白井聡×望月衣塑子「呪われた五輪」を振り返る 中止しなかった腐敗の構図とは?

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2022年10月03日 08:00  AERA dot.

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東京招致が決定=13年9月、代表撮影
東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件が波紋を広げている。コロナ禍に開催前から続いた数々の不祥事。「呪われた五輪」の腐敗の構図が次々と明らかになり、掲げられた理想は遠くかすむ。いったい、こんな五輪に誰がした──。政治学者・白井聡さんと東京新聞記者・望月衣塑子さんが語り合った。AERA 2022年10月3日号の記事を紹介する。


【写真】白井さんと望月さんはこちら
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白井:まず、カネと利権。そもそも五輪に、それ以外のことってあったんですか?とさえ思う(笑)。だから私は、いま、さまざまな汚職が明るみに出始めて、ある意味ようやっと東京五輪が「本当に開幕したな」と感じています。だってもう最初から、「アンダーコントロール」というウソから始まり、「(東北のための)復興五輪」という意味不明な言葉、国立競技場の建て替えをめぐるごたごた、エンブレム選び、開会式直前に楽曲担当者と演出担当者が降板に至るスキャンダル、組織委会長だった森喜朗氏の女性蔑視発言と引責降板、マラソン・競歩開催地移転にコロナ禍で強行開催──もう本当にすべてが「恥ずかしい」の一言でしたから。


望月:でもたとえば森さんの女性蔑視発言などは、明るみに出て海外にも報道され、日本の人権意識やジェンダー意識の低さが露呈したからこそ、日本で「あ、これって異常なんだ」と気づくことができた人も多いと思います。東京五輪で数少ない「良いこと」かも。今回の汚職でいろんなことが明らかになっていることも同様です。


白井:問題は、その気づきを得るために何兆円かかっているのか、ということですよ。


 なぜ、東京五輪がここまで呪われたものになっているのか。根本の動機が不純だからだと私は思います。動機とは、さかのぼれば3.11を利用したことです。


 バブル崩壊以降、日本は経済と暮らしがどんどん右肩下がりになってきて、「平和と繁栄の戦後」というイメージが維持できなくなっていた時に、東日本大震災と原発事故が起きた。本当ならそこで、「あ、戦後の肯定的なイメージをこのまま持続することはもう、絶対にできないんだ」と立ち止まり、見つめ直さないといけなかった。だけど、それは嫌だと。「日本はすごいんだ」と引き続き思い込みたくて「ここは東京でオリンピックだ!」となったわけです。大阪万博開催も同じ動機だと思います。要するに、高度成長期へのノスタルジーで、厳しい現実を否認しようとする、その「否認の欲望の塊のイベント」が東京五輪だった。




■歴史も記憶も壊す


望月:本当にそうですね。


白井:で、いわばその欲望を政治的に代表していたのが、安倍晋三さんという政治家だったと思います。


 たとえば会場となった国立競技場。あれは旧国立競技場を改修して使う手もあったと思うのですが、そんな否認の欲望によるイベントの結果、本当にかけがえのない歴史や記憶も壊しましたよね。私、さんざん五輪の悪口を言っていますけど、スポーツを見るのは本来、大好きなんです。旧国立競技場ではサッカーなどの名勝負や名場面が本当にたくさんあって、私にとっては大切な記憶です。それを金儲けと、否認の欲望を持続させたいがためにぶっ壊した。その恨みは一生忘れませんよ。


望月:五輪の開催地では再開発や、樹木が伐採されるなど自然環境破壊含めて必ずトラブルが起きますよね。これを機会に、本当に五輪の開催はもうやめてほしいと思います。


 あらためて振り返っても、東京五輪は開催すべきではありませんでした。当時の首相の菅さんがなぜ「中止」という英断をできなかったか。あの夏、コロナの感染が拡大して、救急車を100回呼んでも来ないとか死者の急増とか本当に深刻な状況でした。そんな中で、児童を全国で128万人、都内で90万人、大会観戦に動員する「学校連携観戦プログラム」という話があって、それに菅さんが「私も学生時代に東洋の魔女を見て感動したから」とか言って実現にすごくこだわってました。本当は学校内での集団感染が増えているという統計が出ていたのに、それもあえて発表せずに、です。コロナ感染に対する菅さんの甘さは際立ってひどかったと思います。なぜそこまで、「盛り上げ」たかったかというと、「五輪をやったオレ」という「菅レガシー」を作りたかったのと、あとはもうIOC(国際オリンピック委員会)も含めた巨大な五輪利権──高橋容疑者どころではない規模の──にどっぷりと浸かり、「とにかくやれよ、菅」というプレッシャーの中で、彼は決して退くことはできなかった。そういう状況もあったのではと思います。


