祖父母介護の犠牲になるヤングケアラー「友達、学業、職、そして時間を失った」“やるせない想い”

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2022年08月08日 11:00  週刊女性PRIME

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写真孫目線で描かれたほぼ実話の介護漫画(@satomi_qoljojo)
孫目線で描かれたほぼ実話の介護漫画(@satomi_qoljojo)

 2022年1月に公開された1本の映画が話題を呼んだ。米アカデミー賞作品賞を受賞した『コーダ あいのうた』は、聴覚障がいのある両親と兄を支える10代の少女の物語だ。

 日本にも、彼女のように学校に通いながら病気や障がいのある家族の介護を担う子どもたちがいる。「ヤングケアラー」と呼ばれる彼ら彼女らは、本来受けるべき教育さえ満足に受けられなかったり、周囲との人間関係の構築ができず孤立してしまったりと多くの問題を抱えた存在だ。

 最近では、育ててくれた祖母の介護を20年にわたって行っていたという俳優の松村雄基さんをはじめ、山崎育三郎さんやお笑い芸人のキンタロー。さんなど、何人もの芸能人たちが「幼いころ自分はヤングケアラーだった」と告白したこともあり、言葉そのものが注目されるようになった。

ヤングケアラーとは?

 ケアを要する家族がいる場合、大人が担うようなケアの責任を引き受け、介護だけでなく家族の世話や家事、感情面のサポートなども行っている、18歳未満の子どものこと

若者ケアラーとは

 18歳〜おおむね30歳代までのケアラー。ケアの内容はヤングケアラーと同様だが、ケアの責任がより重くなることもある

 今年、厚生労働省が初めて小学生を対象にヤングケアラーに関する実態調査を実施したところ、該当者が小学6年生の約15人に1人にのぼった。

 ヤングケアラーが生まれる原因のひとつは、介護に手を割ける人間が家族の中にいないこと。背景は、少子高齢化によるひとりっ子の増加、ひとり親世帯の増加、専業主婦の減少などさまざまだ。

「今は従来の日本型雇用が崩れて、共働きをしないと食べていけない社会。専業主婦が減り、家庭内で大人の介護者が減っています。猫の手ならぬ、子どもの手さえ借りなければ世話が回っていかないのです」

 ケアラーのトータルサポートを行う一般社団法人日本ケアラー連盟はそう指摘する。

介護がのしかかると他がおろそかに

 ヤングケアラーとされる子どもの年齢は18歳未満を指す。学校に通い、教育を受けながら基本的な人間関係をつくっていく段階にあるなかで、介護がのしかかると、それらがなおざりになってしまう可能性がある。

 また、成人以上のケアラーにとっても状況は深刻だ。

 日本ケアラー連盟はおおむね30歳代まで若年層の介護者を「若者ケアラー」と定義するが、厚生労働省が行った調査では、大学3年生の約10人に1人が「世話をする家族がいる」、あるいは「過去にいた」と回答している。

 若者ケアラーの年代は、本来、勉学や仕事に力を注いでいる時期。それが、家族の介護で手いっぱいになってしまうと、昇進や恋愛、結婚といった将来への大きな可能性を摘み取ってしまうリスクとなりかねない。

「実際に、勉強時間が取れないせいで大学進学などを諦める子どももいます。また、進学せず就業したとしても、介護を生活の主軸に考えるとどうしても非正規になってしまう、という問題も。就業機会がきちんと得られないと、無年金など将来の自分自身の人生にも深く関わってきます」(日本ケアラー連盟)

大切な時間が介護で奪われていく

 心身共に未発達なうえ多感な時期である子どもや、社会経験の乏しい若者が背負う介護。その実態は過酷だ。

父子家庭、中学生Aさんのケース

 中学生のAさんは、父子家庭。祖母の介護を小学生のころから6年間続けてきた。父親は夜勤を含む就労で家庭のことにはほとんど関与していない。彼女は小さいころから面倒を見てくれた祖母が大好きで、夜間の排泄介助や通院付き添い、服薬管理、デイサービスへの送り出しなどを繰り返すなか、介護中心の生活が学校生活に大きく影響。

 遅刻や早退、欠席が増え、学習にも遅れが出てきたことから教員が声がけし、初めて実態が判明した。地域の行政に連絡してケアマネジャーらと面談、祖母はショートステイや入院を経て、老人ホームへ入所することが決まった。

母子家庭、小学生Bさんのケース

 母子家庭の小学生Bさんは遅刻早退が増え、健康状態も思わしくなくふさぎ込んでいる様子だったため、担任が事情を尋ねたところ、精神疾患の母親の面倒や弟たちの保育所送迎をはじめ、家事全般を担っていたことが判明。

 働けなくなっていた母親はリストカットのあげく、昼夜逆転の生活を送っており、子どもたちは疲弊、栄養失調ぎみになっていた。学校はBさんの体調や状況を見守ろうと、小児科受診で健康面の管理ができるように手配。SSW(スクールソーシャルワーカー)が自治体のサービスなどにつないで負担軽減を図った結果、生活保護や訪問介護、福祉サービスの利用に結びつけることができた。

介護によるストレスで問題行動も

 また別のケースでは、ある母親が小学6年の長女Cさんの問題行動について、養護教諭に相談。養護教諭が事情を聴いたところ、Cさんは母子家庭で働きづめの母親に代わって、障がいのある弟の排泄、食事、入浴介助に加え、妹の世話まで一手に引き受けていた。そうした負担のストレスから、独り言や、怒りっぽくなって物を壊すといった問題行動が目立つようになっていた。

