人生の集大成!押すか?押さないか?菅原そうた監督が語る『5億年ボタン』

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2022年10月06日 20:01  マイナビニュース

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●『5億年ボタン』は“人生の集大成”
2002年に菅原そうたが描いたCGコミック『みんなのトニオちゃん』の1エピソードとして発表され、その登場以来、思考実験のひとつとして、長くインターネット上で議論が繰り広げられている“5億年ボタン”。


その“5億年ボタン”が、『5億年ボタン【公式】〜菅原そうたのショートショート〜』として、原作者・菅原そうたの手によってTVアニメ化され、2022年7月〜9月に放送された。



5億年ボタン…

そのボタンを押すと100万円が出てくる…

その代わり5億年間何もない空間で過ごさなくてはならないというバイト…



しかし、5億年経った瞬間、

記憶は消され元の状態

押した本人の感覚では

一瞬で100万円というバイト…



5歳のトニオ 14歳のジャイ美 17歳のスネ子の3姉弟は

入院中の父親の治療費が払えず途方に暮れていた…

そんなとき 3姉弟の前に、

5億年ボタンをもった人物が現れるのであった…

(公式サイトより引用)



これまでに『ネットミラクルショッピング』や『gdgd妖精sシリーズ』、『なりヒロwww』、『Hi☆sCoool! セハガール』、『gdメン』、『でびどる!』など、数々のアニメ作品を手掛けてきた菅原そうたが、“人生の集大成”と位置づけるTVアニメ『5億年ボタン』。そのクレジットを見ると、ストーリー同様、ギャグのように“菅原そうた”の名前が並ぶ。


原作/監督/企画/シリーズ構成/構成/脚本/キャラクター原案/キャラクターデザイン/作画監督/音響監督/音響演出/コンテ/Vコンテ/編集/色彩設定/美術監督/プロダクションデザイン/ロゴデザイン/撮影/エフェクト/VFX/モデリング/モーション……このすべてが菅原そうた1人の手によって行われているのだ。



まさに前代未聞とも言える『5億年ボタン』がいかにして制作されたか?実際に放送されての手応えはどうだったのか?菅原そうた監督にあらためて振り返ってもらった。

○●『5億年ボタン』のアニメ化は“人生の集大成”

──今回、『5億年ボタン』をアニメ化しようとしたのはなぜですか?



菅原そうた監督 “人生の集大成”ですね。20歳のころに漫画家としてデビューしたとき、いつかこの漫画がアニメ化されたらいいなと思っていた。それが漫画家時代の僕の夢。その後、CGや動画のクリエイターになり、3分や5分のアニメを作れるようになった。そして、ようやく30分のアニメを作れるようになった今こそ、20歳のころの夢を実現するタイミングなんじゃないかと。まさに、20歳のころの漫画家の夢を、40歳のアニメ監督の自分が叶えたという感じです。



──まさに長年の夢を叶えたわけですね



そうた監督 これまでにもアニメ化しましょうと声を掛けていただいたこともありますし、自分でも作りたいという気持ちはずっとあったのですが、なかなか実現はできず。そんな中、病気になり、退院後にインドに行ったり、ニューヨークに行ったりしていたのですが、ニューヨークの道端で座り込んでいるときにふと、よし作ろう!と(笑)。それが2019年の話です。



──思い立ったが吉日という感じですが、そこからはどのような制作過程だったのでしょうか?



そうた監督 まずはトニオちゃんの漫画を全部見直して、面白いエピソードをピックアップして、脚本を書くところから始めました。そして、自分の声で音声を録って聞いてみたのですが、面白い回もあれば、本当につまらない回もある。映像がないから余計なんですけど、想像してみても全然面白くならない。音声だけでも面白かったのが「シンクロ地球儀」で、だから第1話の最初に持ってきたのですが、そこから他のエピソードを足したり、引いたりの作業を繰り返して、尺を調整しながら、何とか12話分にまとめた感じです。



──実際のCG作成にはどのくらいの時間を掛けたのですか?



