バイオメカニクスで見る佐々木朗希のすごさ。際立つ「ストライク力」と「完全アウト」の確率

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2022年08月18日 11:11  webスポルティーバ

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 ボールが速い、背が高い、下半身が強い、コントロールがいい――。佐々木朗希のすごさを語る時、そういった賞賛の言葉が並ぶ。「日本プロ野球史上最高の投手」という評価もあるが、プロ3年目の20歳は何がどれだけ優れているのか。バイオメカニクスの研究者である神事努氏に意見を求めた。

 神事氏は、自らがエグゼクティブフェローを務める、スポーツデータ解析に精通する「ネクストベース」において、500人以上のピッチャーのフォームやボールの回転を計測し、100人を超えるプロ野球選手へのデータフィードバックを行なってきた。そんな神事氏が『GET SPORTS evolve VOL.2』(文化工房)で語った佐々木朗希のすごさを、特別にweb Sportivaでもお届けする。

※記事中のデータは「データスタジアム」提供




***

――まずは大船渡高校時代の、佐々木朗希のピッチャーとしての特徴を教えてください。

神事 ボールが速いというのが一番ですが、非常にシュート成分が多いというのが特徴でしたね。

――ストレートが自然とシュートする?

神事 そうです。一般的なピッチャーの平均値が26cmだったのに対して、佐々木投手は40cmもシュートしていました。平均より約ボール2個分もシュートしていますね。

――その理由は?

神事 投球フォームが影響していると思われます。スリークォーターからボールを投げる佐々木投手の場合、腕が斜めから出てくるためにシュート回転になります。

――インコースのボールでも、アウトコースのボールでも?

神事 そうですね。プロ1年目に千葉ロッテマリーンズの吉井理人コーチとお会いする機会があり、「この癖をどのように捉えればいいのか」と相談を受けました。

――日本球界では、「シュート回転するストレート」を敬遠する傾向がありましたね。

神事 はい。ただ、佐々木投手にとっては一番スピードが出る投げ方なので、「このままでいいのではないでしょうか」と伝えました。

――シュート回転しないようにするために、ピッチングフォームを変えることになってしまうかもしれない。

神事 どこかを変えることで球速が落ちる可能性もあります。ひじや肩への負担を考えるのであれば、自然に投げられている今のフォームを活かして、ほかの球種、たとえばフォークだったり、スライダーやカットボールを合わせるやり方もあるだろうとお話ししました。

――これまでプロ野球では、鳴り物入りで入団した選手がフォーム改造によって思うように投げられなくなった例がたくさんあります。

神事 その点、ロッテは佐々木投手の特徴を踏まえたうえで、育成プランを立てていったのではないでしょうか。

球数を制限してできた「佐々木朗希モデル」

――2021年はオープン戦で登板し、4月にイースタン・リーグで初登板。5月16日に一軍デビューを飾りました。5月27日にプロ初勝利を挙げましたが、その後は登板間隔を空けたため、11試合の登板に終わりました(3勝2敗、防御率2.27)。

神事 投球数に制限をかけたり、登板の間隔を空けたりと、首脳陣が丁寧に確実に守りながら育成したことがわかります。

――その育成方針が2022年の飛躍につながったんですね?

神事 そうだと思います。もし佐々木投手がふたりいれば、違ったやり方を試せるのですが、そんなことはできない。だから、故障させないために慎重に、慎重にということだったのでしょう。球数を制限したことで、佐々木投手の投球パターンができました。

――それはどういうものですか?

神事 できるだけ少ない球数で長いイニングを投げようと思ったら、極力、ボール球を少なくしたほうがいい。本人がいろいろな工夫をしたことがわかります。彼はほとんどボール球を投げませんね。それが「佐々木朗希モデル」だと思います。

――佐々木朗希モデル?

神事 ストライクゾーンにどんどん投げ込んでいき、ストレートは高めに、打者の近くで落ちるフォークもストライクゾーンの低めか、少し外れるところを狙う。ストライクゾーンに来ればバッターは振らないわけにはいかないし、見送っても、ストライクなら追い込まれてしまう。

――確かに佐々木投手は、簡単にツーストライクと打者を追い込んでいるように見えます。

神事 ピッチャー有利な状況を作って、最後は三振を奪う。結果的に球数を抑えながら、長いイニングを投げられるモデルになっています。

――これまでのプロ野球では、「追い込んだら一球外せ」という方針をとるチームもありました。

神事 佐々木投手の出現によって、そういうやり方が覆されたように思います。そもそも、ストライクカウントが増えるごとに、打者の打球速度は4キロほど遅くなると言われています。

――160キロを超えるストレートを投げる佐々木投手だからできることでもあるのでしょうか?

