木下優樹菜さん「脳波でADHDが分かった」発言で物議 医師らは全否定

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2022年08月11日 11:30  AERA dot.

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写真YouTubeチャンネル「木下優樹菜ですっ」から
YouTubeチャンネル「木下優樹菜ですっ」から
<私のADHD、発達障害に関して話したいと思います>


 元タレントの木下優樹菜さんが7月25日、自身のYouTubeチャンネルに「ADHDの私から伝えたい事があります【ユキナの告白】」と題した動画を投稿した。


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 木下さんは動画のなかで<なんで優樹菜はそうだ(ADHD)って分かったかっていうと、ブレインクリニックというクリニックに行ったんですよ。脳の周波を調べに、ちゃんと自分を知ろうと思って>と発言し、自身の脳を表したものだという資料を示してこう続けている。


<普通の34歳の女性はこれ、私はこれ。ぱっと見ですぐわかるでしょ。なんか全然違わない?脳の中が混線、こんがらがっちゃってんの。で、前頭葉ってところが働いてないの。この前の水色。で、急にこの赤くなってるところ(後頭部のやや右)、すっごい発揮しちゃってるんだって。もう先生の書き方もすごいから。思考回路・伝達グルグル・脳疲労。常にずっと何かを考えている状態。>


 この動画は大きな反響を呼び、公開から2週間たった8日現在で44万回以上再生されている。著名人がADHDを明かしたことで理解促進につながるという声の一方、過去の騒動を指して「障害を免罪符にするな」との批判もあった。そして同様に注目を集めたのが、「脳の周波を検査した(ことでADHDがわかった)」とする発言だ。


 記者自身、木下さんの動画を見て率直に驚いた。


 過去にADHDの診断を受けている知人からは、複数回の診察や心理検査を受け、家族への聞き取りまであったと聞いていた。初診から診断まで2カ月ほどかかったという。それが脳波を見ればわかるようになったのだとすれば、医学の大きな進歩だ。 


 だが、真偽を確かめようと複数の精神科医や脳科学の研究者に話を聞くと、皆一様にそれを否定した――。


 ここでまずは、ADHDについて改めておさらいする。精神科専門医で、早稲田メンタルクリニック院長の益田裕介医師はこう解説する。




「ADHDは注意欠如・多動症といい、発達障害の一種です。忘れ物やなくしものをしたり、集中力が続かなかったりする『不注意』が多く、衝動的な行動や落ち着きのなさが特徴です。発達障害は行動や認知の特性によって、ADHDのほか、コミュニケーションが苦手で特定のものごとに強いこだわりがある自閉スペクトラム症(ASD)、『読み』『書き』『計算』など特定の学習ができない学習障害(LD)の3つがあります。いずれも、知能や認知のデコボコが大きい状態です」


 木下さんは動画で、「昔から物をよくなくし、なんでも忘れてしまう、スケジュール管理ができない」などと語っている。益田医師によると、実際に診察しない限りADHDかはわからないとしつつ、これらはADHDの典型的な症状だという。


 一方、脳波をつかった診断に対してはこう首をひねる。


「発達障害の診断は『DSM−5』というアメリカ精神医学会の基準に当てはまるかどうかで判断します。ADHDの場合、不注意と多動性・衝動性それぞれに9つの症候が示され、そのどちらかで少なくとも6つ以上に当てはまらなければ診断できません。『12歳前までに症状がみられる』などの要件もある。だから本人への問診はもちろん、家族への聞き取りや通信簿など過去の記録を集めることになる。脳波の研究が進んでいるのは事実ですが、あくまで研究段階で、実際の現場で発達障害の診断に脳波検査を用いることはありません」


 昭和大学客員教授なども兼務するハートクリニック横浜院院長の柏淳医師も、同様にこう断言する。


「木下さんが受けたとされるのはQEEG(定量的脳波検査)という、通常の脳波を図面上に落として色付けするもので、特別な検査ではありません。また、脳波検査で発達障害の診断ができるということは世界中どこの診断ガイドラインにも書いていません。例えば木下さんは動画で前頭葉の働きが弱いと言っていますが、前頭葉の機能が弱くなる原因はいくらでも考えられます」


