アニメ界の“最終防波堤” 「作画崩壊」でトレンド入りした演出家に直撃インタビュー 「作画監督が10人とかいるアニメは無駄の極み」

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2022年10月02日 21:02  ねとらぼ

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ねとらぼ

業界構造について解説する佐々木さん

 ――とんでもない奴がいる。というのが第一印象だった。



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 ことアニメ業界というのは金銭関係の問題が尽きない場所だ。脱税や詐欺、バックマージン、はては計画倒産による未払い……さらにはアニメーター等のスタッフに対する低賃金がそうだ。そこへ来てアニメ演出家・佐々木純人氏の次のようなツイートが目に飛び込んできた。



「次はどこの予算抜いたろーかな」「これで儲け100万くらいw」



 担当作品が「作画崩壊」だと叩かれ炎上してもどこ吹く風。過去の言動をたどると「4000万円近い年収」をほのめかす投稿も見つかった。



 こうした傍若無人な態度に憤りを覚えつつも、絶えずハイペースで新作を作り続け、待遇改善の必要が叫ばれるアニメ業界の中にあって羽振りの良さを隠そうとしない姿勢に興味をひかれた。この演出家は何者なのか? 早速コンタクトを取ってみると、あっさりインタビューの了承が得られた。



 都内某所。閑静な住宅街に彼はいた。外見はただの髭の生えた、小太りの中年だ。氏が代表を務める「スタジオレオ」の応接室に通され、単刀直入に例のアニメの話から聞いてみることにした。



●アニメーターじゃないのに、原画を描いている



――先日は「作画崩壊」だと随分叩かれていましたね。



佐々木 今日はその辺についてもお話しできればと思っています。



――その作品では原画も担当されたそうですが、佐々木さんは演出家であり、アニメーターでもあるのでしょうか?



佐々木 アニメーターではないです。



――え?



佐々木 演出は本来、原画は描きません※。作画畑出身なら話は別ですが。



【※演出】演出はアニメーターから上がった絵を演出的な観点でチェックし、芝居や画面のバランス、他セクションへの指示出しなどに問題があれば修正指示をする。通常は直接原画は描かず、デッサン的な絵の修正などは作画監督が行う。



――それなのになぜ原画を?



佐々木 まず前提として、ちゃんと描けるアニメーターと、それに見合う昨今の相場程度の予算。これらがそろっている必要があるんです。



――そろっていなかったと。



佐々木 今の相場は1カットの原画が5000円以上。このくらいでやっと、何も使えない上がりを出してくる海外のなんちゃってアニメーターに渋々発注出来ます。国内はさらに高く、しかも他社の作品スケジュールの細い隙間に作業を頼めるかどうかです。



――頼めたとしてもガチャ感があるわけですね。



佐々木 5000円でもガチャなのに、例のアニメは単価が4000円でした。発注がそもそもできない。おまけに、うちに相談が来た時点で放送まで4週切ってる状態でした。あなたならどうしますか?



――なるほど、見えてきました……。



佐々木 そのため、あのときはコンテを描いて、原画※、演出、制作(進行)まで自分でやりました。背景もウチと取引のある会社と直接やりとりしているので、1人でほぼ全部把握できる状態です。



【※原画】ここでいう原画とは「第1原画」のことを指す。第1原画にはカットの設計図となるレイアウトと、ラフ原画(原画を清書するためのたたき台的な素材)、タイムシートなどが含まれる。



――制作進行までやっている演出さんはちょっと聞いたことないですね。



佐々木 あの予算であれば、「自分」と「社内」でほぼ完結するこの作り方が一番現実的かつ、無駄がなかった。



――予算の問題を受けて、最大限コンパクトな制作体制を取ったと。



佐々木 そうです。もっと究極的なアニメ作りの思想を言うと、俺は常々「アニメ制作は3〜4人いたら成立する」とも思っています。



――確かに、昔のアニメを見ると原画人数は今より少ないですが……。



佐々木 極端ですけど、「北斗の拳」なんて原画が1人とか2人の回がありました。いろいろな作業者にばらまく方が、腕の足りない人のところで止まる可能性は高くなる。その人の手元で止まると、今度は制作進行がアニメーターを追っかける必要が出てきて、そうしたタイムロスが積み重なってスケジュールがずるずると伸びていってしまう。それだったら最初から少数精鋭で作った方が、はるかに効率が良いんです。



――でも、そんな無茶な作り方、本当にできるんですか?



