「勝手に決めないで!」に絶縁も “実家じまい”を成功させる秘訣とは

2

2022年08月16日 08:00  AERA dot.

  • 限定公開( 2 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AERA dot.

写真いきなり「しまう」ことを考えるのが難しければ、親が元気なうちにまず「片づけ」から始めよう(撮影/写真映像部・高橋奈緒)
いきなり「しまう」ことを考えるのが難しければ、親が元気なうちにまず「片づけ」から始めよう(撮影/写真映像部・高橋奈緒)
 持ち家を持つ親の「実家じまい」をめぐり、子どもが悪戦苦闘している。滞りなく進めるには、親が元気なうちから早めに準備をしておくことが大切だ。AERA 2022年8月15−22日合併号では、「実家じまい」のリアルを取材した。


*  *  *


 京都市の会社員の女性(43)は2015年秋、北陸地方の実家を新婚のいとこ夫婦に譲った。


 その4年前の11年3月末、建築士だった父が60歳で突然、亡くなった。実家は二世帯住宅。当時、女性と兄(45)は都内で働いていて、母(74)が2階に、下には祖母が残された。嫁姑の仲は良好とは言えず、ほどなくして母は上京。女性と一緒に暮らし始めた。


 父は実家の一部屋を仕事場にしていた。仕事の資料を一定期間保管しなければならない法律上の規定もあり、ほとんど片づけをしないまま、2階の権利は長男である兄が相続した。


 15年、いとこが結婚。新居にしたいから、2階の権利を譲らないかと打診があった。祖母は叔父が引き取るという。女性は、


「このタイミングを逃してはいけないと思った」


 と、兄に実家を手放すことを相談。母は嫌がるだろうと思いつつ、兄と一緒に切り出すと、


「あそこはお父さんとお母さんが苦労してローンを返した家なのよ! 勝手に決めないで!」


 案の定、母は激怒。けれど、すでに暮らしていないことに加えて、年間約15万円の固定資産税を払い続けている兄の負担も大きい。「下の世代のためにも手放さないか」と説得すると、しぶしぶ納得してくれたという。


■5年がかりで完了


 片づけは「仕事を長期間休めないし、感傷にひたるエネルギーもない」から、地元の業者に約30万円で依頼。基本的にすべて処分した。


 その後、女性は結婚し、夫の勤務地である京都市に母も一緒に移り住んだ。現在、がんで療養中の母は、娘のそばで暮らせることに感謝しているという。


 いま、持ち家率が8割を超える団塊世代が70歳を超え、あちこちで「実家じまい」が始まっている。


 文筆家の松さや香さん(45)は昨春、5年がかりで「実家じまい」を完了させた。



 きっかけは、母(75)の運転免許だった。実家は、北関東の主要駅から車で約20分の住宅街にある。車のない生活は考えられないが、かといっていつまでも運転はできないだろう。母は、16年前に父が他界して以降、ひとり暮らしで、「4人いたら狭いけど、1人だと広い」とこぼしてもいた。


 洋服が大好きで「着道楽」の母は、常にクローゼットがぱんぱん。


「終活を念頭に、モノを減らしたいという狙いもあった」(松さん)


 妹が同じ市内の駅近くのマンションを購入して息子と2人で暮らしていたので、母はその近くの賃貸マンションに引っ越す提案をすると、あっさり賛成してくれたという。


 だが、いきなり壁にぶつかった。高齢者が入居するとわかると、部屋を貸してくれないのだ。10軒近くの不動産屋を回り、娘2人が連帯保証人になることなどを提案したが全滅。高齢者専用の賃貸物件も増えているが、希望のエリアには見当たらなかったという。


「買うしか選択肢がないとわかって怖くなった。社会の受け入れ体制の脆弱(ぜいじゃく)さを知り、ぞっとしました」(同)


 心が折れかけた時、妹が、住んでいるマンションから徒歩圏内にある中古の一戸建てに一目ぼれをしたと言いだした。子どもが成長するにつれて、手狭さを感じていた妹は、引っ越しを即決。母は、妹のマンションで暮らせることになった。急に追い風が吹いたかのように、実家の売却先もあっという間に決まったという。


 片づけは、松さんが都内から週末ごとに通い、時に母とケンカしながら1年ほどかけて終わらせた。松さんは、大満足でこう振り返る。


「母の死後、妹と2人で実家を片づけるのはつらすぎる。みんなで笑いながら思い出を整理できたし、母自身にも人生を振り返ってもらうことができた」


■話し合いできているか


 実家じまいは、どの家庭でもうまくいくとは限らない。


 NPO法人「空家・空地管理センター」理事の伊藤雅一さんは言う。


「事前に家族間できちんと話し合いができているかにかかっている。親が元気なうちにどう準備を始めるかも重要です」



 人に貸すことができるのか、更地にして駐車場にすれば収入は見込めるのか。売れなかった場合の維持費はどのくらいかかるのか。細かくシミュレーションしておくことだという。


 静岡県の会社員男性(60)は実家じまいをめぐって、親戚と絶縁状態に陥った。


 メロンの専業農家だった実家は、築150年の平屋で、広い敷地内にはメロンの温室が6棟あるほか、車庫、鶏小屋、ボイラー室などがずらり。田んぼやみかん畑もある。


 約15年前に父が他界した時、男性は、実家にかかる年間の維持費をエクセルに書きだした。固定資産税、火災保険、水道と光熱費、自宅のメンテナンス費、除草費用、ガソリン、自治会費……。支出は、最低でも月25万円にのぼることがわかった。


 交通の便の悪い田舎町で、売却先が見つかる可能性は低い。更地にするにも約1千万円が必要だった。


「とても払えないと思いました。母が亡くなったら、すぐに手放すしかない」(男性)


 だから、12年冬に母が亡くなった時にすぐに相続放棄の手続きをして、処分する方向で動き出そうとした。だが、妹は、初盆の席で「家がなくなっちゃう!」と大反対。結局、すべてを妹が相続したものの、重い維持費をめぐって決裂。以来、一切連絡を取っていないという。


 前出の松さんが「実家じまい」を考え始めたのは、母が70歳になった頃だった。


「母、私、妹。それぞれが自立し、三つの人生にいい意味でわかれていく手ごたえがあった」


 思い出を良きものに変え、新たな生活を始めるためには、“早め早め”が必須のようだ。


(編集部・古田真梨子)


※AERA 2022年8月15−22日合併号



【おすすめ記事】父が危篤で上司がまさかの一言「どうせ間に合わないだろ」


    ランキングライフスタイル

    前日のランキングへ

    ニュース設定