そうた監督 だいたい、1話作るのに1カ月くらい掛かっています。CGは、2日で作ったものより1週間で作ったもの、1週間で作ったものより1カ月で作ったもの、時間を掛けただけクオリティが上がります。自分は、そこまでCGが上手いわけではないので、5点が20点になるくらいなんですけど(笑)、それでも時間を掛けた分だけ良くなります。そして、テレビで放送する3DCGアニメだと胸を張って言えるくらいまで仕上げるのには、どうしても1カ月は掛かる。その意味で、ちゃんと1話に1カ月掛けることができたのは、自分の中でも大きかったです。



──12話で構成したということは、最初からTVアニメとして発表することを考えていたわけですよね



そうた監督 テレビで放送したいというのは最初から決めてました。テレビで放送しつつどうするかというのが次の課題で、テレビで放送しつつYouTubeにもアップするか、動画配信サイトにお願いするか。今回は配信という形になりましたが、『5億年ボタン』は本来YouTubeとの親和性が高いはずなのに、忙しさで動けず全然ちゃんとしたことができなかったので、そのあたりはもう少し考えたかったところではあります。



──当初、放送時期はいつ頃だと考えていたのですか?



そうた監督 最初は2021年の夏くらいかなって、漠然と考えていました。それで声優さんをどうしようかと考えていたら、なんと野沢雅子さんが出てくれることになり、そのほかのキャラクターも人気のある声優の方が出てくれることになった。そうなると、今度はアフレコなどのスケジュールを調整する必要が出てきて、2021年の夏というのはちょっと難しいかなって。


●原作者の自分とアニメ監督の自分
○●20分アニメの予定がまさかの30分アニメに



──そうた監督の作品はプレスコというイメージがありますが、今回はアフレコだったんですね



そうた監督 CGが先に出来ていたので、今回はアフレコで収録しました。Bパートのアドリブ大喜利のところは音声に合わせてCGを作ることになりますが、そこはあまり時間も掛からないので。それで声も録って、Bパートまで出来上がった段階でTOKYO MXさんに連絡したら、20分枠の予定がいろいろ相談していくうちに30分枠に変更になり、放送も半年後に決まりました。


──作品自体は出来上がっているわけですから、後は座して待つという感じでしょうか?



そうた監督 いやいやいや。よく考えたら、プロデュース業とか根回しとか、そういうものが何にも出来ていなかった。普通ならクラウドファンディングとかYouTubeを使った宣伝とか、いろいろあるじゃないですか。半年なんてあってないような時間ですから、これはちょっとやばいなって。だから、できる範囲でブラッシュアップしようと思い、どうせならトコトン良い人に協力してもらおうということで、オープニング映像を友人の大月壮くんに、エンディングの映像をビームマンPさんにお願いしました。



──TOKYO MXでの放送の最後に『ネットミラクルショッピング』が流れるのは枠が拡大された影響だったんですね



そうた監督 実はそうなんですよ。足りない10分をどうしようと思ったとき、“人生の集大成”として発表するなら、初めてアニメの監督を務めた『ネットミラクル』もあらためて皆さんに観ていただきたいなと。サイズ的にもちょうどだったので、ビクターさんとMBSさんに連絡して、放送させてもらえることになりました。これは本当に感謝ですね。


○●原作者としての自分とアニメ監督としての自分



──実際に『5億年ボタン』をアニメ化してみての感想はありますか?