神事 ほかのピッチャーと比較したデータがあるのですが、そのなかで佐々木投手が1位だったのは「ストライク力」でした。見逃しストライク率は16.7%と77位、空振り率は20.4%で3位、ファール率は20.7%で17位(6月7日時点。以下同)。それぞれの項目を見ると上位ではあるものの、1位のものはありませんでした。

――意外な感じがしますね。

神事 しかし、これをすべて合計した割合、つまり「ストライク力」は57・8%で1位です。球数を管理されている状態で「ボール球を投げない」ということが、この順位に関係していると思います。

――追い込んでから打ち取れない、というピッチャーもいますが、佐々木投手の場合は?

神事 追い込んでからファールで粘られてしまっては、球数が増えてしまいます。そこで重要になるのは、空振りを奪うフォークの能力です。100球以上フォークを投げた投手を見ていくと、フォークの空振り率1位は千賀滉大投手(福岡ソフトバンクホークス)で、59.6%。彼の次に空振りを奪ったのが佐々木投手で、57.4%でした。

――お化けフォークでおなじみの千賀投手に肉薄する空振り率なんですね。

神事 ストライクを奪う能力に長け、さらに空振りがほしいときにはフォークを投げる。

――この組み立てが佐々木朗希流の打ち取り方なのでしょう。

ストレートとフォークの割合は半々

――160キロのストレートで空振りさせるシーンが印象的ですが、割合はどうなっていますか?

神事 ストレートの空振りは16%、ファールが49%です。彼の場合、ストレートをストライクゾーンに投げたとしても空振りはあまり取れないけど、ファールでストライクになる。必然的に、ピッチャー有利な状況をつくることができる。追い込んでから、微妙な高さに落とすフォークで空振りを取る――それが彼のパターンであり、持ち味ですね。

――緩急という意味ではどうでしょうか? 速いボールと遅いボールの差が大きければ大きいほど打ちにくいように思いますが。

神事 佐々木投手のストレートの平均速度は159.2キロ、フォークは144.7キロ。球速の比で表すと、フォークはストレートの90%ほどですね(7月1日の楽天戦まで)。落ちるだけでなく、遅いということがバッターを惑わせているのかもしれません。本人がどれだけ意識しているかわかりませんが、絶妙なスピード差だと思います。

――「いくら速いボールでもプロのバッターならいずれは慣れる」という声もありますが?

神事 対戦が多くなれば、バッターはいずれ慣れてくるでしょう。初体験よりは確実に。

――ほかのピッチャーと比べて、球種は多くありません。

神事 ストレートとフォークの2種類だけでは、いずれバッターは対応してくるでしょう。ただ、佐々木投手の場合、ストレートとフォークの割合が半々くらい。それも打ちにくい原因だと思います。

「完全アウト」の確率が高い

――あらためて、佐々木朗希のすごさとは?

神事 「完全アウト」の確率が高いこと。

――完全アウトとは?

神事 三振と内野フライを合わせたものです。このふたつの割合が高ければ、ほとんど失点につながりません。リーグ平均は26.8%ですが、佐々木投手の場合は47.4%。非常にリスクの小さいピッチャーだと言うことができる。なかなかバットに当たらないし、打球速度が上がらないから凡打になることが多い。

――もし佐々木がいまメジャーリーグで戦ったら、強打者たちを抑えることはできますか?

神事 メジャーリーガーはスイング速度が速いので、佐々木投手のスピードにも対応できるかもしれません。3球ともガンガン振ってくるため、長打のリスクも増えます。

――佐々木がもっと進化するために必要なものは何でしょうか?

神事 カットボールのように、もうひとつ、別の球種が必要です。バッターの近くで変化してゴロを打たせるボールですね。

――現在、ストレートの最速は164キロですが、今後もっと速くなるでしょうか?

神事 きちんとトレーニングを積むことで、スピードは上がるはずです。今はまだ、意図的にそれを狙っていないように見えます。もっと速いボールを投げるためには、ウエイトトレーニングが必要ですね。

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  • 凄いのはわかるけど規定投球回クリアせな意味ないんちゃうの。
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