「ウチは中小だから」でクラウド導入を諦めるのがもったいない理由 今から始めるIaaS・PaaS活用キホンのキ

0

2022年10月03日 16:42  ITmedia NEWS

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia NEWS

ガートナージャパンの亦賀忠明さん

 もはやITインフラの構築には欠かせない存在になりつつあるIaaS(Infrastructure as a Service)やPaaS(Platform as a Service)などのクラウドサービス。大企業を中心に利用が増えている一方で、中小企業ではまだ導入が進んでいないのが現状だ。



【その他の画像】



 調査会社のMM総研によれば、中小企業はそもそもクラウドサービス全体の利用が進んでいないという。3月に発表した調査結果では大企業と中堅企業は8割弱が「クラウドを利用している」と答えたのに対し、中小企業で同様の回答があったのは半数弱だった。



 一方で「中小だからといってIaaS・PaaSを使わないのはもったいない」と、IT分野のコンサルティングなどを手掛けるガートナージャパンのアナリスト・亦賀(またが)忠明さん(ディスティングイッシュトバイス プレジデントアナリスト)は指摘する。亦賀さんによれば、クラウドは中小こそメリットが大きい面もあるという。



 中小企業だからこそ得られるIaaS・PaaS活用の利点とは何か。実際に導入するときの注意点と合わせて、亦賀さんに詳細を聞く。



●スキル次第で中小でも大企業と同じパワーを クラウドの利点



 亦賀さんによれば、中小企業がIaaS・PaaSを使う利点は、スキルさえあれば大企業と同等のリソースを使える点にあるという。



 そもそもIaaS・PaaSは、米Amazonや米Microsoft、米Googleといった企業が用意したコンピュータ(サーバ)の処理能力を、従量課金制で利用できるサービスのことを指す。PaaSはこれらの処理能力を活用し、ソフトウェアなどを開発する環境やプログラムを実行する環境を提供する。IaaSはこういった環境そのものを一から構築できる基盤を提供している。



 いずれもサービスの提供基盤、もしくは基幹システムの運用基盤などの用途で使われることが多い。このうち、IaaSは物理サーバの性能を貸し出す「レンタルサーバ」「ホスティングサービス」などと混同されることもあるが、これらは異なる特徴を持つ。



 例えばレンタルサーバなどの料金体系は、やりとりできるデータ量などの上限を定めた月額課金制が多い。それ以上の処理はできないので、よりハイスペックなサーバが急に必要になったときは、追加でサービスやプランを契約するといった対応が求められる。しかし追加の契約には時間や手間が掛かることもあり、クラウドに比べると柔軟性に欠けやすい。



 一方でIaaSは従量課金制のサービスがほとんどだ。物理的なサーバ内に仮想的に作った仮想サーバの性能を提供する仕組みで、物理サーバ単位ではなくその中の領域単位で借りるイメージに近い。CPUやメモリといったハードウェアの性能も仮想的に再現するので、サーバごとの処理能力を柔軟に変更しやすい。



 この変更もユーザーの手元ですぐにできるサービスが多いので、知識があれば急なカスタマイズにも柔軟に対応できる。従量制なので、必要なスペックに対して過剰な性能にもなりにくい。



 つまりIaaS・PaaSには、中小が自前で用意できないような性能のサーバでも、事業に合わせた規模で過不足なく使える利点がある。後から規模の拡大・縮小があったときにも対応しやすい。中小に限った話ではないが、小規模なほどこのメリットが大きい。



 定額制ゆえにコストの上限が想定しやすいレンタルサーバなどと比べると、クラウドは従量課金なのでコストの見通しがつきにくいと感じがちかもしれない。しかし裏を返せば、事業規模の大小を問わず過不足ないリソース・コストで目標を実現しやすいわけだ。



 オンプレミスに対するクラウドの立ち位置でも同じことがいえる。「例えばオンプレミスの場合、中小が数千台のサーバを管理するのは難しいかもしれない。調達にも数千万円は掛かる。対してクラウドであれば、少人数でもスキルさえあればビジネス戦略に応じてこれだけのスペックを使いこなせる可能性もある」(亦賀さん)