そうた監督 20歳の頃の自分が観たら、「あれ?なんでキャラが女の子になってるの?!」って驚くかもしれません。若い頃はめちゃくちゃクールに斜に構えて、ひねくれてて、女っ気ゼロで、女になんか興味がない、みたいなスタンスでやっていたのに、めちゃくちゃ女の子大好きじゃん、みたいになってますからね。だから、20歳の頃から応援してくれている人からすると、こんなのは違う!と思う人も中にはいるかもしれませんが、30歳くらいからめちゃくちゃ萌えカルチャーが好きになったので、今の自分にとっては、このバランスがいい感じなんです。



──萌えを追求した結果なんですね



そうた監督 その折衷案として、前半パートでは哲学多めの硬派な感じにして、後半パートで女の子を愛でられるような構成にしている部分はあります。やはり、緊張と緩和はお笑いの方程式なので、ギャグとしてもこれくらいの緩急がちょうど良いのかなと思っています。ただ、実際に観ている人がついていけなくなっているようなところもあって、前半は好きだけど、後半は嫌だ、みたいな人もいますね。特に前半を面白がってくれている人からは、後半があるせいで損をしているみたいなことを言われることもありますが、後半も自分が本当にやりたいことなんですよ。ニコニコでは後半が「ほんへ(本編)」と言われるくらい盛り上がってますし、中の人(声優)の魅力でキャラがめちゃくちゃ愛せる形式になっていますし。だから、前半で頭をフル回転させて、後半でとろけさせるみたいな感じで、ひとつの番組としての緩急を楽しんでほしいです。


──菅原そうたの集大成という意味で言えば、『ネットミラクルショッピング』があって、『gdgd妖精s』があって、その中で培われてきたテイストの集大成じゃないかと思います



そうた監督 例えばアドリブパートの場合、長尺で回して、本当に面白いところだけをつまむという方法もありますが、今回は上手くいかなかったところや、ちょっとダレてしまったところも、できるだけそのまま見せるようにしています。そのあたりのリアリティって逆に面白くないですか?あと、アドリブパートは緩さと生感を浮き彫りにするために、CGもわざとクオリティーを落としていたりもします。背景を質素にしたり、解答者のテーブルを無個性の無味乾燥なものにしたりして、なるべくクオリティーを下げることで、中の人に焦点があたるような作りにしています。少しの綺麗さも、少しのおしゃれさも、笑いの邪魔になる可能性がありますから。


●舐められているくらいが丁度よい
○●VTuberのはしり!?舐められているくらいが丁度よい



──アドリブパートの感覚は、VTuberとかを観ている若い世代のほうが刺さりやすいかもしれませんね



そうた監督 実際、VTuberみたいだと言われることもありますが、自分のほうが先にやっているんですよ。元祖を主張するつもりはまったくありませんが、けっこう走りみたいなことはやっていた。ただ、今のVTuberって、何段階も先を行っている。この例えが正しいかどうかはわかりませんが、セックス・ピストルズを好きなブルーハーツを好きなガガガSPみたいな時期になっているんですよ。しかもガガガSPのほうがピストルズのCDよりも週間ランキングでぜんぜん売れていて有名という時代にガガガSPを好きになった人が、今更ピストルズを意識することはあまりないと思うんですよね。だから、VTuberから入った人からすると、自分なんかは謎のおじさんでしかない。もちろん、ピストルズがいなくてもガガガSPは出てきたかもしれないし、僕がいなくてもどこかのタイミングで同じようなことをした人は出てきただろうし、『gdgd妖精s』じゃない何かが生まれたかもしれない。その意味では、ひとつの文化の大きな流れの中に僕も巻き込まれて楽しんでいたんじゃないかと思っています。そもそも時間がたってモーションキャプチャーの技術が安価に落ちてきた時点でみんな同じようなことするでしょうし、普通にVRチャットなんてものもありますからね(笑)。



──気づかないうちにそうた監督の影響を受けているかもしれない



そうた監督 絶対にキズナアイの影響のほうが大きいと思います(笑)。流れの中には間違いなくいたんだと思いますけど、それをわざわざ口に出すとムカつかれてしまうだけですから。全体の得と、自分の得を考えると、自分だけが得をしても仕方ないのかなって最近は思います。みんなが得をするのであれば、それはそれで問題ないし、その意味では、舐められているくらいが丁度良いのかなって。100万人が嬉しくて少数がムッとしているか、100万人がムッとしていて少数が嬉しいか。功利主義に基づいて考えるならば、最大多数の最大幸福が正義ですから。


──功利主義で言えばそうですが、なかなかそこにはたどり着けないのでは?



