2030年「札幌五輪」を目指す地元の今 道民悲願のはずがコロナで誘致機運は低調

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2022年09月30日 11:00  AERA dot.

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北海道新幹線の延伸をにらんで建設工事が進むJR札幌駅の11番ホーム。10月中旬から供用が始まる見込みだ=3月撮影
コロナ禍に東京五輪をめぐる汚職事件……。30年大会の「本命」の札幌で、熱気が急速に冷え込んでいる。AERA 2022年10月3日号の記事を紹介する。


【写真】新函館北斗駅に到着した東京発の北海道新幹線。札幌延伸が地元の悲願だ
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 スイス・ローザンヌのレマン湖畔に立つ国際オリンピック委員会(IOC)本部。今月13日、札幌市の秋元克広市長の姿は、そこにはなかった。2年ぶりに同地でトーマス・バッハ会長との会談を模索したが、取りやめになったからだ。


 1972年、日本初の冬季五輪を開催した札幌市は、2030年をターゲットに2度目の招致を目指している。ねらいは人口減と高齢化が進むなかで「次の100年も持続可能なまちをつくる」。市が重視するのが「都市インフラの再構築」だ。五輪を機に建設された地下鉄や大通地下街、高速道が半世紀を経て、老朽化が進む。五輪を再び開催することで民間投資を呼び込み、都市の礎を復活させるというわけだ。


 IOCの理事会で最も影響力を持つのがバッハ会長だ。そのバッハ会長と秋元市長はこれまで3度、顔をあわせている。市幹部は「4年前から2人はじっくり対話を重ねてきた」と、その蜜月に自信を見せていた。


■勝負の一手が空振り


 秋元市長は今年9月中旬、IOC訪問と会談を模索した。4度目の会談は勝負をかけた一手だった。


 がしかし、7月下旬以降、東京地検特捜部による東京五輪をめぐる汚職事件の捜査が一気に進んだ。そのさなかの会談を疑問視する見方も出始めた。市は市長の渡欧直前、IOC訪問の中止を発表。IOCからの申し出によるものだった。IOCは中止と事件との関係は否定し、秋元市長も「今後もIOCとの対話の機会を模索していく」と語った。


 札幌市が2度目の冬季五輪招致に名乗りを上げたのは、2014年11月。1万人の市民アンケートでは66.7%が招致に賛成した。当時、ターゲットは26年大会だった。しかし18年9月に胆振東部地震が発生し、道内ほぼ全域が停電(ブラックアウト)に見舞われた。緊急時の電力網整備の必要性などが課題となったことから、招致を30年大会に切り替えた。五輪の開催地が18年冬の韓国・平昌、20年夏の東京、22年冬の北京と続き、同じアジアの札幌が26年を目指すのは不利だとの観測もあった。




 ただ、先送りは必ずしもマイナスだったわけではない。招致を表明した当時の市長、上田文雄氏は「30年への先送りは当初から想定していた。1回目の立候補では決まらないだろうと思っていた」と明かす。


 先送りを想定した背景にあったのが、道民の長年の夢だった「北海道新幹線の札幌延伸」だ。当初35年度とされていた新幹線の延伸は15年に5年前倒しの30年度になった。札幌駅周辺では延伸を見据えて民間資本による大規模開発が続き、市の固定資産税の増収も期待された。当初見込まれた五輪に関する市の負担額は約630億円。「税収が増えれば、五輪にかかる経費も負担できる」(上田氏)。招致が30年に先送りとなれば、延伸と五輪の時期が近づき、財政の後押し効果がさらに強まると見込んでいた。


■前向き姿勢の市長


 現職の秋元市長は、15年市長選で上田氏の後継候補として、旧民主党と旧維新の党の推薦を受けて初当選した。19年の選挙では自民や公明からも支持を受け、盤石な政治体制を確立した。上田氏から受け継いだ五輪招致と再開発事業には特に力を入れてきた。2期目の初登庁では「新幹線の札幌開業の前倒しは必然だ」と語った。


 地元経済界も、新幹線と五輪は「北海道経済の起爆剤になる」と期待する。もともと北海道の経済構造は公共事業の比重が大きい。札幌商工会議所の勝木紀昭副会頭は今年2月の朝日新聞のインタビューで、基幹産業の観光業復活のためにも、新幹線を始めとする高速交通網が欠かせないと主張。公共事業で国の支援を引き出すため、五輪のような大型事業を誘致する必要性を訴えた。今年に入り、JR札幌駅では、新幹線札幌駅をつくる工事が本格化。タワーマンションの建築ラッシュで市内の新築マンションの平均価格は昨年、初めて5千万円を超えた。上田・秋元市政の青写真通りに、市の固定資産税収入は12年以降、上昇傾向が続いている。


2014年から始まった冬季五輪の招致に約200万人の市民は当初は歓迎ムードだった。半世紀前の冬季五輪で地下鉄や大通地下街、高速道など都市の礎が築かれた「成功体験」を知る人が高齢者を中心に多かったからだ。そんな空気を打ち砕いたのが20年のコロナ禍と21年の東京五輪だった。東京五輪は1年遅れの開催となり、感染拡大で無観客となった。運営費の膨張も重なり、五輪への否定的なイメージが広がっていった。市幹部は招致活動と重なったことに「タイミングが悪いの一言に尽きる」とこぼす。




 14年度の約500万円から始まった五輪招致関連費は年を追うごとに増加。22年度は過去最高の6億円を超える予算を計上する意気込みだった。IOCが開催地を選ぶ際に重視する地元の支持率を少しでも高めるためだった。


■コロナも逆風に


 しかし、コロナで目算は狂った。感染拡大で道内全域は1月下旬から約2カ月にわたり、まん延防止等重点措置が適用された。北京冬季五輪への市職員派遣も見送られた。


 3月、地元の意向調査が行われた。ふたを開けてみれば、市民への郵送調査、市民・道民へのネットと街頭調査でいずれも賛成派が過半数を占めた。関係者は胸をなで下ろしたが、反対派が全調査で25%以上を占めた。賛成派は8年前の招致アンケート時よりも減っていた。


 30年の開催時にコロナのような感染症が再び世界を襲う懸念は払拭できていない。昨年11月、市が公表した大会概要案は経費を2800億〜3千億円へ減らす一方、コロナ対応などで予備費は200億円増やした。


 朝日新聞社が9月に行った全国世論調査では、30年冬季五輪・パラリンピックの札幌開催について全国では「賛成」が55%、「反対」が38%と賛成の方が多かった。ただ地域別でみると、地元の北海道だけは「反対」が「賛成」を上回った。「市民の五輪への関心は極めて薄い」「まったく熱気を感じない」と複数の自民党系市議がもらすほど招致機運は低調だが、札幌が30年大会の「本命」との見方はいまも強い。


 五輪招致を推進する秋元氏は来年4月の統一地方選で改選期を迎える。出馬表明はしていないが、3期目を目指すことは確実視されている。一方、元市幹部の高野馨氏が7月、五輪招致反対を掲げて名乗りを上げた。


 30年大会の開催地は年内に内定するとみられていたが、正式決定の場となるインド・ムンバイでのIOC総会が来年5〜6月から9〜10月に延期された。インドの五輪委の組織問題が理由だが、開催地の内定時期もずれ込みかねない。内定時期に近いタイミングの市長選は、「五輪信任投票」の色彩を一段と強める可能性がある。


(朝日新聞記者・日浦統)


※AERA 2022年10月3日号


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