市川染五郎、“自分から歌舞伎をとったらどうなるんだろう――” 17歳の真摯な思い

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2022年08月11日 10:11  クランクイン!

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写真市川染五郎  クランクイン! 写真:高野広美
市川染五郎  クランクイン! 写真:高野広美
 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、尊敬する父・義仲の命に従い、人質になり、最期まで父のために生きた悲劇の人・源義高を演じた市川染五郎・17歳。その上品さ、美しさに心奪われた人に是非ともお勧めしたいのが、『鎌倉殿の13人』出演のきっかけともなった三谷幸喜との出会いであり、みなもと太郎の歴史大河ギャグ漫画『風雲児たち』を原作とした『三谷かぶき 月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)風雲児たち』だ。2019年6月に歌舞伎座で上演され、2020年10月からシネマ歌舞伎として上映された同作が、8月に再上映されることを機に、市川染五郎に演じた14歳当時のこと、三谷幸喜のこと、そして“17歳の今”についてインタビューした。

【写真】市川染五郎 17歳とは思えない気品ある色気と美しさ!

■三谷幸喜とは1歳からの縁 祖父・松本白鸚出演の『古畑任三郎』がお気に入り

――『鎌倉殿の13人』のご出演には大変な反響がありましたね。

市川染五郎(以下 染五郎):そのようですね。映像作品に挑戦してみたいというのは一つの目標でしたので、単純にうれしいですし、歌舞伎以外の俳優さんともたくさん共演させていただき、刺激的な時間でした。

――三谷幸喜さんの作品の印象はいかがでしたか。

染五郎:三谷さんの作品で一番好きなところは、1つ1つの役に愛情を持って作ってくださるところなんですが、皆さんそれぞれその役にハマっていらっしゃるし、個性が出ているし。自分も合っていたと周りから言っていただけるような役を与えていただけたのは、すごくありがたかったですね。

――三谷さんとはおじいさん(松本白鸚)、お父さん(松本幸四郎)に続き、3世代のご縁ですが、ご家族の作品はご覧になったことがありますか。

染五郎:もちろん。特に好きだったのは『古畑任三郎』(フジテレビ系)です。父の出演回も何回も観ていますし、祖父が出た回は1番好きで、スペシャル回で長いんですが、小っちゃい頃から数えきれないほど観ました。

――いつか一緒に仕事をしてみたいという思いが?

染五郎:それはやっぱりありました。自分が1歳くらいの頃、渋谷のパルコ劇場で三谷さんが初めて歌舞伎を書かれて(『決闘!高田馬場』)、僕も観に行ったんです。そのとき、僕は記憶にないんですが、回転する回り舞台にのせてもらって、ハイハイしている状態で回っていたらしいです(笑)。

――1歳の頃にすでに交流があったのですね(笑)。実際に初仕事となった2019年の『三谷かぶき 月光露針路日本 風雲児たち』はいかがでしたか。

染五郎:歌舞伎の世界ではない、外部の演出の方の作品に出させていただくのは初めてで、どういう演出や稽古をされるのだろうと思いましたが、役を深く理解できるところまで丁寧に一つ一つ教えてくださって。そもそも古典の歌舞伎では、劇場の中の稽古場で稽古することが多いんですが、新作歌舞伎なので、スタジオに仮のセットを組んで稽古するのも新鮮でしたし、後半では洋服を着るので、稽古もジャージや洋服でやるのが、新鮮でした。

――演じられた磯吉は、最年少で頼りない若者でしたが、ロシアに行ってから語学の才能が開花し、どんどん頼もしく大人の顔になっていきました。

染五郎:最初のほうの場面では怒られてばかりで、何かしなきゃと思いつつ、結局何もできない一生懸命さが出るようにソワソワした雰囲気にして、後半は立っているだけでも落ち着きが感じられるよう、立ち方を工夫したり、自分なりに声を落ち着いたトーンにしたり、化粧も少し濃くしたりと、変化を心掛けました。実は最初の頃の稽古では、三谷さんに「若手の歌舞伎役者が1人紛れ込んだみたい」と言われたんです。現代語のお芝居の経験がなかったから、相手のセリフの聞き方や、しゃべるときに手ぶりを使うとかそういうことすらできなくて。古典の芝居は様式的で、それはそれで難しいですし、比較できるものじゃないですけど、現代語のお芝居は1から自分で考えなきゃいけないので、右も左も分からない状態でした。

