「ONE PIECE FILM RED」が賛否両論を呼ぶ理由 ウタが実現した「新時代」とは? 深い物語をネタバレありで考察

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2022年08月16日 19:02  ねとらぼ

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写真Adoが歌唱を担当したオリジナルヒロイン・ウタ
Adoが歌唱を担当したオリジナルヒロイン・ウタ

 「ONE PIECE FILM RED」が公開から10日間で観客動員数500万人、興行収入70億円を突破するという、シリーズ歴代最高の超大ヒットを遂げている。



【動画】「ONE PIECE FILM RED」予告編まとめ



 しかしながら、その評価はかなり割れている。8月中旬現在、ファン向けの映画が高評価を得やすい傾向のあるFilmarksでは3.8点と好評だが、映画.comでは3.0点、Yahoo!映画では3.4点。点数の分布をみてもバラバラで、まさに賛否両論だ。



 賛否両論の理由としては、今回の中心キャラクターである「ウタ」の歌唱を、若者を中心に絶大な人気を博している歌手のAdoが担当しており(声の演技は声優の名塚佳織)、その歌唱シーンが「多すぎ」という意見もよく見かける。個人的にはそれぞれの楽曲は1コーラスで終わっているし良いバランスだったと思うのだが、ファンの多い作品でここまで「音楽」をフィーチャーしたこと自体に評価が分かれることは納得できる。



 だが、筆者としては、それ以上に「思っていた映画と違う」ことが評価に少なからず影響しており、劇場版『ワンピース』シリーズの中でも異色の作品となっていることも大きいと思うのだ。その具体的な理由を、本編のネタバレを含む考察と共に記していこう。



※以下「ONE PIECE FILM RED」の結末を含むネタバレに触れています。観賞後にお読みください。



●「オマツリ男爵」に近い理由



 今回のゲストキャラクターであるウタは「歌でみんなを幸せにする」ことを信条とする、世界中から愛される歌姫に初めは思えた……が、実際の彼女は麦わらの一味はもちろん自身のファンも強制的に自身の夢の中に閉じ込めてしまい、戦争やいじめがない楽園のような場所にずっといればいいという、表面的には魅力的だが、一方的な幸せを「押し付け」ていた。



 より端的に言えば、味方だと思っていた者がはっきり「闇落ち」をしてしまう上に、時にはゾッとするような笑みを浮かべながら攻撃もしてくる、はっきりと「怖い」映画にもなっているのだ。そのため、「ワンピース」のファンからも賛否両論が激しく、ホラー的な内容かつつらく苦しい戦いが描かれる、2005年の細田守監督作「ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島」に近い印象もある。



 「ONE PIECE FILM RED」のウタと、「オマツリ男爵と秘密の島」のオマツリ男爵は、(後述する)悲しい過去を持ち、訪れた者たちを「罠」と言ってもいい方法で閉じ込め、自分の目的を達成するためには他者を巻き込むのも厭わないという点でも似ている。表向きには明るく見えたウタというキャラクターに、ここまでの「業」を背負わせたこと、その印象が予告編からはっきりと逆転することに、悪い意味で居心地の悪さを覚えた方もいるのではないだろうか。



●「海賊」という根幹の要素にも斬り込む



 さらに、本作は「ワンピース」という作品の根幹にある「海賊」という要素にも斬り込んでいる。原作の第1話の1ページ目から言及されている「世は大海賊時代」という言葉を冒頭に提示しながらも、海賊が略奪を行っており、それにより苦しめられた市井の人々(しかも子ども)の声をはっきりと聞かせる。そして、ウタはルフィに対して「海賊なんてやめなよ」と真っ向から否定する。



 「ワンピース」という作品内では、ルフィたち麦わらの一味は(海軍から追われる賞金首とはいえ)正義の味方のようにも描かれているが、現実の海賊のほとんどはまさに略奪を行う悪逆的な存在だ。後述する「真実」を知る前のウタも、シャンクスの裏切りから海賊を嫌悪し、また海賊が自分のファンを苦しめていると考えていた。



 コンテンツの主たる要素への否定的な言及は、まるで「ポケモンバトル」の悲しく苦しい側面を描いた「劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲」(1999)や、それまでヒロイックな活躍が描かれた怪獣への憎しみを持つ少女の心情を描いた「ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒」(1999)を連想するほどだった。それもまた「ワンピース」のファンこそが居心地の悪さを感じる、賛否両論の理由に少なからずなっているのではないか。



●「死にたい」ではなく「逃げたい」「救われたい」



 さらなる衝撃は、そのウタの過去にあった。幼い頃のウタは、実の父親のように慕っていたシャンクスに裏切られたと思い込んでおり、だからこそ海賊への憤りを募らせていた。しかし、大人になったウタは自身の能力が島の人たちをあやめたことを、そしてシャンクスがその罪を被っていた真実を知るのである。



