
しかも、三菱電機は4年前に子会社での不祥事が問題化しており、日野自動車は同時期に業界内の多くの企業で検査不正などが次々明るみに出て、それぞれ襟を正したはずではなかったでしょうか。それでもなお、大手名門企業の不祥事が絶えないのは、一体なぜなのでしょう。
コンプライアンス絡みの不祥事は主に3パターン
コンプライアンス絡みの不祥事は、大きく3つのパターンに分類できます。ひとつは、「社員個人の違反行動」に起因した不祥事。2つ目が「業界の習わしや業界特有の事情」に起因した不祥事。そして3つ目が「企業固有の組織風土」に起因した不祥事です。社員個人の違反行為に起因した不祥事の場合は、その人間の排除や原因究明による新たな不祥事予防策等の実施により、再発はある程度防ぐことができます。
昭和に多く起きた銀行のシステム操作による不正出金などはこの類であり、近年は類似の問題はどこの銀行でも防止することが可能になっています(新たな手法が出た場合はこの限りではありません)。
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大手が多数の下請けを抱えて大きな仕事を入札で取る建設業界や印刷業界などで横行していた「談合問題」などはこの類であり、業界内での統制によって以前に比べ是正が進んでいると言えるでしょう。
もっと厄介なのが、3つ目に挙げた「企業固有の組織風土」に起因した不祥事です。冒頭に挙げた三菱電機、日野自動車のケースは、どちらもこのタイプに分類されます。
自社の歴史に深く根を下ろした組織風土が不祥事発生の根底にあり、古くからの悪しき企業文化が脈々と受け継がれた結果、大きな不祥事がごく自然な形で起きてしまうのです。
会長も関与、累計197件の不正が発覚

鉄道車両向けの空調機器での不正行為が問題となった三菱電機のケースでは、不正は国内22拠点の約8割に当たる17拠点で計197件に上ることが判明。古いものでは30年以上前から行われ、社長、会長を歴任した柵山正樹氏までもが不正に関与していたとの報告がされています。
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エンジン試験不正が発覚した日野自動車においても、不正が20年以上の長きにわたっていたこと、経営陣もその一端を担っていたことなど、三菱電機と同様に「組織風土」が不祥事の原因であるのは明白です。
両社は不正を見て見ぬふりで誰一人として「止めよう」と言わないこと、あるいは言えないことこそが組織風土なのです。
また、経営者や役員がたとえ社員時代に不祥事に手を染めたとしても、自身が然るべき立場になった時にそれを正すことは可能であったはずであり、正すことを良しとしないこともまたその組織風土を象徴しているのです。
名門企業が抱える問題
大手電機メーカーや自動車各社、あるいは大手銀行など、歴史ある名門企業ばかりで不祥事が相次ぐ裏には、組織の構造的な問題が存在しています。彼らは、いわゆる昭和企業です。昭和企業は長らく、終身雇用を基本の雇用形態としてきました。
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昭和企業の不祥事はこうしてでき上がった、社会の非常識的組織風土が生み出したものといえるでしょう。
組織文化に詳しい佐藤和慶應義塾大学教授は、「コンプライアンス違反などの企業不祥事の多くは悪意が原因ではなく、社会の変化に気づかず規範に反する行為を慣性で繰り返す無意識の定着にある」(※3)と説明しています。
このような“無意識”を生む組織風土を改めない限り、不祥事に手を染めた企業がいかに組織風土の刷新を誓おうとも、大多数の固定メンバーで運営される組織である限りなかなかそこから抜け出せません。したがって、組織の根底に深く根を下ろした悪しき風土を改革することは、容易にはできないのです。
「最後通告」悪しき組織風土を払拭するには……
では悪しき組織風土の払拭は、いかにして行われるべきなのでしょう。もちろん、終身雇用の放棄と積極的中途採用による組織活性化が大きな起爆剤になることは確実ですが、この流れで組織風土を変えるにはかなり長い時間が必要となるでしょう。まずは、トップをはじめ指導者クラスに社外の血を入れることから始めるべきでしょう。第一歩として、自分たちの常識が社会の常識にかなっているか否か、より上の立場から外の目を入れることです。

“親方日の丸”的組織風土の緩みから破綻した日本航空は、会長に京セラ創業者の稲盛和夫氏を迎えることで悪しき「殿様風土」を一掃させ、見事な復活を遂げています。
不祥事を起こしたわけではなくとも、古い組織風土を変えようと努力する昭和企業もあります。
損害保険業界トップの損保ジャパンは、古くから組織内に根付いた昭和的なノルマ主義に危機感を覚え、会社の指示でなく「お客様のために何ができるか」という新たな文化を浸透させるべく、2019年から2年間の「ノルマ廃止」を実行しました。
短期間で目に見える大きな成果が得られるものではないかもしれませんが、古い組織風土を囲ってきた多くの昭和企業にとって示唆に富んだ施策であると思います。
1990年代後半の金融危機、2000年代後半のリーマンショックという大きなパラダイムシフト期において、昭和企業たちは都度うみ出しを迫られ、古い体質からの変革を求められてきました。
そして2020年代初頭、突然のコロナ禍による新たなパラダイムシフト期に発覚した昭和企業の相次ぐ不祥事は、悪しき組織風土の変革を求める時代の最後通告であるのかもしれません。
三菱電機や日野自動車にとって抜本的な組織風土改革が求められている今こそ、10年後に会社が今の形のまま存続できるか否かの正念場になるのではないでしょうか。
【参考】
※1:三菱電機 公式サイト
※2:三菱電機 調査委員会による調査報告書 要約版
※3:日経新聞 2月26日 Deep Inside Opinionより
大関 暁夫プロフィール
経営コンサルタント。横浜銀行入行後、支店長として数多くの企業の組織活動のアドバイザリーを務めるとともに、本部勤務時代には経営企画部門、マーケティング部門を歴任し自社の組織運営にも腕をふるった。独立後は、企業コンサルタントや企業アナリストとして、多くのメディアで執筆中。(文:大関 暁夫(組織マネジメントガイド))