●飲み物を取りに来たアニメーターが乱入



アニメーターA (冷蔵庫を閉める音)今日は何をやってるんですか?



佐々木 インタビュー中で、スタジオレオの作り方は変わってるという話。



アニメーターA ああ、確かにうちは他社と比べると特殊に見えるかもしれませんね。



佐々木 彼はそんな特殊な作り方を支えてくれているスーパーアニメーターです。1カ月にレイアウトを300カット描いて、月収200万円とか普通に稼いでしまう。



アニメーターA いや、もう300カットはやりたくないです(笑)。今月抱えているのは200カットです。



――200カットでも十分多いのでは……?



佐々木 テレビアニメは1話がだいたい300カット前後ですね。



アニメーターA 業界でもかなり手が早いほうだとは思います。基本的には拘束料※プラス単価の形でお仕事させていただいてます。



【※拘束】スタジオ側が自社の仕事を優先してもらうため、アニメーターにまとまった金額を支払うこと。



佐々木 なので、俺とA君の2人がいれば、アニメ作りの前半に当たる「原画」「演出」部分が終わってしまうんです。



アニメーターA これはどういった趣旨のインタビューなんですか?



佐々木 アニメが「作画崩壊」する裏側と、佐々木が何者なのかについて。



アニメーターA 佐々木さんはアニメ界の“最終防波堤”ですよね。佐々木さんのところに来るような仕事って、そもそもこちらに依頼された時点でスケジュールがやばいし、もう全然まともな人が集められてないし、落ちそうなんですよ。



佐々木 そうですね。



アニメーターA だから、普通の人は受けないんです。なぜなら金銭的にも、仕事の負担的にも自分に得がないし、評判としてもマイナスにしかなりませんから。でも佐々木さんは制作さんがかわいそうだからと言って受けてしまう。



 作画が明らかに崩れているアニメは、多くの場合スケジュールとか腕のあるアニメーターを集められなかった制作側に問題があったのかなと、見る人が見れば思うんです。でも、ツイートとかのイメージもあって誤解されがちですよね。



――今回の取材もツイートがきっかけでした。



佐々木 俺はアニメ業界のあり方に対して疑問を持って見てもらいたい、考えてもらいたいと思っているので、Twitterではあえてああいう書き方をしているんです。



――確かに、ツイートだけ見ると「なんでこんなこと書いてるのに、仕事が減らないんだろう?」という疑問が湧いてきます。



アニメーターA 佐々木さんの横で実際の仕事を見ているから分かるんですが、佐々木さんは基本的に使えない素材を修正しまくっているんです。



 作品のできが「マイナス100万」ぐらいだったのを「マイナス10万」ぐらいまで引き上げるのは外部からは見えづらいんですが、一緒に仕事をした監督やスタッフからはそこをちゃんと評価してもらってます。



――素材を修正しまくってるということですが、以前「修正用紙2枚しか入れなかった」みたいなツイートもしていたような……。



佐々木 ありましたね。あのときはせっかく描いた修正指示が、ほとんど全て無視されてしまったんです。ラッシュチェックで「おかしいぞ」となり、データを確認してみると、修正が2カット分だけスキャンされていて、他はスキャンされてなかった。



――大事故では?



