ブレイディみかこさん「良くなる兆しが見えない日本、私たちが地ベタでできることを」

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2022年08月20日 11:00  AERA dot.

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写真インタビューにこたえるブレイディみかこさん
インタビューにこたえるブレイディみかこさん
小説『両手にトカレフ』を上梓したブレイディみかこさん。本誌インタビューでは紹介しきれなかった執筆のこぼれ話や、今の日本の問題点についても話を聞いた。


――『両手にトカレフ』というタイトルが印象的ですね。トカレフという拳銃になったのには理由があるのでしょうか。


 画家の友人が「両手にトカレフ」というタイトルの絵を描いているのですが、それが少女の顔なんです。絵の中に銃なんてどこにも出てこない。なので「なぜ、これが両手にトカレフなの?」って聞いたら、「この少女は絵には描かれていない下の部分で両手にトカレフを握っているんだ」って話していて、詩的な感じがしたんですね。そこで友人に許可をもらってタイトルに使わせてもらいました。


 それともう一つ理由があります。ニコラス・ケイジ主演の「トカレフ」という映画があるのですが、イギリスではお昼の時間帯に何度か再放送されていました[MB1] 。いかにもB級映画ではあるのですが、主人公のミアのお母さんが家でテレビをつけっぱなしにしていて、ミアが見ていたりするということが、リアルにありそうだなって思ったんです。


――ミアが幸せだったのは、クラスメートのウィルという男の子が彼女のラップのリリックに才能を見出してくれたことも大きかったのではないでしょうか。


 実は、男の子に助けて欲しかったっていう思いがありました。本書は「私の価値を決めるのは私だ」とかミアに言わせているし、フェミニズムっぽいんですよね。


 手を差し伸べてくれるのは女性で、出てくる男の人ってみんな悪い(笑)。だから、短絡的に男は「悪」みたいにはしたくない気持ちもありました。女性同士が助け合うシスターフッドも大事だけど、男性の中にも女性を支える、男の子であっても支えてほしいっていうのがあったんです。ウィルというキャラクターは最初から出そうと思っていましたが、あの世代だとミアの置かれている環境がかわいそうという同情から好きになりがちです。それも嫌だったので、ミアがクールでかっこいいからという感じで好きになってほしかったんです。


――ミアはラップによって「言葉」を獲得していきますが、いまの日本は社会全体に物言えぬ空気が流れていると言われています。


 いきなり言葉にしていいよって言われても、小さい時からの積み重ねがすごく大事なんですよね。私は保育士でしたから、保育の段階からいろいろ変えていくべきことがたくさんあると思っています。実際に変えようとしてらっしゃる方も知っていますしね。


 具体的には、教育にお金をかけることだと思います。例えば、保育士の配置基準です。子ども一人ひとりに話をさせようと思ったら、30人に保育士に一人では、同じことをさせないと回りません。せめて、1対8とかね。そのぐらいだったら、ちゃんと一人ひとりと話ができますよね。




 教育にお金はかけられると思うんですよ。ただでさえ、日本は子どもの数が少なくなっているんですから。子どもは社会の未来なのですから、少ない人数の子どもを社会全体で一生懸命育てていこうよっていう方向にならないと。そこを育てていかないってことは、未来を捨てるっていうことだと思うんです。抜本的に幼児教育から見直していくことが大事だと思います。


 いつも子どもが何かを言えるような状態、子どもの意見を聞けるような状態。「ちょっと回らないから黙ってて」「あなたたちは私の話を聞いて言う通りにしてればいいのよ」ていう教育ではなくて、子どもたちをしゃべらせられる教育をした方がいいと思います。


――それも含めて日本で暮らしていると、何もかもが後退していっているように見えてしまいます。


 社会のシステム、政治を変えるというような、大きなシステムを変えることも、とても大事です。だけど、今の現状を見ていると、待っていても仕方ないというか、いま私たちが地ベタでできることをやっていくしかないっていうこともあると思うんです。


 イギリスの中学校に上がってくる子どもたちの中には2桁の計算をできない子がけっこういます。その子たちは中学校で補習を受けるんですけど、コロナで半年休校されてできない時期がありました。それをじゃあ今やろうっていうことで、知り合いの大学の数学講師が立ち上がったので、私も手伝っています。


 政治になんとかしろっていうのは正論だし、そこをなんとかしなきゃいけないのだけど、下側から私たちも動いていかないといけない段階にきていると思います。


 例えば、私が『両手にトカレフ』みたいな本を書くのだって、それまで金子文子なんて知らないような中高生が彼女に関心を持つかもしれない。そのことによって、大正デモクラシーの頃にどんな弾圧があったのかと歴史を勉強してくれるかもしれない。マルクスの名前をちょっと出したりとか、そういうのを本書のなかに散りばめたんです。そういうところから興味を持って、どんどん調べてくれたらいいなと思って書いています。


 7月の参議院選の時も日本にいたので見ていますが、良くなる兆しが見えないんですよね。国民の多くが政治に関心がなくなっているんじゃないでしょうか。政治に関心を持つような教育をしてこなかった結果だと思います。


 プラカードを振ってなんとかしてくれと権力者や政治家にお願いするだけじゃ足りないんですよね。19世紀末から20世紀初頭にかけて女性の投票する権利を主張した団体のサフラジェットも「言葉よりも行動を」だと言っていました。自分たちでできることをやっていくところから説得力のある言葉も出てくるんだろうし、ボトムからの変化も必要だと思います。


(構成 編集部・三島恵美子、写真映像部・加藤夏子)


※AERAオンライン限定記事




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