【導く力 自走する集団作り】「良き伝統を作り上げる」(高松商業・長尾健司監督)

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2022年08月18日 15:52  ベースボールキング

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長らく甲子園から遠ざかっていた名門中の名門を、わずか就任2年で20年ぶりの聖地に導き、今夏は52年ぶりのベスト8進出も果たした高松商業・長尾健司監督。そんな長尾監督の書籍『導く力 自走する集団作り』(竹書房)より、第五章『心技体を磨き上げる』の一部を紹介します。



■考えもしなかったイチローさんからの直接指導
2021年夏の甲子園2回戦で智辯和歌山に敗れたあと、マスコミのみなさんから、「智辯和歌山との差はどこにありましたか?」と聞かれた。「いや、もう、全部です。打つのも投げるのも差がありすぎます」と答えたところ、「そこを何とか、ひとつだけ挙げてほしいのですが」と突っ込まれたので、イチローさんの名前を出した。
「智辯和歌山には、イチローさんが来たからじゃないですか」
「では、高松商にイチローさんが来ていたら勝っていましたか?」
「そりゃそうですよ、イチローさんが来ていたら、うちだって負けられませんよ。智辯和歌山の選手は、『イチローさんに教わったあとに練習の意識が変わった』と記事で読みました。うちに来てくれたら、うちだって練習が変わりますよ!」

その30分後、部長の三好先生から、「長尾先生、ネットのニュース見ましたか?」と声をかけられた。すぐにスマホを開いて、ニュースを確認すると、驚きの見出しが目に飛び込んできた。
「高松商、イチローさんに来てほしい! 監督ラブコール!」

ちょっと待ってほしい。びっくりである。「ラブコール」と言えば、そうなのかもしれないが、こんなに大きな扱いになるとは思ってもいなかった。半分は冗談で言ったのだが……。

話はここで終わらなかった。翌日、イチローさんに通じている野球メーカー(高松商のOB)の方から、「記事を読んで、イチローが喜んでいるらしいですよ」と連絡があった。本当ですか……。そこから話がどんどんと進んでいき、イチローさんの秘書から直接連絡が来るようになった。
「イチローも喜んでいるので、ぜひ日程を調整して伺いたい。ただし、選手には当日になるまで一切言わないでください。外にも漏らさないでください」

大変なことになった。1億円を積んだとしても、絶対に来てくれないであろうイチローさんが高松商の指導に来てくれる。本当に、高松商でいいのだろうか。調整の結果、日程は12月11日と12日、場所はレグザムスタジアムと決まった。

さらに、秘書の方からはこんな要望もあった。
「イチローは高校生相手であっても、完璧に体を仕上げてきます。監督さんもお願いしますね」

夏の甲子園で指揮を執っていたときの体重は98キロ。人生でもっとも重い。イチローさんが仕上げてくるのなら、自分もできることをやる。ずばり、ダイエットだ。こんな縁がなければ、ダイエットをしようとは決断しなかっただろう。「16時以降、何も食べない」とマイルールを決めて、3カ月で20キロの減量に成功した。最初のうちは空腹がきつかったが、そのうちに快感を覚えるようになった。体重が減っていくのが楽しい。空腹を感じたときには、水で凌いだ。以前は、練習が終わって21時頃に帰宅してから、夕飯をお腹いっぱい食べていたので、どんどん体重が増えてしまったのだ。

体重が減ったことでノックの打球が飛ばなくなったのが気にはなるが、あのまま食べていたら100キロは確実に超えていたであろう。思わぬ、「イチロー効果」に感謝したい。


■部員全員で作った「イチローレポート」
夢のような2日間が終わったあと、私は部員たちに告げた。
「みんなで協力して、『イチローレポート』を作ろう。それぞれが良い質問をしていたと思うけど、イチローさんの考えを全員が聞いていたわけではないやろう。みんなが聞いた言葉を共有することで、チームの力が上がっていく。野球ノートに、イチローさんから教わったことを書いてきてほしい」

