「本当はもっと大型の資金調達を予定していた」 45億円集めたoVice経営層が明かすファイナンスの裏側 “SaaSバブル崩壊”の影響は

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2022年09月29日 11:32  ITmedia NEWS

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バーチャルオフィス「oVice」のイメージ

 「実際はもっと大型の調達を予定していた。SaaS企業への投資がバブル状態だったときはこんな状況になると思っていなかった」「バリュエーション(時価総額)ももう少し強気に設定していた。しかし毎週SaaS企業・テック企業のバリュエーションや株価が落ちていて、目に見えて投資家の関心が落ちていくのが分かる状況だった」



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 バーチャルオフィス「oVice」を提供するoVice社(石川県七尾市)のジョン・セーヒョンCEOと、ベンチャーキャピタルのOne Capital(東京都港区)から出向している盛島正人CFOは、oVice社の資金調達をそれぞれこう振り返る。oVice社は8月、One Capitalなどから45億円の大型調達を発表した。当初はもっと大型の調達を予定していたが、ウクライナ情勢などで市場の状況が変わり、規模を縮小せざるを得なかったという。



 「結果的には、ベンチャーキャピタルのお金が一番冷たい(出資しにくい)ときに大型調達をしてしまった」とセーヒョンCEO。45億円を集めてなお「冷たい」といわしめる資金調達の現状を、2人がオンラインイベント「oViceシリーズB 45億円資金調達の裏側」(9月16日開催)で振り返った。



●ウクライナ情勢で雲行き怪しく かみ合わなかった当時の判断



 まず、oVice社が8月に発表した資金調達の詳細を整理する。同社は45億円のうち、40億円をベンチャーキャピタルなどのエクイティファイナンス(原則として返済に期限がない、株式を発行して資金調達する方式)で、残りの5億円はみずほ銀行と商工組合中央金庫から融資を受けて調達した。



 今回の資金調達については、直前の資金調達が完了したタイミングから検討を始めていたという。同社は2021年9月にOne Capitalなどから18億円の資金調達を発表していたが、当時の業績が好調だったこともあって「資金をすぐ使い切ろうと思っていた。勢いがあったので、行けるところまで行きたいと思い、結構アグレッシブなプランを組んでいた」(セーションCEO)



 ただ、その時点で雲行きは怪しい状況だったという。「11月をピークに、そこからどんどんSaaS企業の株価やバリュエーションが毎月、毎週下がる感じだった。すぐ戻ってくるかなと思っていたら、ずっと下がり続けて……という市場の状況だった」(盛島CFO)



 さらに2月末には、ロシアがウクライナへの侵攻を開始し、その後の市場をさらに冷え込ませたという。ただし侵攻開始の時点では、oViceをはじめたとしたバーチャルオフィス市場への影響を読めていなかったとセーヒョンCEO。「分からないまま資金調達する方向にしてしまった」と振り返る。



●投資家たちも手のひらがえし やむなく方針転換



 実際、投資家たちの目線もこの時期を境に大きく変わったという。ピーク以前では「強気のバリュエーションを出してもいろんな投資家さんにちやほやされる状況だった。当初のプランはいい感じに進んでいた。われわれとしても選ぶ側だと思ってやっていた」とセーヒョンCEO。



 盛島CFOも「投資家と対話する感じではなく『バリュエーションはこれです、いついつまでに振り込んでください』という感じで、成長している企業だからできた話し方だった」と振り返る。



 しかし、市場が冷え込み始めた段階で、当初進めていた交渉が破綻。他の投資家にも出資を断られてしまったという。以前集めた資金を積極的に使う方針だったこともありセーヒョンCEOは「もう一度交渉が破綻したら終わりかもしれない状況だった」と当時を振り返る。



 そこでoVice社は資金調達の方針を転換。バリュエーションを下げ、これまで声をかけていなかった投資家とも交渉するようにした。「バリュエーションなどを下げ、集めた資金で事業を集中して伸ばし、われわれしか残っていないような市場で今後より高いバリュエーションを狙う。生き残るための戦略が勝ち筋だと思った」(セーヒョンCEO)



●苦境でも45億円を集められたワケ 背景に2つの勝因



 方針の転換を余儀なくされたoVice社。それでも45億円の資金を集められた背景には、同社が抱える2つの強みがあったという。



 一つは盛島CFOの存在だ。ベンチャーキャピタルから出向していた盛島CFOは、投資家側の動向を詳しく把握できており、資金調達に役立てられたという。「投資委員会(出資を決める場)のメンバーの名前や、誰が何票持っていて、誰が賛成しているか、反対しているかまで把握していたので、重要人物を直接抑えて交渉した」(盛島CFO)



 もう一つは、過去に銀行からの融資を受けた経験があったことだ。5億円の融資について「何か駆け引きするより、過去の実績があったほうが融資が受けやすいといううわさがあるが、本当だった」とセーヒョンCEO。「『すごい少額だけどマジでこれやるの?』って金額でも、1回やっておいた方が後に大きい金額を借りるときもすんなりいきやすい」と振り返る。



 実際、今回の融資についての動きは2月ごろから始まったが「過去の融資はもっと時間がかかった」(セーヒョンCEO)という。「ここで浮いた工数が今回の調達にとって大きいなと思っている。これから資金調達するのであれば、無駄に見えるかもしれないが、金額が安くても一回取引しておくのがいいと思う」(セーヒョンCEO)



●事前のデータ収集・分析に不足 2人が感じた反省点



 一方、セーヒョンCEOは今回の資金調達について「準備なしで通過してしまった」と反省点を語る。特に、ユーザーのデータを収集・分析し切らないまま行動してしまったときに準備不足を痛感したという。



 「ユーザーのデータや指標に対する考えを聞かれたときに『なんか成長してますが、考えたことはないですね』としか思っていなかった。さすがにそう答えるわけにはいかないので、後でロジックを組み立てたり、追加のデータを取ったりした。当時は結構焦っていた」(セーヒョンCEO)



 「ユーザーがどれだけバーチャルオフィス内で動いているか、どれだけ発話したかといったデータの有無を聞かれたが、用意していなかった。次回の調達に向けて準備を進めるしかなかった」(盛島CFO)



 社内の“暗黙の了解”を明文化しておらず、投資家に伝えきれない情報があったことも反省点という。「外部から指摘されて気付いたこともちらほらあった」とセーヒョンCEO。もしやり直せるのであれば、資金調達前に1〜2週間ほど社員と対話する時間を作り、成長の要因などを明確化しておきたいという。



●資金は米国展開に活用 海外投資家の注目も狙う



 紆余曲折の果てに45億の大型調達を達成したoVice社。同社は今回の資金を米国へのサービス展開や人材採用、マーケティングの強化などに充てるという。中でも米国への展開は重要事項といい、海外での売り上げを増やし、海外投資家の注目も集めたいとしている。



 「市況をを踏まえて下方修正はしたが、夢いっぱいの事業計画を海外投資家に持っていったところ『夢がない』といわれ、同意しつつも『これが海外か』と思った。日本のスタートアップとして拡大していくのであれば、それくらいの規模を見せていかないとキツいのかと感じた」(セーヒョンCEO)


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