そうた監督 たとえ新しいギターの弾き方を編み出したとしても、名曲が生まれるわけではありません。名曲はその人の血と汗の結晶。時間と努力と人生を賭けて生身の魅力で生み出したものであり、各々の才能で生み出したものだと思っています。



──新しい弾き方を編み出すのも才能だと思います

そうた監督 自分は新しい技術を取り入れただけで、何も開発はしていませんから(笑)。そこを勘違いしてはいけないと思います。ただ、その意味で言えば、ニコニコ動画の「踊ってみた」や「歌ってみた」のツリー文化は、いろいろなサイトに影響を与えているのに、何の見返りもなくて可哀想だと思っています。絵文字もそうですが、日本は基本早いんですよ。でも、いつの間にか世界に吸収されて、当たり前になっていく。結局「誰かの」じゃなくて、人類に備わっている原動力、いろいろな人たちの協力、キャッチボールでの開発、流れで出来上がった繋がりのバイオリズムが“文化”になるのだと思います。発明者にとっては理不尽な話ですし、個人的にはニコニコ動画も絵文字ももっともっと評価されるべきだと思ってはいますが。

○●アニメ化でジャイ美とスネ子を追加



──アニメ化するにあたり、トニオ以外のキャラを変更して、ジャイ美とスネ子にしたのはなぜですか?



そうた監督 先にもお話した通り、萌えを追い求めた結果ですね(笑)。自分は特にツンデレが好きなんですけど、ジャイアンみたいなキャラでも女の子だったら、ちょっとくらい横暴でも許せるじゃないですか。逆にそれが萌える。そこからジャイ美が生まれて、それに対抗する形で、真面目でしっかりものキャラとしてスネ子が生まれた。最初、悪い輩に絡まれている女の子をジャイ美が助けてボコボコにしたり、スネ子が生徒会でみんなから慕われている様子をちゃんと描いた第1話を作ったんですけど、普通の漫画みたいでまったく面白くない。これを1話にしたらみんなが1話切りするなってカットしました(笑)。



──それはそれで観てみたい気がします



そうた監督 今なら逆に出せるかもしれませんが、テレビ用にキャラ紹介を省略してしまった結果、ジャイ美もスネ子も本来の設定からちょっと離れてしまったところはあるかもしれません。特にスネ子は、頭が良くて、誰からも慕われる、すごくしっかりした生徒会長なんですけど、放送だけ観ていると、その要素がないですよね。そこはちょっと申し訳ない感じがしています。ただ、その分だけ、共感してくれる人も増えたんじゃないかなって。スネ子が一般代表みたいな立ち位置になることで、博士とジャイ美のキャラがすごく引き立っている。博士はたまにボソっと言う一言で相手を刺すキャラだし、ジャイ美は基本的に上から目線。そうなると、相手を褒めたり、素直に笑ったりできるキャラってスネ子しかいないんですよ。それを大空(直美)さんがすごく理解して、自己犠牲で場の雰囲気を作ってくださったので、非常に助かりました。


──特にアドリブパートは、キャラになりきり、キャラとして発言しなければならないので、大変だったのではないかと思います



そうた監督 『gdgd妖精s』を作ったとき、それまではあまり萌えというのをやってこなかったので、不条理ギャグと萌えを3DCGの中で成立させるという、針の穴を通すような感覚があったのですが、その意味で、声優さんもアドリブでやりつつ、キャラも保ちつつという、まさに針の穴を通すような感覚で頑張っていただきました。


●一人でアニメを作ること
○●トニオ役はまさかの野沢雅子



──声優さんの話が出たところで、トニオを野沢雅子さんにしたいと思ったのはどのタイミングですか?