こうして出来上がったのが、『第1回イチローレポート』である。わざわざ、「第1回」と入れたのは、「いつの日か2回目の指導を受けたい!」という気持ちの表れだ。一部ではあるが、その中身を紹介したい。何かひとつでも、読者のみなさんの参考になれば幸いである。

Q.バッティングではどのような意識でバットを出しているか
「ボールのラインに合わせて、レベルでバットを出していく。上から叩いてしまうと、ミートポイントがわずかしかないため、芯で捉える確率が下がってしまう。トップを作るときから、バットを地面と平行にしておくとレベルで出しやすい」

Q.安定した送球を投げる方法と肩を強くする方法
「自分が投げやすい安定した形をキャッチボールで見つけて、実戦でも捕球してからその形に持っていけるようにする。体が開いたりしないようにして、低い球で真っすぐ投げられる形を練習し、それができるようになったら距離を延ばしていく。遠投でも投げ方を変えないことが大事」

Q.外野守備での構えと一歩目の切り方
「足を平行にして、ヒザの上に手を置いた状態で構える。体を浮かさず、目線を変えないように我慢して、一歩目を切る(走塁と同じ)。判断の難しい打球ほど、一度沈むぐらいの意識で一歩目を切る」

Q.フェンス際の打球の捕り方
「右手を使って、フェンスとの距離を判断する。レクザムスタジアムでは、赤土を頼りにして距離を測る。定位置からフェンスまでの距離、歩数を、あらかじめ把握しておく」

Q.セーフティーバントのコツ
「バッティングと一緒で、体の中でやるとボールの力に負けない。走りながらしてしまいそうになるが、やってから走ることを意識する。バントを失敗するときはヘッドが寝ていることが多いので、バットを立てて、少しだけ寝かした形にする。バットを地面と平行にすると、ヒジが逃げてしまう。イチローさんの場合は、フライになるのが怖いので、一塁側にはほとんどしないで三塁側を狙う。サードの位置などを見て仕掛ける」

Q.外野前に飛んだ、捕れるか捕れないかの微妙なフライの判断への対応
「前に行かないと、ノーバウンドで捕球することはできないので、捕れると思ったら前に出ること。ノーバウンドで捕球できないときには、体を使って必ず止める。一番いけないことは、捕れない打球にダイビングで飛び込み、後ろに逸らすこと」

高校生が書いたことなので、少しわかりにくい表現もあるかと思うが、彼らなりに学び、吸収しようとしていた。その姿勢が何よりも大事なことである。

(続きは書籍で......)

目次
第1章 指導者としての原点
「失敗」と書いて、「成長」と読む/トップダウンの罰に意味はない/Education=引き出す/プロに進んだ剛腕左腕を攻略 ほか

第2章 良き伝統を作り上げる
厳しい上下関係を撤廃する/全部員が平等に練習できる環境を作る/多くの選手を試合で起用する/負けたのは選手の責任 ほか

第3章 やんちゃ軍団が果たしたセンバツ準優勝
明治神宮大会で起きた奇跡/試合の空気を変える男になれ/逆転勝ちの多さこそ主体性の表れ/今も残る決勝戦での後悔 ほか

第4章 4元号での甲子園勝利
センバツ準優勝後に苦しんだ2年間/夏に勝つための考え方/選手の考えを尊重した継投/最強打者を二番に置く打順 ほか

第5章 心技体を磨き上げる
考えもしなかったイチローさんからの直接指導/ピッチングの基本は「釣り竿」にあり/「もうダメだ」ではなく「まだダメだ」 ほか

終章 私の原点〜学びの大切さ
ひそかな夢は甲子園で早稲田実と戦うこと/『勝利の女神は謙虚と笑いを好む』/「優」しい人間が「勝」つ

書籍情報
「導く力 自走する集団作り」(著・ 長尾健司 高松商業野球部監督)
竹書房
定価1800円+税

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