「数字はフェイク」併合はプーチン氏の焦り? ウクライナ人記者が証言する住民投票の実態

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2022年09月28日 11:20  AERA dot.

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軍人が見守る中での出前投票(Telegramより)
 銃を突きつけ投票させるつもりか――。ロシア側が、ウクライナ南・東部のロシア併合を目指して実施した「住民投票」だとする動きが、反発を招いている。現地で何が起きているのか、ウクライナ人記者に聞いた。


【写真】路上で投票?秘密は保障されるはずもない
*   *  *


「住民投票」だとする活動は、ロシア軍がその一部を支配するウクライナ南・東部4州で、9月23〜27日に行われた。「投票用紙」は「ロシア連邦への加盟に賛成ですか」と書いてあり、その下に「イエス」「ノー」のどちらかにチェックを入れる欄がある。その紙を手に、親ロシア派が戸別訪問して、投票を促した。


 4州の一つ、南部ザポリージャ州では、銃を持ち防弾チョッキを着た軍人2人と親ロ派市民3人の計5人がウクライナ人宅を訪ねて歩いた。その様子をアップしたSNSを見ると、軍人はロシアの国家親衛軍の兵士だ。その証拠に、所属を示す「緑と赤の縞の記章」が胸に映っている。ロシア南部、チェチェンから来た兵士であることが分かる。国家親衛軍はプーチン大統領直属の部隊。治安維持を担う。軍服ではない2人はアパートのドアを次々ノックした。しかし、住民が応じる様子はみられなかった。


 このSNS投稿をめぐり、ウクライナ・メディアは「事実上、銃で投票を強制する動きだ」と批判した。


 やはり「住民投票」による「ロシア併合」の動きがある4州の一つ、南部ヘルソン州の記者、オレフ・バトゥーリン氏(43)にオンラインで話を聞いた。


――なぜ、ロシアの軍人が投票にかかわるのですか。


 住民投票は地元では「11月4日」に実施される、と言われていた。それが「9月23日から投票」と20日に突然発表された。ヘルソンでは、その前日までテレビニュースでもいっさい住民投票に触れず、「投票」を訴える街中の看板もなかった。住民投票を実際に仕切っているのはロシアの占領軍だ。発表から実施までわずか3日だったのを見ると、ロシア軍が急に方針転換したのだと思います。




――ロシアのプーチン大統領は9月21日、ロシア国民の部分的動員令を発表した演説でウクライナでの「住民投票」に触れ、(投票する人の)安全を守る、と宣言しました。ロシア軍の関与と関係ありますか。


 私は、住民投票を急いだのは、プーチン大統領自身だと思う。ロシア軍を通じて、指示を出したのでしょう。国民の「士気」を高め、「部分的動員」をやりやすくする効果も見込んだはずで、これらは一体の動きとみるべきだ。ロシア軍は当初めざした首都キーウ攻略に失敗。9月にはウクライナ北東部ハリキウ州でウクライナ軍に大敗した。プーチン氏にあせりが生まれたのだと思います。


――やはり「住民投票」があった東部ドネツク州では、ロシア側の「選挙管理委員会」2カ所が爆撃されたと、ロシア国営テレビが9月26日伝えました。実質、「戦場での投票」になったのではないですか。


 ロシア軍の占領地はどこも砲弾が飛び交う戦場だ。南部ヘルソン州でも「投票」期間中の25日、ロシア国家親衛軍が拠点とするホテルがミサイルで爆撃された。戦時なので、ホテルでも軍事拠点なら攻撃が(国際法上)認められる。そのホテルに泊まっていた親ロシア派の元ウクライナ国会議員1人も亡くなった。彼は投票する様子をロシアメディアに撮影させ、ロシアのプロパガンダにのっかっていました。