そうた監督 野沢雅子さんがNiziUのダンスをするというCGを作る仕事を受けたとき、ちょうど『5億年ボタン』を作っている最中だったので、野沢さんに直接『出てもらえませんか?』って勢いで頼んでみたら、『良いわよ!』って(笑)。声優さんと言えば真っ先に思い浮かぶ人が野沢雅子さんだったので、ほんとぉ?こんなに簡単に夢が叶って良いのかなって思いました。



──勢いだったんですね



そうた監督 勢いって怖いですね(笑)



──ジャイ美役の三森すずこさんは『gdgd妖精s』『でびどる!』に続いての出演という感じですね



そうた監督 『gdgd妖精s』は、僕の中でも、世間的にもアドリブのエポック的な作品になっていますから、三森さんに出てもらうことで雰囲気を出したかったところもあります。ノリもキャラも完全にわかってくれていますし。



──うんこちゃん役の三上枝織さんは『ネットミラクルショッピング』にも出演なさってました



そうた監督 いつもいつも変なキャラでちょっと申し訳ないところもあります(笑)。『ネットミラクル』で言うと、山田真一さんや佐藤聡美さんにも出ていただきたかったのですが、今回はちょっと難しくて。その代わりと言うのはちょっと変ですが、大空直美さんや高野麻里佳さん、羊宮妃那さん、ボルケーノ太田さん、さらには銀河万丈さんもそうですが、『5億年ボタン』を作ったことで生まれた新たな出会いにも感謝しています。


○●中二病から抜け出せない



──『5億年ボタン』は、思考実験ということもあり、Aパートは特に哲学や宗教をフィーチャーした内容になっていました



そうた監督 実際にトニオちゃんを連載していた当時は、哲学についてあまり勉強していなかったので、よくわからずに描いていました。だから、後になって自分が何となく考えていたことの先が“カント”だったり“色即是空”だったり、“梵我一如”に答えがあって、ちゃんと名前がついてたんだということを知ったわけです。そう考えると、自分の頭の中を言語化する作業を40歳まで続けていたんだなと。



──そのあたりをあらためて描こうとしたのは?



そうた監督 結局、いまだに中二病から抜け出せていないんですよ(笑)。世界とは何か?神がいなければ、良いことも悪いこともないのに、なぜ人殺しをしてはいけないのか?そんなことを、誰しもが若い頃に考えたりするじゃないですか。でも、普通は面倒くさくなって、考えるのをやめて、資本主義の現状の価値観に紛れていくのですが、僕はそこから離れられず、思春期特有の“世界とは何か?”という命題をずっと引きずってきてしまった。それが、自分なりの考えとしてある程度まとまってきたので、あえて発表したというところはあります。その意味では、『5億年ボタン』を観て、あらためて自分の中二病的な過去を思い出して、考え直してもらうきっかけになれば良いなと思います。

○●一人でアニメを作ることのメリット



──正直なところ、一人で30分アニメを作るという話を聞いたときは正気の沙汰じゃないと思いました(笑)



そうた監督 かなり難しいと思ったのですが、結局のところ、分割すれば細かい5分アニメの寄せ集めですから。5分コンテンツを3つ合わせたのが『gdgd妖精s』で、そこにOPとEDを足せばちょうど20分番組として成立するなと。



──5分コンテンツのほうが作りやすいですか?



そうた監督 自分が3〜7分のSFショートショートや、短いギャグアニメを作るのが得意というのもありますが、見る側の問題もあると思います。YouTubeにせよ、TikTokにせよ、最近は短いコンテンツが好まれますからね。1パート3分でも作れますが、7分あればもっと面白くなるコンテンツもありますから、20分枠というのが自分としては一番やりやすい気がします。



──実際のところ、一人で作るのとチーム体制で作るのはどちらが楽ですか?