アニメーターA 演出の「こういう風に直してほしい」という指示が無視されてしまうと、当然、仕事が全部なかったことになってしまう。



佐々木 他社の制作さんのスキャン漏れでそういう事態になってしまったんです。しかもあのときは時間がなかったので、満足なリテイクもできず、そのまま放送されてしまった。ということを踏まえて、皮肉って「修正用紙2枚しか入れなかった」とツイートしたんですけど(笑)。



アニメーターA 視聴者がツイートだけ見たら、「こいつサボッててけしからん」ってなるのでは?



――なってましたね……。



佐々木 “真実”っていうのは、自分の手で掴まなきゃいけないんですよ……。こんなツイートをするようになったのにもきっかけがありまして。4年ほど前、演出処理を13本抱えていて、「本当に、もう仕事を振らないでくれ」と祈る気持ちでツイートをしたんです。



――え、13本?



佐々木 知り合いから頼まれたタイトルが重なってしまったんですよね。



――アニメってそんなに同時に作れるものなんですか……?



佐々木 普通なら3本で血反吐を吐いて、4本で「もう無理……」ってなると思います。



【※演出処理を13本】他のアニメ演出家にも取材したところ「制作スケジュールがバッティングしていたら2本同時でも厳しい」とのことだった。



――……検索すると本当にやってますね。ほぼ週イチで佐々木さんの演出回が放送されている。



佐々木 なぜあれができたのか、今となっては自分でも謎です。と言いつつ、今も似たペースで仕事をしているんですが。



――13本抱えてたときは、どんなスケジュール感で仕事をされていたんですか。



佐々木 気合と根性と無心ですね。



――力技だ……。



佐々木 連日打ち合わせがあるから、やるべきことが自動的に逆算されていくんです。昼12時に音響スタジオでアフレコ。16時に打ち合わせ。夕方スタジオに戻ってくると、そこから朝まで演出チェックの作業。徹夜で作った素材を使い翌日の昼13時からカッティング。それが終わると同じ編集スタジオですぐにまた別作品の作業があったり。そこからさらに夜まで打ち合わせが続いたりします。



――聞いてるだけで具合が悪くなってきました。



佐々木 この感覚を説明するのは難しいんですが、カレンダー上でスケジュールがミサイルのように飛び交うイメージなんです。「マーキングが落ちる」→「作打ちはこの日できない」というように、日程がミサイルのように飛び交って、パズルゲームのようにこれしかないという形に組み上がる。



 それでもイレギュラーな事態は起こるもので。結果、カッティング会場で5社ぐらいの制作が腕組みしながら「この後の佐々木のスケジュールをどうしましょうか」と話し合いを始めたりする。



――手塚治虫の原稿待ちをする編集者たちみたいな光景が……。



佐々木 そんな仕事量だから、あの頃は「中身を見ずにマルをつけてるんじゃないのか」と噂されたりもしました。そう言うなら「マルを付けるだけでいいから13本やってみろ!」と言いたい(笑)。



アニメーターA 名義貸しの人と違って佐々木さんは手を動かして、レイアウトも描いてますからね。中身を見ないでマルを付けるだけだと、そもそも放送できませんよ。本当にそんなことをしたら次の仕事が来ないどころか、たぶん途中で降ろされます。アニメ業界にいれば、それが絶対に通用しないのは分かるはずなんです。それでも、実情と異なる噂が先立ってしまう。



 このあいだもスケジュールが放送まで1カ月とちょっとしかない状態で半パート助けてくださいと相談されて、悪い噂を耳にしていたその作品の監督が「こんなところに頼まなきゃいけないほど切迫した状況なのか……」と肩を落としていたらしいんです。でも、上がりを見て「あれ?」と。



――噂と違って、ちゃんとしてるじゃないかと。



佐々木 「Twitterは辞めたほうが良いですよ」とは言われましたけどね(笑)。それでも放送後、現場の経緯を全く把握してない、良い生活をしている上役から「なんだこの佐々木ってやつは!」と文句を言われることはある。



●「年収4000万円」の真相



――良い生活と言えば、先日はクルーザーに乗った写真を上げてましたね。



佐々木 世間的には我々が予算を抜いてハワイでバカンスみたいなイメージになっているようですよ?



