経営者によくある誤解 「残業代は、全て込み」「裁量労働、便利だな」

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2022年08月10日 10:11  弁護士ドットコム

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「残業代が支払われない」、「ハラスメント被害を受けている」。こうした労働者からの労働問題は後を絶ちません。では、訴えられた会社側は、労働問題にどのように向き合っているのでしょうか。


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企業法務を専門とし、特に経営者など使用者側の労働事件を数多く扱う向井蘭弁護士に、使用者からの「あるある労働相談」を前後編にわたって解説してもらいます。



前編では、「労働基準法に関する誤解シリーズ」4選をお送りします。労働基準法は労働者を保護するための法律ですが、間違って理解している経営者も多いようです。



●「あるある労働相談」を解説

私は時折、Twitterに労働問題に関する内容を思い付いて投稿することがあります。



以前、お笑いコンビ「レギュラー」の鉄板ネタ「あるある探検隊」を真似て、「あるある労働問題」「あるある使用者労働相談」などの投稿をしてみたところ、思いのほか反響がありましたので、改めて解説してみたいと思います。



●1「残業 代は 全て込み」

これは、よくある中小企業経営者の口癖を真似たものです。



経営者の言い分を少し詳しく説明すると「既に十分な金額の給料は支払っていて、残業代は全てこの中に含まれているから、未払い残業代などは無い」ということになります。



しかし、「残業代が全て給料に含まれる」という合意は無効です。



残業代制度は、会社に割増賃金を支払わせることによって、残業を抑制すると共に、従業員に対して補償することを目的としており、いくら働いても残業代が一定範囲を超えないのでは、残業代制度の目的を実現できないからです。



●2「裁量 労働 便利だな」

これは、会社側によくある運用です。



裁量労働制とは、労働時間と成果・業績が必ずしも連動しない職種において適用され、あらかじめ労使間で定めた時間分を労働時間とみなして賃金を払う形態です。



まず「名ばかり裁量労働制」というものがあります。法律が定める要件をまったく充たさないのに、単に社内で「裁量労働制」と呼んで残業代を支払わない事例です。



「裁量労働制」と呼べば残業代を払う必要がないのですから、会社からすればとても便利な仕組みですが、そもそも法律が定める要件を全く充たさないため無効となります。



次に「無理筋裁量労働制」というものがあります。法律が定める要件を全く充たさないわけ ではないが、全体から見れば到底裁量労働制の適用が認められないものです。



例えば、顧客のウェブ・バナー広告を制作する業務について「デザインの考案」に当たるとして、デザイン会社が裁量労働制を適用して残業代を支払っていませんでしたが、実際はデザインの経験が無い従業員がいわば単純作業を行っており、裁判所は裁量労働制の適用を認めませんでした。



このように誤った「裁量労働制」の適用・運用により残業代を支払わない事例がよく見受けられます。



●3「年俸 制なら 大丈夫」

年俸制とは、1年単位で支払われる報酬制度の事を指します。「年俸制だと残業代を支払わなくとも良い」と誤解している会社や経営者が多くいます。



年俸制であっても、残業代を支払わなくてはなりません。そのため、年俸制については、退職後に未払い残業代請求を受ける紛争が後を絶ちません。



この年俸制の残業代の問題は、1の「残業 代は 全て込み」の問題と似ているところがあります。年俸制についても「残業 代は 全て込み」と考えている点は共通しているからです。



そもそも年俸制は、労働法に定められた制度ではなく、単なる賃金の支払方法の問題ですから、残業代を支払わなくても良いということにはならないので注意が必要です。



●4「半分 以上が 課長です」

管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいい、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日に関する規制の適用を受けません。



これは、役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断されます。



この管理監督者が認められるハードルは極めて高いものがあります。



例えば、銀行の支店で言えば、よほど大きな支店でない限りは、支店長は管理監督者に当たるものの、支店長代理や課長は管理監督者に当たりません。



小規模企業の管理監督者でいえば、もはや幻の動物や都市伝説レベルで存在を探すことが難しいくらい見つかりません。



それなのに、肩書きを「課長」や「マネージャー」などと付けて、残業代を支払っていない企業が大手企業も含めて相当数存在します。



会社によっては半分以上が管理職扱いで残業代を支払っていないことがあります。そのため、これらを表現して「半分 以上が 課長です」と投稿したものです。



(後編では「裁判に関する誤解シリーズ」をお届けします。公開は8月下旬を予定しています)




【取材協力弁護士】
向井 蘭(むかい・らん)弁護士
東北大学法学部卒業。平成15年弁護士登録。経営法曹会議会員。企業法務を専門とし、特に使用者側の労働事件を数多く扱う。企業法務担当者に対する講演や執筆などの情報提供活動も精力的に行っている。
事務所名:杜若経営法律事務所
事務所URL:http://www.labor-management.net/


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