『邪神ちゃんドロップキック』10周年 著者ユキヲに聞く 悪魔と人間の居候モノがここまで読まれる理由

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2022年08月20日 07:01  リアルサウンド

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『邪神ちゃんドロップキック(19)』(フレックスコミックス)


 人気漫画家であるユキヲの『邪神ちゃんドロップキック』が、今年で連載10周年を迎えた。それを記念し、令和4年(2022)9月11日(日)まで、丸井錦糸町店(東京都墨田区)で『邪神ちゃんテン』と題した展覧会が開催されている。


 同作はアニメも第3期が放送中で、各地で開催されるイベントも毎回超満員。北海道の釧路市や帯広市など地方自治体とのコラボも行われているほか、公式YouTubeチャンネル「邪神ちゃんねる」の登録者数が19万人を超えるなど、コアな人気をもつ。


 そして、漫画のコミックスも今年6月11日に19巻が発売され、20巻到達が目前に迫っている。新キャラクターも次々に登場し、ますます絶好調の『邪神ちゃん』。今回は作者・ユキヲに、10年目にして思うこと、展示会の見どころをうかがった。


邪神ちゃんテンの会場。白いドレスをまとった邪神ちゃんと花園ゆりねのパネルが、来場者を迎えてくれる。


――このたびは、『邪神ちゃんドロップキック』、10周年おめでとうございます。2012年4月、WEBコミックの「COMICメテオ」に記念すべき第1話が掲載されました。「COMICメテオ」で執筆を始めたのは、何がきっかけだったのでしょうか。


ユキヲ:『武蔵野線の姉妹』でお世話になっていた編集部が、WEB上に新しい媒体を立ち上げるということで、引き続き作品を描かせてもらうことになりました。その流れで誕生したのが『邪神ちゃんドロップキック』です。仕事に疲れてあまり頭を使いたくないときでも楽しめるようにと、長いストーリーものや、難しい話にはしない方向で考えました。それなら日常系の居候モノにしようと思い、漫画の基礎が決まりました。


――独特の世界観も魅力のひとつです。人間のもとに悪魔が同居するけれど、実は人間のほうが強い、という設定は連載が決まってから考えたのでしょうか。


ユキヲ:いつか居候系の漫画を描こうと思って、あたためていたんですよ。主人公の花園ゆりねも、とある雑誌の別冊付録で描いていた漫画に登場するキャラクターが原型です。いつかやろうと思っていたものを、やるなら今だと思って出した感じです。ちなみに、連載前の段階で考えていたキャラクターは、邪神ちゃん、ゆりね、メデューサの3人ですね。


ユキヲ直筆の線画も展示。ユキヲは線画を原稿用紙に描き、それをパソコンに取り込み、トーンやベタをデジタルで貼って原稿を仕上げている。


――連載が続いていくうちに、キャラクターが増えていったと。


ユキヲ:悪魔と人間しかいないので天使のキャラクターを出そうと思って、ぺこらを追加しました。ぺこらは鞭を持っていますが、当時はファミコンディスクシステムの『悪魔城ドラキュラ』を再プレイしてたので、その主人公、シモンベルモンドを参考にしました。シモンは鞭を使ってヴァンパイアを狩るヴァンパイアハンターです。それなら、悪魔ハンターのぺこらの武器も鞭がカッコイイなと思いました。


――ぺこらの設定もそうですが、作中にはユキヲ先生の趣味が随所に生かされていますよね。例えば、以前に雑誌『ムー』でもインタビューさせていただきましたが、ユキヲ先生は無類のオカルト好きでもあります。


ユキヲ:オカルトもそうですし、ゲームの『ラストハルマゲドン』や『女神転生』が好きなこともあって、それらをヒントにして登場人物を悪魔と天使に決めました。そこに人間のゆりねを組み合わせて、世界観を作りあげています。


――そして、ユキヲ先生といえばロリィタ服です(笑)。『武蔵野線の姉妹』でもロリィタ服が頻出しましたが、ゆりねの服もやはりロリィタ服ですね。


ユキヲ:とにかくロリィタ服は大好きですね。ゆりねの元になったキャラも、ロリィタ服を着ていました。個人的に、悪魔や天使の世界観にもロリィタ服は合うと思ってるので、邪神ちゃんのゆりねもロリィタ服にしました。


『武蔵野線の姉妹 完全版(上) 』(フレックスコミックス)


――邪神ちゃんはドロップキックをするのも、ユキヲ先生がプロレス好きだからなのでしょうか。


ユキヲ:プロレス好きなので、ドロップキックという技を使ってみたのはありますが、設定上はあまり深い意味はありません(笑)。語呂とひらめき的なものです。タイトルもそれほど気にせずに、なんとなくつけたんですよね。


――作品の舞台が神保町になっているのも、ユキヲ先生がよく遊びに行っていた町だからだそうで。


ユキヲ:そうですね。あと、ゆりねは魔導書を使って邪神ちゃんを召喚するのですが、神保町の古本屋街って、探せば魔導書すら売っていそうな雰囲気ですよね。そんなわけで、作品の舞台にぴったりだと思って選んだのです。


