AIで企業競争力に差をつけるために必要なものは――ガートナーが提言

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2022年09月27日 07:02  ITmediaエンタープライズ

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ガートナージャパンの亦賀忠明氏(ディスティングイッシュトバイスプレジデント、アナリスト)

 「企業はAI(人工知能)を活用しなければ生き残れなくなる」



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 こう語るのは、ガートナージャパン(以下、ガートナー)の亦賀(またが)忠明氏(ディスティングイッシュトバイスプレジデント、アナリスト)だ。同社が2022年9月14〜16日に都内ホテルで開催した「ガートナー データ&アナリティクス サミット」において同氏が登壇した「AIトレンド2022」と題した講演での発言である。



 同氏の発言の意図は何か。本稿では亦賀氏の講演から、AIで企業競争力に差をつけるための要件について筆者が注目した内容を紹介し、考察したい。



●企業にとってAIは導入するものではなく「作るもの」



 日本企業におけるAIの活用状況について、亦賀氏はガートナーが2022年4月に実施した調査から次のような結果を紹介した。



 まず、AIの導入率や関心度については「導入済み」14%、「検討中」23%、「関心あり」22%とポジティブな回答が合計で6割を占めた一方、「遠い将来の話」15%、「関心なし、その他」26%と、ネガティブな回答も4割に上った。



 導入済みの企業の使用内容は「文字起こし、議事録」33%、「チャットbot」31%、「顔認証」21%、「機械翻訳」20%の3つが2割を超えたものの、「高度なアナリティクス」14%、「需要予測」14%、「要約」11%、「感情分析」7%、「MLOps」5%と、難度が高くなるほど割合が低くなった。



 難度が高まれば導入の割合が低くなるのは当然の結果のように思えるが、亦賀氏は「現時点で割合が低い使用内容もAIの世界ではいずれ当たり前になる。早めに準備を始めるのが得策だ」と述べた。



 ちなみに、MLOpsとはDevOps(開発と運用の連携)の中でML(機械学習)を本格的に活用するアプローチのことだ。企業のAI活用におけるキーワードの一つとして注目されている。



 AIに関する課題としては、次の結果が明らかになった。



 「投資対効果が読めない」32%、「スキルを持った人材がいない」28%の2つの課題が他と大きく差をつけた。亦賀氏はこの結果について「他の課題も合わせて、これらは『永遠の課題』となる可能性がある。特に、AIを使いこなす人がいてはじめて投資対効果に得られるので、テクノロジーもさることながら人材の育成や採用に投資することが肝要だ」との見方を示した。



 その上で、次のように述べた。



 「これまでは『AIは導入するもの』で、『具体的に何を導入するのか』『本当にメリットはあるのか』といった議論に終始し、結局、高価なこともあって導入を断念する企業も多かった。そうではなく、『AIは作るもの』と考えるべきだ」



 では、どうやって作るのか。



 「不可欠なのが人材だ。AIは『テクノロジー×人=リターン』で(考える必要がある。つまり)、使える人がいなければ投資対効果は分からない」



●AI人材育成と採用は企業にとって最重要の経営課題



 企業はどのような人材を育成、あるいは採用すべきか。



 亦賀氏は社内組織の人材とAIスキルレベルの両面からAI人材モデルを5つに分類する。経営陣を含む全従業員を対象とした「AIに関するリテラシー保持者」、AI初級のIT部門、事業部門を対象とした「初級AIエンジニア」、AI中級のIT部門、事業部門、デジタルサービス部門を対象とした「中級AIエンジニア」、AIに特化した部門を対象とした「データサイエンティスト」、研究部門を対象とした「AI研究者」の5つのAI人材モデルを示した。



 5つのAI人材モデルについて、同氏は次のように説明した。



 「AIを自ら作って生かすためには、5つのモデルのAI人材がそろっていることが望ましい。特にデータサイエンティストやAIエンジニアを育成、あるいは採用するために相応の投資を行う覚悟が必要だ。経営陣を含めた全従業員がAIリテラシーを身につけることも非常に重要だ。これらの取り組みについて、企業は最重要の経営課題と捉えるべきだ」



 ちなみに、AI人材モデルに応じた「期待年収」について、亦賀氏は企業がこの期待年収を払えないことを起点にした「負の連鎖」が起きないように「まずはできるところからスタートする」としている。その意味では、採用もさることながら社内での育成に注力すべきだろう。



 5つのAI人材モデルについて筆者がポイントだと感じたのは、初級と中級のAIエンジニアが事業部門にも従事している点だ。これはAIリテラシーを保持した従業員がAIエンジニアの役割も担うことを想定している。現在、多くの企業が従業員をDX(デジタルトランフォーメーション)人材にするために取り組んでいるが、AIの活用はその取り組みの中核になる可能性が高い。



 その際、先述した「AIは導入するものではなく作るもの」が勘所となる。AIはツールではなくテクノロジーそのものなので、どう生かすかというところから「もの作り」が始まる。そうして作られたものはまさしく自社のビジネスノウハウになる。だからこそ、AI活用は自社で取り組むべきアクションなのである。



 亦賀氏はこの点について、「AIの活用は自社で取り組むべきだし、全従業員がリテラシーに加えてスキルも身に付けていくのが望ましい。もちろん、全てを自社で行うのは難しいので信頼できるITベンダーに支援や伴走をしてもらうのもいいが、絶対に『丸投げ』をしてはいけない。車に例えれば『自分で運転する』ことが重要だ」と述べた。



 同氏はまた、AI活用を「時代の変化に対応できる組織とできない組織」に分けて、2030年を見据えて「何が起きるか」整理した。対応できる組織と対応できない組織のプロセスは何が違うのか。



 同氏によると、時代の変化に対応できる組織はまず「危機感」を持つ。「危機感」はここまで繰り返し述べてきた「人材投資」につながり、2030年には「時代をリード」する存在になるという流れだ。



 一方、時代の変化に対応できない組織のポイントは「何もしない」。それがやがて「何もできない」状態になり、2030年まで「生き残れない」。本稿の冒頭の発言「企業はAIを活用しなければ生き残れなくなる」は、このプロセスを意図したものだ。



 そう考えると、AIは企業にとってビジネスやマネジメントの変革のためのテクノロジーであるのもさることながら、サステナビリティ(持続可能性)のためのテクノロジーでもあるということだろう。



著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功



フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。


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