部員数が130人を超える大阪の少年野球チーム「山田西リトルウルフ」。50年以上の歴史を持ち、つい先日ドキュメント番組『バース・デイ』(TBS)でも紹介されるなど、日本有数の部員数と知名度を誇るチームです。
大人数ゆえに普段は高学年と低学年に分かれて別のグラウンドで練習を行っていますが、今回は下級生たちが練習をしている小学校のグラウンドで、総監督の棚原徹さんと創設者であり“おばちゃん”の愛称で有名な棚原安子さんにお話を伺った前編をお届けします。
【子どもが理解できるように怒る】
——子ども達、みんな楽しそうに練習に取り組んでいますね。
おばちゃん:
さっき怒ったばっかりですけどね(笑)。3、4年の子ども達はちょっと目を離したらランニングもすぐサボるから、
「サボってもわからへん思ってるやろ! おばちゃんの目をごまかせると思ったら大間違いじゃ!!」って怒ったんです(笑)。
これだけ人数がおるから自分1人手を抜いてもバレへん思っていますからね。そういうときはちゃんと怒らないと、「サボってもバレへんかったらえぇんや」って思う子どもが増えていきます。そうなると練習にならないですから。
締めるときは締めないと、この3、4年の時が子どもは一番何をするか分からない。だからこの子達のことを、私は「ギャング」と言っています(笑)。
——そうなんですね(笑)。でもとてもついさっき怒られたようには見えないですね。ピリピリ感もないですし、どちらかというと和気あいあいとした雰囲気ですね。
総監督:
怒られても萎縮している感じはしないでしょ? 子どもが萎縮してしまうのは、萎縮するような怒り方をしているからだと思うんです。
おばちゃん:
子どもが理解できるように怒れば萎縮しないんです。「あぁ自分が悪かったな」と反省するだけでね。萎縮させるような怒り方はいじめと一緒ですからね。
総監督:
(指導者が)自分の機嫌だけで怒ったり、一生懸命やっているなかでのミスを怒鳴り散らしたり。そうなると子どもも萎縮してしまいますよね。
おばちゃん:
でも明らかにサボっていた子を怒ると、子どもも萎縮じゃなくて反省しかないんですよ。
総監督:
「あ!バレた!」ってなりますからね(笑)。
おばちゃん:
私らは子どもがエラーしても怒りませんもん。だってそれは私らのノックが少なかったからエラーするんですから、「おばちゃんらが反省せんといかんな」って子ども達に言いますから。エラーしよう思うてエラーする子はいませんし、エラーって野球につきもんなんですから。
総監督:
エラーしたあとですよね。エラーしてもうて「あぁ、もうええわ」ってなっていたら、そこを怒る、という話ですからね。
おばちゃん:
エラーしたあとにどう処理をするかですよね。ミスをミスで終わらせるんじゃなくて、ミスをどういうふうにしたら小さくできるか、そこを(練習で)導いてやればね。
【見落とせない、子どもが「成長する合図」】
——4年生以下だけでも60人以上いるんですね。これだけの子ども達がいると、全員に目を行き渡らせるのは難しくないですか?
総監督:
そんなことないですよ。これだけ人数がいますけど、誰が上手くなった、元気がないとか全部分かります。上手くなったことを見つけてあげたら子どもらは喜ぶんですよ。
「お前、上手なったなぁ」って褒めてあげると「おっちゃん、気付いてくれた!」ってなるんですよね。それが「いま、ぼく伸びますよ」っていう子ども達の合図だと思っています。だから、1人ひとりのことをしっかり見ていないと気づけないですからね。
おばちゃん:
褒めるのは素直に褒めてやらないとダメですね。例えば、良いプレーをして、チェンジになって帰ってきたら感激したくらいに褒めてやらないとダメですよ。
総監督:
怒ったらダメ、ということはないと思っています。でも怒ってもいいと思いますけど、同じくらい褒めてあげないとダメだと思いますね。
日本人はとにかく褒めることが下手な人が多すぎて、みんなよう褒めへんのですよね。怒ったあとや、注意したことができたあとなどは直ぐに褒めてあげないと。
(取材・文・写真:永松欣也)
*後編に続きます。