機能表よりも世界観のほうが大切だ マネーフォワード クラウド会計 vs. freee会計(後編)

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2022年11月28日 16:32  ITmedia NEWS

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freeeの「取引」の概念 筆者作成

 前編では、バックオフィス業務を支援するSaaSが数多く登場していること。そして、そこから自社で使うSaaSを選択する際には、機能のマルバツではなく設計思想にフォーカスすべきだと書いた。またマネーフォワード クラウド会計(MFクラウド)の特徴と、その設計思想をお伝えした。後編では、競合にあたるfreee会計についての紹介と、MFクラウドとの対決結果をお伝えする。



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 freee社は、Googleを経て起業したCEOの佐々木大輔氏が設立した。「スモールビジネスに携わるすべての人が創造的な活動にフォーカスできるよう」をミッションに掲げ、「既存の会計ソフトは分かりにくすぎる」「もっとスモールビジネスの人たちでも活用できるものを作りたい」という想いから構築されたプロダクトがfreeeである。



 既存の会計ソフトに、クラウドやアカウントアグリゲーションを掛け合わせたMFクラウドとは異なり、「スモールビジネスにとっての会計ソフトはどうあるべきか」という本質的な問いから出発している。



 会計ソフトはここ数十年あまり進化してこなかった。法令対応や細かな改善点などは都度行われていたが、多くの専門家が慣れ親しんだ会計ソフトの仕組みを根本的に変えようという発想にならなかったからである。ヘンリー・フォードの有名な言葉で「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」というものがあるが、既存の延長線上では新しいプロダクトは生まれない。



 もちろん常に変えることが正解であるとは限らない。しかしNokiaやソニーからはiPhoneが生まれなかったように、既存の枠組みの中にいる人間には見えていない改善点というものがある。それこそがイノベーションの種であり、起業家が取り組むべき領域でもある。会計ソフトという古くて専門的な領域に、freeeがゼロベースで「理想のソフトウェア」を構築しようとしたことは称賛されるべきことだ。



 一方で、会計の専門家の中にはfreeeを毛嫌いする人間も少なくない。既存の会計ソフトの枠組みに捉われずにゼロベースで開発されたため、初期は会計ソフトとしてのあるべき機能が足りなかったり、仕訳がプレビューできなかったり、と専門家からは散々の評価だった。



 一方で、既存の会計ソフトに対して不満を持っていた人々、特に会計知識を持たないスモールビジネスの方々からは一定の支持を得て、少しずつユーザーを拡大してきた。今では会計ソフトとしての基本的な機能は備えているが、当初のイメージも影響してか、会計の専門家の中には一定数のアンチfreee勢がいることも事実である。



●特徴は「取引」の概念



 freeeの大きな特徴は「取引」という独自の概念を採用していることだ。通常の会計ソフトは仕訳形式で入力するが、freeeは「取引」という枠組みの中で、発生と決済を入力することで1つの処理が完結する形式を採用している。例えば、10万円の請求書を発行した際は「売上 10万円」が収入の発生として記録され、翌月末に銀行を通じて10万円が入金された際にそれが決済されたとして記録される。基本的には発生と決済はワンセットであるため、発生後に期日を超えても決済がないものについては「未入金」であることが即座に認識できる。



 仕訳データはこれらの「取引」の裏側で生成される。1つの「取引」について発生と決済で2本の仕訳が作られるかたちだ。複式簿記における仕訳の概念はあらゆる処理をシステマチックに記録できる非常に優れた仕組みである一方で、1つ1つの処理が完全に独立して存在しているため、前述のように未入金であるかどうかを仕訳だけを見て判断することはできない。



 既存の会計ソフトでは、補助元帳を使って残高の推移を確認するか、請求書ソフトやExcelで入金有無を管理するなどの対応をしていたが、いずれもかなりの手間がかかっていた。freeeは「取引」という枠組みで発生・決済をワンセットにすることによって、入出金の管理を大幅に効率化したのである。



 また、仕訳は会計知識がない場合にはかなりハードルが高い入力形式だが、「取引」という形であえて仕訳を裏側に隠すことでそのハードルを下げることにも成功している。仕訳のように柔軟に入力していくことができないため、複雑な取引を入力したい時は逆に手間がかかってしまうこともあるが、日常的な売り上げや費用を計上する際には「取引」で必要十分な対応が可能である。



 これまでの会計ソフトは全て「仕訳入力が当たり前」であり、一定以上の会計知識がある人しか扱うことができなかったが、freeeはこれまで会計ソフトが切り捨ててきた層にまでアプローチすることに成功したのである。



 一方で、ユーザーの裾野を広げたことによるトラブルも発生している。freeeの「取引」の入力画面は、一見、会計知識がなくても対応できそうに見える。しかしそこから生成された仕訳データを使って財務諸表が作成される。つまり、正しい財務諸表を作るには、仕訳プレビューをきちんと確認したり、B/S(貸借対照表)の残高を確認したりする必要があり、会計知識がなければきちんと確認し、理解することができない。



 結果として、処理できているつもりになっていたが、期末にB/S・P/Lを確認すると滅茶苦茶になってしまっているケースも少なからず発生している。「freeeで日々入力しているから」ということで税理士が申告を引き受けてみると、全て修正が必要になって余計に手間がかかったという話もよくあるため、freee利用者の受け入れをNGにしている税理士も一定数存在する。



 ただ、全ての税理士がfreeeをNGとしているわけではない。近年は「freee専門」を掲げる税理士事務所も増えており、「取引」の概念やfreee独自の機能などを丁寧に説明することで、freeeを活用し、申告だけでなくスモールビジネスの経営管理に活用できるような支援も提供している。



