ダイハツが新型「ムーヴキャンバス」の見た目をほぼ変えなかった理由

2

2022年08月08日 11:41  マイナビニュース

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
ダイハツ工業の軽乗用車「ムーヴキャンバス」がフルモデルチェンジして2世代目となった。DNGA(Daihatsu New Global Architecture)の採用やターボエンジンの追加で明らかに商品性が向上した新型だが、見た目がほとんど変わっていないのはなぜか。ダイハツの人に聞いてみた。


○タイプ違いで値段が同じ?



ムーヴキャンバスは2016年に発売となった電動スライドドア付き軽ハイトワゴン。新型は2世代目となる。初代は累計販売台数38万台超の人気車種で、ユーザーの約9割が女性、そのうち約35%が若年層という特徴的な売れ方をしている。


ダイハツの調べでは、「母と娘」だけでなく「母と息子」や「父と娘」が初代ムーヴキャンバスを共用するケースも実際に見られたそうだが、中には「こんなカワイイのには乗れない」という「息子」がいたり、「軽自動車でもターボエンジンを積んでいないと、とても長距離は乗れない」という「父」がいたりして、このクルマを買ってくれなかった家族もいたとのこと。では、新型はどうなったのか。


新型ムーヴキャンバスはターボエンジンを設定。同じ値段で「ストライプス」と「セオリー」という2タイプを用意し、セオリーではモノトーンとメッキ加飾で大人っぽい世界観を表現した。一方のストライプスでは、人気だった2トーンカラーで初代の愛らしさを継承。人気だった初代の特徴は残しながら、これまでリーチできなかった人たちへの配慮を盛り込んだ仕上がりとなっている。狙いがはまった初代をあえてガラリと変えず、アップデートした感じのフルモデルチェンジだ。


とはいえ、キープコンセプトには「新味がない」といわれるリスクもあるので、判断は難しかったはず。そのあたりを知りたいと思い、新型ムーヴキャンバスの商品企画に携わったダイハツ 営業CS本部の松田梨江さんと、インテリアデザインを担当したデザイン部の大林直己さんに話を聞いた。


○別のデザイン案もあったが…



マイナビニュース編集部:今回、ストライプスとセオリーの2タイプがありますが、なぜ同じ価格にできたんですか? セオリーの方が高くなってもおかしくなさそうなんですが。



松田さん:「なぜできたか」というよりも「同じ価格にしようとした」というのが実情です。初代は2トーンのボディカラーがとても好評で、モノトーンもあるにはあったんですが、そこまでではありませんでした。ムーヴキャンバスといえば2トーン、というのがお客様の印象です。今回、(モノトーンの)セオリーを追加するにあたっては、ストライプスと同等の付加価値を与えようと考えたので、同じ価格にしました。



編集部:どちらかを上級グレードにするのではなく、同じ並びで世界観が違う2タイプという風にしたかったんですね?



大林さん:おっしゃる通りで、上下関係を付けたくなかったんです。



編集部:なるほど。意志を持って同価格にしたというわけですね。でも、セオリーの方が原価はかかっているんじゃないですか?



松田さん:実はかかっているんです、とはいえないんですけど(笑)、今のところ、お客様の声を聞く限りでは、どちらのタイプの方が高いと感じるかは見る人によるようです。



編集部:セオリーを設定した理由としては、年齢層が上の人たちや男性にも訴求したいという思いがあったからですか?



松田さん:そうですね。初代は母親とクルマを共用する20代くらいの娘さんをターゲットに設定していて、実際にご購入いただいてもいたんですけど、実際は父・娘とか母・息子の共用もありました。なので、ムーヴキャンバスには、もっと幅広いポテンシャルがありそうだとはずっと感じていました。



ただ、娘さんが欲しいといっても父親が「ターボがない」という理由で反対したり、母親が買うといっても息子さんから「こんなカワイイのには乗れない」との意見が出たり、ということもありました。どうすれば、もう少し幅広いお客様に受け入れていただけるかを考え、セオリーの追加とターボの設定に至りました。



編集部:非常にわかりやすいです。男性ユーザーを増やしたいからといって、ギラギラ顔のムーヴキャンバスを作っていたとしたら相当な違和感があったと思うんですけど、今回の新型については納得感しかないです。

ただ、デザインの皆さんには、見た目を変えたいという思いもあったんじゃないかと思うんですが、どうだったんですか?



