年々増加する「セックスレス妊活」 性外来の医師が指摘する深刻な課題とは

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2022年08月15日 06:30  AERA dot.

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写真写真はイメージ(GettyImages)
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 約5.5組に1組が不妊治療の検査や治療を受けたことがある時代であるにもかかわらず、不妊は未だ当事者が「身近な人にこそ話しづらい」と悩むテーマだ。こうした当事者のさまざまな“孤独”を掘り下げながら、不妊治療の今を探る短期集中連載「不妊治療の孤独」。第1回前編では、妊活したいけれども「性交ができない」と悩む37歳女性の実例を紹介したが、後編では、年々増加傾向にある “セックスレス妊活”について。


前編も読む→【「妊活したいけど1回も性交していない……」結婚6年目夫婦の他人に言えない深い悩み】


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 今、性交を試みても「できない」という夫婦が少なくないという。“セックスレス”が聞かれるようになって久しい今、“セックスレス妊活”という言葉も聞かれるようになった。


 一般的な不妊症の定義は「妊娠を希望し、避妊せずに性交しているのに一年以上妊娠しない状態」だが、性交できない人の不妊外来受診が珍しくない現在。ここで言う「性交できない」は、いわゆるセックスレスではなく、「性交したくても何らかの理由でできない」状態を指す。


 夫婦のどちらか、あるいはどちらもが性交の経験がなく、対処法が分からずに深刻に悩んでいるケースもあれば、「友人みたいな関係で性交する気分にならないけれど、子どもが欲しい」という声も珍しくない。


「“妊娠を希望しているが、性交ができない”という悩みを抱えて訪れる方が多い」


 とは、元日本性科学会理事長で、性機能障害に悩むカップルが数多く訪れる性外来で、30年にわたってカウンセリングを行っている婦人科の大川玲子医師。こうしたカップルは増加傾向にあるものの、相談できる場所が少ないのが深刻な課題だという。


「できれば“子どもを自然に授かりたい”という思いで、性交ができるようになりたいという方が多いものの、セックスに関するカウンセリングを行なっている病院はかなり数が絞られます。晩婚化が進む中、妊娠を望むなら、性交の段階であまり時間をかけていられないという判断から、いきなり不妊治療を選ばれる方も少なくない」(大川医師)



 大川医師の性外来を訪れる女性の多くが、体の問題はないのに挿入を伴う性交渉ができない“挿入障害”を抱えている。妊娠したくても挿入できないことが切実な問題となって駆け込まれる方がほとんどだという。


「挿入障害は、性器を含めたスキンシップは問題なくできるのに、膣に触れられそうになると突然体をこわばらせてしまうような状態です。基本的に心因性の疾患になります」(大川医師)


 相談者に共通している不安が、「処女膜は最初の性交渉で破れ、血が出る」という“処女膜神話”への過度なとらわれだという。これが「性交渉=出血するほどの痛みを伴う」という思い込みを生み、女性に強い恐怖感を抱かせていることが多い。その結果、性交渉しようとすると骨盤底筋、特に膣周囲の筋肉を、本人の意思とは無関係に収縮させ、膣を閉じてしまうのだという。


「無意識の力というのは強いもので、女性が仮に“力ずくで挿入して欲しい”と思っても、実際は足を閉じて全身で抵抗するので挿入できません」(大川医師)


「性交ができない」という性機能障害における治療の柱の一つが、不安や緊張、恐怖によって抑制された性反応を取り戻す心理的なものになる。性行為の際の体の反応や、不安や恐怖が挿入を妨げる仕組みについても、医師から説明を受ける。加えて、個々の症状に合わせて苦手な行為を少しずつ練習し、抵抗感を減らす行動療法を行う。挿入障害の場合には、挿入への過度な恐怖を取り除くため、挿入の練習を段階的に行い、徐々に慣らしていく。


「行動療法では、まずは自分の指を膣に入れてみることから始めます。初めは膣の入り口に触れただけで、痛いと手を離してしまう人もいますが、落ち着いて感覚に集中すると“痛いのではなく、違和感だ”と気づく。違和感を我慢して練習していくうちに、指を通じて膣の構造を感じ取れるようになる」(大川医師)


 性機能障害は、不安や緊張が引き起こすことが多く、体に意識を向けてリラックスすることも重要だ。ただ「リラックスしなくては」という思いがかえって緊張させる場合もある。緊張感が拭えない人には、「手や足が重い、温かい」など副交感神経が優位のリラックス状態を思い浮かべ、意識を体に向ける「自律訓練法」を取り入れることもある。



