「ナゾノクサ」や花にかかったうどん…お盆のお供えは「謎の行事」? 民俗学者は「興味深い」

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2022年09月27日 07:00  ウィズニュース

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コップの底にはお米、さらに草も。=けんけんさんのツイッターより

花に掛けられたうどんに、米が沈むコップに挿された「ナゾノクサ」。お盆のお供えものに「謎」を感じた男性が8月、ツイッターにその様子を投稿すると、多くの反響が集まりました。男性が「謎の行事」としているこのお供えの由来は――。お盆の文化に詳しい国立歴史民俗博物館の関沢まゆみ教授(民俗学)に聞きました。(withnews編集部・金澤ひかり)

【画像】こんなお供えの仕方があるのか…「花の上に生の平打ちのうどん」とは?

「一年に一回のみの伝言ゲーム」
8月15日、群馬県に住むけんけんさん(25)は、水の中に生米を入れ、まっすぐに伸びた草を挿したコップの写真と、平打ちのうどんが花に掛かった写真の2枚に、「ばあちゃんも嫁に来てから知ったそうで由来を知る人が誰一人いなくなってしまってほんとに謎の儀式と化してる」とコメントをつけ、ツイッターで投稿しました。

投稿は広く拡散され、様々な地域の人たちからそれぞれの家のお供えものについての情報が集まりました。その後、けんけんさんが募集した「お盆飾りについてのアンケート」には、1千件を超える回答が寄せられ、「一年に一回のみの伝言ゲーム」「このまま次の代へ繋いで欲しい」といったコメントもつき、「いいね」は2万5千件にのぼりました。


このお供えもの、地域性があったり、それぞれに意味があったりするものなのでしょうか。お盆の文化に詳しい国立歴史民俗博物館の関沢まゆみ教授(民俗学)に聞きました。

「ナゾノクサ」の正体は……
 ――この投稿をご覧になってわかることがあれば教えてください。
 
お写真を見ると、普通のコップにぴょんぴょんとした草が挿され、うどんがぺろんと花にかかっています。コップの底にはよく見ると、お米沈んでいます。「へえ…」と思いました。

 ――「へえ」と思ったといいますと。
 
 お盆のときには大事な要素が三つあり、それがコンパクトになっている点が興味深いと感じました。
 
 三つの要素についてご説明します。
 
 写真に写っている草は「メドハギ」ですが、関東地方をはじめ各地によく見られるのは「ミソハギ」という植物を「盆花」としてお供えするという習俗です。これが一つ目の注目される要素です。

 盆花というのは、メドハギやミソハギのように、まっすぐ天に向かって伸びるもの。まっすぐ伸びた先に霊が寄りつきやすいという考え方があるからと考えられます。

 植物の種類としてはハギ系のものが多いのですが、その他にもキキョウやオミナエシなど地域によってさまざまです。家の近くの山や野原から盆花を迎えてきて、それでご先祖様を迎えもてなすといわれています。

 地域によっては、家の外に盆棚を作り、竹筒を花瓶代わりにして盆花を生けるところもあります。また、ミソハギに水をつけてパッツパッと盆棚に水をかけるという家庭もありました。

「うどん」は「背負い縄」
 次の要素が、「背負い縄」です。お盆を終え、ご先祖様がお帰りになるときに、お土産を束ねて背負うものという考え方ですが、うどんやそうめんがこの「背負い縄」の役割を果たします。

 今回の写真の投稿者さんは群馬にお住まいとのことなので、うどんの産地でもある群馬だから背負い縄がうどんなのかなと思います。

 地域によっては、精霊馬の背中にそうめんをかけるところもあります。また、奈良県では、お盆の最後にお餅をつくり、ご先祖様のお土産とするところもありました。丸いお餅の上には茹でていないそうめんが置かれていました。

 お土産については、多くの場合はお盆の最後の日にお供えしたものがおみやげになります。それを里芋の葉や、蓮の葉などに包み、背負い縄で束ねてお土産にするという考え方です。

お米を供える対象は、先祖ではなく「雑霊」
 最後の要素がお米です。写真を拝見すると、コップの中にお米が沈んでいました。
 「水の子」と言うことが多いのですが、洗ったお米と、なすをさいの目に切ったものを里芋などの葉の上に置き、水をまいて供える例が多くあります。

 水の子は、家の仏様が帰ってくるときに一緒にやってくる有象無象の雑霊、先祖の霊からいえば周辺的な不特定な霊物の類にあげる食べ物のことと考えられています。おなかを空かせている飢餓の霊、のどが渇いている飢渇の霊、つまり餓鬼、に供養してあげるには、水や米がいちばんだと考えられていたようなのです。そのことを、コップの中の米はあらわしています。

