東京進出した「ベネッセ難関中学受験塾」の勝算 関西の凄腕が仕掛ける“首都圏で勝つ秘策”とは

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2022年08月10日 08:00  AERA dot.

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写真東京・渋谷に開校の「進学館ルータス」
東京・渋谷に開校の「進学館ルータス」
 2022年、首都圏では中学受験の受験者数・受験率がともに過去最高を記録した。競争が年々激化するなかで、塾選びが合格を勝ち取るスタートラインとも言え、当然、わが子を託す親の目はシビアになる。首都圏ではサピックスや四谷大塚をはじめとする大手進学塾が人気だが、その一角に割って入ろうとする新興勢力もある。ベネッセグループの「アップ」が、グループ初となる首都圏中学受験塾「進学館√+(進学館ルータス)」を東京・渋谷に開校した。仕掛けるのは、関西エリアで灘中学をはじめ難関校合格実績を急伸させた受験塾「馬渕教室」の統括だった吉田努氏。馬渕教室からアップに電撃移籍した凄腕は、首都圏の中学受験界でどのような戦略を考えているのか。吉田氏に話を聞いた。


【写真】は東京進出した関西中学受験界のカリスマ
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■関西中学受験界のカリスマ


「東京の私学はそれぞれの学校が、建学精神や教育方針を明確に打ち出し、多様な教育プログラムを展開しています。受験生も偏差値のみに捉われることなく、学校独自の魅力にひかれて志願しているように感じます。中学受験層のご両親は高学歴かつダブルインカムの方が多く、社会の仕組みをよくご存じだからこそ、教育の質を重視する考えが強いように感じます。関西よりも中学受験市場全体の裾野が広く、多様性がある。そうした首都圏の中学受験市場で、これまで私自身が実践してきた方法がどこまで通用するのか。東京で勝負したいという強い思いを抱いてきました」


 中学受験塾「進学館ルータス」の統括・吉田努氏は東京進出の動機をこう話す。


 吉田氏は関西の受験塾「馬渕教室」を躍進させた立役者で、最難関・灘中学校の合格者を短期間で激増させたことで知られる。かつての浜学園、希学園、日能研関西という“関西三強”に風穴を開け、馬渕を難関校合格実績では「ナンバー2」に押し上げた実績がある。


 そんな吉田氏は昨年8月にベネッセグループの「アップ」に電撃移籍。アップは関西で中高受験塾を展開していたが、首都圏には進出していなかった。そこで白羽の矢が立ったのが吉田氏だった。同社の執行役員兼首都圏中学受験統括として進学館ルータスの開校準備を進めてきた。




 今年5月末、進学館ルータスが東京・渋谷で開校される情報が解禁されると、日経新聞が「ベネッセ、東京で進学受験塾」と報じるなど話題となった。吉田氏は「ベネッセグループという企業の強みも生かしていく」と語る。


「アップは中高受験塾のほか、大学受験塾やレゴスクール、英語教室、サイエンスラボなど多面的に事業展開をしています。また、ベネッセグループ企業である難関大受験専門塾『鉄緑会』や大学受験予備校『お茶の水ゼミナール』、個別指導塾『東京個別指導学院』なども、首都圏で実績を出しています。これらのノウハウも生かしつつ、首都圏にはまだない中学受験専門塾にしたい。ターミナル駅である渋谷は、受験熱が高い港区、目黒区、世田谷区、杉並区などとも隣接しており、広域から塾生を集められると考えています」


 ■進学館ルータスの強みとは


 群雄割拠の首都圏中学受験業界で、吉田氏が考える進学館ルータスの「強み」とは何か。


 その一つが関西で実績を出した「面倒見の良さ」だ。首都圏の大手進学塾の中には、成績上位2割に照準を定め、早いカリキュラムと大量の宿題をこなせることが前提となっている塾もある。そこに不満を持つ親子も少なくない。


