女性社員がソニーに「人間中心設計」を根付かせた 「変化に挑戦」「自分の成長を逃さない」企業風土が後押し

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2022年11月26日 18:00  AERA dot.

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「やりたいことがずっとできている」と語る清田友理香(photo 写真映像部・東川哲也)
 ソニーグループが営業利益1兆2023億円(2022年3月期決算)をたたき出した。営業利益1兆円超えは国内製造業ではトヨタ自動車に次ぐ2社目だ。家電の不振から復活した原動力は、そこで働く「ソニーな人たち」だ。


 短期集中連載の第2回は、“リケジョ”の清田友理香さん(33)。結婚、出産、復職と、様々なライフイベントをこなし、開発の最前線で働く。そこには気負いも背伸びもない。彼女の生き方には、ソニーの素顔が垣間見られる。2022年11月28日号の記事を紹介する。(前後編の前編)


【写真】清田友理香さんの写真をもっと見る*  *  *


 彼女は世にいう、“リケジョ”である。ソニーグループ株式会社モビリティ事業室クラウドサービス開発部の清田友理香(33)だ。


 彼女の働き方、生き方を追っていくと、ソニーとはいかなる企業なのか、ソニーの“素顔”を垣間見ることができる。


 兵庫県出身で、大学では物理学を専攻した。クラシックバレエを長くたしなんでいたといい、小柄だが立ち居振る舞いは凛としている。


 中高時代から、学園祭などの運営を仕切るのが好きだった。大学で学園祭の実行委員を務めたのをきっかけに、人間を中心に物事を設計する考え方やデザインに興味を持つようになり、それを仕事にしたいと考えるようになった。


 近年、家電やスマートフォン、ウェブ上の操作画面など、何にでも「ユーザビリティ(使いやすさ)」の重要性が指摘されるようになった。


 しかし当時は、「デザイン思考」「HCD(人間中心設計)」「UX(ユーザーエクスペリエンス=顧客体験)」などの言葉は、日本ではまったくといっていいほど知られていなかった。


■これから大事になる


 学生向けイベントでソニーの社員に話を聞く機会があった。自分の希望を話した清田に、担当者はいった。


「そういう仕事をする人は増えているよ。これから大事になってくる分野だから、会社に入ってから勉強しながらできると思う」


 最初に配属されたのは、共通ソフトウェアプラットフォームをデザインする部署だった。当時は、デジタルカメラや音楽プレーヤーをパソコン(PC)に接続し、写真や音楽を転送するのが主流だった。懐かしい時代である。それらのデバイスをPCに接続した際、PC上で動くソフトウェアが必要になる。ソフトウェアは各事業部で製品ごとに必要になるが、それらの開発を手掛けるのが共通ソフトウェアプラットフォームだった。


 共通ソフトウェアプラットフォームの開発は、デジタル化、ネットワーク化、さらにスマホの普及という時代の趨勢の中で、もっとも激しい変化の波に襲われた分野の一つだ。


 もともとPCが中心だったカメラやオーディオなどのソニー製品の利用環境は、その後、インターネットと切っても切れない関係となり、ウェブ上のインターフェースの開発も求められるようになった。


 スマートフォンの登場によってスマホアプリも必要になり、クラウドとの連携が当たり前になる中で、その対応も求められた。


「スマホやクラウドへの対応は、『必要なこと』という意識があるし、ユーザーのために『そうあるべき』と感じていたので、前向きに変化にチャレンジするムードでしたね」


 と、清田は振り返る。基本的に、ソニーの現場はネアカなのである。


■遠慮はまったくない


 入社4年目の14年、チャンスが訪れた。所属部署が独自に、3カ月間、エンジニアがアメリカなどに「短期研修」できるプログラムを始めた。「HCD」の分野において、日本で学べることはわずかだった。一方、米国は最先端だ。清田はこれに手を挙げた。自分の成長を手助けしてくれるチャンスは逃さない。女性だからという遠慮はまったくない。ソニーでは当たり前のことだ。


「アメリカで一緒に仕事をさせてもらう部署には、『HCD』を専門に学んで修士を卒業したような、専門的な知識を持つ方がいると知っていました。だから、ぜひいきたかったんです」



 もっとも、清田は前年に結婚していた。「問題はなかったんですか」と思わず尋ねると、こう答えた。


「夫もソニーで研究開発をしているんです。『いってきてもいい?』『いっておいで』みたいな感じで、送り出してもらいました」


 このあたりが、ひと昔前とは肌感覚の違うところだ。単身米国へ渡って勉強したいという妻と、快く送り出す夫という関係は、昭和の時代なら考えにくいだろう。


 しかし、清田夫妻にとっては当然のことだった。彼女は単身、米国へ向かった。


 サンディエゴで3カ月間、現地のチームと一緒に仕事をしながら学んだ。通常、日本で開発した製品は、米国向けであっても現地で使ってもらって検証することは難しい。そこで、その部署では、さまざまな国から米国市場向けの製品を受け入れ、ユーザーに試してもらったり、検証したりする仕事を行っていた。


 清田も、一緒に市場調査やユーザー調査、検証を行った。


「日本では、専門の人が少しだけ知っているような知識について、アメリカではどんな方法で調査していて、どういうふうに学べばいいのか。学んだことを持ち帰ってフィードバックしました」


 清田は、日本のソニーに「人間中心設計」の考え方を輸入した。


 現在ではインターフェィスの改善などに限らず、製品の仕様や企画にさかのぼってUX をデザインする段階まで仕事の領域は広がっている。


 (文中敬称略)(ジャーナリスト・片山修)

※AERA 2022年11月28日号より抜粋


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