 投稿者さんのお写真のものは、その簡略形のようなものと思います。

「水の子」は供える場所に地域性
 ――私が育った家ではお盆の習慣がなかったので、初めて聞くものばかりで驚きました。特に「水の子」という、有象無象の霊にまでお供えをするという配慮に感心してしまいました。

 「無縁仏に配慮している」という考え方もありますが、逆に「あなたたちはうちの座敷にはあがって来ないでね」という昔の人たちの気持ちもそこにはありました。ご先祖様がゆっくりと休んで供物を食べてくださるために、その他にやってくる雑霊の類に対してはそれなりに区別してお供えするという考え方がありました。このことについては、柳田国男もかつて『先祖の話』のなかで言及していました。

 供える場所には地域性があり、関東の旧家などでは仏壇の下の、畳の上に直接里芋の葉などに載せて置く例がみられます。近畿地方に行くと、さらに区分がはっきりとしています。家の仏様をお迎えするのはお座敷で、無縁仏のお供えは外の軒下などにして、「同じレベル」にはしません。

 ちなみに、新仏は仏様になって間もなくまだ「安定していない」という考え方なので、新仏用のお供えものも座敷ではなく、縁側に置く例も多くあります。

お盆の様式、由来は「代々やってきたから」
 ――地域性の話がでましたが、お供えものの中でも地域性が出るようなものは、他にもありますか?

 写真をよく拝見すると、奥の方にぼたもちがあったかと思います。ぼたもちはお盆に作る地域が多いですが、供え方に地域性がみられます。

 近畿地方の場合、ぼたもちは、位牌に書かれている戒名の一人一人の分を、柿の葉をお皿がわりにしてお供えします。以前うかがったお宅では14人分を個別にお供えしていました。ぼたもちの盛りつけ方は、他の地方は大皿にまとめて盛るところが多いです。

 また、先ほどポイントとなる三つのお供え物(盆花、背負い縄、水の子)についてご説明しましたが、それ以外のお供え物に地域性が出る場合もあります。たとえば、秋田では、「テン」と呼ばれるテングサを材料として作られる緑や赤など色鮮やかな寒天を供えたり、山形では「えご」と呼ばれる海藻を煮て固めたものをお供えするところもあります。

 お供えものは基本的に、その地域でごちそうだと思っているもの、ご先祖様に食べてもらいたいと思っているものが供えられます。そういう意味では、ごはんひとつとっても、普段より一手間かけた小豆ごはんをお供えするお宅もあります。
 ただ、家ごとのお盆のやり方は、「なんでそうやるかわからないけど、代々やってきたから」という理由でやっていることが多いです。

 ――調査を続けてきた中で、お盆のお供えものについて、時代による変化はありましたか。

 やっぱり世代交代が大きいです。
 おはぎを14人分、個別に盛りつけていたお宅も、おばあちゃんが一生懸命なさっていましたが、おばあちゃんが亡くなられたらここまで丁寧なことまではしなくなるだろうなと思います。
 「やりやすいようにやろう」みたいな継承の仕方になっていると思います。

けんけんさんのアンケートに1千回答、「そんなに…」
 ――そもそも、お盆の過ごし方がいまは多様ですよね。

 二極化していますよね。お盆の過ごし方自体、報道をみているだけでも1980年代は8月15日になると「Uターンラッシュ」が大きく話題になっていましたが、1990年代になると、成田空港からの帰国ラッシュという報道も加わりました。

 1960年代の高度経済成長期、地方から都市部に来て結婚した人が、1980年代くらいまでは、お盆になると地方にいる親の顔を見に帰るということが多かったのですが、ご両親が亡くなり、実家には家を継ぐ、たとえばお兄さん家族しかいないとなると、実家に帰るより、旅行でもしようかという話になりますよね。

 逆に、実家に残ってお盆の行事をする家族は、お盆のお供えものなどに詳しく、実家を離れた人は、そうではなくなるという、お盆そのものが変わっていく過渡期なのかなとも思います。

 ――確かに簡略化する場合や、お盆のお供えものをそもそも知らないという方も多くなっていくように思います。ただ、写真の投稿者さん(けんけんさん)が、簡易的にお盆のお供えものについてのアンケートをとったところ、回答が1千件以上集まったそうなんです。

 「そんなに関心があるのか」と、すごく驚きました。

 日本では、いろんな行事が変わっていっています。お正月にしても、家でおせちを丁寧に作っていたのがそうでもなくなっていたり、お雑煮がマストじゃなくなっていったり……。

 でも、お盆の行事に関しては、やっているところは、昔からのかたちが割とまだ残っています。「何でこんなことやるんだろう」と思いつつ、「おばあちゃんがやっていたから」という感じでやっているところが多いのかなと感じます。

 だから、それがツイッターなどで気楽に情報共有できる場があると、共有し共感してもらえるおもしろさ、意味がわかるおもしろさがあるのかなと思います。

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