ラオウ演じた内海賢二の素顔と「声優黎明期」 「顔出しNG」だった時代も

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2022年10月03日 11:45  AERA dot.

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内海賢二さん
2013年、75歳で世を去った声優の内海賢二さんの人物像に迫る映画が公開される。内海さんの駆け出し時代を知る「レジェンド声優」は、まだ声優が「裏方」扱いだった黎明期から現在までの、目覚ましい時代の移り変わりを語る──。


【写真】内海賢二さんの息子、賢太郎さんはこちら
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「北斗の拳」のラオウ、「Dr.スランプ アラレちゃん」の則巻千兵衛、「魔法使いサリー」のサリーちゃんのパパ、そして洋画でのスティーブ・マックイーンやジャック・ニコルソンの吹き替え……内海賢二さんは、さまざまな“声”でお茶の間に親しまれた。


 9月30日公開の映画「その声のあなたへ」は、新人ライターが内海さんゆかりの声優やスタッフに話を聞いていくドラマ仕立てのパートを盛り込みながら、その人物像を浮き彫りにするドキュメンタリー。作品には内海さんの妻で「サザエさん」のワカメちゃんや「ドラえもん」のしずかちゃんの役をつとめた野村道子さんをはじめ、野沢雅子、神谷明、戸田恵子、山寺宏一、水樹奈々などの豪華声優が「証言者」として登場。声優界全体の歴史やあり方についても語られていく。


「『お世話になったから、恩返しのために』と、みなさん本当に快く出演を引き受けてくださって。そこは父の人徳だったのかなと思います」


 と、作品にも登場する内海さんの息子で、内海さんが設立した声優事務所・賢プロダクションを受け継いだ内海賢太郎さんは語る。


「明るく豪快なイメージの父ですが、一方で謙虚でもあり、生前には自伝の話を断ったこともありました。父が生きていたら映画なんて絶対嫌だと言っていた気がします(笑)。父の世代は、声優というと裏方意識というか、メインストリームに出る花形役者とは別物という感覚があったようですからね」(賢太郎さん)


 ラオウとしずかちゃんの声が響く家庭で生まれ育った賢太郎さんは、少年時代をこう振り返る。


「遊びに来た友達に、母がふざけてしずかちゃんの声で呼びかけて、ビックリされていましたね。当時、野沢雅子さんもご近所で、時々いらっしゃいました。『Dr.スランプ』が始まったときには『お前のお父さん、スケベだな』と言われていたのに、『北斗の拳』のラオウが出てくると、『親父さん、強いな』と変わった(笑)」




 そんな内海さんを「ケン坊」と呼び可愛がってきた声優が、柴田秀勝さん(85)。60年以上のキャリアを持ち、今なお現役。「タイガーマスク」のミスターXや「マジンガーZ」のあしゅら男爵など、また特撮作品で何度も悪のボス格を演じた“レジェンド”だ。二人が出会ったのは1960年のことだ。


「『やたら声のいい男が九州から出てきたから、面倒みてやってもらえないか』と知人に言われたんです。ケン坊はボストンバッグ一つだけ持って現れてね。住む所もお金も仕事も全く考えていないと言うから呆れました」


 内海さんは、柴田さんが現在も経営する新宿ゴールデン街の会員制バーに住み込みで働きながら、映画の吹き替えや劇団の舞台など、俳優のキャリアをスタートさせた。


「当時は、『声優』という言葉すら普及していませんでした」(柴田さん)


 声優専門のプロダクションもあまりなく、大山のぶ代、野沢雅子といった、後に“レジェンド”と呼ばれるようになる声優の多くが俳優・役者としてキャリアを始めた。


「当時は声の仕事はどこか裏方のような存在で、劇団に所属している役者のアルバイト感覚の面もあった。アニメ作品ではキャラクターのイメージを崩してはいけないからと、顔出しもあまりしなかった時代です。大きなスタジオにBGMを担当する演奏者、靴音や風の音を担当する音響効果の人などと一緒に入って大勢で収録していました」(同)



 柴田さんの元に転がり込んだ内海さんも、役者を目指して上京してきた若者の一人だった。


「収入が必要だろうと、キャバレーの照明の仕事を紹介して。そうこうするうちに外国映画の吹き替え番組がテレビで始まるというので、お前、ちょっとやってみろと」


 状況が一変したのは、74年に「宇宙戦艦ヤマト」のテレビシリーズが大ヒットしたときだ。


「『ヤマト』がブームになって、子供向けと思われていたアニメに、大人も楽しめるような物語がどんどん作られるようになりました」



 同時期にアニメ雑誌が創刊され、一部の声優はアイドル的人気を集めるなど、「声優」という職業にもようやくスポットライトが当たる時代が到来した。一方で、声優に求められる演技やパフォーマンスの質も、徐々に変わってきたのだという。


「昔の日本アニメはセル画の枚数も少なく、表情の乏しさを補うために、抑揚をつけて誇張した演技が要求されました。それが今やフルCGで作画する時代になって、より自然な演技のほうが作品に合うようになってきた。僕は劇団育ちなので、どうしても誇張した演技が染み付いている。『俺の芝居、古くない?』って時々周りに聞くんです。時代が求めるものが変化していくから、僕自身、今も修業中の気分です」


■変化しながらも継承される名作


 低音で張りのある声が特徴だった内海さんも早くから頭角を現し、長年、声優界の第一線で活躍。自ら事務所を設立し、後進の育成にも努めた。柴田さんは、84年のアニメ「北斗の拳」で内海さんが演じたラオウが印象的だったと語る。


「『Dr.スランプ』の千兵衛さんのときはまだ千兵衛さんを“演じている”という感じでしたが、『北斗の拳』で久しぶりに共演したときのラオウは、その気迫たるやもはや“ケン坊”が演じるのではなくラオウそのもの。おおすごい、こいつ完全にラオウの中に入っているとビックリしました」


 声優界の黎明期を知る存在は徐々に少なくなっている。今年も「ルパン三世」の次元大介役で知られる小林清志さん、「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズの冬月コウゾウ役の清川元夢さんなど、複数のベテランが世を去った。長寿作品では声優の交代も珍しくなくなっている。柴田さんは言う。


「作画も声も、時代に合ったものに変化していく。ものまねではなくて、ちゃんと今の作画に合う声、演技をみなさんしてくれて名作は受け継がれてきていると思います」


 この先、新たなラオウ像も生み出されることだろうが、レジェンドたちが作り上げた芯の部分はきっと変わらず、世代を超えて受け継がれていく。(本誌・太田サトル)

※週刊朝日  2022年10月7日号


このニュースに関するつぶやき

  • 『Dr.スランプ』の放映時、小山 茉美 さんと子どもたちの質問に答える番組に出演され『どうして千兵衛さんは3分間だけカッコよくなれるの?』と訊かれて、困ってたのを思い出します��(��)
    • イイネ!4
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