 ASDと合併する割合が高い、てんかんなどの疾患の有無を探るために脳波検査を用いることはあると言うが、発達障害そのものの診断や評価に脳波を使うことはないという。




 なお、動画で木下さんは「正式な診断を受けた」とは明言していない。また、ブレインクリニックもAERAの取材に対し、木下さんの診断結果は「来院の有無を含めて回答できない」としつつ、発達障害について「脳波検査のみで診断したり、『グレーゾーン』などと伝えたりすることはなく、問診・知能検査・生活状況のヒアリングなどを複合的に行っている」としており、木下さんが脳波以外の適切な診断を受けている可能性もある。ただ、木下さんの動画を見た人の多くが「脳波で発達障害が診断できる」と誤認するのも無理からぬことだろう。


 また、クリニックのホームページにはQEEGによって「ADHD特性、アスペルガー特性、学習障害特性、不安特性、うつ特性などを診断することが出来ます」と明記されている。


 さらに、問題が大きいのは検査後の「治療」だ。木下さんが訪れたというブレインクリニックでは、発達障害の治療としてrTMS治療(経頭蓋磁気刺激)を提唱している。rTMSとは、特殊なコイルを用いて大脳の特定の部位の神経細胞を繰り返し刺激する治療法のことだ。ブレインクリニックのホームページには、こうある。


<当院の特徴は、大規模標準データベースと比較し、客観的データで診断するQEEG検査と最先端の治療であるTMS治療を導入している点です。>


 柏医師はこう解説する。


「rTMSは現在、難治性のうつ病でのみ保険適応されている治療法で、発達障害の症状が改善されるというエビデンスはありません。にもかかわらず、高額な自由診療としてこれを勧めるクリニックが存在するんです。私の病院にも、『他院でrTMSを受けたがよくならない』『rTMSをすすめられ、高すぎるから断ったらほかにやることがないと言われた』といった患者さんが来院します」


 2020年には、日本精神神経学会がrTMS治療について「発達障害圏の疾患(自閉症、ADHD、アスペルガー障害など)やそれに関連する症状、あるいは不安解消や集中力や記憶力の増進などに対する効果は、海外においても確認されていません」との注意喚起を出している。


 発達障害と診断されたり、自身もそうかもしれないと悩んだりする人は少なくない。柏医師はこう続ける。


「日本の健康保険は非常に優れたシステムで、適切だと認められた治療は保険適応されています。脳波を使った検査やrTMSによる発達障害治療は研究こそ進んでいますが、今の段階ではがんの民間療法のようなものと捉えていい。夢物語に踊らされず、適切な診断と治療を受けてほしいと願っています」




 なお、ブレインクリニックのAERA編集部に対する回答は次の通り。


――木下優樹菜さんが貴院にてQEEG検査を受け、ADHDと診断されたのは事実ですか。


<来院の事実の有無にかかわらず、当院としては回答できません。>


――貴院では、QEEG検査のみ、またはQEEG検査の結果を主な理由としてADHDを含む発達障害であるとの診断を行ったり、発達障害の傾向(グレーゾーンなど)であると患者に伝え、治療を促すことはありますか。


<ご指摘のような事実は全くございません。問診(ASRS−v1.1. )、WAIS™−IV知能検査、生活状況のヒアリングなど複合的に行っております。>


――多くの医師が「QEEG検査で発達障害を知ることはできない」と指摘しています。この指摘に対する貴院のご見解をお教えください。


<QEEG検査のみを根拠に診断を行っているという事実はございません。多面的な評価が必要と考えますし、当院は問診(ASRS−v1.1. )、WAIS™−IV知能検査、生活状況のヒアリングなど複合的に行っております。>


――日本精神神経学会では2020年、rTMS治療について注意喚起(本文参照)を行っています。これに対する貴院のご見解をお教えください。


<当院は、注意喚起の対象にはなっておらず、特に見解は御座いません。>


――QEEG検査による発達障害診断やrTMSによる発達障害の治療は、今後の発展が期待される分野です。貴院でのQEEGによる発達障害診断やrTMS治療の蓄積について、論文などとして広く発表するお考えはありますか。


<研究成果の発表にも力を入れております。>


(編集部・川口穣)


※AERAオンライン限定記事


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