大林さん:デザイナーというのは、ある意味、変えるのが仕事ですからね(笑)。フルモデルチェンジで変わった、良くなったといってもらうのが嬉しいんですが、いろいろな方向性を模索して、検討して、最終的にこの形になりました。変化ではなく深化という感じです。



実際、別のデザインで社内ユーザーに見てもらう機会も作ったのですが、「ちょっと違うのでは」という反応だったので、軸を振り直したんです。それが、こんなデザインだったんですが……。



(かなり煮詰まったところまでいったという別のデザインをPCの画面で見せてくれる。丸いヘッドライトにきりっとした眉毛が印象的で、ちょっとやんちゃな感じ)



編集部:これはこれで、ありかなとも思えますけどね。



大林さん:ただ、ユーザーさんの反応としては、「あれっ?」という感じだったんです。



編集部:やっぱり、カワイイことが重要だったんですね。ただ、カワイイの価値観も時代とともに変化していて、今回は初代の愛らしさを継承しつつ、すっきりとシンプルで洗練された感じを加えたそうですね。具体的には、どのあたりを変えたんですか? 写真で見比べると、ヘッドライトの上下の幅が、新型の方が薄くなっているように見えますが。



大林さん:そこは、実は変わっていないんですけど、線の使い方は変えています。



松田さん:まつげをカールさせたような瞳になっています。



初代はどちらかというと、あどけなくて赤ちゃんみたいなかわいさだったんですが、新型では例えば、丸いエンブレムを「CANBUS」のロゴに変えるなど、すっきりとした印象にしました。


編集部:フルモデルチェンジ前と比べて、価格はどのくらい上がりましたか?



松田さん:基本的には同価格です。もともと、初代ムーヴキャンバスでは2トーンのボディカラーがオプション(6.6万円)で、モノトーンが標準でした。メッキ加飾も初代ではオプションだったんです。今回の新型では、初代でオプションだったものを、ストライプスとセオリーそれぞれの世界観を際立たせるため標準にしています。



編集部:そのオプション分、初代と新型では価格が違うだけで、実際は同価格というわけですね。ここ最近、自動車業界では値上げラッシュが続いていますが、なぜ同じ価格にできたんですか? 当然、安全面の装備はアップデートされているでしょうし、使っている鋼材なんかも変わっているんじゃないかと思うんですが。



松田さん:この価格にできた理由を具体的にはいえないんですが、工夫としては原価低減なども行っています。



編集部:どちらかというと、意思を持って値段を付けたんでしょうか。積み上がった原価と利益を単純に足し合わせたのではなく。



松田さん:おっしゃる通りです。軽自動車は初めてのクルマとしてお買い上げになる方もいらっしゃいますし、ご高齢のお客さまもお乗りになるので、価格を考える場合はそれが大前提になります。



編集部:なんとなく、200万円を超えたくないですしね。



松田さん:軽は基本的に、お客様の味方でありたいというのが大前提ですね。



編集部:初代のユーザーさんは女性が約9割、そのうち若年層が35%と聞きましたが、新型ではどんな割合になるのが理想ですか?



松田さん:割合というよりも、若い世代のエントリーモデルにもなるクルマですので、優しく寄り添える存在ではありたいと思っています。ジェンダーレス、ユニセックスな価値観になってきていますので、性別がどうこうというよりも、優しくて親しみの持てる存在になるのが理想です。


初代はダイハツの狙いがばっちりはまって人気が出たので、新型は基本的にキープコンセプトとしつつ、初代では取り込めなかった層にもリーチしたいというのが同社の方針のようだ。ただ、女性9割で若者も多いというのはムーヴキャンバス独自の顧客層だと思うので、そのままの内訳で販売台数が伸びれば、新型は十分に成功したといえるのではないだろうか。



新型ムーヴキャンバスの月間販売目標は6,500台。8月5日にダイハツが発表したところによると、発売から約1カ月で受注台数は約2.6万台に達したとのこと。ストライプスは「若年層を中心に幅広い世代の女性」、セオリーは「男性や大人世代」が主な購入層だという。(藤田真吾)

このニュースに関するつぶやき

  • 軽は停止中に後方から当たられて、外傷を負って長引くケースが多い。後方からの衝突への安全対処技術の進化が望まれる。当たる側の緊急自動ブレーキもそうだけど。スマホを見ながらなど前方不注意は多い。
    • イイネ!0
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(1件)

ニュース設定