――ヘルソン州では、ロシア側の「選挙管理委員会」が投票率を76%と発表しました。どう評価しますか。


 占領地の外へ逃げたウクライナ人避難民には「投票」への呼びかけすらない。州都ヘルソン市の場合、30万人中20万人が州外へ逃げた。私自身、ウクライナ西部に逃れ、滞在中だが、私も友人も親類も「投票」について何も知らされていない。「ヘルソン州選挙管理委員会」の代表者は22日、ロシアメディア向けの記者会見で「どれだけの人が投票できるのか」と質問され、「分かりません。それについては沈黙します」と答えた。「投票結果」の数字はフェイクです。


――親ロシア派の「ヘルソン州軍民行政府」はSNSの公式チャンネルで「住民投票」の様子を流していますが、「投票」している人の多くが高齢者で、若者はほとんどいません。なぜですか。




 今、ヘルソンに残っているのは年金生活者か、家族に病人がいるなどの事情を抱えている人々。「住民投票」の対象は基本的に彼らに限られています。


――彼らはどう生活しているのですか。


 ヘルソンは農業地帯なので家庭菜園で野菜などはまかなえる。しかし、冬は越せないかもしれない。物価上昇が激しくて、私の調べでは、ウクライナ西部に比べてパンの価格が3倍、シャンプーが5倍、薬は20倍する。ロシア軍はヘルソンの住民に現金1万ルーブル(約2万5千円)を配っているが、足りないだろう。しかも、ロシア軍はそれを「投票」の2週間前に停止し、「投票」開始とともに再開した。住民が外に出る理由を作り出し、「投票率」を高めようとしたのではないか。


――この「投票」結果を口実に、ロシアはヘルソンなど4州を併合する構えです。


 私たちの気持ちに変化はない。ウクライナ軍が戦って占領地域を解放する以外の道はない。それを信じています。


      ◇


 筆者は、親ロシア派の「ヘルソン州軍民行政府」のSNSの公式チャンネルを開き、バトゥーリンさんがしてくれた話と突き合せた。


 軍人の関与が確認できた。「投票」期間中の9月25日。親ロシア派の「出前投票」の画像がアップされた。「投票」場所は道路わきの屋外。親ロシア派が、学校の教壇で使うような机を運び出して地面に置く。後ろからロシア軍の軍人が見守る中、住民が机の上で投票用紙に記入する。投票の秘密は保障されず、これではロシア統合に「反対票」を入れることは不可能だろう。


「選挙管理委員会」の責任者は26日、「500余りのグループが『出前投票』を行うため、外を巡回して投票を呼び掛けた」と述べた。多くの場所で軍人も同行したとみられる。


「投票率」は発表よりはるかに低いのではないか。「選管」責任者は27日、ロシアメディア向けの記者会見で「州外に住むヘルソンの人のうち2万5千人が投票した」と述べた。州民約100万人のうち外への避難者は60万人前後。発表が本当だったとしても、州外の約4%が「投票」したにすぎない。


 本当に安全か−−。ロシアメディアのヘルソンでの「住民投票」への関心は、投票の「安全」に集中した。ヘルソン州の親ロ派幹部たちはロシアの国営テレビに相次いで出演し、「危険はある。しかし、投票所の守りは万全だ」などと繰り返した。しかし、ウクライナ軍が供与を受けたHIMARS(高機動ロケット砲システム)の射程は80キロ。州都ヘルソンに届き、実際に攻撃も起きた。


 犠牲者を生みながらの「住民投票」がロシア「併合」の理由とされるのか。バトゥーリンさんは次のように述べた。


「この先のことは分からない。もしウクライナ軍が被占領地で勝てなければ、私たちを悲しい運命が待っているかもしれません」


 岡野直/1985年、朝日新聞社入社。プーシキン・ロシア語大学(モスクワ)に留学後、社会部で基地問題や自衛隊・米軍を取材。シンガポール特派員として東南アジアを担当した。2021年からフリーに。関心はロシア、観光、文学。全国通訳案内士(ロシア語)。共著に『自衛隊知られざる変容』(朝日新聞社)


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