トマト缶が被災者を救う? 避難場所に温かい食事を届ける「レスキューキッチンカー」

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2022年09月21日 11:55  AERA dot.

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写真レスキューキッチンカーと中村詩織さん
レスキューキッチンカーと中村詩織さん
 台風14号が列島を襲い、避難所で眠れぬ夜を過ごした人もいただろう。大地震に見舞われれば、誰もが当事者になりうる。避難生活が長引くほど、被災者を苦しめるのが食の問題だ。配給されるパンやおにぎりもありがたいけれど、温かい食事もほしい……。そんな切なる要望に応えるためにできたのが、レスキューキッチンカーだ。


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「日本の災害現場では、食の問題が後回しにされています」


 そう語るのは、一般社団法人「日本食育HEDカレッジ」の代表理事を務める中村詩織さん。長年、食育の普及に取り組む傍ら、被災地のボランティア活動にも携わってきた。そんな彼女が考案したレスキューキッチンカーは、被災者に温かい食事を届けるため、調理設備を整えた車両だ。



 車両の詳細は後述するとして、まずは開発の経緯から振り返ろう。


 中村さんは2016年に起きた熊本地震のボランティアとして、現地に赴いた。そこで目の当たりにしたのが、被災者に対する「食の配慮」が行き届かない現状だった。


 全国から食料が寄せられたが、人手不足や交通網が寸断されたため、速やかに避難所に配られず、集積場所で腐ったまま放置されていた。なんとか避難所に届いても、配給されるのは、おにぎりや乾パンなど炭水化物ばかり。ビタミンやたんぱく質が決定的に不足し、体調を崩す人もいた。しかも、食の知識に乏しい人が炊き出ししたせいか、食中毒が起きたこともあったという。


「災害時の食のリーダー」がいなければ、せっかくの善意もムダになってしまう……。そう考えた中村さんは、世界各地の状況を調査した。なかでもイタリアの対策に目から鱗が落ちたという。


「イタリアでは各地にキッチンカーが備えられ、有償ボランティアが定期的に災害時の訓練を行っています。いざ災害が起きたときは、ボランティアを乗せたキッチンカーが被災地に入り、料理を提供する。このことを知り、日本でもキッチンカーを利用したらいいのではと考えました」


 中村さんはクラウドファンディングで資金を募り、今年4月に1号機を完成させた。さて、街で見かけるキッチンカーとは何が違うのだろうか。



 まず強風に強いカセットコンロが2台。そして業務用のトマト缶(2キロ入り)も常備している。それにしても、なぜトマト?


「避難生活が長くなるにしたがって、温かい食事、とくに汁物を食べたいという思いが強くなるんです。災害が起きると、被災者がスーパーやコンビニに殺到し、おにぎりやパンなどがあっという間になくなります。でも、野菜は売れ残るんです。自宅で料理ができないから。そこで私たちは現地で野菜を買って、トマトと一緒に煮込んでお出しするつもりです」


 もちろん主食も欠かせないので、水を注ぐだけで食べられるアルファ米が入った段ボールを4箱積んでいる。おにぎりが520個作れるという。


「飽きずに食べていただけるように、わかめごはんや五目ごはんなど何種類かのアルファ米を用意しています」




 避難生活では子どもたちのケアも大切だ。「不安で食が細くなり、何も食べられなくなる子がいます。そういう子には、まずお菓子を食べてもらい、そのうえで少しずつご飯も食べられるようになってもらえれば」


 レスキューキッチンカーが搭載しているのは、食料だけではない。トイレットペーパーや生理用品はもちろん、簡易便器と簡易テントもある。この二つを組み合わせれば個室のトイレになる。



 ボディーの一部はホワイトボードになっていて、被災者が伝言板として使うことができる。さらに注目すべきなのが看板だ。ごく普通の△型の立て看板だが、解体して組み替えると、車いすに早変わりするのだ。


 レスキューキッチンカーは、普段は東京・品川にある本照寺の境内に置かれている。住職の塚田團樹さんが語る。


「中村さんの活動を拝察していると、食育と防災という日常生活において疎かになりがちな意識を、もう一度見直す機会を与えて下さっていると感じます。お参りにいらした方が、『この車は何?』と関心を持ってくれることも多々あります」


 中村さんはこの車両を、日頃は普通のキッチンカーとして使っている。売り物にならずに廃棄処分される食材を利用して料理を出している。また、全国各地の防災イベントに参加して、デモンストレーションを行っている。


「フルカスタムのレスキューキッチンカーがたくさんできて運用されればいいのですが、それはまだ先のことでしょう。そこで普段キッチンカーを運用している方々が、いざというときは被災地に行くという気持ちで、少しでも非常食などを常備してくれればと願っています。現在、東京だけでもキッチンカーは4800台もあるのですから」


 その第一歩として、「この車は何?」と興味を持つ人がいればうれしいと語る。


(本誌・菊地武顕)


※週刊朝日オリジナル記事


このニュースに関するつぶやき

  • 素晴らしいな。 NPOとして立ち上げれば良いのでは。 それこそ日本全国に必要だろうし
    • イイネ!15
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