最近よく聞く「CVC」って? 仕組みや活用方法を解説 オープンイノベーションの相手を探す手段になる訳

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2022年08月18日 07:51  ITmedia NEWS

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写真シリコンバレーのイノベーションエコシステム
シリコンバレーのイノベーションエコシステム

 いま、日本経済は停滞している。しかし企業を取り巻く外部環境は急速に変化し、企業間の競争も激化している。こうした中、企業がさらなる成長を追い求めるとき、自社内の経営資源に頼るだけでは成果を上げにくいことはほぼ自明になっている。そこで現実的な選択肢になるのが、他社との協業や協力体制を築くオープンイノベーションだ。



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 今回はオープンイノベーションの相手を探す具体的な方法を紹介し、特に最近日本企業の間でも盛んになってきているコーポレートベンチャーキャピタル(Corporate Venture Capital:CVC)を取り上げる。



 筆者(石井正純)は日本IBM、米McKinsey&Companyを経て、1985年シリコンバレーに経営コンサルティング会社AZCAを設立した。長年にわたり日米企業の成長戦略を支援する中で、イノベーションに取り組む企業を間近で見てきた。オバマ政権時代には、ホワイトハウスの有識者会議に数度にわたり招聘され、貿易や経済振興の政策立案に向けた民間からの意見および提言を積極的に行なった経験を持つ。シリコンバレーで企業の成長戦略を支援してきた経験を提供できれば幸いだ。



●オープンイノベーションの相手をどう探す? ベンチャーキャピタル活用の利点とは



 オープンイノベーションの目的を振り返ってみると、それは企業が将来的な成長の原動力になる新規事業を創出することだった。そのために社内で「戦略プロジェクト」などを立ち上げて取り組んでも、社内の経営資源に頼るだけの戦略では大きな変化は望めない。そのため社外に成長の源を求めるオープンイノベーションの動きに通じるわけだ。



 自社に取り入れる新しい技術を見つける基本的な手段としては、アドホックに大学やベンチャー企業を探す方法がある。しかしこの方法は効率の点からは最良とはいえない。そこで、オープンイノベーションの相手、特にベンチャー企業を探すより効率の良い方法として、近年ベンチャーキャピタル(VC)の仕組みの活用が注目を浴びるようになってきた。



なぜVCの活用が効率的なのか?



 なぜVCの活用が効率的なのか。そのわけを考えてみよう。



 ベンチャー企業は、自社の製品やソリューションが市場に受け入れられるまでは収入がない。政府の補助金などに頼る場合もあるが、資金的にそれで十分というわけには全くいかない。そこでベンチャー企業は、製品開発を続けるためにVCから資金調達することになる。



 一方でVCの方は、成長のポテンシャルが高いベンチャー企業に対して投資して、その企業が買収されたり株式市場に上場したりした際に利益(キャピタルゲイン)を得ることを目的に活動している。



 つまり、VCは今後市場で大きく育ち利益を上げそうな技術や製品を開発しているベンチャー企業を常に探している。一方、ベンチャー企業も資金援助だけでなく事業面でのアドバイスなどをしてくれる質の高いVCの支援を受けたいと考える。こうして、いい技術を持ったベンチャー企業の情報はしっかりしたVCのところに自然に多く集まって来るというわけだ。



 VCが盛んなシリコンバレーでは多くのお金があるので、そこに多くの人材や技術、情報が集まり、それにより多くのイノベーションが起こることで多くの起業につながっている。実際には起業したベンチャー企業の多くは失敗する(新しく生まれるベンチャ企業の95%は年以内に消滅するといわれている)が、大成功すベンチャー企業も出てくる。VCはそういった「金の成る木」のもとを探して、投資をし、一生懸命に水を注いで、実際に金の成る木に育てようとしている。



VCの仕組みを活用して、ベンチャー企業の情報を入手する



 従って、オープンイノベーションの相手を探している事業会社は、自社が戦略的に関心を寄せる分野に投資をしているVCの仕組みを活用することで、VCが抱えているベンチャー企業(すでに投資をしている企業あるいは投資を検討しているベンチャー企業)の情報にアクセスする道を開ける。そして、それらの多くは新規事業の開拓に役立つ好材料であるといえる。



