ドイツのミュラーはなぜ神出鬼没なのか? 風間八宏は「ボールを持たずに試合をコントロールできる」と分析

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2022年10月07日 11:11  webスポルティーバ

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風間八宏のサッカー深堀りSTYLE

第16回:トーマス・ミュラー(バイエルン/ドイツ)

独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏が、国内外のトップクラスの選手のテクニック、戦術を深く解説。今回は、カタールW杯で日本の最大の難敵になるであろう、ドイツのミュラー。相手の急所を読み、神出鬼没なポジションニングで試合を決める、その特異なプレースタイルを紹介する。

◆ ◆ ◆

ボールを持たずに試合をコントロールできる選手

 ドイツの名門バイエルンでトップデビューを果たした2008−09シーズン以降、公式戦600試合以上に出場し、200を超えるゴールを積み重ねてきたドイツサッカー界の生きるレジェンド、トーマス・ミュラー。




 しかもその間、大きなケガもなく、スランプもないミュラーは、いつも重要な試合で重要な役割を担い、第一線で活躍し続けてきた。

 それは、2010年のデビュー以来、118試合44得点を記録しているドイツ代表でも変わらない。W杯も過去3度出場し、2014年ブラジルW杯では優勝に大きく貢献。来るカタールW杯も、チームの中軸として4大会連続の出場が確実視されている。

 近代ドイツを代表する選手となったミュラーも、現在は33歳になった。客観的に見て、他の一流選手と比べて突出したボールテクニックやスピードがあるわけでもないミュラーが、これだけ長く世界のトップレベルで活躍するためには、それだけの理由があるはずだ。

 そんな素朴な疑問について、長年ミュラーを見続けてきた風間八宏氏が、その独特なプレースタイルを解説してくれた。

「ミュラーという選手は、試合中にあまりボールを触らなくても平気で、触らない時にも仕事ができる珍しいタイプの選手です。いつも相手の急所はどこかを考えながら動いていて、それによって相手を動かすことができます。

 にもかかわらず、大事な場面でゴール前に顔を出してゴールを決め、アシストも量産できる。それが、相手につかまらない理由であり、彼のプレースタイルのなかでも特筆すべきポイントだと思います。

 わかりやすく言えば、クロアチア代表のルカ・モドリッチはボールを保持して試合をコントロールする選手ですが、ミュラーはボールを持たなくても試合をコントロールできる選手。どちらも相手チーム全体がよく見えているからできることですが、ミュラーのような選手は圧倒的に少ないです。

 そういう意味では、モドリッチのようなプレーはその凄さがわかりやすいですが、ミュラーのプレーの凄さはわかりにくい。それは相手DFも同じで、試合中にミュラーの動きを見てその狙いを読みとるのは、相当に難易度が高いと思います」

試合で役立ち、試合を決められる

 神出鬼没とは、まさにミュラーの動きを表現するに相応しい。しかしその動きのひとつひとつには、ミュラーにしかわからない規則性があるのかもしれない。

 風間氏が、ミュラーの特長についての説明を続ける。

「確かにミュラーも高い技術の持ち主だと思いますが、たとえばバイエルンの選手のなかで特別にうまい選手というわけではありません。もしかしたら、技術的には上から数えたら先発11人に入れないかもしれない。

 でも、ミュラーほど試合で役立つ選手、試合を決められる選手はいません。しかも、ハードワークを惜しまず、この年齢になってもよく動くし、よく走る。キックの種類は少なくても、シュートはうまいし、ラストパスの質も高い。結局、どんなにボールテクニックやスピードがあっても、試合を決められなければ意味がないと考えれば、チームにとってはミュラーのほうが重要な存在になります。

 ミュラーを見ていると、少しクラシックなドイツ人らしい選手との印象を強く受けます。最近はドイツも変わってきたので、こういうタイプの選手は減りましたが、以前は勝負を最優先に考える国だけに、うまい選手より、いかに試合を決められるかという点を優先して選手を育てていたからです。

 だから、ドイツには不器用でもゴールを決める能力の高い選手が多く、逆にゴールを決めさせない能力の高いDFを、多く輩出してきた歴史があります。

 ただ、ミュラーの場合は、トップレベルでも通用するだけの技術を持ちながら、そのうえで、伝統的にドイツが大事にしてきた勝敗を決める部分の能力も兼ね備えている。そのための眼と頭脳と肉体を持っている。サッカーの進化にもすぐに順応して、長くチームの中心として最先端で活躍し続けている点を考えると、ミュラーも天才と言っていいのではないでしょうか」

 風間氏も舌を巻く、稀有なタイプの天才ミュラー。カタールW杯の初戦で対戦する日本にとっては、警戒しなければいけない選手のひとりであることは間違いないが、その効果的な対策はあるのだろうか。

ペナルティーエリアに近づけたくない

「難しいのは、ミュラーはボールを持っていない時に狙いを持っていることです。それならマークすればいいかというと、マークされるのを想定してポジションをとっているかもしれませんし、マークされない場合も考えているかもしれない。その駆け引きにとらわれすぎると、気づいた時にはゴールを決められているかもしれません。

 ただ、自分の目の前でボールを持たれる分には、そこから何かが生み出されるケースは少ないので、それほど恐れる必要はありません。ひとつ言えるとすれば、なるべくミュラーをペナルティーエリアに近づけないようにすることでしょう。

 ただし、ペナルティーエリアから離れている時も、きっと数手先を読んでポジションをとるでしょうから、どちらにしても、厄介な選手であることは間違いありません(笑)」

 現在のドイツ代表では主にトップ下でプレーするミュラーだが、右サイドでプレーする時もあれば、最近のバイエルンでは1トップも務めるなど、そのプレーには柔軟性と懐の深さがある。しかも、常に相手の急所を見ながら動いていることを考えると、相当に抑えるのが難しい選手と言えるだろう。

 果たして、カタールW杯で日本のDF陣はミュラーをどのように抑え込むのか。ボールを持たない時のミュラーの動きに注目しながら試合を見ると、わかりにくいミュラーの凄みを目撃できるかもしれない。

トーマス・ミュラー 
Thomas Muller/1989年9月13日生まれ。ドイツのバイルハイム・イン・オーバーバイエルン出身。10歳でバイエルンの育成組織に入り、2008年にトップチームデビュー。以降FWとMFでプレーし、バイエルン一筋で今季15シーズン目を迎えている。この間、ブンデスリーガ11回、チャンピオンズリーグ2回優勝。ドイツ代表では過去3回W杯に出場し、2010年南アフリカW杯では得点王を獲得。2014年ブラジルW杯では優勝を経験している。

風間八宏 
かざま・やひろ/1961年10月16日生まれ。静岡県出身。清水市立商業(当時)、筑波大学と進み、ドイツで5シーズンプレーしたのち、帰国後はマツダSC(サンフレッチェ広島の前身)に入り、Jリーグでは1994年サントリーシリーズの優勝に中心選手として貢献した。引退後は桐蔭横浜大学、筑波大学、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。各チームで技術力にあふれたサッカーを展開する。現在はセレッソ大阪アカデミーの技術委員長を務めつつ、全国でサッカー選手指導、サッカーコーチの指導に携わっている。

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