そうた監督 アニメ作りは基本的にチームワークですし、最終的な映像に仕上げるまでの苦労、自分に掛かる負担を考えれば、チームで作ったほうが絶対に楽です。例えば、モーションで言えばポンポコPさんのほうが自分より上手いですし、質感で言えばビームマンPさんのほうが自分より良い。実はカメラワークすら良かったりします。餅は餅屋なんです。お金があればチームで作ったほうがクオリティも断然良くなります。今回はお金がなかったので、自分ひとりで本編をすべて作らざるを得なかっただけです(笑)。



──今回は製作委員会的なものもありませんよね



そうた監督 TOKYO MXさんをはじめ、いろいろな方にいろいろなことを手伝っていただいていますが、委員会というものは作っていません。そのおかげでいろいろと足りていないところがあるのも事実ですが、個人だからこそ、すごく偏った、すごく変な作品を作ることができたんだと思います。例えば、僕のことをすごく認めてくれている人と製作委員会を作ったとしても、製作委員会の人たちには、それぞれの個があり、事情があり、プロデューサーとしてのクリエイティビティがあるので、結果的に僕のクリエイティビティと半々になってしまいます。僕がやりたかったのはこれだけど、相手がやりたいのはこれ。そうなると、2分の1の確率で削ることになってしまう。その意味で、今回は個人で作ったからこそ、ここまで尖ったものが作れたんだと思います。異形もいいとこですからね。変えてほしいところのオンパレード間違いなしです(笑)。



──トニオの気持ち悪さを追求できたのも個人で作ったからですよね



そうた監督 万人受けするような可愛さにしても良かったんですけど、そこはやはり変なプライドがあるんですよ、クリエイターって。19才の頃って、自分は普通に受け入れられないちょっと変な物を創るぞって衝動に駆られる時期なんです。気持ち悪くないトニオには何の意味もありません。しばしば、トニオが気持ち悪いみたいな声を聞くんですけど、トニオって気持ち悪いんですよ(笑)。キモカワを狙っているわけではなく、単純に気持ち悪いものとして作ったキャラクターなので、不幸な目にあったとき、同情せずに笑うことができる。つまり、不幸をギャグとして成立させられるキャラなのですが、なかなか理解してもらえない。気持ち悪いトニオをそのまま出せたのは、一人で作ったことにおける最大のメリットだったかもしれません。あと、一人で作ってみて思ったのは「監督って何?」ってことですね。これまでさんざんアニメ監督の仕事をやらせてもらっていたのにも関わらず、すべてを自分でやってみたら本当にわからなくなって。今回、監督であり、プロデューサーということになっているんですけど、プロデューサーが作品を作ったのか、監督が作品をプロデュースしたのか?自分でもよくわからなくなっています(笑)。自分は普段監督の人が、新人プロデューサーをやってみたパターンですが、普段プロデューサーを破っている方が、手を動かして、指示を出して監督業をこなすパターンもあるでしょうし。


──自由にできるという意味では、ラップパートをご自身で歌っているのも斬新ですよね



そうた監督 ラップパートを入れたのも、“人生の集大成”だからです。2008年くらいに「GarageBand」にハマり、音楽を作っていた時期があって、2012年くらいからはまったく触らなくなったのですが、ミュージシャンとしての自分もここで出しておきたいなと。信じられる友達から自分の作った音楽を「いいじゃん!」と褒めて貰えたことがあったので、「やっちゃお!」と。これもまあ勢いです(笑)。


●5億年ボタンを押す?押さない?
○●『5億年ボタン』がBlu-rayになって登場



──残念ながら放送は終了してしまいましたが、『5億年ボタン』がBlu-rayになってリリースされます



そうた監督 いろいろ考えたんですよ、作戦を。放送の途中、第7話とか第8話くらいですかね、次はどうなるんだ!って盛り上がったタイミングで、最終話まで収録されたBlu-rayを出したら売れるんじゃないか、本当に早く観たい人が買ってくれるんじゃないかって思ったんですけど、放送とか配信を観なくなるのもそれはそれで問題で。アップされちゃったり、ネタバレが出ちゃう可能性もありますから。最終的には放送が終わった瞬間に出そうと思ったんですけど、いろいろ調整もあったりして、最終回の翌月にリリースするという普通のことになりました。



──Blu-rayには本編以外に何が収録されますか?



