日本人選手には有利に? 国際審判員に聞く、スピンや連続ジャンプのルール改正のポイント

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2022年08月19日 10:51  webスポルティーバ

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吉岡伸彦氏に聞くフィギュアスケートのルール改正(後編) 前編を読む>>

 2026年ミラノ・コルティナダンペツォ五輪に向けて歩み始めたフィギュアスケート。今回はシニア転向の年齢制限の引き上げ以外にも、「ステップとスピン」「コンポーネンツの項目」「ジャンプシークエンスの定義」などで若干のルールの変更があった。その狙いは何か。そしてルール変更は選手たちにどのような影響を与えるのか。千葉大学国際教養学部教授でフィギュアスケート国際審判員、元日本スケート連盟フィギュア強化部長の吉岡伸彦さんに聞いた。




 北京五輪後に行なわれたルール変更は、多くのトップ選手がスピンとステップのレベル4をとれるようになってきたことを受けて、少しレベルをとりにくくして、上手な選手とそうでない選手との差別化を図る目的があります。

 たとえばステップシークエンスでは、「難しいターンの3連続」を左右それぞれで行なうなかで、5種類の難しいターンの全部の種類を含まなければいけないとなっています。ですから苦手なターン(種類)がある選手は、そこでレベルをとりこぼすことになり、ごまかしがきかなくなってしまう。明らかにステップのレベルがとりにくくなっていくでしょう。ただし、一般のファンの方からすると、「ちょっと変わったよね」と見えることはなく、「とるのが難しくなったんだって」「へえ、そうなんだ。見ててもわからないよね」という感じだと思います。

 スピンでは、今までは、何でもいいから要件の特徴が4つあればレベル4と判定されたのですが、ルール変更後は、レベル4にするために必須の要件特徴6つ(1同一の足での難しい姿勢変更、2難しい出方、3明確なエッジ変更、4双方向の回転、5明確な回転速度の増加、6難しいフライングの入り方)を定め、そのどれかが必ず含まれなければいけないことになりました。その6つをうまく3つのスピンのなかで組み込んでいくことができない選手は、どれかひとつかふたつはレベル3までしかとれないということが起こります。

トップ選手には影響が少ないスピンのルール変更

 たとえばレイバックスピン。今まで多かったパターンは、ディフィカルトエントリー(難しい入り方)から、サイドからバックというので要件特徴のひとつをとって、ヘアカッター(上体をやや横に反らしたままフリーレッグを順手でつかみ、頭に引き寄せる)という姿勢から、さらにビールマンスピンとするか、ヘアカッターで8回転回るかで、レベル4をとっていました。

 しかし、このなかには、新ルールでのレベル4になる必須の要素というのがありません。6つの必須要素でレイバックスピンに入れられるのは、「チェンジエッジ」か「明確な回転速度の増加」か「難しい出方」しかないんです。ただ、レイバックのチェンジエッジというのはメチャクチャ難しいというか、危ないんです。もちろんできる選手もいるので、それをトライするか、インクリーススピードではっきり加速することにトライするか、難しい出方にトライするか。どれかが上手にできないと、とりあえずはレベル3にしかならなくなります。

 選手は3つのスピンをどうやってレベル4にするか考えた時に、比較的、組み合わせが限られることになるので、新たな工夫をしてちょっと変わったことにトライするか、苦手としていたスピンをともかくできるようにするか、そのようなことをしないとレベルがとりにくくなってくるはずです。

 これが選手たちにどんな影響をもたらすかについては、今季のプログラムをまだ見ていないので正確なことはわかりません。ただ、ノービスでも器用な選手は簡単そうにやってレベルをとれているので、日本のトップ選手であれば、そんなに問題なくレベル4をとれると思います。

 ただ、やはりそれができる選手とできない選手の差は顕著に出てきます。一方でたとえば、多くのスケーターがコンビネーションスピンのなかでシット姿勢からキャメル姿勢への変更を行なってレベル4をとろうとするでしょうから、レベルの取り方がわりとみんな似てくる感じはあります。スピンがちょっとつまらなくなるかもしれません。逆にスピンの出方の部分等では、バリエーションの幅は広がってくるかもしれないので、スピンをどう工夫するのかという部分では楽しみなところかもしれないです。