 本番であがってしまうアスリートなども取り入れている手法で、訓練によって実際に温感などを得てリラックスした状態になれる。このほか、膣の無意識収縮を和らげる方法には、尿もれ予防などで知られる“骨盤底筋運動”も組み合わせると良いとされる。


 挿入障害の場合、月経が順調で排卵もあれば、前編で紹介したAさんのようにシリンジ法を取り入れるのも妊活の一つの手だ。クリニックで販売しているところもあれば、通販サイトなどでも手軽に手に入る。シリンジを用いることで、タイミング法のハードルを下げることにもつながるため、性交が問題なくできるカップルでも活用する例が少なくないという。


「シリンジ法は自宅でできますし、結果は膣内射精と変わりません。私の患者さんでも、排卵のタイミングでシリンジ法を行うようになって、数回で妊娠した方もいます」(大川医師)


 女性の性機能障害は、なぜ起こるのだろうか。患者の特徴には、思春期の頃から性的な話題をタブー視し、性=悪いことといったイメージを強く持った人が多い傾向にあるという。大川医師は言う。


「そうした意味では、教育環境にも原因がある。例えば挿入障害における処女膜神話など、教育の中で性交や性反応について正確な情報を教える流れができていないことで、誤った情報が先走っている傾向もある。それが性交渉へのマイナスな向き合い方につながっているようにも感じます」


 一方、挿入障害を抱える人が婦人科を訪れた場合、子宮や卵巣、膀胱、直腸などがある骨盤内部と膣を触診する「内診」が高いハードルになることがある。診察器具も含めて性器への挿入を恐怖と感じる人も少なくない。


大川医師の性外来にも、不妊外来での内診ができず、「不妊症としての検査や治療ができない」という理由で来院する人が増えていると言う。妊婦健診の中でも、婦人科検診が終始できないという人もいる。不妊外来 で多くの患者と接する千村友香里医師(さくら・はるねクリニック銀座)は言う。


「婦人科の診察に対して、緊張する人や不安が大きい女性はたくさんいます。不安感が強い人は、事前に伝えてもらえると、患者さんによって診察方法を変える対応もできるので、怖がらずにぜひ相談してほしい」



 千村医師のクリニックでは、挿入障害の患者が訪れた場合、膣の萎縮や閉塞を緩和させる目的の「膣ダイレーター」を用いて、自宅で練習する指導なども行っている。また子宮頸癌検診や膣内部の視診などにも用いられる「膣鏡」と呼ばれる診察器具の小さなサイズを用いて、診察の中で少しずつ慣らしていくこともあるそうだ。千村医師は言う。


「性交渉が毎回できることが当たり前ではないという認識を持つことも大事。“子どもを作るために性交できるようにならないといけない”と思うと、余計に追い詰められかねません」


 晩婚化が進む中、性交実現のために要する期間があまりに長期化すると、妊娠そのものが難しくなってしまいかねない。前出の大川医師の性外来では、治療を一年で “卒業”する人もいれば、10年にわたって通っている人もいるという。そうした中で、「性交ができるかどうかより、妊娠を優先したい」と、人工授精や体外受精など、性交によらない妊娠の技術を持つ不妊治療クリニックに切り替える人も少なくない。


「性外来を受診する人が、内診ができる程度になると、性交より妊娠を優先する人も多い。その時に、性外来も並行して続けたいという希望を持つ人もいますが、原則として並行しての治療はお勧めしていません。不妊治療はかなり集中力を要しますし、性外来での治療も自己との闘いで神経を使うからです」(大川医師)


 生殖医療が発達し、性交渉がなくても妊娠に至るケースが増えている現在。晩婚化が進む中で、妊娠という目的のみを考えると、性交渉ができる・できないに関わらず、一足飛びで進みたくなる気持ちも当然理解できる。


 その一方で、性の診療という分野からは、「性交=妊娠のためだけのもの」という流れになりすぎていないかと懸念する声も聞かれる。この葛藤は、“子どもは自然に授かりたい”という自然派信仰的な思いと、生殖医療である不妊治療との間に揺れる、当事者のせめぎ合いにも通ずるものがある。そのせめぎ合いを抱えるのは、女性のみならず男性も然りで――。(次の記事に続く)


前編はこちら→【「妊活したいけど1回も性交していない……」結婚6年目夫婦の他人に言えない深い悩み】



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