 他にも、日本看護協会に500人のスタッフ動員要請が出て、批判を受けて取り下げたものの結局1日に医者230人、看護師310人もの人が五輪のために働くことになった。感染状況を考えると医療機関は猫の手も借りたい時期に、です。本当に、人の命を軽視する国だなと思いましたね。



 かと思えばその裏では、組織委の1日当たりの単価が人によって「80万円」だという内部告発がTBSの報道特集で報じられ話題になりました。お金がなく学校進学をあきらめる人がいる一方、税金から1人1日80万の手当が出るのはなぜか。こうやって振り返っても、なんかもうめちゃくちゃでしたね。


■命を軽視する国


白井:開催費用もどんどん青天井で膨らんでいって、最終的には約3兆円。招致段階の大会経費は7340億円ですから、約5倍に膨れ上がったことになる。他の開催国と比べても桁違いに大きい金額です。2020年の年末時点で追加経費2940億円が決まり、その時点で経費が1.64兆円になる見通しになったときには、森喜朗さんが「きちんと理屈はついている」などと言って、五輪と言えばいくらでもお金が出るみたいな状況になっていった。結局、問題は現代日本人の「たかり根性」ですよね。朝日新聞を含むメディア企業も、このイベントに社会的正当性があるのか一切考えずに翼賛に走った。その落とし前をどうつけるんだということがついに問われているのです。


望月:かくいう我が東京新聞も、社説では中止をとは書けず、「コロナ禍の東京五輪、大切な命を守れるのか」しか書けなかった。スポンサーにこそなってないけど、営業や事業局などでは儲けのチャンスがあるからだと。編集の現場とは全く違う論理で動く仕事とはいえ、そういう論理が結局、社説にまで影響していると思うと……。少しでも旨味が欲しいのが企業の本音とはいえ、残念です。


■自浄作用失った社会


白井:本当に、そういう私たち社会の醜さこそ金メダル級ですね。安倍政権が超長期政権化して「体制」化した日本にふさわしい醜さですよ。「とにかく儲かりさえすればよい」ということで歯止めがまったくかからず社会全体で暴走してしまった。残念ながら、検察による捜査・勾留という、国家の暴力装置を介した「合法的な暴力」でしか解決できない状況になったということですね。これは山上徹也容疑者のしたこととある意味で同じなんですよ。暴力が合法か非合法かという違いがあるだけで。自浄作用を失った社会の末路です。


 この疑獄は、相当大きく発展していく可能性があると思います。というか、捜査が政界までいかなきゃ意味がない。


望月:先ほど、いろんな暗部が明るみに出るのは五輪で数少ない「良いこと」だと言いましたが、それによって社会にショックを与え、私たちの五輪に対する考えの目が覚めるかというと、また別の話なんですね。読者は旧統一教会に関するニュースにはすごく反応するが、AOKIやKADOKAWAの逮捕劇では反応が弱いと聞きます。世の中の人たちにとっては、まだ身に迫るものがない。菅さんが「コロナに打ち勝つために五輪を」と言う一方で多くの死人が出るなど、肌感覚で身近に危機が感じられ、名の知られた政治家がシンボリックな形で罪に問われたとなると、世の中の五輪に対する空気も変わると思います。


白井:ただ、五輪のことを追ってきた人にとっては、今回最初に逮捕されたのが高橋治之さんだったというのは、「お、いきなりこの人来たか」と感じましたよね。捜査の本気度をじゅうぶん予感させるものでした。


望月:いま捜査に入っているのが地検特捜部の主に政治家や官僚などの汚職、贈収賄事件を担当する班なので、誰かしら政治家をターゲットにしているのではと私も思います。事件の広がりが大きいのでお金のルートを絞り込み、「これは」というところで踏み切ってくると見ていますけど。ここまでの大きな疑獄事件になって、札幌五輪への「悪影響」が言われていますが、このままいけば札幌五輪でも「汚職の構図」は変わりません。ここは潔く、開催をやめるべきだと思いますね。


(構成/編集部・小長光哲郎)

※AERA 2022年10月3日号より抜粋


このニュースに関するつぶやき

  • 利権問題は利権問題。五輪の開催意義とはかけ離れた話だろう。アスリート不在で「五輪は開催すべきではない」とか、門外漢のブンヤふぜいが口を出すな。
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