コンポーネンツの何が変わるのか

 そしてもうひとつ、今季から、コンポーネンツ(演技構成点)がこれまでの5項目から、3項目(1コンポジション<構成>、2プレゼンテーション<表現>、3スケーティングスキルズ<滑走技術>)に集約されます。

 これまでの「トランジション」がなくなっていますけど、中身については「コンポジション」や「スケーティングスキルズ」に振り分けて入っています。「インタープリテーション」という項目もなくなりましたが、この評価項目はパフォーマンスのなかにそっくり含まれて「プレゼンテーション」と名前が変わったという感じです。でも、評価項目自体では何かがなくなったわけではなく、今まで評価していた項目はしっかりと評価されることに変わりはないです。

 3項目の演技構成点になったことで点数を出しやすくしているので、それを「どういう内容でどういうふうに採点すべきなのか」という話は、国際スケート連盟(ISU)でもセミナーをやったりして、いろんな情報を流しています。そのなかでは、「過去の名声に引きずられて点を出していけない」とか、「ひとつの項目がいいからといって他の2つの項目がいいとも限らない」というような話が強調されている印象があります。その点を踏まえてジャッジたちの意識が変わるか、シーズン序盤の試合でどんな得点が出てくるか注視してみるといいでしょう。

 誤解されやすいところでひとつ言うと、「コンポジション」はいわゆる振り付けというか、プログラム全体の構成、いわば「設計図」を評価するのではないということです。ジャッジは振付師が振り付けた「設計図」を見ているというよりも、スケーターがその試合で滑った演技、いわば「できあがり」を見て評価しています。

 だから、羽生結弦選手のプログラムを、全日本に出られないぐらいのレベルのスケーターが滑った時に、「設計図」が同じだから同じ点が出るかというと、そうではなく、「できあがり」に違いがあるでしょうから、そこが評価されて違う点数が出るのです。このことは、同じスケーターが同じプログラムを滑っても、その日の精神面や体調で違う演技になり、そこが評価されるということなのです。

アクセル得意のジャンパーは有利に?

 最後に、変化が生まれそうなところでは、ジャンプシークエンスの定義変更があります。ジャンプのあとにアクセルタイプのジャンプを跳ぶジャンプシークエンスで、3連続も可能になりました。また、これまではシークエンスとして跳んだジャンプの基礎点は0.8倍されてしまいましたが、1.0倍に変更となりましたので、ジャンプのうしろにダブルアクセルをつけることが得意な選手はどんどんやってくるはずで、その連続ジャンプは増えると思います。

 これにより、連続ジャンプでは、たとえば3回転ルッツ+3回転トウループ+2回転アクセルや、3回転ルッツ+2回転アクセル+3回転トウループという3連続ジャンプが高得点になります。そうすると、これまで跳ばれていた3回転+1回転オイラー+3回転という3連続ジャンプの2本目で跳んでいた、基礎点の低い1回転オイラーを使わなくて済みます。3連続ジャンプで1回転オイラーを使わないで済む組み合わせを考える余地ができたので、連続ジャンプのバリエーションがちょっと増えてくるというか、工夫のしようが出てきます。これは選手によっては、結構お得なルール改正になりそうです。

 また、女子でよく跳ばれていた2回転アクセル+3回転トウループについて、ルール変更後は3回転トウループ+2回転アクセルでも同じ得点になるので、3回転トウループがきちんと跳べる選手は、わざわざ2本目に3回転を跳ぶ少し難しい連続ジャンプは跳ばないと思います。また、3回転サルコウ+2回転アクセル、3回転ループ+2回転アクセルという組み合わせもあり得るので、単発でしか使えなかったジャンプをシークエンスにして、うしろに2回転アクセルをつけるという使い方ができるようになったとも言えます。

 シーズン序盤の9月、10月は、ジャッジたちもまだ手探りで得点を出すはずですし、振付師もその点数の出方を踏まえて手直しをしていくでしょう。例年、11月ぐらいまではジャッジの得点の出方やテクニカルの認定を見ながらブラッシュアップしていくという感じなのですが、今季はそれが、さらにお互い手さぐりになるかもしれないです。

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