アニメーターA またわざわざ煽るようなツイートを……。



――クルーザーは貸し切ったんですか?



佐々木 いやいや(苦笑)。2時間コースで、せいぜい1万数千円ですよ。



――スタジオレオの船じゃなかったんだ……。



佐々木 スタジオレオをどんな会社だと思ってたんですか!



アニメーターA 突然「行くぞ」と誘われて。近所の焼肉ぐらいだったら良いですけど、忙しかったので断りました。



佐々木 息抜きに制作の子と行ってきました。



――過去に「年収が4000万円近い」と投稿していた件は?



佐々木 あれは会社としての売上です。



――個人の年収ではなかったんですね。



佐々木 でも、それぐらいは少し検索すれば想像つきそうなものだと思うんです。先ほどの「みんなにアニメ業界のあり方について考えてもらいたい」という話に戻りますが。グロス(下請け)1本が500万円ぐらいなので、8本作れば4000万円近い金額になる。もっとそういう業界構造に目を向けてもらいたいですね。



――お金の話でいうと、「予算を抜いた」「100万円儲けた」といったツイートも物議を醸しました。



佐々木 あの一連のツイートも、アニメ制作におけるお金の流れを知っていれば違和感はないはずです。まず俺はスタジオの代表で、会社を維持する必要がありますから、管理費として予算から適当な金額を「抜く」のは当然です。100万円についても、先ほどの単価で計算すると、レイアウトが2000円×250カットで50万円。演出料が20万円。コンテが25万円。全体の金額95万に10%の管理費が乗るため、プラス9.5万で104.5万円になります。



――そう説明されれば納得できますね。



佐々木 ボランティアではないので、当然スタジオの家賃、光熱費、ネット代、駐車場代といったものも賄わなければなりません。維持費だけでも、月に60〜70万円は必要になる。それを払うためには作業に見合った「報酬」や「管理費」が必要です。アニメを見る側にもそうした資本主義の根本と、経営者目線を知ってもらいたいんです。



●スタジオレオ設立と、コンビ結成



――スタジオレオについても聞かせてください。設立はいつごろですか?



佐々木 2018年ですね。それまでも所属していた会社で演出・制作・営業などを兼ねた動きをしていたんですが、それが自分にとって一銭にもならなかった。そこで、これは自分で会社やったほうが良いんじゃないかと思ったんです。



――社内には現在何人いらっしゃるんですか?



佐々木 今は4人ぐらい。一時期は10人ほどいましたが、コロナ禍もあって、自宅作業が増えてます。



――Aさんはいつからスタジオレオに?



アニメーターA 僕は去年(2021年)の夏ぐらいから。佐々木さんとは以前ちょっと仕事をしたことがあり、知人のアニメーターが佐々木さんに会いたいというので、その仲介を兼ねてスタジオに遊びに来たのがきっかけです。



佐々木 お互いの仕事のスタンスが似ているから、相乗効果があると思って誘ったんです。



――今はどういう分担でお仕事をされてるんでしょうか。



アニメーターA 基本的にレイアウトの絵の部分は僕が全部描いて、タイムシートは時間が無いと佐々木さんに投げてますね。机が横に並んでいて、信頼関係もある相手だから、ここまで描けば演出上がりとして仕上げてくれる、というのが分かる。



佐々木 あとは作監に入れるだけだから、本当に無駄がないんです。



――第1原画の演出上がりまでは2人でほぼ完結してしまうと。



佐々木 そこから先の第2原画※は時間が無いので、海外のスタジオにお願いしています。



【※第2原画】アニメーターが作業した「1原(レイアウト+ラフ原画)」は演出や作画監督などによるチェック・修正を経てアニメーター本人に戻され、原画の清書作業をするのが基本の流れ。しかし2000年代以降はスケジュールなどを理由に、後半の清書作業を「第2原画」として国内外の別のアニメーターに担当してもらうケースが増えている。



アニメーターA 時間がないのは画面全体に現れてますよね。でも、もともとの時間がないんだからそれはどうしようもない。作品単位でスケジュールや金額の条件を改善してもらえるなら、自分ももっと時間をかけてやれるんですが……。



 ギリギリのスケジュールで拘束費も出ず、単価も安いのでは力を入れられない。そこに力を入れてしまうと、他のちゃんとした条件の仕事が何もできなくなって、赤字で食えなくなってしまう。



――良いスケジュールで、ガッツリ作り込んでみたいという野望もある?