 学校側は小児科受診をすすめ、ケア負担によるストレス症状であると確認。当面Cさんは祖父母と同居することになって、ケアから離れられたことで症状は徐々に改善し、学校での見守りや学習支援で、ようやく学習の遅れも改善しつつある。

 ヤングケアラーの子どもたちは自分の置かれた状況が自覚できないため、周囲にSOSを出すこともなく、もちろん福祉制度があることも知らない。介護という名のネグレクト(育児放棄)をされていても、気づくことはない。

毎日3時間程度の睡眠、深まる孤立

 かつて若者ケアラーだったことを実録漫画にし、WEBで配信中のさとみさんはこう語る。

「休みの日なら一日中介護が当たり前。たとえ大学の講義中でも関係ありません。自宅にいる祖母が薬を過剰摂取して病院に救急搬送されたり、外を徘徊して警察に保護されたりと、突発的な連絡で学業がままならないことがありました。社会人になってからも同じような状況でしたね。もっとしっかり勉強や仕事がしたかった」(さとみさん、以下同)

 さとみさんは進学先の学校が祖母であるきみ子さん(73)の家に近かったことから、居候というかたちで一緒に暮らすことになった。きみ子さんがアルツハイマー型認知症を発症してからは、近くに頼れる家族がいなかったことから介護を担うことに。きみ子さんは病状が悪化するにつれて深夜の徘徊やおしゃべりが増え、さとみさんは連日睡眠不足に悩まされる。

「私が眠ってる間に祖母が階段から落ちたらどうしよう、なんて不安で、深い眠りにつけることはなかったです。毎日3時間程度しか眠れませんでした。日中眠気に襲われますが、対処法といったら電車で仮眠をとるくらい。当時は安眠に憧れていました」

 心身共に限界状態だった自分の介護経験を整理するため、漫画を描き始めたというさとみさん。介護を終えた今、振り返って思うこととは。

「実は介護をしたこと自体は、少しも否定的には思っていません。ただ、周囲は『頑張って』とか『君の人生にきっと役に立つから』などと声をかけてくるだけで、ちゃんと寄り添ってくれなかった。誰ともわかり合えず孤立している状態が苦しかった。だんだん『なんで私がこんなことをしなくてはならないのか』という考えも湧いてきて……。肉親に対してそんな感情を抱く自分が嫌でした」

さとみさんに任せきりの両親

 さとみさんの両親が介護を担うということはなかったのだろうか。彼女は首を振る。両親とは話せば話すほど心が離れていくのを感じたという。

「親は『家族なんだからやってほしい』と言うばかりで私に任せきり。私も自分の意見を押しつけるばかりで……お互いがお互いの話を受け止めて話し合うことができなかった、それが問題だったと思います」

 この経験からさとみさんは、介護者を孤立させないことが負担を減らすことにつながると強く感じているという。

「介護者を否定しないで、その人の話を聞いて、見守っていてほしい。助けを求められたら手を貸してあげてほしい。彼らに必要なのは協力だと思います。私は家族と一緒に介護をしたかった」

 さらに、10代のころから祖母を介護していた元ヤングケアラーの男性はこう語る。

「僕は祖母の介護と引き換えに、友達、学業、職、そして時間を失った。看取った後、知人からは『おばあちゃんは孫に介護してもらって幸せだったね』と言われたけれど、はたしてそうだったのか。僕が本当に欲しかったのは、僕自身の生活と、祖母が幸せだと思える生活の両立だったと思う」

大切なのは、否定せずに寄り添うこと

 ヤングケアラーを巡るさまざまな問題を解決する第一歩は「ひとりぼっちにさせない」。

 家族でなくても、介護する子どもの通う学校の教員や地域の住民など、信頼できる大人が状況を把握して話を聞いてあげることがもっとも大切。

「まずは周囲の人たちがヤングケアラーの存在を認識すること。もし自分の周りにヤングケアラーかもしれない子どもがいたら、声をかけること。助けが必要であれば専門機関などへの相談を」(日本ケアラー連盟、以下同)

 ただ、問題が難しいのは、話を聞くなかでケアをしている事実を決して否定的に取り上げてはいけないという点。介護者たちにとっては、家族との結びつきを強く感じたり、判断力が磨かれたりと、介護によって得られるものもあるからだ。

「自分しかいないんだ、という思いでケアをしている人もたくさんいるし、ケアをしている日常がアイデンティティーにもなっています。それを否定するようなことは口に出さないようにしてほしい。その子の気持ち、置かれている状況、そして立場を第三者がよく理解する必要があるのです」

進学先が祖母の家と近かったことで祖母との同居がスタート。
その後、大学院生のときに祖母が認知症を発症したため、就職後も介護を続ける。現在、祖母は施設に入居中(コロナの影響で面会ができていない状況)。

たくさんの書籍を読み、自分は介護に必要以上に苦しんでいたと気づいた」という経験を漫画で伝え、一例として役に立ちたいと、孫・さとみ目線で描く“ほぼ実話”の介護マンガをTwitterで連載中。

一般社団法人日本ケアラー連盟


日本に「ケアラー支援法」の制定を実現するためにロビー活動を行っている団体。ケアラー(家族等無償の介護者)、ケアラーを気遣う人、ケアラーの抱える問題を社会的に解決しようという志をもつ人が集い、すべての世代のケアラーがその人生を地域や社会全体で支えるしくみづくりをめざしている。

<取材・文/オフィス三銃士>

このニュースに関するつぶやき

  • どうせ理解されないから地域社会で孤立して暮らす予定。どうせ「甘えよ」「遊んでばっかり」と言われる
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