大胆な格好をするわりにはシャイな中年男性の美意識と渇望

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2022年09月28日 14:50  ウートピ

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ウートピ

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懇意にしている美容サロンのお手伝いを頼まれた森美樹さん。その美容サロンには、女性だけでなく、女装家さんたちも入れ替わり立ち替わりでやってきたのだそう。今回は、森さんが彼らと接するなかで感じた「女装家の美意識と渇望」についてのお話です。

*本記事は『cakes』の連載「アラフィフ作家の迷走性(生)活」にて2018年3月31日に公開されたものに、一部小見出しなどを改稿し掲載しています。

2018年の年明けに、私は少しばかり新宿で働いた。懇意にしていた美容サロンで人手が足りなくなったため、私に声がかかったのである。アルバイト程度ならできるだろうと、私は喜々として出勤したのだ。

純粋に女装を楽しむ男性達

その美容サロンには、性別不詳の顧客も多数いらした。ええ、新宿だもの。

人には誰しも変身願望がある。幼少期に女子はお姫様に、男子はヒーローに憧れただろう。究極の変身は性別変換だと思うが、男装をする女性(宝塚を除く)よりも女装をする男性の方が圧倒的に多い。性的趣向とは別に、純粋に女装を楽しむ男性が急増しているのだ。

テレビドラマや映画で、若い俳優が女装家に扮する姿も、ここ数年ですっかり板についた。イケメン俳優の女装姿が、ともすれば女優さんの美を超越してしまうなんてこともザラだ。若くてもともと容姿がよければ、女装も決まる。

でも、これはあくまでテレビの中だけのお話。現実的には、いい歳したおじさんだよね? ハゲてるよね? といった女装家さんもたくさんいる。六角精児さんや温水洋一さんが女装したのを想像すると、わかりやすいかもしれない。そういった方々は、ご自身の容姿が周囲にどう受け止められるかを理解され、大胆な格好をするわりには(失礼!)、奥ゆかしくシャイで可愛らしい。

女装家というのはひとつのカテゴリーにあらず

私が勤務した美容サロンにも、そんな女装家さん達が入れ替わり立ち替わりでやってきた。本名とは別に皆さん女装家ネームを持っているから、かなりややこしい。電話で予約してきた時は野太い声で「佐藤です」と言っておきながら、来訪された時に「佐藤さんですね」と確認すると拗ねてしまう。こちらはすかさず、「あ、シュガーさんですよね!」と訂正しなければならない。

やがて私は、女装家というのはひとつのカテゴリーにあらず、というのを肌で学んだ。外側だけをそれっぽく整えるファッションパンクスならぬファッション女装家と、内側と外側の両方から完璧にアプローチする女装家マイスターだ。「内側からのアプローチ」というのは、すなわち「北島マヤ」である。よりわかりにくくなっただろうか。端的言えば、演じるのではなく憑依してしまうのだ。女装して佇むだけで「趣味はレース編み。蜂蜜入りのミルクティーを飲みながら」という空気を醸し出してしまう。恐ろしい子! ついでに私の旦那さんも女装家だが、彼は後者のタイプである。

ファッション女装家と女装家マイスターという2つの区分けはあくまで私の独断であり、仮説の範疇にすぎない。女装家のメンタリティやバックグラウンドには、私の想像が及ばないデリケートな問題も多々あるということを、付け加えておく。

女装家マイスターを目指している人は、普段は男性として生活している方々だ。手始めに何を足したらいいか(髪の毛とか胸とか)、何をなくしたらいいのか(髭とかすね毛とか)わからないのは当然だし、一般女性が北川景子に成りきるのとはまた違った無謀さがある。しかし! 無謀だと承知の上で無謀をぶち壊す、根性と気概がそなわったのが女装家マイスター(を目指す方々)。その心意気を昇華するため、私もお手伝いさせていただいた。生まれて初めて、男性にメイクしたのである。

「私色に染めてやる」

初めての相手というのは重要だ。処女喪失、童貞喪失、ともに今後の性生活を左右してしまうし、トラウマの発露にもなるだろう。私にメイクを依頼した男性と依頼された私、双方が初体験同士だ。この場合、女性の私がリードしなければならない。それこそヤンキーノリというか米米クラブの歌にもあったが「俺色に染まれ」の女装家バージョン「私色に染めてやる」だ。

小鳥のようにふるえる中年男性を、「リラックスしてくださいね」とか「目をとじましょう」など、労わりながら、ハイライトやコントロールカラーやコンシーラーなど、5種類くらいのベースを駆使して丹念に「ザ・男」を封印し、ファンデーションやチークで女装家色にぬりかえていく。

「とてもきれいですよ」なんて、ささやきながらパフやフェイスブラシを操っていると、こちらの気分がセックス百戦錬磨の男性のようになっていくのだ。そう、私の中の男性性が目覚めたのである。と同時に、目の前の男性がみるみる女性になっていくではないか。なんだか私は、初心い少女を脱皮させた、記念すべきテクニシャン野郎になったように誇らしくなった。

サロンでの体験を知った旦那さんの一言

ちなみに女装家歴の長い私の旦那さんは、素人の頃にメイク講座の門を叩いたという。化粧品会社が主宰していたそこは、当然女性しかおらず、旦那さんはさぞ目立ったことだろう。

私が美容サロンでの体験を話すと、

「他人にメイクを任せるようじゃ、まだまだだね」

と一喝。まるで「今時の若い者は」と説教し始めるオヤジのようだったが、一理はある。私達女性も試行錯誤を繰り返し、自分らしさを追求していくのだから。反面、一度はプロにスタイリングしてもらいたい、という願望もある。誰かによってもたらされる、未知の自分に会いたいのだろうか。

「男性が初めてメイクするのって、女性の初体験と似てるね」

とは、旦那さんには言わなかったが。

メイクもセックスも相性が良いのに越したことはない

私のメイクの腕など、てんでたいしたことはないのだが、お相手となった男性にはマッチしていた。相性が良かったのだろう。

初めてのセックスも、相性が良いのに越したことはない。私の理想は、究極に巧い男性との初体験だ。しかも一期一会。思い出がいつまでもきらめくように。

私が初めてメイクした男性からも、二度目の依頼がこなければいい。初体験の相手は、心の中で天の川となり、一年に一度、甘酸っぱく回想するくらいがちょうどいい。

私は今まで、様々な女装家さんを見てきたが、そのへんにいる女性よりも女子力がすこぶる高い。ファッション女装家は前述の俳優然り、容姿が恵まれている場合が多いのだが、女装家マイスターはこれにあらず。つまり、内面にある女性性が普通の女性よりも高いということを意味する。

男性が本物の女性になるのは、リスクも付きものだしハードルも高い。不細工が美形になるのも、年齢を逆行させるのも、やはり至難の業だ。それを十二分にわかっていても、「女装がしたいの!」という勇気、でもコンプレックスがあるから奥ゆかしくてシャイ、このギャップに、私の胸はかきむしられるのだ。

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