佐々木 無くはないですけど、そんな仕事は来ないです(笑)。周りもそれを分かってるというか。業界にはつねにやばい、どうにかしなくちゃいけないタイトルであふれている。俺はまず、それをどうにかしなくちゃならないんです。



アニメーターA それに、1本をとことん作り込むタイプの人間でもない。自分と同世代の若手に凝り症な人もいますけど。僕は普通よりもちょっとクオリティーが高いぐらいのところに上げるのは全然やりますが、デジタルを使って凝りに凝るというタイプじゃないんです。



――手掛けたい理想のアニメ像みたいなものは?



アニメーターA 佐々木さんはどうか知らないですけど……僕は、今の主流のアニメを面白いって思ってないんです。アニメーターになってから面白いと思った作品はほとんどなくて、好きなのは子どものころに見ていたものが多いです。富野由悠季監督、出崎統監督、古橋一浩監督、望月智充監督作品は好きなものが多いですね。



――最近主流のアニメはどういったところが合わないんでしょうか?



アニメーターA 基本的に「作画アニメ」が全然好きではないんです。「良いアニメ」は良い作画と内容が結びついて、ちゃんと相乗効果として良いものになってる。仕事だから作画については詳しいですが、別に「作画アニメ」って面白かった試しがないので。



佐々木 トータルで作品として面白くあるべきで、突出した「神作画」が作品のためになるとは限らない。クリエイターの顔が見えるかどうかも、本来作品の良しあしには関係ないことですし。



アニメーターA そうですね。面白ければ、作画なんて普通ぐらいで良いんです。作画が悪目立ちしすぎて、むしろ内容がぶれることもある。アニメオタクの人ほど、そこら辺が割と盲目な人が多い。だから同世代の監督とも意見がぶつかることが多いです。



――スタジオに入る前と後で、仕事のやりやすさに変化を感じたことは?



アニメーターA スタジオレオに来る前はずっと自宅で1人でやってましたが、作品に貢献してるはずなのに認められないみたいな感覚はありました。スタジオに入ってからは、交渉事があるときに違うなというのはやっぱりありますね。



――低い単価で受けざるを得なかったのが、交渉しやすくなるとか?



アニメーターA そうですね。僕はもともと結構交渉をする方だったんです。でも、直で言うと「こいつめんどくさいな」「本当に大丈夫かな?」と思われやすくて。制作さんは基本的にそのとき都合の良い、どんな条件にも文句を言わない人間を欲しているので。



佐々木 あとは、やれることが増えるイメージかもしれません。スタジオに入っていれば、最悪何か問題が起きたとしても、他の作監・演出でフォローできる。発注する側も安心しやすくなります。



アニメーターA スタジオに所属していれば「このアニメーターはちゃんとしている」と思ってもらいやすいんでしょうね。そういう判断基準で大丈夫と思ってしまう制作さん側にも、また別の問題があるのですが……。



――どういった問題があるのでしょう?