そうた監督 本編を収録したBlu-ray3枚のほかに、DVDとCDが同梱されるのですが、Blu-rayには本編のほかに特典として、ノンテロップのOP/EDやEDのビームマンPさんが追加で作ってくれたマルチアングル版が収録されます。DVDは「菅原そうたのショートショートDVD」となっていて、自分が今までに作った3DCG作品をまとめたものが入っています。そして、CDはアドリブコーナーの未公開ロングバージョン1枚と哲学ラップのアルバムが1枚が入ります。本当はもっと入れたいものもあったのですが、現状のスケジュール的にはこれが限界でした。



■「TVアニメ 5億年ボタン【公式】 Blu-ray 全話BOX(初回限定特典付き)」

【初回限定版】

1から12話まで完全収録!

Blu-ray3枚+特典DVD1枚+特典CD2枚豪華6枚組

【Blu-ray映像特典】

ノンテロップ「オープニング・エンディング」、キャラ別アングルエンディング

【初回限定版特典DVD】

菅原そうたのショートショートDVD

【初回限定版特典CD】

未公開ロングVerアドリブ大喜利CD/SOTA哲学ラップCD

※収録内容・商品内容は予定

○●そうた監督は“5億年ボタン”を押すのか?押さないのか?



──あらためて、『5億年ボタン』全12話を作ってみての感想はいかがですか?



そうた監督 まず第一は「これで死ねる」です(笑)。人生の集大成と言いましたが、天下の野沢雅子さんや最高の豪華声優陣で超やってみたかった内容のアニメが作れたんですから、これ以上望むことは何もないです。『5億年ボタン』を作った目的はお金じゃなくて、死ぬまでに残したいものを作ることだったので、自分の思うままに言ってしまいたい話をいっぱい入れたわけですよ。もう、これを出したら死んでもいいというボーダーラインを越えてます。本当にいい人生でした。

──大満足ということですね



そうた監督 ここで死んだら大満足なんですけど、まだ死ねないので、ここで満足するわけにはいかないというところもあります。ただ今後は、ちゃんと世界と向き合って、なるべくたくさんの人が幸せになるようにどうすればいいかを考えていきたいなと。儲かったお金を全部、子供食堂に寄付するとか。今回も儲かったら寄付しようって話をしていたんですけど、そういうことは黙ってやるのが良いよって言われて(笑)。今後は、我を捨てて、子供たちが喜ぶようなコンテンツを作るのもいいかもしれませんね。そして、最後に、本当の最後に自分が本当に作りたいものがまた作れたら幸せです。


──それでは最後に、そうた監督は“5億年ボタン”を押しますか?押しませんか?



そうた監督 “5億年ボタン”の設定には穴があるというか、けっこう、説明が足りていないところがあります。ボタンを押した瞬間に脳に微弱電流が流れてワープすることになっていますが、ワープするのは身体ごとなのか、意識だけなのか、そのあたりはあまり明確にしていません。そもそもワープという表現が正解かどうかもわからない。思考実験だから当たり前なのですが、考えたら本当にキリがない。だからこそ皆さんが20年も議論を続けてくれているのだと思いますし、自分的には集大成としてアニメ化しましたが、今後もさらなる議論を続けてほしいと思います。ボタンを押すか、押さないか……死ぬ前なら確実に押しますけど、今は押せないです。やっぱり怖いですから(笑)。



──ありがとうございました


残念ながらテレビでの放送は終了となった『5億年ボタン【公式】〜菅原そうたのショートショート〜』だが、各配信サイトにて配信されているので、まだ観たことがない人はもちろん、放送・配信を観た人もあらためてチェックしてみよう。なお、Blu-rayはAmazonにて予約受付中で、価格は14,300円(税込)。特典満載となっているので、こちらも要注目だ。各詳細はアニメ公式サイトにて。



(C)STUDIO SOTA.(糸井一臣)

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  • そんなの簡単じゃん。壊れない大きさの石をボタンに目掛けて押し当てるとか。
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