元ホンダF1トップ・山本雅史氏が語る「F1の表彰台の真ん中に立つ日本人ドライバーが誕生するために必要なもの」

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2022年09月30日 08:41  週プレNEWS

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元ホンダF1マネージングディレクターの山本雅史氏。今年1月にホンダを退社し、現在はMASAコンサルティング・コミュニケーションズを設立


ホンダの第4期F1活動の最終年となった昨シーズン、マネージングディレクターとしてレッドブル・ホンダのM・フェルスタッペンのドライバーズチャンピオン獲得に貢献した山本雅史氏。

【写真】マックス・フェルスタッペン選手と映る山本氏

ホンダにとって30年振りのタイトル獲得というミッションを達成し、今年1月にホンダを退社。現在はレッドブルの子会社レッドブルパワートレインズ(RBPT)と契約し、アドバイザーとしてチームの躍進を支えている。

山本氏にとって初の著書『勝利の流れをつかむ思考法 F1の世界でいかに崖っぷちから頂点を極めたか』(KADOKAWA/10月6日発売)は、組織を運営するマネージャーの視点から第4期F1活動の舞台裏を克明に記録した戦記である。山本氏のマネジメント術や思考法は、組織で働くビジネスマンにとって示唆に富んだ一冊となっている。

■切れるカードは一枚でも多く持っておくことが大事

――ホンダのF1活動というと、マシンの心臓部であるPUを開発する作業着姿のエンジニアやメカニックをイメージする人が多いと思いますが、山本さんはマネージングディレクターとしてチームとの交渉を行なうなど、いわゆる政治の世界に携わっていました。F1ではどういう仕事をされていたのでしょうか?

山本 F1のマネジメントの仕事は、「こうあるといいね」という青写真を描くのが最初の仕事です。「ホンダがタイトルを獲るためには2015年のF1復帰後にパートナーを組んでいたマクラーレンと勝てるのか、厳しければ違うチームと組む必要がある」というシナリオをどんどん創っていきます。

その次は、F1チャンピオンというゴールに向かって道を創っていくのがメインの仕事です。マクラーレンと離れた後は、中堅チームのトロロッソと組むことが決まったけど、そう簡単にタイトルがみえてくるわけではありません。

メルセデスとフェラーリは自前でPUを作っていて、現実的にホンダがトップチームの中でPUを供給できるのはレッドブルしかない。彼らと組むにはどうすればいいのか? その実現に向けたシナリオを書いて、会社(ホンダ)に交渉して2チーム体制の予算を獲得し、レッドブルの首脳陣と契約交渉をします。ほかに、F1の主催側と権利関係の話などもします。

――F1は弱肉強食の世界です。山本さんはこの本で、F1のトップに君臨する人たちを、獰猛な肉食魚ピラニアにたとえて「ピラニアクラブ」と呼んでいます。そうした相手との山本流のコミュニケーション術とは?

山本 欧米の人たちは直球ですよ。だから僕も直球で話をします。別にオブラートに包まないし、自分がやりたいことはこうなんだと素直に話すことを心がけていますね。

人によっては同じことを話しても受け止め方が十人十色なので、時には変化球も投げますが、ストライクゾーンは外しません。「たまにはボール球を投げた方がいいよ」と言われることもありますが、F1は即決即断の世界です。ボール球を投げたってメリットがありません。時間の無駄です。

あと僕の場合は、人間関係は常にオープンな状態にしておきます。過去にチーム側との契約や交渉で何かあったとしても、パドックで会えばコーヒーを飲みながら雑談したりして常にパイプを築いておく。

F1の世界は何が起こるかわかりません。2年後、3年後のことは誰も予測できないので、事態がどう転んでもいいように切れるカードは一枚でも多く持っておくことが大事なんです。普段から、「F1村」の人たちとの関係を作っておくことは、いざというときのカードにもなる。

だから僕は、離婚したマクラーレンの首脳陣や、当時のドライバーだったF・アロンソとは今も良い関係で、昨年の最終戦アブダビGPのレース後にはパルクフェルメで最初におめでとうと言ってくれました。


■現場に行かず、任せっぱなしはダメ

――マネージングディレクターは社外だけでなく、社内のさまざまな調整も必要です。ホンダ時代にはどのように組織を動かしてきたのですか?

