広島スキッベ監督の冴えわたる手腕。既存選手の能力を最大限に引き出して勝つ、理想的な地方クラブ像

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2022年08月16日 06:41  webスポルティーバ

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 すでに終盤に差しかかった今季のJ1で、ポジティブな驚きをもたらしているのが、柏レイソルとサンフレッチェ広島の2チームだろう。

 前者は昨季、残留争いに巻き込まれ、後者も11位と、ふたケタ順位にとどまった。しかし、今季は残り10試合の時点で、柏は2位、広島は6位と上位争いを演じているのである。

 その両チームが8月14日に柏の本拠地で激突した。さすがは好調を維持する上位対決である。互いに持ち味を発揮し、多くのゴールが生まれた白熱の好ゲームが繰り広げられた。




 試合は時間帯によって、流れが行き来する一進一退の展開となった。

 開始早々に広島が精度の高いセットプレーで先制したものの、その後は柏が反攻を仕掛け、前半終了間際に武藤雄樹のゴールで追いつくと、後半立ち上がりにはオウンゴールを誘発し、逆転に成功する。

 ところが今度は広島が圧力を強め、61分に松本泰志が豪快なミドルを叩き込むと、67分には右からの藤井智也のクロスがゴールに吸い込まれ、3−2と再逆転。そのまま逃げきった広島が4連勝中の柏の勢いをストップし、逆転で敗れた前回対戦のリベンジを果たしている。

「技術的にも戦術的にも、すごく魅力的なサッカーができた」と広島のミヒャエル・スキッベ監督が胸を張れば、「技術的な部分でも戦術的な部分でも、劣っていたとは思わない」と敗れた柏のネルシーニョ監督も、自チームのパフォーマンスを好意的に評価した。

 奇しくも両指揮官が同様のコメントを残したことからも、この試合の質の高さがうかがい知れるものだ。

 常に世界のサッカーのトレンドに目を配り、アップデートを繰り返しながら昨季低迷したチームを蘇生させたネルシーニョ監督もさることながら、やはり焦点を当てるべきは勝った広島のスキッベ監督の手腕だろう。

能力を開眼させた助っ人たち

 今季より指揮を執るドイツ人指揮官は、ハイプレスと縦に速いスタイルをチームに植えつけ、躍進を導き出している。昨季からの戦力的な上積みがほとんどなかったにもかかわらず、そのスタイルのなかで既存の戦力が持てる力を十全に発揮できるようになったのだ。

 この日の逆転劇を導いたのは後半からピッチに立ったドウグラス・ヴィエイラだったが、彼もまたスキッベ監督の下で開眼した選手のひとりだろう。高さと強さを生かして前線で起点となり、裏抜けでゴールにも迫れる。故障がちで稼働率は低いとはいえ、ピッチに立てば高い確率でゴールに直結する仕事をこなしている。

 同じブラジル人のエゼキエウも、この速いサッカーによって持ち味を発揮しはじめている。ドウグラス・ヴィエイラと同様に故障明けながら、前節の鹿島アントラーズ戦ではカウンターからダメ押しゴールを決めた。

 昨季まではともに助っ人としては物足りない出来だったが、スキッベ監督の下で役割が明確となり、躍動感溢れるパフォーマンスを示している。エースとして期待されたジュニオール・サントスこそ覚醒を促せなかったとはいえ、適性を見極め、能力を導き出すスキッベ監督の手腕は高く評価されて然るべきだろう。

 柏相手にJ1初ゴールとなる同点弾を叩き込んだ松本にしてもそうだ。昨季までくすぶっていた23歳のセントラルMFは、天皇杯で結果を出したことをきっかけにポジションを掴み、主軸へと成長を遂げている。

 決勝点の藤井も同様だ。スピードを生かしたプレーで右サイドを制圧し、プロ2年目の今季に完全に独り立ちした。

 アグレッシブなスタイルが助っ人や若手の力を導き出した一方で、長く広島を牽引してきた青山敏弘は、厳しい立場に追い込まれている。それでもこのベテランは36歳となっても新たなスタイルの習得にポジティブに取り組み、必死に食らいついている。スタメンの座こそ失ったものの、クローザーとして勝利に導く役割をまっとうしている。

 ほかにも森島司や満田誠ら、スキッベ監督の下で飛躍的に成長を遂げた選手は枚挙にいとまがない。

2015年以来のタイトル奪取へ

 首位を走る横浜F・マリノスと比べれば選手層が心許なく、ここ2週間はルヴァンカップも含めた5連戦をほぼ同じスタメンで戦わざるを得なかった。それでもFC東京には敗れたとはいえ、リーグ戦では鹿島、柏と上位陣を連破し、ルヴァンカップでは横浜FMに連勝し、ベスト4進出を決めた。

「この連戦を乗りきって、チームはもっと強くなると思う」

 殊勲の藤井が話したように、酷暑下でのハードな連戦で4勝1敗と勢いを加速できたことは、何よりの自信となったはずだ。

 たしかなスタイルを植えつけ、若手の成長を促しながら、しかも結果も手に入れる。チーム強化の理想的な形が、今の広島にはある。

 これで5位に浮上した広島は、消化試合数がひとつ少ない首位の横浜FMに7ポイント差に迫った。残り9試合であることを考えれば逆転優勝の芽は薄いとはいえ、ルヴァンカップではベスト4、天皇杯ではベスト8と、ふたつのカップ戦ではともに勝ち残っている。

 2015年のリーグ優勝を最後に下降線を描いていた広島から、久しぶりに感じさせる希望的な未来。タイトル奪取への機運は、着実に高まっている。

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