伝統を守り続けるために 「墨の伝道師」長野睦の挑戦

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2022年08月08日 09:01  おたくま経済新聞

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写真伝統を守り続けるために 「墨の伝道師」長野睦の挑戦
伝統を守り続けるために 「墨の伝道師」長野睦の挑戦

 中国では「文房四宝」のひとつに数えられる文房具「硯」。日本においても、書道用具として古くから使用されています。


 近年は、軽量で持ち運びも容易なプラスチック製が普及していますが、それは「石の硯」を知らない人たちの増加という意味でもあり、結果「墨をする」機会も大きく減少。「墨」の文化は今、大きな岐路に立たされています。


 そんな現状を打破すべく、奮闘する墨職人が奈良県にいました。


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「硯は石で出来ている。
石だからこそ墨が磨れる。
当たり前のことかもしれんけど、それをこれから学校の子供達や先生に伝えに行きます。
まずはそこから」


 投稿者の長野睦さんは、奈良県奈良市にある墨工房「錦光園(きんこうえん)」にて、奈良由来の伝統的な製法を用いた「奈良墨(ならすみ)」の職人をされている人物。同時に、江戸時代より代々続く墨職人の家系「長野家」の七代目(墨匠)を務めます。


 明治時代に、四代目当主であった亀吉氏が、職長として所属した墨屋「古梅園(こばいえん)」から独立したのが「錦光園」。実は奈良県は日本の「墨」の一大産地で、国内におけるシェアはなんと9割超。「日本の墨=奈良墨」といっても差し支えないほどの存在感を有します。


 ところが墨汁の流通により、冒頭のプラスチック硯が合わせて普及しました。これにより、錦光園が取り扱う「固形墨」の需要が激減します。


 さらに後継者不足も追い打ちをかけ、墨屋は次々に廃業し、現在では10軒にも満たない数にまで減少。長野さんのような墨造りの職人も、国内で数えるほどしか残っていません。


 「『硯は元々石で出来ている』ということを、常日頃より多くの方に伝えていきたいという思いがありました」


 存亡の機に直面し、長野さんが目を向けたのが、授業や書初めの宿題などで「書道」に触れる機会が多い「学校教育」。今回の投稿は、今後における「決意表明」が込められています。


 とはいえ、長野さんは既に様々な分野で、精力的に「墨」の普及活動に勤しんでいます。この日の投稿も、「石で墨を磨ってみよう」という趣旨の児童向けワークショップを企画していたところ、長野さんの子供たちが、公園で拾った石で墨を磨っている様子を目にしてのものでした。


 「錦光園」においても、工房内での墨に関する講義や、製造現場の見学、実際に墨を制作する体験、ECサイトを通じて墨の無料試し磨りなどを一般向けに実施。体験目的での来訪者は、国内外も含めて年間4000人もの盛況ぶりを見せています。


 他にも、インテリアとしての墨の可能性を模索した「香り墨Asuka」の開発、公式サイトの特設ページ「奈良墨のひと」にて業界関係者を記事にて紹介するなど、多方面から「墨」について発信し、産地の振興を目指しています。


 自らを「奈良墨の案内役」と称した長野さんによる「墨の伝道」は、これからも変わらず続けていくとのことです。



<記事化協力>
長野 睦さん(Twitter/Instagram:@kinkoenjp)
錦光園(奈良県奈良市三条町547)


(向山純平)


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