――お話を伺うと、趣味はもちろん縁の深い土地など、ユキヲ先生が好むあらゆる要素が凝縮されているのがわかります。ユキヲ先生は、以前は美少女系の漫画家というイメージがありましたが、ギャグ漫画もお好きだそうですね。美少女もギャグもてんこもりの『邪神ちゃん』は、先生が描きたいものが盛り込まれた漫画だと思います。


ユキヲ:一番描きたかった漫画が、「考えるより感じろ」的な不条理ギャグやシュールな作品なので、邪神ちゃんはそれに近い感じで描けているかなと思ってます。キャラクターはすべてのキャラに愛着があるのですが、なかでも「ゆりね」と「ぽぽろん」が特に気に入っています。先に話したように、ゆりねはずっとあたためていたキャラ。あと、僕は少女漫画が好きなので、ぽぽろんにはそのテイストを入れています。


ご当地コラボも盛んに行っている。北海道の釧路市、帯広市、富良野市、そして長崎県の南島原市である。パネルの前に立つと、邪神ちゃんがそれぞれの自治体の見どころを紹介する音声が流れる。


――そんな『邪神ちゃん』も10周年です。


ユキヲ:10年も同じ漫画を描けていることを、光栄に思っています。毎回一生懸命描いてきたので、10年があっという間でした。連載を始めたときには、こんなに続くとは思っていませんでした。アニメも3期まで続いているのは、スタッフのみなさんが素晴らしく、編集さんもアニメに関わっている方々もみんないい人たちだからです。


――特に、編集さんとは10年間一緒に漫画を創り続けているそうですね。


ユキヲ:編集のIさんは立ち上げからずっと関わってくださっているので、作品の世界観の共有ができているんですよ。もはや、いなきゃ困るというレベルで信頼しています。実はIさんは僕より6歳年下なのですが、アニキ的な感じで頼っていますね。周囲に支えられているおかげで、連載中に辛い思いをほとんどしないで済んでいるのも嬉しいです(笑)。


――長期連載になり、世界観がますます膨らんでいますよね。これから登場する新キャラクターにも注目してしまいます。


ユキヲ:10年続けて、ある程度キャラクターが増えた気がするので、新キャラクターの追加は当面はないと思います。僕がよっぽど新しい属性が目覚めたら、追加してみたくなるかもしれませんが。


ユキヲが描いた歴代の扉絵や、各種グッズのために描き下ろしたイラストも展示。


――さすが、ユキヲ先生ならではのこだわりを感じます。そして、次はいよいよ20巻が発売されるわけですが、節目ですし、どんな絵になるのか気になります。


ユキヲ:まだ構想はぜんぜんなくて、アニメが終わったときの心境で決めたいと思っています。というのも、1期、2期のときは、アニメが続く可能性も少しはあるんじゃないかと期待していましたが、3期が終わることを考えると、本当に寂しいんですよ。そもそも3期まで続いたことが奇跡のようなものですし、4期はあるのかな…と神に縋る思いでアニメを見ています。3期までアニメを続けていただいて、ありがたいことにファンも増えて、反応もいいんですね。


――ファンの皆さんも、アニメが終わってほしくないと願っていると思います。


ユキヲ:アニメが終わった後、さみしくなっていたファンのみなさんが笑顔になれるような絵にするかもしれないし、僕が吹っ切れて全然違う表紙を描くかもしれません。とはいえコミックスの表紙を描くのは楽しい作業で、毎回、見て楽しめるデザインを考えています。


――10年間の歩みが展示されている「邪神ちゃんテン」の見どころを教えてください。


ユキヲ:漫画やアニメなど、『邪神ちゃん』に関するあらゆる展示があります。アニメの原画を見て「あのシーンはこの原画から出来てるんだ」とか、漫画の生原稿を見て「これが掲載時にああなるんだ」とか、漫画の邪神ちゃん、アニメの邪神ちゃん両方の制作過程を楽しんでいただけると思います。


――最後に、読者の方にメッセージをお願いします。


 ユキヲ:読者の皆様のおかげで、大好きな『邪神ちゃん』の仕事を続けることができています。本当に感謝しかありません。応援のあるかぎり続けていきたいと思っていますので、今後とも『邪神ちゃん』を宜しくお願いします。可能なら、あとさらに10年続けたいです。邪神ちゃんの今後の展開は、アニメ公式や「COMICメテオ」のサイトでチェックしていただければと思います。


■『邪神ちゃんテン』は入場無料で撮影可能な太っ腹の展示会


 筆者は『邪神ちゃんテン』を取材した。現在放送中のアニメ3期の原画のほか、声優やアニメスタッフから寄せられた色紙、そしてファン垂涎の漫画の原画(線画)まで、貴重な資料が目白押しであった。このボリュームで入場無料であり、さらに会場のほとんどの展示が撮影可能というのも太っ腹で、驚きだ。


 長年に渡って原作のファンという人も、アニメを見て初めて邪神ちゃんに触れた人も楽しめる展示になっている。ぜひ気軽に足を運んでほしい。


邪神ちゃんテンの情報はこちら


「邪神ちゃんドロップキック」COMICメテオの情報はこちら


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