■歌舞伎役者じゃなかったら何になりたいか――本当に思い浮かばない


――古典の様式美は、稽古だけでなく、おそらく日常生活の中でも幼い頃から積み重ねてこられたものなのでは。日常生活で、Tシャツ短パンでダラダラするようなことはありますか。

染五郎:もちろん。Tシャツ短パンでダラダラした…父がいます(笑)。

――ポテチ食べたり、ゲームしたりすることも…。

染五郎:ゴロゴロしてポテチ食べてる…父がいます(笑)。いや、自分も普通にゴロゴロしていますよ。犬と一緒に床で寝ています(笑)。歌舞伎役者は普段から着物を着ているとか、和食しか食べないみたいなイメージを持つ方もいらっしゃると思うんですけど、全くそんなことなくて、普段は一般的な17歳です。ただ、自分から歌舞伎をとったらどうなるんだろうなとは思いますね。

――歌舞伎を完全に忘れる瞬間はありますか。

染五郎:何かしている瞬間は忘れていることももちろんあると思いますけど、後から考えたり客観的に見たりしたら、どこかつながっているなと思うことは多いですね。歌舞伎役者じゃなかったら、何になりたかったかと聞かれることもよくあるので、その度に考えるんですけど、本当に思い浮かばない。思い浮かんだとしても、演出とか、絵を書く仕事とか、どっちにしても表現する仕事しか思い浮かばないんです。父は野球選手になりたかったと言いますが、僕の場合、歌舞伎と全く関係ない趣味もないので。趣味があったらいいのになとは思うんですけど…。

――趣味としてチャレンジしてみたいと思ったものはありますか。

染五郎:1つはベースですかね。

――新作歌舞伎でベースを弾いたら、すごく盛り上がりそうです。ベースはご経験があるのですか。

染五郎:エレキベースとコントラバスを一応持っていて、少しやったんですが、そもそも継続してやることが苦手なので、何かやろうと思って、やり始めても10分ぐらいで飽きてやめてしまうんです。独学で、教本を買って勉強して、YouTubeの解説動画を見て、1日10分ですが、少しは弾けるようになりました。ある程度譜面を見れば分かるので。でも、披露できるほどでは全然ないです(笑)。

――『三谷かぶき』から、大河ドラマにつながったり、アニメ映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』での声のお仕事にもつながったりしていますが、一つの仕事が評価され、次につながっていく状況をどう感じていますか。

染五郎:作品との出会い、人との出会いによって人間は作られるんだなということは、この1〜2年で1番強く感じていることで。自分にとっての挑戦をまた別の方が見てくださっていて、また違う挑戦につなげてくださる、1つの挑戦がいろんな挑戦に連鎖していくような出会いのありがたさ、大切さを感じます。『三谷かぶき』は大きな意味での役者としてのスタートと言っていいくらい大きな挑戦でした。

――2019年の時点で、三谷さんが染五郎さんを「イチオシ」と絶賛していたと聞きます。17歳ですでにたくさんの大きな仕事を経験されてきたことで、プレッシャーはありますか。

染五郎:ありがたいことではありますが、今の自分にできるもの以上の挑戦を常に与えていただいているので、プレッシャーは毎回あるし、逃げたくなるときもありますが、何をやってもプラスになる気がしますから、やるしかないと思ってやっています。

――逃げたくなったときの気持ちの切り替え方とは。

染五郎:うちの犬を見て忘れます。歌舞伎の演目『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』に登場する悪役の仁木弾正(にっきだんじょう)からとって「ニッキー」と自分が名付けたんですが、夜眠れないときにはニッキーに話しかけることがあるんです。ほぼ毎日ですけど(笑)。犬は人の話を理解するともともと思っていましたが、いざ実際に飼ってみると、本当に分かっているなと感じます。空気を読んでくれるし、癒やしだし、友達でもあるし、家族でもあるし、相棒みたいな存在でもあるし。「今日こんなことがあったよ」とか「明日はこういう仕事があるんだよ」とか、ニッキーはいつでも静かに聞いてくれるので、ニッキーに話を聞いてもらいながら、これからも何でも挑戦していきたいですね。
(取材・文:田幸和歌子 写真:高野広美)

 シネマ歌舞伎『三谷かぶき 月光露針路日本 風雲児たち』は、8月12日より上映。
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