『上田と女が吠える夜』たんぽぽ・川村エミコの自虐ネタに考える、「運のいい/悪い」を決めるもの

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2022年08月12日 00:01  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。

<今週の有名人>
「不幸にチャンネルが合っちゃってるよ〜」たんぽぽ・川村エミコ
『上田と女が吠える夜』(8月3日、日本テレビ系)

 『M-1グランプリ2019』(テレビ朝日系)で、ぺこぱがボケを全肯定する漫才で話題を呼んで以来、「人を傷つけない笑い」が尊ばれるようになり、テレビにおける自虐ネタの需要はどんどん高くなっている。ただし、その自虐が「モテない」とか「もうオバチャン」というようなものだと、聞き手が「そんなことないよ」と言わなくてはいけないので厄介だし、同調すると、それはそれでセクハラめいてくるので、そうした自虐はネタとして好ましくないだろう。やはり他人を巻き込まない、自己完結した自虐ネタがベストだと思う。

 8月3日放送の『上田と女が吠える夜』(日本テレビ系)のテーマは、「どうして私がこんな目に? とことんツイていない女たち」で、ゲストそれぞれが、自分の経験した“アンラッキー”を明かしていた。

 例えば、プロフィギュアスケーターの村上佳菜子は現役時代、大会の最中に顔にハエが止まったとか、『南国少年パプワくん』(エニックス)の漫画家・柴田亜美は、ざくろを食べたところ毒が回って動けなくなったとか、他人を巻き込まず、人を傷つけない、ちょっとしたアンラッキーエピソードを次々と披露した。

 たんぽぽ・川村エミコもゲストの1人だが、司会のくりぃむしちゅー・上田晋也いわく「スタッフが川村サンと打ち合わせしていたら、まぁ、不幸の宝庫」だったという。具体例を挙げると、小学生の頃、クラスで飼っていたメダカ殺しの罪を着せられたことに始まり、大人になり、芸人の下積み時代に前説をしていたところ、高級すしをスタッフに「食べていい」と言われたから食べたのに、別のスタッフに「なに食ってんだ」と怒られたそうだ。

 このほかにも、オーディションを受けようと思った3日前にコンビを解散するなど、アンラッキーは続く。売れっ子となった今も、勝手に美容クリニックの広告で「ブルドッグ顔の代表」として顔写真を使われる、スーパーの入り口につながれた犬が通りがかったおじさんに吠えた際、川村サンの飼い犬と勘違いされたらしく「静かにさせろ」と怒られた、新宿アルタ前で変なおじさんに「お前に選択肢はないんだ」と怒鳴られるなど、ネタが尽きない。

 また今年、スパムメールに引っかかった川村サンは、クレジットカード被害に遭ってしまい、それを友達に話したところ「不幸にチャンネル合っちゃってるよ〜、チャンネル変えてこ〜」と言われて腹が立ったそうだ。

 これらのエピソードを聞くと、川村サンはアンラッキーに思えなくもない。しかし、川村サンは2010年、『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)のオーディションを勝ち抜いて、人気番組のレギュラーの座を勝ち取っている。オーディションは、実力はもちろん、運が左右する部分も大きいだろう。本当に運が悪かったら、オーディションに合格しないと見ることもできる。さて、川村サンは運がいいのか悪いのか。

 運の良さを科学的に解明しようという実験はいろいろ行われている。そのうちの1つが「自分は運がいい」と思う人と、「自分は運が悪い」と思う人のグループに分けて、くじを引かせるものがある。「自分は運がいい」と思う人も、「自分は運が悪い」という人も、くじ運自体にはっきりとした差はないという。つまり、自分は運がいい/悪いというのは、“思い込み”なわけだ。実際に、「自分は運が悪い」と思い込んでしまうと、ラッキーな出来事は排除して、アンラッキーばかり記憶してしまうことが心理学で証明されている。

 例えば、動画配信サービス「TVer」で公開された同番組の未公開VTRによると、川村サンが、オアシズ・大久保佳代子の番組に出演した時、こんなアンラッキーに見舞われたことがあったそうだ。大久保サンと2人で酒を飲む番組で、撮影が終わり、その店のトイレを借りようと並んでいたら、ダッチオーブンがいきなり足に落下。大ケガをしてもおかしくないが、川村サンは診察してくれたお医者さんに「運がいいね。何ともないよ」と言われたという。

 鉄の塊が足に落ちてきて何ともないとは相当ラッキーだと思うが、「自分は運が悪い」と思い込んでしまうと、そこはスルーして「突然、足の上にダッチオーブンが落ちてきた、アンラッキーだ」と感じてしまう。「運が悪い」という思い込みに基づいて、都合のいい事実だけを集めて、「運が悪い自分」を作り上げてしまうのだ。この理論でいうのなら、川村サンが友人に言われた「不幸にチャンネルが合っちゃってるよ」という指摘は、正解なのだろう。

 『上田と女が吠える夜』にゲスト出演していたいとうあさこも、川村サンについて「一緒にロケに行っても、みんな(衣装)が長袖のTシャツなのに、エミコだけ半袖」「みんながはく、ももひきみたいなのがあるんだけど、エミコのだけ入ってない」など、彼女の「ちょっとした運の悪さ」を指摘していた。

 しかし、これは本当に運の問題なのだろうか。みなさんがテレビの制作者となり、出演するタレントに衣装を用意すると想像してみてほしい。その際に、絶対にミスをしないように心がけるのは、キレやすい人とキレない人のどちらだろうか。おそらく、ほとんどの人がキレやすい人に対して万全の体制で臨むはずだ。

 仕事とはいえ、川村サンのように「運の悪さ」を面白おかしく喧伝すると、周囲に「運が悪い自分を受け入れている」と受け止められ、「運が悪い人として扱ってよい」と間違ったメッセージとなることがある。川村サンがそこでキレるタイプでないため、「ミスしてもあいつなら大丈夫」と結果的に軽んじられていく可能性はあるだろう。このようにして、運が悪いネタが増えると、ますます「自分は運が悪い」という思い込みは強くなっていくわけだ。

 「自分は運が悪い」と思い込んでしまうと、「きっとうまくいかない」と不安になってミスを誘発し、さらには周りからも軽んじられ、その結果、どんどん自分に自信がなくなるので、注意が必要といえるだろう。川村サンは「運が悪い話」を仕事に生かしているからいいと思うが、一般の方は過度の思い込みに注意していただきたいものだ。

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