日本のポップアートのいまに迫る『二次元派展』が開催。東アジアで人気の若手アーティスト約30名が参加

0

2022年09月02日 12:11  CINRA.NET

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

CINRA.NET

写真
Text by 森谷美穂
Text by 石垣久美子

この数年、SNSをきっかけに東アジアでブレイクしている日本の若手アーティストたちがいる。

アニメや漫画、ストリートカルチャーやファッションなど、日本のポップカルチャーと強く結びつく彼らの表現は、とくに日本文化に馴染み深い東アジアの若者たちに親近感と共感をもって受け止められている。しかし、これまで彼らが体系的に論じられる機会はなく、日本国内ではあまり知られていないアーティストも多い。

約20年にわたって東アジアの現代アートシーンを研究してきた沓名美和(くつな みわ)は、このムーブメントを「二次元派」と名づけた。そして彼女がキュレーターを務める『二次元派展』が、8月24日から開催している。約30名のアーティストによる100点を超える作品を通して、日本のポップアートの現在地を読み解いていく試みだ。

会場は代官山ヒルサイドフォーラムとN&A Art SITE。ここでは、代官山ヒルサイドフォーラムでの内覧会の様子をレポートする。

二次元というと日本では漫画やアニメを指す言葉としても使われるが、会場に展示された作品のテイストはキャラクターを表現のひとつとして用いたものから、抽象表現やコラージュなどじつに多様だ。

二次元という単語はそもそも日本生まれで、中国語では「二维」と書く。中国人にとっては二次元という言葉自体が強く日本をイメージさせるもので、言葉の印象が転じて、いまでは日本の漫画やアニメ、ゲーム、若者のファッション、さらには「かわいい」という感覚など、より広い意味での日本らしさや日本のポップカルチャーを表す言葉として使われるようになったという。

こうした背景を知ると、『二次元派展』の作品の多様性にも納得がいく。それぞれの作品に、アジアの国々から見た日本らしさが入っているということなのだろう。

会場のガラス面に描かれた『n-jigen』(Hogalee)

開幕の挨拶のなかで沓名は、「これまで論じられてこなかった二次元派のムーブメントを読み解くことは、グローバルな視点で日本の現在の姿を再認識することにつながるのではないか」と展覧会の意義を伝えた。

『二次元派展』ではアーティストの表現手法や特徴を3つのセクションに分類し、それぞれ「CHARACTER」「HYPE」「NEW HORIZON」として紹介している。

とくに印象的だったのがストリートカルチャーやファッションの流れを汲む「HYPE」をキーワードにセレクションされた作品群だ。

なかでも強烈な存在感を放っているのが、ニューヨークを活動拠点に置く現代アーティスト・山口歴(やまぐち めぐる)の大作。山口が生み出した新しい手法「カットアンドペースト」を用いた作品『OUT OF BOUNDS EXPERIMENT NO.2』は、筆致そのものを彫刻的に再構築していて、絵画表現の新しい選択肢を感じさせる。

山口歴(左から)『REVISUALIZE NO. 53』『SHADEZ OF BLUE NO. 4』『OUT OF BOUNDS EXPERIMENT NO.2』
©︎ 2022 MEGURU YAMAGUCHI
©︎ 2022 GOLD WOOD ART WORKS

『REVISUALIZE NO. 53』
©︎ 2022 MEGURU YAMAGUCHI
©︎ 2022 GOLD WOOD ART WORKS

花の作品をメインに制作を続けている奥田雄太は、ファッションデザイナーからアーティストへ転身した異色のキャリアの持ち主。ファッション業界で磨かれた色彩表現と、近距離でなければ見ることのできない緻密な線画の世界に驚かされる。

展示されている花束のシリーズは、コロナ禍で感じた何気ない日常への感謝を表現しているという。

奥田雄太(左から)『AbstractBouquet220517(PearlWhitexGold)』『AbstractBouquet220523(BlueGradationxPink)』


『AbstractBouquet220523(BlueGradationxPink)』(一部分)

国内外で高い評価を受けている天野タケルや、人気漫画『ブルーピリオド』の作者である山口つばさもアーティストとして参加。山口の作品には短編集『ヌードモデル』の原画が出展されている。

天野タケル『Venus on tangerine』

山口つばさ『ヌードモデル』

「CHARACTER」セクションではキャラクターモチーフの作品や、キャラクタライズされた人物画を取り上げ、さまざまな角度からキャラクター表現の可能性を切り取って見せている。

「日本のキャラクター表現は戦後、鉄腕アトムやドラえもんなど子ども向けの漫画やアニメと深くつながりながら進化し、やがてオタクカルチャーや現代アートへとその領域を広げてきた」と沓名は解説する。

二次元派展 代官山ヒルサイドフォーラム会場 展示風景photo by Arecibo

展示作品を見てみると、キャラクターに作家の世界観を投影する作品もあれば、現代を象徴する無機物としてキャラクターフィギュアがモチーフとされている作品もあり、その切り口の多様性に驚かされる。

主に20代のアーティストで構成される「NEW HORIZON」セクションには、新しい絵画表現に挑戦する意欲的な作品が多く展示されている。

大澤巴瑠は今年、京都芸術大学大学院を修了したばかりの新進気鋭のペインターだ。「複製」をテーマに、デジタルでの複製と肉筆による模写を繰り返して制作される作品は、簡単にコピー&ペーストが可能な現代だからこそ唯一無二のものとは何かを問いかけているようだ。

大澤巴瑠と作品『onomatopoeia』

ポップにデフォルメされた動物のモチーフが印象的なsumaの作品は、近づいてよく見ると新聞やチラシがレイヤーになっているのがわかる。新聞の言葉やモチーフを巧みに使い、人間社会に潜む矛盾や皮肉、可笑しみを連想ゲームのように散りばめている。

sumaと作品『King of the Pride-Lions』

『二次元派展』は第1会場のヒルサイドフォーラムの会期は8月28日まで。以降、第2会場では第1会場で展示の作品の一部を含め、再構成して展示。会期中には展示替が行なわれる。一部展示作品の販売も行なっている。
    ニュース設定