「都内の大手集団塾は、一切ライバル視していません。やり方が正反対だからです。進学館ルータスは1クラス10人以下の少人数制でじっくりと指導し、塾生一人一人の到達度をみながら、きめ細かい指導をしていきます。目指すのは、全ての塾生にとって不満がない塾です。だからこそ、『第1志望合格』に徹底的にこだわります。何年も努力を積み続けた子どもには、一番行きたい学校へ行くという成功体験をさせてあげたい。その実現のために、灘中など難関校に多くの生徒を合格させてきた実力派の講師を東京に連れてきました。その優秀な講師が、全ての受講生を徹底的に把握できる規模にこだわるので、最初は1学年2クラスからスタートします。第1志望合格に責任を持つためにもじっくりと指導したいので、23年2月の開講時の最長学年は新4年生としました」




 少人数によるきめ細かな指導――これだけなら他塾にもある「売り」だが、吉田氏はその先も考えて進学館ルータスの設計をしたという。


 首都圏進学塾に通う子どもの実態として、ハイペースな大手塾の授業についていけなくなると、個別指導塾や補習塾と併塾するケースが多い。吉田氏のもとにも、そうした相談が何件も寄せられたという。受験生の負担やかさむ塾費用を考えると、親子の悩みは深刻だ。これを解決するために、吉田氏は「オールインワン教育」を取り入れた。


「少人数での集団授業に加え、個別指導、理科実験教室とアップが手掛けるさまざまな教育コンテンツを、ここ1校に通うことで全て受けることができるようにしました。個別指導では、集団授業を教えている講師が一対一で指導にあたるので、すべての生徒の習熟度をきちんと把握できます。集団授業でわからなかった点を解消したり、さらにレベルの高い問題に取り組んだりなど、各生徒のレベルに合わせられるので学習効果が非常に高い。ここに、科学教室『サイエンスラボ』もセットにします。これは中学受験問題に直結する科学実験を体験させることを重視します。なんとなく覚えている知識を、体験を通して確実に定着させていくことが目的です。全学年使える自習室も設け、自学自習を促すよう、iPadなどの設備も完備させました。ここまで塾で完結させることができるので、親御さんの家庭での負担も劇的に減るはずです」



 受講料は4年生で1カ月あたり5万円(税別)に設定する予定だという。併塾した場合にかかる費用などの負担を考えると、リーズナブルだと感じる親もいるだろう。


 ■校塾連携という試み


 さらに、吉田氏には「校塾連携」という関西時代から変わらない経営方針がある。


「学校と塾には密接な関係があります。学校に魅力を感じた小学生が、受験塾での頑張りをへて送り出され、その学校の入学生になるわけです。学校と塾に元気がなければ、教育界も活性化しませんし、何より子どもたちの学びにとってプラスになりません。相互に連携をはかって、盛り上げていく必要があると考えています」


 実際、吉田氏は開塾準備にあたり、昨年から首都圏のさまざまな学校に繰り返し足を運び、話を聞きに行っているという。学校はどのような生徒を求めているのか、入学にあたりどのぐらいの学力をつけておくべきなのか、学校研究に余念がない。校塾連携を実現させるために、塾の立地エリアにある学校研究には、特に力を入れていく考えだ。


 共学の難関校である渋谷教育学園渋谷中学校(渋渋)や男子御三家の麻布中学、女子の名門校・東洋英和女学院中学部などは保護者から熱望の声も多く、個別対策も強化していく方針だという。特に渋谷という立地上、渋渋との校塾連携は深めていく考えだ。


 今後の校舎拡大についても、校塾連携の視点からエリアに近い学校を見据え、池袋や吉祥寺あたりを候補にしているという。


 ベネッセという看板を背負って東京進出してきた「進学館ルータス」が中学受験塾業界の台風の目となるか。塾業界、そして受験生を持つ親からも注目が集まりそうだ。


(AERA dot.編集部・市川綾子)


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