不妊治療に「不自然につくった子どもであんたは幸せ?」実母からのひと言が突き刺さる

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2022年08月17日 06:30  AERA dot.

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写真写真はイメージ(GettyImages)
写真はイメージ(GettyImages)
 今や、体外受精で産まれる子どもは14人に1人。約5.5組に1組が不妊治療の検査や治療を受けたことがある時代だ。にもかかわらず、職場での理解にはまだまだ高いハードルがある。短期集中連載「不妊治療の孤独」第3回前編では、職場の上司の偏見との戦い、治療と仕事の両立の葛藤を追ったが、家族や友人など、むしろ近しい人たちから理解されない辛さもあるという。


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 不妊治療がどのようなものなのかを理解していない人も多く、悪気はなくとも当事者にとってはキツい一言となってしまったり、治療と仕事との両立に悩む声も多い。働く女性患者が多く訪れる不妊外来で多くの患者と向き合う千本友香里医師(さくら・はるねクリニック銀座)は言う。


「仕事と治療との兼ね合いに悩まれる方は依然として多い。働いている場合、どうしても休みを取って通院する必要が出てきますが、治療について職場に言えないという方もいます」


 4月からの保険適用拡大によって患者数が増え、病院での待ち時間が長くなっている傾向もある。


 不妊治療の人気クリニックとして知られ、患者の9割近くが体外受精に進むという杉山産婦人科では、仕事を続けながら通院できる体制として、朝8時から受付をスタートし、週3日は夜7時まで診療受付を対応。土日祝日も人工授精や体外受精の診療を受け付けている。不妊治療を行う病院の中でも格段に手厚い診療体制を持つものの、4月以降は患者が増え、待ち時間が延びている傾向にあるという。


「不妊治療は通院回数が多い上に、長期間に及ぶため、仕事を辞めざるを得ないケースが少なくありません。仕事をしながらでも不妊治療を受けやすい環境作りのために、私たちも国への働きかけを行っていますが、現状ではなかなか改善されていない。にも関わらず、患者さんに“明日もう一度来られますか?”と聞くと、9割以上が“大丈夫です”と答えます。子どもが欲しいという一心で、ご自身で何とか仕事をやりくりして通われているのが実情ではないでしょうか」(杉山力一理事長)



 今年6月にキャリアデザインセンターが行った調査によると、不妊治療のための休暇制度があれば「使いたい」と答えた人は約7割なのに対し、職場に不妊休暇制度が「ない」と答えた人が67.4%を占めた。仕事をしながらの不妊治療で最も辛いことは、「急な通院で職場に迷惑をかけてしまう」(80.6%)。次いで「投薬や通院の負担で体調・体力的に辛い」(75.8%)、「働いても治療費に消えていくので金銭的に辛い」(66.1%)という声が聞かれた。


 自身も不妊治療体験者で、不妊体験者を支援するNPO法人Fineを立ち上げ活動している松本亜樹子さんは言う。


「これだけ不妊治療が広がっているのに、職場で不妊治療が理解されずに悩んでいる人は本当に多い。職場の理解が得られないために、治療について誰にも言えず、仕事との両立ができない事態に追い込まれる人が少なくありません」


 “不妊治療をしていることを職場に知られたくない”という声も少なからず聞かれる。前出のAさんも、職場で上司からの心ない言葉に傷つき、「言うんじゃなかった」と後悔した一人だ。「治療している」と公表したことで、「休むたびに職場の目が気になった」というBさんのような声もある。松本さんは言う。


「職場で治療していることを告げた場合、結果を報告せざるを得ないことが大きなストレスになることも多い。治療がうまくいったらまだ良いのですが、ダメだった時にも報告する流れになってしまう。上司への報告が、妊娠できない辛さを増長させてしまうことにもつながる」


 家族や友人など、近しい存在からの理解が得られない辛さも聞かれる。


 岡山県在住のDさん(39)。3年にわたって不妊治療を続け、心身ともに疲弊していた頃、それまで治療について話していなかった母に初めて、治療中であることを話した。「一刻も早く孫を」と望んでいるとばかり思っていた母から出たのは、意外な言葉だった。




「子どもは授かりものだから、できる時はできるし、できない時はできない。それも自然の摂理でしょう。針を刺したり、第三者が受精させたり、そんな不自然につくった子どもって、どうなんだろう……。あんたはそれで本当に幸せなの?」


 子どもが欲しい、その一心で辛い治療と向き合ってきた3年を否定されたような気がした。無論、母に悪気はないのは重々分かっている。「それでも」とDさんは言う。


「不妊治療が存在しなかった時代を生きた親世代に、不妊治療を理解してほしいと思ってもどうしても難しい部分がある。やっぱりこれは、治療を経験した当事者にしかわかり得ない世界だと痛感しました」


 だが、“当事者”が必ずしも良き理解者になるとも言い切れない。5年にわたる不妊治療中、同じく不妊治療に取り組む学生時代からの友人と励ましあいながら乗り越えようと奮闘してきたEさん(40)。Eさんが治療を始めて2年後、同い年の友人も治療に取り組むことに。当事者同士でしか分かち合えない治療の葛藤や苦しみを、長年にわたる友人と共有できる安心感と喜びは大きかった。だがそんな期間は半年間と短いものだった。友人が早々と妊娠し、治療から“卒業”していったからだ。


「妊娠した友人は、“妊娠のためにはこうすべき、ああすべき”と、完全にアドバイスモードに切り替わって……。私の方が治療期間が長い分、なかなかそれを受け入れられない自分がいました」(Eさん)


 追い討ちをかけたのが、妊娠した友人が、不妊治療によって子どもを授かったことを周囲にひた隠しにしていることだった。例えば共通の友人とグループで集まる時、Eさんは不妊治療中であることを明かしているが、妊娠した友人は「私が不妊治療していたことは絶対に言わないで」とEさんに釘を刺し、あくまで“自然に”授かったように装う。「不妊治療は、そんなにまで隠したいことなんだ」と思うと、未だ治療の渦中でゴールが見えない自分が惨めに思えて仕方なかった。


「これだけ不妊治療や妊活という言葉が浸透しても、実際のところ、不妊治療に対する偏見の目は存在する」


 とは前出の松本さんだ。その証に、Eさんの友人のように、不妊治療で授かったことを「隠す」人は決して少なくないという。松本さんは言う。


「不妊治療を経て妊娠したら、途端に治療について口をつぐむ方が多い。それは世間の偏見の目から、産まれてくる子どもを守るためでもあると思います。ですが本来、偏見の目をなくすためには、まずは治療をしている当事者が、不妊治療がどのようなものなのか、その実態を周囲にきちんと伝える努力も必要。隠したり中途半端に伝えることを続けていると、世間の理解はなかなか広がらない」


 不妊治療の当事者が、自分の体験を声に出して伝えることは、とても勇気のいることだろう。それでも「これから治療に臨む、一人でも多くの人のために」と体験を話してくれる人もいる。次回は、不妊治療をやめる選択をした、ある当事者の話から――。(次の記事に続く)


【前編はこちら】不妊治療と仕事の両立の難しさ 上司からの「いつ頃子どもできそう?」に涙があふれて


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