 そうしたとき、企業(コーポレーション)が自らVCの仕組みを作り活用する場合がある。これをコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)と呼ぶ。米国のデータを見ると、VC全体の投資に占めるCVCからの出資割合は2012年ごろから増えだし、16年以降は40%以上で推移している。これは事業会社がオープンイノベーションの相手を探すために、VCの仕組みの有用性を認識して活用していることの表れだ。



●VCを活用する4つの形態



 VCと付き合う有効な手だては、2つの方法に大別できる。一つは、事業会社として既存の外部VCファンドにリミテッドパートナー(LP)としていわゆるLP投資をする方法、もう一つは、VCファンドあるいはそれに類した仕組みを自前で設立して運用する方法だ。これを前述のようにCVCという。そして、CVCにはさらにいくつかの形態が考えられる。



 VCの仕組みを活用してオープンイノベーションの相手を探すこれらの方法を整理すると、4つの形態になる。



1. 既存の外部VCにLP投資



2. CVC:外部の外部VCと専用ファンド設立(二人組合)



3. CVC:社内の資金プールから直接投資



4. CVC:自社で子会社VCを設立



 事業会社それぞれの目的やベンチャー投資の経験値などによって、最適な形態は異なるが、ここでは各形態について具体的に解説していこう。



1. 既存の外部VCにLP投資



 VCは投資家から資金を集めVCファンド(投資事業組合)を組成し、そのファンドを運用している。その投資家は、証券や銀行やアセットマネジメントなどの機関投資家などに加えて、事業会社が参加する場合がある。



 その目的は、VCが投資するベンチャー企業の案件情報にアクセスする権利を得ることだ。VCがすでに投資しているベンチャー企業の情報はVCのWebサイトで誰でも確認できるが、事業会社はファンドに参加することで投資先のより詳しい情報や、まだ投資をしていない投資案件情報を開示してもらうといった取り決めをする。これにより、事業会社は新事業創出のために取り組むオープンイノベーションの相手を効率よく発掘できるようになる。



 注意が必要なのは、同じ分野に興味を持つ他の事業会社がファンドに出資している場合だ。案件の奪い合いにならないよう、きちんとしたルールを設けるか、他の事業会社が入ってこないような約束を取りつけることが必要になるケースもある。



 なおVCは本来、ポテンシャルの高いベンチャー企業に投資をして最終的にキャピタルゲインを得る、つまりフィナンシャルリターン(経済的リターン)を得ることが目的だ。従ってファンドに出資している事業会社の戦略リターン(自社の成長や新規事業の創出といったリターン)は考慮していないといえる。



 しかし、VCが持つ情報の提供やベンチャー企業の紹介といった便宜を図ることで多くの事業会社から出資を得ているVCもある。これは本来のVCのビジネスモデルとは異なるが、事業会社にとって役に立つVCだ。



 この形態のVCとしては、日本国内ではUniversal Material Incubator(UMI)、海外ではカナダのPangaea Venturesなどがある。



2. CVC:既存の外部VCと専用ファンド設立(二人組合)



 既存のVCファンドにLP出資する場合、他の事業会社とのコンフリクト(衝突)が起きて自社の目的を100%満たせない可能性がある。コンフリクトを避けるためには、既存の外部VCと一緒に自社専用のファンドを立ち上げ、自社の戦略目標のために運用するという形態が考えられる。このような建付けは「二人組合」とも呼ばれ、事業会社がほとんどの資金を提供し、VCが資金の運用を請け負う。



 この形態なら、事業会社はファンドの運用そのものには深く関与せず、入ってくる案件を独り占めできる。さらに、事業会社からVCに人を送り、人材育成をしてもらうような取り決めも可能だ。VCがいくつものファンドや二人組合を持っていた場合、自社のファンドを専任で面倒見てくれる優秀なベンチャーキャピタリストを確保してもらうことが重要になる。



