ヤクルト・木澤尚文「全員の思いが報われてほしい」仲間との絆…つかんだ頂点【夢追うツバメたち】

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2022年09月26日 07:02  ベースボールキング

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ヤクルト・木澤が「印象深い試合」と振り返ったのは5月22日・DeNA戦
◆ 第35回:連覇の原動力となった背番号「20」

 2年連続でセ・リーグの頂点に立ったヤクルト。プロ2年目の木澤尚文は、セットアッパーとして連覇の原動力となった。今季ここまで54試合に登板して8勝をマーク。プロ1年目は一軍登板なしに終わった右腕が、飛躍のシーズンを語ってくれた。
 

 「最初はアバウトにストライクゾーンで勝負していたところも、だんだん右も左もインサイドを積極的に突けるようになりました。シュートを投げているところで、横の両サイドを使う攻め方ができるようになってきた。自分自身の成長を感じながら投げられているところが大きいと思います」

 木澤の投球の生命線となったのが、今春のキャンプで習得に励んでいたシュートだった。「(打者の)手元でボールが動くのでファウルになりやすい。ストライクゾーンの中でより勝負できるようになったのが大きい」と、そのメリットを話す。

 「マウンド上では熱くなりやすいタイプですけど、完璧を求めすぎると自分の首を絞めてしまうので、自分のやるべきことを整理しながらマウンドに上がろうとしています」

 勝敗を分けるポイントで、背番号「20」は冷静かつ、熱いマウンドさばきを見せてきた。


 そんな木澤が今季、一番印象に残っている試合を挙げてくれた。それは横浜スタジアムで行われた5月22日のDeNA戦。5回一死一・二塁の場面。4−2とリードしている中、2番手でマウンドに上がると、相手の追い上げを見事に抑える好リリーフ。

 「ビハインドや点差がある場面でしか投げていなかったんですけど、先発の後を継いで火消しをするのは初めてだった。僕もチームの戦力になれるんだなと感じたところが、すごい転機だった。印象深い試合だった」

 この試合でプロ2勝目を挙げた木澤。「投げ終わった後、石井(弘寿)コーチからも『お前が流れを持って来た。こういうところが中継ぎのやりがいだよ』と言われた。周りからも実際にそういう声をいただいて、僕自身の中でも自信になった」と振り返る。

 試合を重ねて成長した。ホームの神宮球場では、登場曲であるサザンオールスターズの『希望の轍』が木澤を後押しする。これは、大学時代の仲間に向けて「頑張ろうと思ってくれたらなと思って」と、選んだ曲でもある。

 「(大学時代の仲間は)投げる度に連絡をくれます。体の心配をしてくれる奴もいますし。(試合を)見に来てくれて嬉しそうな友人たちを見て、みんな刺激し合いながら、社会人として生きているなっていうのは嬉しかったですし、そういったところも僕のやりがいの一つかなと思っています」

 かけがえのない仲間の存在が、木澤の心を奮い立たせている。


◆ ブルペンを支える先輩との絆

 「ブルペン陣もそうですけど、やっぱり野手の方々、トレーナーさん、球団のいろんな人全員の思いが報われてほしいなという意味で、優勝したいですね」

 9月11日にマジック「11」が再点灯。リーグ連覇が見えてきた中、木澤はチーム一丸で優勝を目指してきたことを言葉で表現した。

 特に、近くで一緒に戦ってきたリリーフ陣との絆は深い。今年も優勝を支えたブルペンの雰囲気について、木澤はこう話す。

 「非常にメリハリのある雰囲気だなと感じています。我々の仕事がこないような場面では和気あいあいと喋りながら試合を見て、田口(麗斗)さんやマクガフですとか、ムードメーカーもいるので、いい雰囲気の中やっています」

 リラックスムードで戦況を見つめ、出番が近づけばスイッチは切り替わる。

 「いざブルペンで電話が鳴って仕事だとなると、ピリッとした雰囲気になって各々が体を動かす。石井コーチが雰囲気を締めてくれるので、メリハリのつけ方は勉強になって、毎日準備しています」


 ムードメーカー的な存在の田口とは、練習のとき一緒にキャッチボールを行う仲だ。3歳年上の先輩に対して「ちゃんと怒れるところが田口さんのリスペクトできるところ」と話す。それを裏づけるこんなエピソードがある。

 「広島遠征で(田口と)2人で歩いていて、信号待ちで黄色い点字ブロックで待っていたことがあるんです。そこで田口さんが『おい、ナオ(木澤)。ここは目の不自由な人がこの後お前の後ろを通るかもしれないんだから、空けるような癖をつけなさい』と。そういうところはさすがだなと思います」

 田口が新型コロナ感染で離脱したときには、いつも田口が神宮のファンとともに行う“勝利の舞”を、伊藤智仁コーチに促されて木澤が代わりに行ったことがあった。

 それでも、あのパフォーマンスは「田口さんがやるからいい」と、自分ではなく田口が行ってこそ意味があると強調した。木澤にとって田口は「非常にメリハリのある、野球に関しての知識もすごくある先輩」だという。


 そして、「僕がチーム内で一番お世話になっている」と話したのが、クローザーのスコット・マクガフだ。「試合後には必ずいろいろ話しをするようにしています」と、経験豊富な守護神との会話を大切にしている。

 9月9日の広島戦(神宮)で木澤は、7回3番手で登板していきなり連打を浴び、自らの暴投も絡んで一死二・三塁のピンチを招いて途中降板した。優勝争いも佳境を迎え、より緊張感のある試合が続いていた中でのことだった。

 木澤の心情を察したマクガフは「これからは1試合1試合の重みが増してくるのを感じてしまうと思うけど…」と話し、「そういうときこそマウンド上でしっかり頭を整理」する重要性を教えてくれたという。

 「負けたらどうしようとか、そういうことを考えないようにするのが大事なのかなと今は思っています」

 リーグ優勝を決め、次はCSファイナルステージ、日本シリーズと短期決戦が待ち受けるが、厳しい戦いの中で培った経験や仲間との絆が、大舞台で力を発揮するための支えとなるに違いない。球団初の2年連続日本一へ向けて、木澤の右腕が唸りを上げる。

取材・文=別府勉(べっぷ・つとむ)
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