●「専門人材がいない」の対策論 重要なのは社内の育成・学習



 とはいえ、実際にIaaS・PaaSを導入するまでに立ちはだかる壁も大きい。多くの中小事業者が頭を抱えるのは、クラウドを使いこなせる人材の確保だろう。



 一方で、クラウドはこれから学習するための環境が整いつつあると亦賀さん。「昔は『オンプレミスの詳細はベンダーに聞かないと分からない』ような世界だったが、クラウドはサービスの情報を公開するのが基本。学習用の書籍やオンライン講座も充実してきており、勉強のハードルは低い」とし、採用や外部からの招致だけでなく、経営層も含めた社内での育成が重要と話す。



 社内の育成を重視すべき理由は他にもある。クラウド活用に当たって協力することが多いSIer(システムの構築・運用を請け負う企業)の利益と、クラウドを使いたい事業者の思惑が、必ずしも一致するとは限らないからだ。亦賀さんは、この問題が中小のクラウド活用を妨げる大きな要因の一つと指摘する。



 「ユーザー企業にはIT人材が少ないので、業務をSIerにお願いすることになる。そうすると詳細はSIer任せになる。ただ、SIerはオンプレの方が利幅がいい。SIerはシステムの構築・運用などがなりわいで、クラウドを使いすぎると自分の工数が減る。『クラウドを使いたい』といわれればやるが、本音ではクラウドを使いたくないという企業もある」



 外部からコンサルタントやアドバイザーを呼ぶ手もあるが、有効打になり得ない場合がある。亦賀さんによれば、中小は現場の声が強い企業もあり、いくら経営者や決裁権者か権限をもらった場合でも、外様の人材だと現場が聞く耳をもってくれない可能性があるという。



 「コンサルなどの能力にもよるが、いくら経営者が『君に任せた』といったって、現場に『何も知らないくせに』と話を聞いてもらえなければ意味がない。機運を高めるには、経営者自身が体制や進め方を以て現場を軽く見ていないことを示し、なぜ変わるのか腹落ちさせないといけない」



●育てた人材を“下請け”にしてはいけない 導入・活用時の注意点



 ただ、クラウド人材が確保できたからといって、それでクラウド導入・活用が万全になるわけではない。注意すべき点は他にもある。その1つが、育成した後の人材の扱いだ。



 せっかく育った人材をIT関連の業務を依頼する下請けのような存在にしてしまうと、結局モチベーションが下がってしまい、クラウドを継続的に活用することで実現できるビジネス課題の解決につながらなくなるという。



 「会社によっては業務部門の下請けになってしまい、いちいち“お伺い”を立てに行ったり、ITに関する問題を丸投げされたりする立場になることもある。これでは浮かばれない。まずは1人、2人と始めていくのよいが、中長期的にはリーダーシップを持って活動できるようにしてあげたほうがいい」



 もう1つは、どんなサービスを使うか、あらかじめある程度狙いを定めることだ。「知識のないまま『クラウドを使う』という抽象的な議論をするのではいつまでたっても話が進まない」と亦賀さん。知見が充実しているサービスを探して「AWSを使う」「Azureを使う」などと明確化してから議論した方が、話が前進しやすいという。



 「『クルマとは何か』が分かっていない状況で『クルマは安全なのか』『車種はどうすべきか』と検討しても分かるはずがない。理解していないまま話を進めると、結局ホスティングサービスなどをクラウドと勘違いして話がめちゃくちゃになってしまうこともある。トヨタに乗るならトヨタに乗ると決めてしまって『タイヤをどうすべきか』『安全装置はどうすべきか』と議論してみた方がいい。抽象論は話が進まない」



 ただ、事業規模などによってはIaaS・PaaSではなくSaaS(Software as a Service、アプリやソフトウェアをインターネット経由で使えるサービス)の活用を検討すべき場合もある。「地方の飲食店が業務システムを手作りする必要が大きいかというと違う。単純にこれまでの業務を置き換えたいのであればSaaSでもいい。ただ、全ては競争力。付加価値を付けたいのであれば、IaaS・PaaSの方がいい」という。



 「日本企業の多くが中小なのに、ほとんどが『IaaS・PaaSが使えない』といっている現状は非常にもったいない。人が少ない分だけ、変わろうと思ったら変われるのが中小の強み。オンプレミスの時代と違い、中小でも大手クラウドベンダーのパワーを使える時代が来ている。経営者も、F1レーサーのような企業になれるチャンスと捉えるべき」


    ランキングIT・インターネット

    ニュース設定