 二人組は、資金の運用を専門家に任せ、そこに入って来るベンチャー企業の情報を独占できるためメリットが大きい。そうした理由から、この形態を積極的に採用している事業会社が増えている。二人組合を提供するVCとしては、日本国内ではグローバルブレイン(ソニー、KDDI、三井化学などが活用)やSPARX Asset Management(トヨタ自動車などが活用)、米国ではTranslink Capital (NECなどが活用)、Pegasus Tech Ventures(オムロン、清水建設、日本特殊陶業などが活用)などがある。



3. CVC:社内の資金プールから直接投資



 既存VCへのLP投資や二人組合は、基本的にファンドの運用とベンチャー案件のソーシング(案件の発掘)は外部に委託する。しかしCVCの本来的な意味では出資や資金の運用、案件のソーシングなどを自前でやるものだ。ただ、その方法も二通り考えられる。一つは自社からベンチャー企業に直接投資する方法、もう一つは子会社のCVCを設立する方法だ。



 ここでは、直接投資する方法について説明する。この形態では、自社がベンチャー投資のために一定の金額を一定の期間コミットし、新規事業の投資担当が案件をソーシングして、投資の意思決定もポートフォリオマネジメントも自社で行う。ファンドは作らず、投資のための資金も自社のみで拠出するが、外に対しては「CVCをやっています」という看板を掲げるケースが多い。こうすることで、事業会社であってもVC業界の一員としてベンチャーエコシステムの中で活動しやすくなる。



 事業会社がするべきは、ベンチャーキャピタルの運用経験を持った人材を外から連れてくるか、最初はLP投資や二人組合などを通してベンチャー投資をできる人材の育成だ。



4. CVC:自社で子会社VCを設立



 自前でCVCに取り組むもう一つの方法は、事業会社がVC子会社を作り、本社が100%出資して運用するという形態だ。この場合、VC子会社は基本的に外部の独立系VCと同じような振る舞いをする。その場合、VC子会社の達成目標はフィナンシャルリターンの最大化だ。事業会社は自社の戦略目標を達成するためにVC子会社のファンドから出てくる案件を検討し、戦略リターンを最大化する。事業会社とVC子会社で何を優先するか調整してからファンドを運用するのも合理的な手段だ。



 この形態では、事業会社にとってVC子会社とファンドは「自社のファンド」という位置付けだが、VC子会社はベンチャーキャピタル業界の中で立派に独立系のVCとして振る舞う。すると、最初のファンドは親会社の意向に沿う運用をしつつ、次のファンドでは他の会社からも資金を集めるといったように独立志向が強まる可能性もあある。その場合、もともとの事業会社は複数のLPの一社という位置付けになりかねない。



 この形態をとるCVCの例としては、NECが98年にシリコンバレーで作ったConvergence Partnersがある。その他、アステラス製薬が99年にシリコンバレーでAstellas Venture Management LLC(AVM)を設立している。



●オープンイノベーションの重要性



 ここまで、オープンイノベーションの相手を探す手だてとしてのVCおよびCVCの活用について解説してきた。



 外的事業環境が急速に変化す中、オープンイノベーションは成長戦略に取り組む上での基本的な要素と位置付ける必要がある。オープンイノベーションを成功に導くためには、そのあるべき姿に対する正しい理解、適切なリスクマネジメント、適切な組織体制の構築が必要だ。



 今回説明したように、オープンイノベーションの相手を探すための「仕組み」としてVCやCVCを活用するには、VCに関する知見も必要になる。



 つまり、オープンイノベーションを成功させるためには、トップマネジメントのコミットメントのもとに、社内のあらゆる部門を巻き込み、場合によっては新事業創出のための新しい部門を創設するなどして、上に述べたような全社的な取り組みとして推進していくことが必須といえる。



 冒頭にも述べたように、いまオープンイノベーションはどの企業にとっても必要と言っても過言ではない。将来の大きな成長を目指す企業は、オープンイノベーションの意義と方法論を理解し、ぜひ真剣に取り組んでほしい。


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