「メタンガス減らした牛乳」を販売 買って飲んで、牧場の挑戦を応援 「地域共生の営みのひとつ」

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2022年11月27日 07:10  ウィズニュース

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須藤牧場では「メタンガス低減チャレンジ牛乳」のほかにも、通常の牛乳、ジャージー牛から搾られた牛乳もあります=著者撮影

温室効果ガスのひとつ「メタン」。牛のゲップから多くのメタンガスが出るため、対策を求められている酪農業界にとっては厳しい状況です。千葉にある牧場では、ゲップを軽減するエサを与えた牛から搾った「メタンガス低減」の牛乳を発売し始めました。新たなチャレンジを続ける思いを聞きました。(木村充慶)

【画像】「メタンガス低減」ミルク生産、どうやって? 須藤牧場の牛のゲップ対策

「メタンを減らす牛乳」発売
温暖化の原因となる温室効果ガスのひとつ「メタン」。牛のゲップから多くのメタンが排出されることから、近年、気候変動対策として、世界各地で牛肉や乳製品の不買運動が広がっています。酪農業界にとっては厳しい状況です。

そこで、千葉・館山にある「須藤牧場」は、「メタンガス低減チャレンジ牛乳」を発売しました。
生産過程のメタンを極力減らしてつくった牛乳といいます。どういうことでしょうか?

国内では水田からの方が多い
牛は牧草や穀物などのエサを食べると、四つに分かれた胃でゆっくり消化していきます。消化したものを口に戻す反芻(はんすう)をしながら胃を移動します。
このとき、エサを発酵しながら分解しますが、その副産物として発生するのがメタンです。ゲップの時に空気中に放出します。

メタンは二酸化炭素に次いで、地球温暖化に及ぼす影響が大きい温室効果ガスと言われています。
二酸化炭素と比べると温室効果が高い期間は短いものの、同じ量で比較すると温室効果は28倍にもなります(IPCCの第5次評価報告書より)。

メタンといえば牛のゲップが注目されがちですが、発生源は様々です。自然の発生源としては湿地や白アリ、人為的な発生源としては水田、家畜(牛、羊などの反芻動物)、ゴミの埋め立て、化石燃料採掘・燃焼などです。

実は日本では、牛のゲップよりも水田からの方がメタンは発生しています。「牛のゲップ」のイメージの方が強い現状に、疑問を持つ酪農関係者もいます。

しかし温暖化を止めるためには、どちらが多い少ないではなく、あらゆるところでメタンを減らす努力をしなければなりません。

牛の出すメタンは、多くはゲップで、ほかにも排泄物から出ます。近年、排泄物をバイオガスとしてエネルギーに転換するプラントも作られ始めています。北海道を中心にすでに実用化された工場もあります。
ゲップに対しても研究が進められており、メタンが発生しづらいエサが開発されています。すでに販売していますが、まだまだ価格が高いのが実情です。

飲むだけで気候変動対策
気候変動問題が注目され、酪農の存在意義が問われる中、須藤牧場の4代目の須藤健太さんは、メタンの排出量を減らす手立てを考え始めました。
見つけたのが「アマニ油脂肪酸カルシウム」というメタンを減らす飼料です。
エサの一部に入れるだけで、消化の時の発酵を抑制し、メタン排出量を低減する効果があるといいます。

ただでさえ原油や飼料が高騰している中、高価な飼料の購入にはためらいもあったといいますが、2022年から一部の牛に与え始めました。
そして、その牛から搾乳した牛乳を「メタンガス低減チャレンジ牛乳」として販売し始めたのです。

メタンを減らそうと、バイオガスのプラントを作ったりエサを導入したりするケースを聞いていましたが、消費者がその取り組みを目にすることは少ないと思います。
しかしこの牛乳は、買って飲むだけで、気候変動対策にもなる牛乳。牧場のメタン軽減の取り組みも応援できます。

メディアや大学の研究チームから取材依頼が来たり、自由研究の小学生からも連絡が来たり……消費者が関われるそんな対策には、多くの反響があったと言います。

様々な課題に向き合うひとつ
須藤牧場が、独自に牛乳の製造を始めたのは、昨年からでした。それまでは地域の組合に出荷し、様々な牧場の牛乳と混ぜて販売されていました。

4代目の須藤さんを中心に、ジャージー牛のみの牛乳を作ったり、牛1頭からの牛乳を搾ったり……様々な取り組みをしています。
「メタンを減らす牛乳もあくまでその一つ」と言います。

「4代にわたって、地域共生を大切にして牧場を営んできました。気候変動に限らず、様々な問題に向き合おうと、小学生向けの酪農体験や、酪農の魅力を伝える演劇などもやってきました。今回も、気候変動が問題になる中で、何かしないといけないと感じて、メタンガス対策を始めました」

それに加えて今回は、プロダクト(商品)にする意味を感じたと言います。
「現場では様々な取り組みをすでにしていますが、牛乳というプロダクトとして販売すると、声以上に届くことがあるなと感じました。牛乳が現場をつなぐものなんだなという肌感がありました」

さらに、放牧場を整備して、一部の牛を放牧しようといった新たな展開も考えているそうです。
「牛舎で育てた牛と、放牧した牛の、牛乳の味の違いを感じてもらえたらいいなと思っています。放牧が良いと思ったら放牧地を観にくるきっかけができるし、新たな関係が生まれるのではないでしょうか」

「酪農の存在意義」とは?
酪農業界が抱える問題は、気候変動だけではありません。燃料、エサとなる穀物の高騰、生乳破棄の問題などで、酪農家の経営は深刻なダメージを負っています。

政府による支援策だけでは限界があり、牛乳以外の代替ミルクが増えるなかで、改めて「なぜ酪農が必要なのか」考えるタイミングだと感じています。

牧場を巡っていても、ミルクスタンドの店頭に立っていても、「酪農は素晴らしい」「酪農は食料安全保障の観点から必要だ」「市場規模が大きいので救わなければいけない」といった様々な意見を聞きます。

消費者が選択する上で、生産者側の思いだけではない納得する意義を、もっと発信していく必要があると思います。

4代目の須藤さんは、「短期的には、長く続いてきた酪農文化、そして、地域と育んできた関係、そして、美味しいと思ってくれる消費者からの需要があると思います。ただし、今後、本当に必要かと言われると、正直分かりません」と明かします。

「培ってきた歴史を大切にしながら、課題にしっかり向き合い、チャレンジしていくことしかないなと思っています。そういう姿を見せていくことで、もしかしたら、何か意義が見えてくるかもしれません」

ミルクスタンドを運営している筆者も、今ハッキリと「これが酪農が必要な意義だ」と説明することは難しいです。
今は他の業界も俯瞰しながら、様々な課題にチャレンジすることが大切だなと思います。

厳しい状況に目を逸らさず、一つ一つの課題に向き合うことで、今後、筆者にとっても「意義」が見えてくるのかもしれないと感じています。

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