アニメーターA 制作さんはアニメーターを評価する立場にもかかわらず、絵について分かってないことが多いんです。絵描き視点での「こうだったら助かる」ではなく、派手な場面をつなぎ合わせた作画MADみたいな、素人でも分かるような何かすごいものじゃないと評価できない。



佐々木 そういった見識のなさによってできあがるのが、作監が10人も20人もいて、もはや作監が原画をやり、総作監が作監をやっているのでは? という現場です。



アニメーターA あれは結局制作さんが、その場限りの工程表を進めたいがためだけに使えない人でも適当に入れて、それを後から他のスタッフが無理やりフォローして、フォローして……っていうのをひたすら馬鹿みたいにさせているという。



佐々木 もちろんスケジュールがそもそも破綻していたり、腕があるアニメーターへのツテがないといった現実的な問題もあるとは思いますが。結果的に、無駄の極みのような制作工程になってしまっている。



アニメーターA  ちゃんとレイアウト上で空間が取れて、芝居が足りていて……といった技能が無視され、「絵がきれいでキャラクターが似ている」「過剰に動いている」ことだけが評価されがちな現状は問題だと思っています。



 その結果、アニメーターの側も本来一番重要なレイアウトや芝居などの要素に力を入れるより、キャラクターがレイアウトの段階で整っている事に注力しすぎてしまうし、それしかできない人が重用されている。あるいは作画監督も、キャラクターの顔はきれいに直すのに、空間内での整合性は全然直せていなかったり。それではもうアニメーターではなく「お化粧屋」ですよ。そもそもその原因として、デスクやプロデューサーにアニメーターの本来の意味での良し悪しを見分けられる人が稀、というのもありますが。



※発言を一部加筆修正しました(10月3日1時44分)



佐々木 前に作画崩壊だと言われて炎上したときは、ラッシュチェック時にデスクやプロデューサーが「大丈夫です!」と言ってくれたんです。でも、画面は素人目にも大丈夫ではなかった(笑)。



――それなのになぜ「大丈夫」と……?



佐々木 それよりも前に手掛けた話数が、なまじ評判良かったんです。そのときのうちの作監上がりのデータがこちらなんですが。



――(何カット分かデータを見せてもらう)……キャラも動きも違和感ないですね。



アニメーターA 時間が無い中でこのクオリティーだった前例があったので、炎上した回では本社の総作監をうちに回してもらえなかったんです……。



佐々木 動きやデッサンには問題がなく、元請け会社が求めるクオリティーは超えていたんです。しかしキャラクターデザインが個性的で、あのスケジュールで作風に寄せ切るには、総作監の救援がほしかった。あれは、過去に少ない時間で作れるのを見せてしまったがために作画崩壊した案件でしたね……。



●「ただのアニメ好きの男の子でいるわけにはいかない」



――先ほど、やばい案件ばかり受けていると「食えなくなってしまう」という切実なお話しも出ました。それなのになぜ、明らかにやばい案件を引き受けてしまうんですか?



佐々木 勘違いされがちですけど、俺はアニメを愛してるんですよ。どうしようもなくだらしないアニメ業界のことも含めて。だから「どこかで放送が危うくなっている」「誰もいない」のを見ると放っておけなくなる。



アニメーターA またいつもの胡散臭い言い方をする(笑)。



佐々木 いやいや、これは真面目な話です。俺も制作時代、誰も助けてくれずに苦しんだ経験が何度もありました。そんなときに助けてくれた人の存在は、本当にありがたかった。俺もそういう人間でありたいんです。“放送できなきゃ意味がない”ですし、待ってる視聴者がいるんだから、悪者と思われたって“最終防波堤”をやりますよ。



――おお……。



佐々木 この信念は、「機動警察パトレイバー 2 the Movie」の影響だったりします。あの映画で特車二課は、上から待機を命じられているのに出動するかどうかの選択を迫られる。そこで遊馬が「レイバーを降ろされるかもしれない」と忠告するじゃないですか。



 でも野明は「あたし、いつまでもレイバーが好きなだけの女の子でいたくない」と言う。あれを見たときに、自分もただのアニメ好きの男の子でいるわけにはいかないと思ったんです。それが“プロ”である、と。



――そんな熱い背景が……。最後に、言い足りないことなどがありましたらお願いします。



佐々木 「俺は殺されても死なない自信があるので、殺す気で仕事を奪いにきてほしい」と言いたいですね。俺の仕事がなくなったときが業界に平安が訪れるときなので……。



――業界には平安になってもらいたい?



