑)。小豆島での撮影は、1月だったのですごく寒かったですし、撮影シーンによっては薄い着物だったり、ふんどしの子とか、裸足の子もいて。なのに誰一人現場で弱音を吐く子がいなくて、子どもたちのそのエネルギッシュさに元気をもらっていました。


――5月に公開された『劇場版 おいしい給食 卒業』をはじめ本作でも子役との共演が続いていますが、彼ら彼女らから受ける刺激はありますか?


土村:すごくあると思います。ハッとさせられることも多くて。『二十四の瞳』では、現場に対する姿勢は私も学ぶことがありましたし、「こんなにみんな頑張ってるんだから私もちゃんとしないとな」ってすごく思いましたね。私としてであったり、大石先生としてであったり、どちらの面でもすごくいい刺激をもらっていたと思います。


――何度かあった合唱のシーンがすごく微笑ましかったのですが、どのように撮影したのでしょう?


土村:オルガンは練習させてもらえたので、実際に弾いて、みんなでせーので歌うんですが、もうみんなの声に負けちゃいますね(笑)。それぐらい元気いっぱいですし、子どもの歌声ってすごくいいなと。物語としても、歌の要素はすごく大事になってくるので、子どもたちの魅力や島の景色など、いろんなものと歌が溶け合って、すごくいい情景になっていると思います。


■教師として、母親としての向き合い方


――本作を含め、これまでにも『この世界の片隅に』(TBS系)や『べっぴんさん』(NHK総合)など、戦時中を舞台にした作品に出演する際に役作りで意識していることはありますか?


土村:そのときの時代背景は勉強させてもらうんですけど、あくまでも知識の一つでしかなくて、役と向き合う時間の方が圧倒的に長いです。“こういう時代背景があったから、こうなっている”という設定はあるんですが、その上で、大石先生が教師として、母親として向き合っている対象の方に重きを置くようにしているというか。母親としての子どもとの向き合い方は、先生としての子どもとの向き合い方ともちょっと違ったりするので。


――今作では、母親としてと先生としての向き合い方の違いをどう意識されましたか?


土村:先生としては、やっぱり生徒に対して立ち入れない部分があって。例えばコトヤンやマッちゃん、フジちゃんとかみんなそうなんですけど、それぞれの家庭の事情に干渉することはできない。けど、生徒として学校に来てくれたときには、大石先生として、子どもたちに自由に遊んで、学んで、楽しく過ごしてもらおうという思いがあるんじゃないかなって。そこはたぶん母親と先生とでは違うのかなと思いました。


――たしかにマッちゃんのシーンでは心配しているけど、踏み込めない大石先生の姿が辛そうに見えました。


土村:あそこは切なかったですね。


■出会う人によって学べること、気づけることは違う


――本格的に演技を始めててから10年以上経ちますが、長くやられてきた今、考えることはありますか?


土村:10年……そっかぁ(笑)。こういう作品もあれば、ポップな作品もあったり、決め込むこともなく自由にいろんなキャラクターを演じさせていだたけていて、すごくありがたいなと思います。朝ドラや今回のように、長い年代を演じさせていただけることもすごく恵まれているなと思いますし、監督や共演者の方をはじめ、すごく素敵な方々と出会えていて、また会いたいと思う方々ばかりです。


――朝ドラや『二十四の瞳』でのような、一人の人を長く演じることは、他の作品とはどう違うのでしょうか?


土村:撮影する期間的には変わらないんですけど、今回で言うと、小っちゃい子たち、中くらいの子たち、大人の子たちが、一気に成長していくんです。不思議なのが、演じている人は違うのに、最終的な大人の生徒の子に会うと、その生徒の小さい頃の姿が、ちゃんと浮かぶんです。ちゃんと一人の人間として通っているのが見えるというか。それぞれの代のその役の子たちの力だと思いますが、すごく不思議な感覚でもあり、大石先生と同じようにその感慨深さはすごく感じることができて、これはこういう作品ならではだし、この役を演じさせていただいている私の特権なのかなと思います。


――表現者として、今後こういうことをやっていきたいと考えていることありますか?


土村:今まであまり具体的に言ってきたことがないんですが、今回は30代だからこそ、若いときから年を重ねる役をできたのかもしれないなと思っていて。これから年齢を重ねて40代、50代になったときに、たぶん、その年になったからこそできる役もすごく増えていくと思うんです。そういう可能性がすごく広がっている反面、そうなるからこそできなくなっていく役もたぶん出てくるんだろうなって。なので、今できること、今しかできないことには挑戦していきたいですし、探していけたらいいなと思っています。年齢とその可能性の広がりを見つけていけたら。今はとりあえず、「30代の今の自分ができることを存分にやっていきたい!」っていう感じですね(笑)。


――20代の頃と比べても、新しいことをやれているようですね。


土村:そうですね。明らかに年齢を重ねてきて、できることはたぶんあると思っていますし、これから先もきっとあるはずと思っているので……(笑)。そこは自分自身にも期待しつつ、可能性を広げていきたいです。


――作品作りの上で一番幸せだなと感じることはなんでしょう?


土村:やっぱり、いろんな方たちと出会えることですね。監督やスタッフさん、共演者の方との出会いがまず一番大きいです。自分が学べること、気づけることも、出会う人によってたぶん違いますし、そういうこと全部を糧にしていきたいなと思っています。あとは完成してお届けできたときの喜びはありますね。


――『二十四の瞳』の放送に向けて、最後に一言お願いいたします。


土村:大石先生から生徒へ、親から子へ、そして子どもたちが親や先生に対して抱く思いとか、誰かが誰かを思う気持ちに関しては、時代関係なく今にも通じる部分があるんだなと思いました。今回は大石先生として、子どもたちに対する思いを役を通して感じることができましたし、作品のテーマになっている「絆」は、今でも共感できることなんじゃないかなって。この作品は、すごく通じるものが多いからこそ、愛され続けているんだと思います。そのときの出来事としてだけではなく、今の時代に刺さるものを私もすごく感じるので、ぜひ見ていただけたら嬉しいです。


(取材・文=大和田茉椰)


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