上野千鶴子さんが物申す「国葬強行が分断をあおっている」 反対署名には感謝の声も

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2022年09月27日 08:00  AERA dot.

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「安倍元首相の国葬反対」などと訴える人たち。集会には多くの人が参加した=9月19日午後、東京都渋谷区
9月27日の安倍晋三元首相の国葬中止を求めるオンライン署名サイトには47万3千筆(23日正午時点)を超える署名が集まった。呼び掛け人の一人、東大名誉教授の上野千鶴子さんに反対する理由を聞いた。AERA 2022年10月3日号の記事を紹介する。


【図】安倍晋三元首相の国葬に賛成の人はどのくらいいる?
*  *  *


 国葬中止を求める署名活動の原点は2015年夏にさかのぼります。第2次安倍政権が安全保障関連法制を国会で成立させようとした際、市民は連日、国会前で大規模な抗議行動を展開しました。このとき、私たちは党派を超えた連帯を築きました。その母体が「総がかり行動」(戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会)です。今回、ごく短期間で個人や団体を結集できたのは、このネットワークが維持されていたからです。つまり、今回の署名活動は「2015年夏の遺産」といえます。私たちは「アベ政治を許さない」し、「2015年夏を忘れていない」ということを、まず強調しておきたい。


 安倍さんは自民党にとって救世主だったことでしょう。しかし、我々にとって安倍政権の8年8カ月は「悪夢のような時代」でした。これって、安倍さんが民主党政権を指して繰り返したセリフですね。歴史修正主義の傾向が強く、「日本会議」のような右派団体と深いつながりのある安倍政権は発足当初から海外メディアに「極右政権の成立」と報道されました。


■値する人物でない


「安倍政治」を振り返れば、安倍さんが国葬に値する人物でないことは明白です。


 とりわけ女性政策は、安倍政権の前史から着目する必要があります。自民党が05年に立ち上げた「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査」プロジェクトチームの座長は安倍さんでした。このチームは内閣府が検討していた男女共同参画基本計画改定に当たり、「ジェンダー」という文言の削除を要請します。この政治圧力を受け、内閣府は「ジェンダー・フリー」という言葉を使わないよう全国の自治体に通達しました。


 首相就任後も安倍さんの言う「女性の輝く社会」や「女性活躍」に、私たちジェンダー研究者は全く信用を置けませんでしたし、事実、的外れの政策ばかりでした。07年に発足した「美しい日本をつくる会」という安倍さんを支援する政治団体は、男女共同参画社会基本法改廃を目的に掲げました。




 第2次安倍政権で最初に浮上したのは、若い女性への配布を検討した「女性手帳」です。少子化を女性の問題と捉える思考が露わで、反発を受けてさすがに引っ込めましたね。安倍さんが企業に対して「育休3年」の自主的な推進を要請した「3年間抱っこし放題」も甚だピントがずれていました。


 一方で、女性が圧倒的に不利益を被っている現行の「夫婦同姓」を改める「選択的夫婦別姓」に反対する女性政治家たちを次々に男女共同参画担当大臣に据えました。例外は野田聖子さんだけです。


■存命なら矢面に


 銃撃事件後、旧統一教会と安倍さんをはじめとする自民党議員の密着ぶりが浮き彫りになった今、ジェンダー・フリーや性教育に対する安倍さんの執拗な攻撃の背後に、宗教右派の存在もあったことが容易にうかがえます。今、安倍さんが存命なら、統一教会問題の矢面に立たされていたことでしょう。


 経済政策も恐ろしい結果を招いています。12年12月の第2次安倍政権発足から首相を辞任するまでの7年8カ月間でどうなったか。例えば、12年平均で104.5だった実質賃金(15年を100とする)は19年平均で99.8まで下がりました。安倍さんは自身の政権下で雇用を増やしたと言いましたが、増えたのは非正規ばかり。正規雇用は横ばいです。円相場は今、円安が急加速していますが、円安の流れは安倍政権時代に大幅に進みました。


■法人・富裕層を優遇


 ほかにも、国民1人あたりのGDP(国内総生産)は20年に30位、労働生産性は21年で28位、正社員の男女賃金格差は主要国の中でワースト2位、22年のジェンダーギャップ指数は146カ国中116位。つまり、安倍長期政権を経て、日本は二流あるいは三流国になった。これらはすべてアベノミクスの帰結です。安倍政権の経済政策は端的に「法人・富裕層優遇策」でした。


 私たちはコロナ禍のみならず、「コロナ対策禍」にも見舞われています。国のコロナ対策が増幅した災いです。私たちは災害の経験から「減災」という概念を生み出しました。地震もパンデミックも防ぐことはできないが、ダメージを減らすことはできる。減災の逆が増災です。その一つが根拠のない全国一律休校要請です。また東京五輪・パラリンピックの強行開催のもとで感染者と死者が増えました。現在「腐敗五輪」と呼ばれる「五輪疑獄」が問題になっています。安倍さんは「1年以内に国産ワクチンができる」と断言して1年延期に固執しましたが、国産ワクチンは現在も実現していません。




■政治の私物化が特質


 安全保障政策をめぐっては、13年の特定秘密保護法の制定で国民の危機感が高まりました。14年には集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更に踏み切り、15年に先述の安保法制が制定されます。これにより、その気になれば自衛隊を全世界へ派兵できるようになりました。


 こうした安倍政治の特質を一言で表せば、「政治の私物化」です。モリカケサクラに留まらず、文書改ざんや統計操作、虚偽答弁もありました。その総仕上げが国葬です。仰天したのは、安倍さんの家族葬に自衛隊の儀仗(ぎじょう)隊が参加したことです。自衛隊の私的利用でしょう。


 国葬に対する国民世論は時間を経るほど、「反対」が優位になっています。


 私たちの反対署名が国民の分断をあおっていると批判する人がいるようですが、その逆、国葬の強行が国民の分断をあおっているのです。こういうのを本末転倒と言います。私たちは、民主的手続きも経ずに国論を割って対立をあおっている国葬に反対しているのです。


 英国民の多くが喪に服した9月19日の英エリザベス女王の国葬と、安倍さんの国葬に対する日本国民の反応の違いが際立ちます。


 私たちの署名活動には、「自分たちの怒りの声の受け皿を作ってくれた」と感謝の声が数多く寄せられました。


 いま、国葬に賛成しているのは、自民党の岩盤支持層のみです。英国首相だったサッチャーさんが亡くなったときも国葬は行われていません。国家元首でもない安倍さんを国葬にするという国際常識とのギャップは、英国女王の国葬との比較で一層鮮明になったのではないでしょうか。


 日本では今回の国葬に限らず、国民世論と政治の乖離が拡大しています。にもかかわらず、国政選挙の投票率は5割前後。投票率が低いほど政治家は組織票に依存する傾向があります。無党派層の人たちが投票に行き、投票率があと20%上がれば政権を交代させることができます。私たちはいつまで政治の劣化を許容し続けるのでしょう。投票に行かない人も安倍政権の失政を追認する共犯者です。「寝た子」に起きてもらうしかありません。


(構成/編集部・渡辺豪)


※AERA 2022年10月3日号


このニュースに関するつぶやき

  • 反対ということを私物化しているの間違いでは?あなた方の目には献花に並ぶ人の列が見えませんか?彼らは黙ってあなた方に抗議しているのですよ?それが理解できませんか?
    • イイネ!19
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