山本 僕は基本、放任主義なんです。カッコよくいえば権限委譲。企画が決まり、組織の全員が「ゴールはどこなのか?」という意識を共有できたら、あとは担当者に一任します。

まあ、自分もやりたいことがたくさんあるし、そんな四六時中机に座っている性格じゃないので、いちいち細かく見ていられないということもありますけどね(笑)。

ただ真面目な話、性善説で部下や仲間を信頼して、仕事を任せた方が絶対にモチベーションが上がるじゃないですか。僕も若い頃はそうでしたから。仮に失敗したとしても、本人が当事者意識を持っていれば、失敗を糧に本人が成長し、結果的に強い組織になっていくと思います。

ただし、同じ失敗を繰り返してはいけません。それでも現場に行かず、任せっぱなしにしてはダメです。僕はホンダのレース活動全般を管轄するモータースポーツ部長のときは国内外問わず、なるべく現場に行って、何が起きているのかを見守るようにしていました。

――でも、これは日本の会社あるあるですが、どんなに組織のためになる仕事をしていたとしても、若い人が勝手に進めると「俺はそういう話は聞いてない」と、ストップをかける上司がいますよね。

山本 日本の企業で偉くなっていく人たちは自分が知らないところで勝手に物事が進んでいること自体が嫌なんですよね。僕は若い人たちがうまく仕事を進めていると、「よかったね」で終わりです。それ以上は何もありません。いちいち報告させようとするから、パワーポイントで書類を作成する時間が増えたりして、意思決定のスピードが下がってしまう。

「わざわざパワーポイントで書類を作らなくても、こことここの要点を伝えればいいんじゃないの?」と若い人に言ったこともあります。会社として最低限のものは必要ですが。そうやって無駄を省き、現場に権限委譲し、俊敏に動ける組織を構築することが僕流のマネジメントでした。


■マネジメントとは「きれいな球体を作ること」

――ホンダを退職後、山本さんはRBPTとコンサルティング契約を結び、アドバイサーを務めています。ほかにも、国内最高峰のスーパーフォーミュラでも監督を務めていますが、今後の目標は?

山本 実はホンダを独立して会社を立ち上げたときには、具体的なプランは何もなかったんです。ホンダでは本当にたくさんのことを学ばせてもらったので、それを糧にして、誰かに喜んでもらえるような仕事をしたいと漠然と考えていました。

今、レッドブルと日本の企業の架け橋になりたいと思って、そのお手伝いをしていますが、一番の目標はF1の表彰台の真ん中に立つドライバーを発掘、育成することです。

これまで鈴木亜久里選手、佐藤琢磨選手、小林可夢偉選手の3人がF1の表彰台(3位)に上がっていますが、真ん中に立った人はいません。これまで誰もやってないことに挑戦していきたいですし、何よりも日本のレースファンが喜んでくれることをしたいと思っています。

――表彰台の真ん中に立つ日本人ドライバーが誕生するために必要なものはなんだと考えていますか?

山本 ホンダ時代はF1を始め、国内のスーパーGTやスーパーフォーミュラなど、さまざまなレースに足を運び、そこで戦う日本人ドライバーをたくさん見てきました。長くレースの現場にいると、それぞれのドライバーの足りないところがわかってきます。

僕はマネジメントとは「きれいな球体を作ること」と表現をしています。ドライバーが自らでは気づけない"欠けている要素"を見つけ出して伝える人が絶対に必要で、それが僕たちマネジメントの仕事だと思っています。

メンタルやフィジカル面に限らず、食事や生活スタイル、コミュニケーションなど、あらゆる欠点を洗い出し、きれいな球体になってゴールを目指していけるように全体をサポートしていくことが、日本人ドライバーが世界で戦うために必要なものだと考えています。

F1の表彰式で「君が代」が流れることが、僕を育ててくれたホンダと日本のレースファンへの恩返しになると思っています。その夢を実現するためにこれからも貢献していきたいです。

●山本雅史(やまもと まさし)
1982年、本田技術研究所に入社し、デザイン開発部署を経て技術広報などを歴任。2016年にはホンダのモータースポーツ活動を統括する部長、19年からはホンダF1のマネージングディレクターを務め、21年のレッドブル・ホンダのドライバーズタイトル獲得に貢献する。22年2月に独立し、MASAコンサルティング・コミュニケーションズを設立。レッドブル・パワートレインズ(RBPT)と契約しアドバイザーとしてF1で活動を続けながら、国内最高峰のスーパーフォーミュラではTEAM GOHの監督を務め、若手ドライバーの育成も行なっている

取材・文/川原田剛 撮影/樋口涼

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