子どもの車内置き忘れ、なぜ起きる? 心理学者に聞く「記憶が抜け落ちる」メカニズムと事故対策

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2022年11月26日 10:00  AERA dot.

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車内で女児が意識不明の状態で見つかった駐車場(大阪・岸和田市)
 大阪・岸和田市で2歳の女児が車内に9時間放置され、熱中症で命を落とす事故が今月12日に起きた。今年5月にも、新潟市で1歳5カ月の男児が高温になった車内に取り残されて亡くなる事故があったばかり。痛ましい子どもの置き去り事故が繰り返されている。なぜ、大切なわが子を忘れ、車内に置き去りにしてしまうのか。人間の記憶というメカニズムから考えられる理由と対策について、社会心理学専門の碓井真史さん(新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授)に聞いた。


【園バス置き去りを防ぐ4つのポイントはこちら】■「自分は絶対にやらない」は危険


「大切なわが子を忘れるなんて、起こるわけがない」「自分だったら絶対にやらない」。この感覚が実は危険です。人間は意図せずとも間違いを起こすという「ヒューマンエラー」の考え方に立つ必要があります。


 会議をすっぽかしてしまったり、荷物を置き忘れてきてしまったりと、うっかりミスでヒヤッとしたという経験は、たいていの人があるはずです。それが大事にならずに済んでいるだけです。厄介なことに、人間の記憶のメカニズムは、ことの重要度を明確に区別しません。大切なことだから忘れない、ミスをしない、ということはないのです。もしそれが区別できるのであれば、飛行機事故や医療事故など、とくに命に関わる現場でのミスは起きないはずです。わが子の命に関わるミスも、日常的なちょっとしたミスと同じように起こりうるのです。


■日常的行動のスイッチに要注意


いつもと違う行動をするときは、より注意が必要です。今回の岸和田市の事故もそうですが、いつもは保育園への送りをしていない父親が子どもを送ろうとした際に事故が起きている事例があります。子どもを連れて車に乗せるところまでは、いつもと違う行動なので注意を払っています。ところが、運転席に座り、扉をしめてエンジンをかけ始めると、いつもの行動に切り替わります。慣れたルートを深く考えずに運転し、これからの仕事のことをあれこれと考え、いつものように駐車場に止めるうちに、後ろの席に子どもがいる記憶がふーっとなくなってしまう、ということがあるのです。


 人間は「習慣的な記憶」には強いのですが、これから先にやるべき「展望的な記憶」を維持することは苦手といわれます。つまり、いったん日常的行動のスイッチが入ると、自然に体が動いてことが進むので、子どもを預けるという非日常的行動への意識が低くなります。結果、うっかり忘れるという事態につながるのです。


 この忘れるという現象に個人差はありますが、多くの場合は、焦りや疲れといった状況下でより起こりやすいといえます。また、やることが多いマルチタスク状態のときも要注意です。ストレスで脳が処理できる領域が狭まっているなかに、子どもの支度もあって会社に遅刻しそう、出社後に大切な会議が控えている、締め切りが迫った仕事を片づけなければならない、と脳はフル状態に。そこにいつもと違う子どもの送りが入ってきても、抜け落ちてしまうという事態が起きるのです。


 また、記憶とは不確かなものです。岸和田市の事故の父親は、他の姉妹を別園に送った後、亡くなった女児も「預けたつもりだった」と話していると報道されています。記憶は時間が経つにつれて忘れ去られるだけでなく、断片をつなぎ合わせ、事実とは違うストーリーを作り上げてしまうことがあります。前の記憶が今朝の記憶とすり替わってしまうことすらあるのです。自分のなかで確信している記憶と事実とが異なった場合、「預けていない」という事実に気づくタイミングがなく、事故につながる可能性が出てきます。


 車社会のアメリカでも、同じような置き去り事故が多く起きています。神経科学者のデビット・ダイアモンド博士は、記憶の抜け落ちを「赤ちゃん忘れ症候群」と名づけ、心理学や脳科学の観点からこの問題に取り組んでいます。


■事故を防ぐにはどうすればよいのか


 まず、こうした事故が起こりうるのだという前提に立つことです。人間の記憶力、やる気、愛情といったものを信用しすぎてはいけません。わが子にどんなに愛情をかけて育てていたとしても、こうした事故を起こす可能性があるのです。


 では、その上でどうしたらいいのか。うっかり忘れてしまうことを防ぐには、必ず行うことや、それがなかったら次の行動に移れないというものごとと関係づけるのがポイントです。たとえば、子どもが乗るチャイルドシートの横に、会社のかばんを必ず置くようにするとよいでしょう。預けるのを忘れるという失敗を犯したとしても、会社に向かう最後のタイミングで、子どもの存在に気づくことができます。ここで大切なのは、子どもを乗せたときだけでなく、乗せていないときも、必ずかばんをチャイルドシートの横に置くように習慣化することです。子どもを乗せたときだけのルールとすると、それ自体を忘れる可能性があります。


 私自身もこの方法を日常で取り入れています。たとえば研究室に傘を何度も忘れることがあったので、ドアの取っ手にかけておくようにしました。ドアからたった1メートル離れた傘立てでは忘れますが、必ず使う取っ手では忘れません。


 そして、他の人の目を入れることも効果的です。「保育園の送り、大丈夫だった?」といった夫婦間のLINEなどのやり取りを習慣化させれば、預けることを忘れていたとしても気づけるきっかけになり、重大な事故を避けられるかもしれません。


■非難するのみでは解決しない


 最近は、家庭の車だけでなく通園バスでの置き去り事故も問題になっていますので、ハード面での安全装置も開発されてきています。取り入れていくべきですが、設備を強化すると油断して、人の注意力が下がるのは往々にしてあることです。二重三重に対策を練る必要があります。


 こうした痛ましい事故が起きると、責任追及に目がいきがちです。非難するのみでは事故は繰り返されます。大切なのは事故の防止を考えることです。まずはどこの家庭にも起こりうるのだと認識し、できる防止策を話し合うこと。意識して具体的な対策を練ることが重要です。


(構成/AERA dot.編集部・市川綾子)


このニュースに関するつぶやき

  • 習慣化していると「あれ?アレやったっけ?」というのはよくある。だからヒューマンエラーは必ず起こるし「起こる前提」で複数人で対策しないといけないんだよね。
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