佐々木 もちろんです。そろそろ、俺に仕事が一極集中するこの業界の“異常さ”に気付いてほしいんです。絵が描けない演出家がレイアウトを描いてるのはおかしいでしょう? 「これはおかしい」と、みんなにも思ってもらいたい。



――本来アニメーターが描くべきであると。



佐々木 当たり前ですよ。ちゃんと単価が上がったら、自分では描きません。本職のアニメーターがいるんだから、そちらにお願いした方が良いに決まってます。



――しかし現状では単価が安すぎると。



佐々木 そうです。なので、俺が干されるぐらい、ちゃんとクリエイターが活躍してくれる状況になってほしいんです。



アニメーターA 本当に厳しい仕事は、誰も助けてくれないんですよね……。



――制作費の底上げがないと難しい?



佐々木 制作費もそうですし、そのための前提知識となるアニメ作りの基本を誰も教えてもらえないことも問題です。レイアウトってこういうものだよ、原画はこうだよ、という継承が無い。大手スタジオでは育成に力を入れているところも増えてますが、まだ全然足りない。



 あとはシステムとして作監を10人20人呼ぶのはやめましょうと。それは社内に人がいないということじゃないですか。小さな会社だとしても、元請け会社なら社内で最低限責任を持って作るべきです。



 俺は間違っているかもしれませんが、この業界はもっと間違っている。



アニメーターA その熱い思いを、もっとTwitterでも誤解が無いように発信してもらいたいですね(笑)。



佐々木 俺は人の心を、サイコフレームの共振を信じているので。



――もうちょっとヒントがほしいです。



アニメーターA そうそう。ノーヒントで信じるのは難しいですよ。



佐々木 今後はこの記事がヒントになることを祈っております。



・・・・・・・・・・



 直接対面した佐々木氏は、ツイートの印象通り自由奔放な部分もあるものの、アニメ作りに対しては自分なりの矜持(きょうじ)を持って向き合っているように見えた。



 今回の取材では、佐々木氏の評判について業界関係者数人にも話を聞くことができた。苦しいスケジュールで演出の依頼をしたという制作進行のB氏は、「急な依頼で、本来3カ月必要なところを1カ月で助けてもらい、ありがたかった」「作り方が大胆なので業界内でも評価は分かれるが、演出としてのポイントは外さない」と証言する。



 アニメ雑誌編集者でアニメ演出の経験もある村上修一郎氏は、佐々木氏の名前をネット掲示板の「糞演出家を晒すスレ」で知ったという。しかし縁あって実際の仕事ぶりに触れ「入れた修正を見ると、意外とちゃんとしている」「普通なら逃げ出す悲惨な現場をなぜか率先して引き受け、形にし続けている異常な人物」と評している。



 インタビュー内では予算やスケジュールが足りないため「アニメーターではない演出家が直接原画を描く」という、ある種の“異常”な制作手段が明かされた。この他にも、アニメーターが正当に評価されづらく、場当たり的に投入されがちな構造的問題に対しても批判が上がった。



 佐々木氏自身「作品の面白さが全て」と語っていたように、このような制作背景の数々は視聴者にとって本来関係がないものかもしれない。しかし、「作画崩壊」したアニメがなぜ生まれるのか? 一旦立ち止まり、より精度の高い批判的視線を向けていくことが、長い目で見れば業界の体質改善にもつながっていくはずだ。



 インタビューの最後、佐々木氏が口にした「俺が干されるぐらい、ちゃんとクリエイターが活躍してくれる状況になってほしい」という言葉が印象に残った。果たして、佐々木氏が「干される」日は来るのだろうか。


このニュースに関するつぶやき

  • すごい人がいたもんだなあ‥‥あえて炎上するような発言も、彼なりのアニメ業界への意趣返しなんだろうな。それも、愛に溢れた‥‥
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