 はっきりとウタは、自分自身が大量虐殺者であることを悟り絶望していた。そして、来場者プレゼント第1弾「四十億巻」掲載の、総合プロデューサーを務めた尾田栄一郎による「ウタの来歴」には興味深い記述がある。ウタの心情について、「死にたい」という言葉に大きく×がつけられていて、そうではなく「逃げたい」「救われたい」という気持ちであると強調されている。



 いわば、ウタは理想郷のような夢の世界がずっと続けばいいと願い、そこに逃げて救われることをただただ望んでいた。もっと言えば、摂取すると数時間後に死んでしまう「ネズキノコ」を食べることも、彼女は自殺だとは思っていないのだろう。自分の肉体が死んでも、その夢の世界が続くのであれば、それは「死」ではないのだと……。ウタのこうした認識の「ズレ」や、仮想世界(バーチャル)のような世界に逃げ込もうとした行為も、側から見れば「死」そのものであるというのも、本作の悲劇性を増している。



●ウタは果たして「死んだ」のか?



 物語の結末では、ウタが死んだかどうかは明確には描かれていない。だが、ウタはシャンクスから差し出された薬を拒否しているし、「四十億巻」には「死にゆくウタ」という記述もある。ウタという肉体を持つ人間が死んだこと、そしてウタが当初意図した「永遠の新時代を創る」計画が失敗したことは間違いないように思える。



 だが、エンドロールではウタの歌を聞いている人々の姿を映し出していく。つまり、これは「ウタが死んでも、彼女の歌は遺り(残り)続ける」ことが示されているのだ。



 ウタは人々から救世主であるかのように慕われるプレッシャーと、自身が大量虐殺者であるという罪を背負ったがために、歪んだ形での新時代を創り、そこに人々を押し込もうとしていた。だが、そうしなくても、彼女の歌はこれからも人々を救い幸せにしていく……という結末は悲しくはあるが、それ以上に優しさを感じるものだ。



 そう考えれば、ウタの死を明確にしなかったことにも納得がいく。彼女(の歌)はある意味で、生き続けていると言えるのだから。



●最後のセリフのモヤモヤ



 だが、ウタの死を曖昧にするという結末そのものにも賛否両論はあるだろう。個人的にさらにモヤっとしたのは、エンドロール後の最後のルフィのセリフ「海賊王に、俺はなる!」というおなじみの意気込みだった。



 ルフィがウタの死を知ったかどうかは定かではないが、いつもと変わらずにそう高らかに宣言するルフィが、もはやサイコに思えてしまったのは筆者だけではないだろう。ルフィが揺らぐことなく人生の目的を持ち続けるのはいいのだが、例えばその夢を否定してきたウタの心情を想いながら「ウタ、それでも俺は海賊王になるよ……」などと神妙な面持ちのまま言うなどして、変化を見せてほしかった。



 もっとも、ルフィは原作からして歪(いびつ)な部分を抱えているキャラクターであるし、原作の「正史」に戻さなければならない「縛り」のある劇場版としては、まっとうな着地とも言えるのだが……。ルフィが「アーロンパーク編」を連想させる「当たり前だろ!」と言って戦うシーンが感動的だっただけに、もう少し別の描き方があっても良かったとは思うのだ。



 また、過去のシャンクスの行動も納得し難い。子どものウタに、本当の親のように思っていた自分に憎しみを向けさせ、しかもほぼ壊滅した街にゴードンと共に残して、歌姫になれ、という選択を強いるシャンクスの行動はあまりに無責任だ。海賊の旅にこれ以上子どもを同行させたくなかったという親心は理解できる。だが、それをきちんと伝えなかったことが悲劇の引き金となっており、作中ではコミュニケーションを怠った反省は見られない。



 ウタに大量虐殺者という事実を知らせたくなかったとしても、ウタも一緒に連れて行けばよかったのではないか? せめてもう少しだけでも「シャンクスはこうするしかなかった」という描写の積み重ねがあればよかったのだが……。



 こうして振り返ると、あらためて恐ろしくも悲しい物語であるし、はっきり歪だと思えるところもあるが、それでも筆者は「ONE PIECE FILM RED」が好きだ。つらい人生を歩み、過度に責任感や罪悪感も持ったために、歪んだ価値観による幸せを他者に押し付けてしまうウタの心理は、現実の世界でも他人事ではないと思うからだ。そのために、『ワンピース』という大人気作で、善人と思われたゲストキャラクターの闇落ちや、海賊という概念の否定という、賛否両論を呼ぶことを厭わないような、ある種の挑戦をしたことを称賛したい。



 そして、ウタの言うような「ずっと平和で幸せな世界」は現実にはあり得ないかもしれないが、それでも現実に帰った人々が、それに近い「新時代」を目指すことはできるのではないか、とも思える。そして「最終章」を迎えた「ワンピース」本編の物語が、幸せな結末になることを願っている。



(ヒナタカ)


このニュースに関するつぶやき

  • Adoの宣伝の為の映画だろというのは前半のみ。後半からはワンピースファンが喜ぶ展開が多いんだけどなぁ
    • イイネ!17
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