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近年、デザイン性が高く、雑貨店流通を重視する家電ブランドが複数登場し、注目を集めている。
これまで家電の企画・開発・製造といえば、それなりに大きな規模のメーカーが行うのが当然だった。しかし近年は、小さなメーカーやほとんど知られていないブランドから、さまざまな家電が発売されるようになっている。
さらにもう1つの変化が、家電が販売される場所だ。今や家電量販店のみならず、駅ナカやイオンモールなどに店を構える雑貨店で家電が扱われている。デザイン性に優れ、お値ごろ価格の「雑貨系家電」が増えているのだ。
小さな会社やブランドが家電製品を企画〜販売できるようになった背景や「雑貨系家電」が人気を得ていった経緯、今後の課題を紹介する。
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●デザイン家電は、海外製から雑貨系へ
近年、デザイン性が高く、雑貨店流通を重視する家電ブランドが複数登場し、注目を集めている。その代表といえるのが、2010年代中頃に女子会やホームパーティブームを巻き起こしたイデアインターナショナル(当時、現BRUNO)の「BRUNO コンパクトホットプレート」(実勢価格1万450円)だ。普段、家電量販店には行かない若い女性層をターゲットに製品の企画・開発が行なわれ、累計販売台数250万台(21年7月末時点)の大ヒットを実現している。
この「雑貨系家電」が人気を得た背景には、Francfrancなどのインテリア系雑貨店による家電販売の開始がある。これらの店舗ではデザイン性を重視した製品を幅広く取り扱っており、家具から食器などのキッチン雑貨、そしてインテリア・ファッション雑貨などと一緒にデザイン性の高い家電が並んでいた。
しかし当初、店頭に並んでいた家電は、国産メーカー製はなく、例えばデロンギの電気ケトルや、エラクロトロラックスのスティック掃除機といったデザイン性が非常に高い欧州のメーカーの製品だった。
ただしそれらの多くは、海外市場向けに開発されているため、例えば電気ケトルは1リットル以上の大型タイプしかなかったり、ハンドブレンダーは老舗ブランドの人気製品だが3万円以上してしまう。つまり、店舗側がメインターゲットとしている若い女性にはサイズが大きすぎたり、高価でオーバースペックだったりすることが多かった。そこへ日本の若い女性を見据えて開発された、1万円以下から購入できる雑貨系家電ブランドの製品が登場して置き換わっていったというわけだ。
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実は2000年代より、無印良品やプラスマイナスゼロの家電が雑貨やインテリアと一緒に売られていたが、雑貨系家電が本格的に増えていったのは、14年に発売されたBRUNO コンパクトホットプレートの大ヒットがきっかけだ。
BRUNOでは、若い女性が海外家電へ抱く“あこがれ”をより身近なところに設定。価格も「ちょっと背伸びすれば手が届く」ところに置いた。さらに、たこ焼きプレートを使ったアヒージョのレシピなど、これまでの家電にはなかった購入者の利用シーンを広げる提案も、美しい写真とともに行った。これがSNSでのバズを生み出していった。
これをきっかけに、ノンフライオーブンや少人数用の多目的鍋などがヒットしたレコルト、キングジムグループのラドンナなど、複数メーカーから数多くの雑貨系家電が登場していく。これらの雑貨系家電ブランドは、インテリア系雑貨店の客層にあった「おしゃれで低価格なちょうどいい家電」を生み出すことで、それまで海外ブランドの家電が並んでいた棚で広がっていったのだ。
●海外工場でのファブレス生産で、小規模メーカーも参入
雑貨系家電ブランドが、手軽に家電を企画・生産できるようになった背景には、家電のファブレス生産が広がっていったことがある。それまで家電を製品化するためには量産工場が必要だった。しかし90年代以降、中国の沿岸部には多くのOEM・ODM向け生産工場が誕生。さらに工場のデジタル化や技術革新により、小ロットでも家電の開発製造が行えるようになっていった。
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自社で工場や生産ライン、金型を持たなければ、大きな資金がなくても家電の企画ができる。しかもデジタル機器と異なり、雑貨系家電の多くは機能、構造も非常にシンプルなので、開発コストはそれほど重くない。リソースをデザインに向けられるというわけだ。
こうした時代の流れも手伝って、デザインを重視したファブレス雑貨系家電メーカーやブランドが数多く登場した。この中には15年にトースターで大ヒットを飛ばしたバルミューダも含まれている。
●今後は、デザインと価格・機能のバランスが求められる
近年、数多く登場している雑貨系家電ブランドの勢いは、いまや大手家電メーカーを凌いでいる。これらメーカーやブランドは、洗濯機や冷蔵庫などの大型家電こそ手掛けていないが、ホットプレートやトースター、フードプロセッサーなどの小型調理家電では、発売される製品数はすでに大手よりも雑貨系家電メーカーの製品のほうが多い。
しかし一方で、雑貨系家電のリスクも増えている。先に紹介したBRUNOやレコルトなどは日本国内に拠点を置き、製品開発は国内で行っているが、近年、中国のOEM工場などの製品に、ほぼそのままブランド名だけ付けてAmazonなどで販売されるケースが急増しているのだ。
このケースの問題は、それなりに良いデザインを採用しており、仕様を見ただけでは違いがほとんど分からないことにある。しかし実際に購入すると、操作体系やマニュアルがほとんど日本語化されていなかったり、品質面やサポート面において問題があったりする製品も少なくない。
こういった正体不明のブランドが増えていくと、せっかく盛り上がっている雑貨系家電の信頼性が毀損してしまう可能性がある。手軽さやデザインの良さで人気を集めた雑貨系家電だが、今やデザインがいいだけの安い家電は、名もなき海外ブランドからいくらでも出てくる。つまり、これからの雑貨系家電には、それらとの差別化が求められているのだ。
デザインの良い家電が当たり前になった現在、国内大手家電メーカーもデザインに力を入れている。象印マホービンの「STAN.」シリーズや、日立の小型冷蔵庫「Chiiil」など、デザインを重視した製品が増えてきた。
家電のものづくりは、この20年で大きく変化した。その結果、20代、30代には、大手メーカーの持つブランド力はもはや通用せず、また多機能な高級モデルも必要とされていない。雑貨のようにカジュアルに買える価格で、必要十分な機能を備えた雑貨系家電が支持を集めているのだ。
これからはデザインに加えて、機能の選択と集中、機能面の進化ができている家電が主流になっていく。これまでの常識にとらわれない新しい企画や提案が欠かせなくなるのだ。そしてそれができるのは、会社の規模が小さいからこそ自由な発想で家電を開発できる雑貨系家電メーカーなのかもしれない。
(コヤマタカヒロ)
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