一之輔がコロナから復帰も「要リハビリ」? 浦島太郎を牛若丸と言い間違え

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2022年08月14日 16:00  AERA dot.

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写真春風亭一之輔・落語家
春風亭一之輔・落語家
 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「復活」。


【画像】「今週のお題」のイラストはこちら
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 コロナから復帰し10日ぶりの高座。マクラで「隔離生活から久々に外に出ると、『牛若丸』ですねぇ」と言うと、お客がポカーン。最前列のおじさんが「浦島太郎?」と呟いた。焦る。「そう!(汗)浦島太郎! 10日休むとダメですね。『牛若丸』は『お椀の船に、箸の櫂』か!」。またポカーン。高座降りたら後輩に「さっきの『一寸法師』じゃないですか?」と直されました。リハビリが必要です。


 長野の独演会が中止になり、それに付随していた地元新聞の取材もキャンセルになったままでした。丸1日休みがあったので、その日に改めて取材を受けに長野に出向き、ついでなので1泊ゆっくり出来ないかと探してみると、近くに良さげな温泉地を発見。こうなりゃ独り旅だ。取材を終えて在来線でガタゴトガタゴト。いーかんじで鄙びた街。観光名所(街の人いわく)は30分で回りきってしまいました。宿のお湯に入っても夕食までまだ3時間あります。ここで「Nスタ」でホラン千秋を観ていたら、いつもと同じです。日帰り温泉があるらしいので行ってみよう。


 狭いお湯に浸かっていると、ごま塩頭のお爺さんが入ってきました。背中には若武者……っぽい絵が描いてあります。子供が自由帳の片隅に描いたような、正直あんまり上手くなくて、かつ小さくてファニーフェイス。手に持つ刀が松の枯れっ葉に見えるし、腰から下はゴム跳びしてる女子のようです。ジッと見入ってると気配を察したのか「ん?」とお爺さん。「なに?」「あ、すいません!」「あ……(口に人さし指当てて)しー、だな(笑)。コロナだからな」。壁には「お喋り禁止」の注意書き。案外生真面目なお爺さん。無言のまま、二人で入浴。出るタイミングも一緒。


 外に出て「どこから?」とお爺さん。「東京です」「どうだい、ここは?」「良いですねぇ」「そう?」「はい」「まぁ、悪いところじゃないねぇ(笑)。オレも久々に帰ってきたんだけどさ……」。細かい事情は聞きませんでしたが、お爺さんはなにか訳があって郷里を離れていたようで「すっかり浦島太郎だわな」と笑いました。浦島太郎!? 「失礼ですが背中の彫り物は……どなたですかね?」と聞いてみた。「あー、これ?」「……義経(牛若丸)、じゃないですよね」「んー、違う。木曽義仲だね。若気の至り(苦笑)」。ニアピン。お爺さんは続けて「なんか締まらなくてなぁ。よく『一寸法師』みてえだなんて言われてな」と、笑った。来た。『一寸法師』、ありがとうございます、回収出来ました。




 宿に戻りテレビでは「世界陸上」の総集編。織田裕二さんが「地球に生まれてよかったーっ!」と例の如く叫んでいます。「いやいや、俺の方がよかったんじゃないかな。フフ」と独り呟いたまでは覚えてるのですが、そのまま寝入ってしまったようで。昼の出来事がまるで夢のような感じでしたが、宿からの帰り道にあのお爺さんを見かけました。「浦島太郎だ」と呟き、声もかけず駅へ。温泉饅頭でも買おうかと思いましたが、蓋を開けて煙でも出るといけないので、なんとなくやめ。いい旅でした。復帰はしたので、そろそろ復活します。


春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!

※週刊朝日  2022年8月19・26日合併号


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