若者を狙う「マルチ商法」の勧誘実態「やり方はカルト宗教と同じ」 落とされやすい人の特徴とは

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2022年08月10日 11:30  AERA dot.

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写真マッチングアプリの普及により、将来の結婚をほのめかしてターゲットを取り込む手口が増えているという(gettyimages)
マッチングアプリの普及により、将来の結婚をほのめかしてターゲットを取り込む手口が増えているという(gettyimages)
 正体を隠して勧誘する宗教団体とともに、全国の大学などが警戒を呼びかけ続けているのが、いわゆる「マルチ商法」の勧誘被害だ。「欲を出してだまされた」「もうけ話に乗った方が悪い」との自己責任論も散見されるが、専門家によると悪質な宗教団体と同様に、ターゲットをマインドコントロールで支配していくのだという。マルチの勧誘実態と、コロナ禍以降に目立つ手口を取材した。


【写真】かつて社会問題となった宗教団体「摂理」の現在
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「私たちの将来のために、もっと収入がいるよね」


 都内のとある喫茶店でそう切り出した若い女性に、深くうなずく若い男性。


 一見すれば結婚へと向かう幸せそうなカップルの会話だが、実は女性は、あるマルチ商法の一員である。2人はマッチングアプリで出会い、“お付き合い”を始めたばかりなのだが、本気の交際に発展すると信じているのは男性だけなのだ。


 私たちのためにもっと収入を――恋人との将来を守りたい男として、稼ぎを増やすのは当然だと信じている男性はこの瞬間、マルチ商法に引きずり込まれる入り口に立たされたことには気が付いていない。


■結婚をほのめかして取り込む


 ある民間企業の調査によると、コロナ禍が始まって以降に交際を始めたカップルの出会いのきっかけ1位は、マッチングアプリだという。コロナ禍前から付き合っているカップルでは「職場」が1位で、マッチングアプリは4位だった。


「マルチ商法やマルチまがいの勧誘は、大学生や20代の若い世代を狙うケースが大半です。コロナ禍でリアルの出会いが減り、手軽に相手と会えるマッチングアプリが普及したことで、恋愛仕掛けや将来の結婚をほのめかしてターゲットを取り込んでいく手口が増えています」


 そう話すのは詐欺や悪質商法に詳しく、日本脱カルト協会の代表理事も務める立正大学の西田公昭教授(社会心理学)だ。


 西田教授によると、コロナ禍以降はマッチングアプリの他、ツイッターなどのSNSで接触してきたり、オンラインサロンを通じて勧誘してきたりする事例が目立つという。



 そもそもマルチ商法とは、商品やサービスを購入してその組織に入った人が、次は勧誘者として知人や家族らを組織に取り込み、ピラミッド式に販売組織を拡大させていく商法のこと。


 勧誘の手口はさまざまで、投資セミナーで投資話を持ちかけたり、「ここでしか手に入らない美容商品や健康食品」を購入させるなど多岐にわたる。「勧誘すればどんどんもうかる。初期投資はすぐに元が取れる」などと言葉巧みに誘導され、商品の購入やサービス利用に高額のお金を支払ってしまうのが特徴だ。


 都内のある私立大学の担当者によると、近年では、「USBに入った投資の教材を買えば誰でももうけられる」と持ちかけられ、学生ローンで借金をして数十万円を支払った被害事例があった。


「一人を勧誘すると6万円の紹介料がもらえる仕組みでした。学生ローンの借金を返すために誰かを勧誘せざるを得ず、いつの間にか組織にどっぷりつかって抜け出せなくなるのです」(担当者)


 手軽に金もうけをしようと欲を出してだまされたんだろう、と自業自得のように思う人もいるかもしれないが、実態はそうではない。


■意識が高い若年層に目立つ


 西田教授は「マインドコントロールにより心理的に支配し、抜け出せない状況に追い込むのがマルチやマルチまがいの手口です。カルト宗教のメンバー管理にとても似ています」と解説する。 


 西田教授によると、カルト宗教とマルチ商法は、「集団利益の絶対優先」や、「リーダーへの絶対服従」「私生活への干渉」など、多くの共通点がある。


「彼らが示す、死後の楽園の話や、うまいもうけ話は、検証不可能な甘い幻想です。その点もまったく同じ」


 実際にひっかかってしまうのは「俺はもっと稼げる」「もっと上に行きたい」「人よりいいものを持ちたい」などと、意識が高かったり、根拠のない自信やプライドがある若い人が多く、特に男性が目立つという。


 その理由を西田教授はこう分析する。


「男性には、人より多く稼いだ方が自分はえらいという優越感を得られる。お金がたくさんあった方が幸せだという価値観が根付いてしまっている人が一定数います。それゆえ、自分や誰かの給料がいくら、という話をしたがる男性がいますよね。また、 心理学では 『刺激欲求』といいますが、ギャンブル的なことやハイリスクを求めたがる傾向が若い男性に目立ちます。この欲求により起業などで成功する人もいますが、マイナスに働いてしまう人も多くいるのが現実です」



 さらに、背景には日本社会が抱えている問題があると指摘する。


「バブル期以降に社会に出た世代、特に『Z世代』と呼ばれる若者たちは、優秀でがんばっていても昔のように給料は上がりません。『稼ぎたい』『上に立ちたい』という意識の高さやプライドがある一方で、目の前には厳しい現実があります。このままでは……と無力感、切迫感を抱いて焦っている若者は、突然のもうけ話が来ると『来たー!』と、絶好のチャンスが訪れたように思い込みがちになります。ただ、期待に踊っているのは当人だけで、この時点でマインドコントロールが始まっているのです」


 マインドコントロールの手法は巧みで、成功するための親切な助言者を装ったり、自分も不安だったがやってみたら成功したという「体験者」を装ったりして、ターゲットの不安を取り除くところから始まる。そして「この新しいビジネスを知らない人は、そりゃ反対したくもなるよね」などと、購入を止める周囲との関係を引き裂いて遮断していく。不安を取り除きながら、「ちょっとずつやってみようよ」などと、言葉巧みに商品を購入させて組織に取り込んでいく。ここからはまさに「あり地獄」である。


■悪徳商法対策の教育が必要


 うまくいかなければすべてお前のせいだと罵倒され、「稼げるはずの男」の自尊心を刺激する。勧誘に成功すれば「このシステムは素晴らしいでしょう。がんばれば必ずもうかるから」などと、組織への関与を深めていく。


 罵倒されても、「ここまでやったんだからもうちょっと頑張ろう」と、上に立つ“成功者”を追ううちにあり地獄の底に達するのだが、被害者が自覚することはない。


 自由な行動を制限され、勤めていた会社をやめてまで勧誘にすべてを注ぐ。この時点でマインドコントロールは完成している。


 西田教授はこう警鐘を鳴らす。


「こうした悪徳商法が一切できなくなるような法整備が必要だと思いますが、政治家は積極的ではないように見えます。ならば、社会的な監視を強めると同時に、高校生など早期から悪徳商法についての教育が必要だと思います」


 マインドコントロールされた後は、そう簡単には元に戻れない。「もっと稼げるはずだ」「人よりえらくなりたい」などという意識の高さと、現実への不満や不安。その心のすきを悪徳商法の手練れたちが狙っているのだ。(AERA dot.編集部・國府田英之)


このニュースに関するつぶやき

  • マッチングアプリは興味はないですね。見ず知らずの人とやって出会ったら全然違ったら最悪ですし。そういえばマルチ商法はネットの出会いで勧誘されましたね。
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