12年ぶり刊行「学研の科学」“体験”を身近に 子どもだけでなく科学が注目されるワケ

76

2022年08月19日 11:00  AERA dot.

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AERA dot.

写真水素は次世代のクリーンエネルギーとしても注目される。「子どもたちの未来と密接に関わるテーマです」と吉野敏弘編集長(撮影/植田真紗美)
水素は次世代のクリーンエネルギーとしても注目される。「子どもたちの未来と密接に関わるテーマです」と吉野敏弘編集長(撮影/植田真紗美)
 科学を伝えるメディアや人材が注目されている。「学研の科学」の12年ぶりの復刊、「科学を好きな人を増やす」ウェブメディア「ナゾロジー」、一般向けに「科学技術コミュニケーター養成プログラム」を開講する北海道大学。なぜいま「科学」なのか。AERA2022年8月15−22日合併号の記事を紹介する。


【写真】学研の社内にはかつての「科学」の付録の数々が展示されている
*  *  *


 ありの巣の観察キットや色水実験セット……。こうした付録に心を躍らせた、かつての「科学」読者も多いだろう。1963年に創刊した学研の付録つき学年誌「1年〜6年の科学」。2010年に休刊したが、今年7月、12年の時を経て「学研の科学」として復刊した。


 今なぜ再び「科学」なのか。


 吉野敏弘編集長は、復刊の理由の一つに「(世の中の)潮目が変わった」ことを挙げる。部数が減少していった2000年代、成績やテストの点数に直結するものが求められる風潮があった。その後、学習指導要領の改訂もあり、知識の詰め込みよりも主体的な学びが重視されるようになった。客観的に物事を見る力や観察力を養うことができる科学の学びは、その流れにマッチしていた。


 復刊号の組み立てキットは「水素エネルギーロケット」。手回し発電機をくるくる回すと、水が電気分解されて、水素と酸素が発生する。水素がたまったところで発射ボタンを押すと、水素を爆発させるための小さな雷が発生し、その爆発エネルギーでロケットが飛ぶ仕組み。最大飛距離は約7メートルだ。


 言葉で説明すると複雑だが、実際に手を動かしてロケットを飛ばすと、その過程がすんなり頭に入る。何より、ロケットが飛ぶと大人でも歓声をあげてしまうほどだ。大事なのはその「体験」なのだ、と吉野編集長。


「まずは夢中になれる入り口があることが大事。その裏に科学がある、ぐらいでいいんです。知識や情報は後からついてくるし、子どもは“好き”を見つけたら勝手に突き進んでいきます」


 復刊号はネット書店では早々に売り切れ、SNSには子どもたちの動画があふれた。飛ばす前の緊張気味の顔、飛んだ後のうれしそうな顔、飛ばずに不思議そうな顔をする子。感じた「ドキドキ」と「なぜ?」はきっと、子どもたちの糧になっていく。


■絵として浮かばせる


 科学が注目されているのは子どもの世界ばかりではない。「エセ科学」を信じる人やエセ科学商品が社会にあふれる一方で、論文等に裏付けされた科学ニュースを伝えるウェブメディアも支持されている。「科学を好きな人を増やす」をうたう「ナゾロジー」だ。




 サイトには「手足を進化させ陸にあがったのに、すぐ諦めて水中へ戻ってしまった魚がいた」「呪術廻戦っぽい数学用語『無限級数展開』とは? 五条悟の術式から解説」など簡易な言葉遣いと目を引くタイトルが並ぶ。オリジナルのビジュアルがつく記事もある。


 ナゾロジーの記事が目指しているものについて、編集長の海沼賢さんはこう説明する。


「科学の話は聞いてもなかなかイメージできないことが多いと思うんです。絵として浮かばないと、理解できず右から左に流れるだけになってしまう。まずは何かしらのイメージを作ってもらうことを目標にしています」


■「検証」は科学の手続き


 そのためには、専門的な話を身近な比喩に置き換えることもある。わかりやすく形を変換する過程で、主観が入ったり、省かれる部分が発生したりするが、そこが記事作りの難しさであり面白さでもあるという。


 読者から指摘されて修正することもあるが、それもいとわない。読んだ人が自分なりのイメージに変換し相互に話し合いながら誤差を修正していくのは、言ってみれば「科学の手続き」でもあるからだ。そのためにも、記事には引用した論文の情報など検証可能な情報を必ずつける。


「よく勘違いされがちですが、論文というのは、真実を伝えるものではなく、あくまで『発見を伝える』もの。検証のための方法を示していることが大事で、それがあれば、他の人が同じように実験して『再現性はなかった』と指摘することができる」


「エセ科学」と言われるものが問題なのは、検証可能なデータを示さないからだと海沼編集長はいう。データがなければ、反論しようにも反論できない。


 もともと、北陸先端科学技術大学院大学の知識科学研究科で学んだ経歴を持つ海沼編集長。知識科学とは従来の学問領域の壁を越えて分野横断的に知識の交流を図ろうというもので、海沼編集長はナゾロジーを通じて、いろんな分野に興味を持つ人が増えてくれたらいいと考えている。




「イノベーションが生まれるのも、他分野との融合からですよね。そういうものが起きやすい世の中を作る手助けになればいいなと思っています」


■“シチズンシップ教育”


 日本テレビのアナウンサーだった桝太一さんが「サイエンスコミュニケーター」に転身するため今春退社したが、近年科学と社会をつなぐ「科学コミュニケーション」も注目されている。


 北海道大学大学院教育推進機構オープンエデュケーションセンターに設置された科学技術コミュニケーション教育研究部門、「CoSTEP(コーステップ)」では、一般向けの科学技術コミュニケーター養成プログラムを05年から開講してきた。


 専任教員による講義の他に、番組制作などで活躍する実務者や、社会問題の当事者など外部講師による講義もある。例えば「ライティング演習」では、事実を正確に述べるだけではなく、読み手の特性を考慮した構成や内容の取捨選択、文章表現を身につけ、「ファシリテーション演習」では、市民と専門家が科学について自由に語り合う際に必要なスキルを学ぶ。


 CoSTEP代表の川本思心(ししん)准教授は説明する。


「科学コミュニケーション教育が本質的に何なのかといえば、シチズンシップ教育なのだと思います。現代社会において、科学は重要な判断基準の一つであり、避けては通れないものですが、必ずしも中心にあるものではありません。さまざまな専門家が適切な責任の範囲内でかかわりながら、社会で物事を決めていく時に、市民としてそこにどう参加するか。自分の立場で考え、できることを地道にやっていく。そんな仲間を増やしていけたらと思っています」


 ライターとして働く40代の女性は、19年に同講座に参加した。「高2以来、理数系には一切触れてこなかった」という文系人間で、科学に対しては「苦手意識と嫌悪感があった」。


 だが、ファッションの取材で繊維の話が出たときや、テクノロジー系の仕事についてインタビューするときに、深掘りしたくても躊躇(ちゅうちょ)してしまうことがあり、受講した。講座を通じて以前よりフラットに科学に接することができるようになったと感じているという。


 エセ科学がはびこるなか、客観的に物事を見る力や観察力を養う科学の視点は、大人にも必要。科学を見つめ直してみませんか。(編集部・高橋有紀)

※AERA 2022年8月15−22日合併号


このニュースに関するつぶやき

  • 学研の「○年の科学」、日本人の科学リテラシーを育てたと割と本気で思ってる。子供には、まず科学の「楽しさ」を教える事が重要だと思う。
    • イイネ!39
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(49件)

前日のランキングへ

ニュース設定