 「freeeは会計知識がなくても使える」というメッセージは大きな誤解だ。ノーコードツールを正しく活用するためには、一定のプログラミングの素養が必要なのと同じである。会計知識の部分を専門家が支援をし、企業側は入力しやすいfreeeを使ってタイムリーにデータを登録することによって、リアルタイムで経営管理に必要なデータがfreee上に反映され、即座に経営判断を行うことができる。



 請求書を発行し、別途仕訳として登録するのではなく、freee上で請求書を発行すればそのまま「取引」データが作成され、売り上げを認識し、翌月末に取り込んだ銀行口座の明細データと突合することで入金管理を行う。普通の会計ソフトとは全く違う流れで、発生から決済までがスムーズに処理することが可能なのがfreeeの強みだ。初期設定や登録した内容のチェックは税理士などの専門家にお願いすればいい。freeeは「取引」という概念を採用することで、会計ソフトの中でも独自のポジションを確立することに成功したのである。



●海外SaaSのようなアプリストアも展開



 freeeは初期からAPIを公開しており、近年はfreeeアプリストアという形で100を超える連携アプリが並んでいる。多くの会計ソフトが自社で開発した別製品との連携を優先し、他社製品との連携を排除してきたのとは対照的に、Salesforceなどの海外SaaSのようにオープンなプラットフォームを築いているのがfreeeの2つ目の特徴だ。



 freeeと連携しているアプリは主に3つに分類できる。1つ目は、面倒な入力処理や会計処理を補助するアプリだ。こちらの領域はfreee社が開発して提供しているものが多く、「前受/前払アプリ」が代表的なものの1つである。



 例えば月額利用料金1万円のサービスを提供している企業が、1年分12万円を一括で請求した場合、これらは前受金としていったん登録されるが、月次での正確な収益把握のために追加処理として12万円を毎月1万円ずつに分割して振り分けなければならない。そのためには12個の振替処理を登録する必要があり、非常に手間がかかっていた。このアプリは期間と回数を指定すれば、振替処理の登録を一括で行ってくれるもので、前受金や前払金が頻繁に発生する企業では重宝されている。



 2つ目は、freeeの前工程である営業管理領域のアプリで、代表格はSFAの雄・Salesforceだ。ビジネスの規模や複雑性が増すにつれて、受注するまでのプロセスを記録し、コントロールするシステムが必須になってくる。SFAは請求書を発行する前工程を管理し、freeeには請求書を発行する機能があるため、これらを連携することで商談開始から受注確定、さらには請求書発行までをスムーズに対応することが可能になる。



 営業担当者が増え複数の商談が同時並行的に進むようになると、SFAが必要になってくる。freeeの請求書発行機能は非常に簡易的な機能であり、スモールビジネスであれば必要十分であるが、SFAを導入する規模では機能不足であるため、連携アプリを使ってシームレスに連携することで業務は大幅に効率化するのである。



 3つ目は、freeeの後工程である会計データを加工するアプリだ。予実管理やNPOなどの特殊な報告様式への変換など、freeeで作成した会計データをAPIで連携することでさまざまな用途に対応している。



 ここでは連結決算のためのアプリ「結 -YUI-」(以下「YUI」)を紹介したい。連結決算のためのソフトはこれまでもあったが、旧式のUIのものが多く、インストール型であったため、SaaS化が待ち望まれていた。YUIは完全にfreeeに特化したクラウド型の連結決算ソフトであり、連結する企業群が全てfreeeで会計処理をしていれば(freee以外の会計ソフトの場合はCSVでアップロード)シームレスに連携対応が可能になる。



 監修している税理士法人つばめは、freee専門であることを明示するために事務所の名称をfreeeのロゴに使われている「つばめ」にするぐらい筋金入りfreee専門の税理士事務所だ。財務諸表の単純連結機能はもちろんのこと、これまでアナログな対応が多かった連結処理の際に必要なさまざまな調整やチェック業務を、非常に簡単に処理できる機能を多く実装している。まだ完璧とは言えないまでも、YUIによってCSVデータをダウンロードしてExcelによる計算や加工を行う業務が減少し、大幅に連結決算の実務が効率化する未来はすぐそこまできている。



 スマホにさまざまなアプリをインストールするのと同じように、freeeもさまざまなアプリと連携をすることで業務は大幅に効率化され、どんどん便利になっていく。freeeは早くからAPIを公開しており、開発者向けのサイトやサポートも充実しているため、各種の業務系SaaSが自らfreeeと連携するアプリケーションを開発し、公開している。会計ソフトで唯一のオープンなプラットフォームといえるだろう。



●それぞれのSaaSが向いている企業



MFクラウドが向いている企業



 MFクラウドの強みは、既存の経理業務の流れを大きく変えずにクラウド化できることだ。中小企業のための会計ソフトとして必要十分な機能は備えており、かつ、請求書や給与計算、経費精算などのバックオフィスに必要な各サービスもワンパケージとして提供されているため、社内で使っているバックオフィス系のツールを一気に入れ替えることもできる。



 経理の方々にとってはデータを移行すれば即座に使い始められる馴染みのあるUIであり、ベテランの方も安心感がある。その上、領収書の添付や銀行・クレジットカードの明細データの連携など、デジタル化によって社内業務を効率化することもできる。また、税理士にとっても使い勝手は良く、これまで通りの記帳代行や税務申告の流れを踏襲できる。



 導入のハードルが低く、即座にデジタル化による恩恵を受けられるのがMFクラウドであり、まだまだアナログな業務が多い業界や地方企業などと相性が良い。



freeeが向いている企業



 freeeの強みは、経理だけでなく業務プロセス全体をデジタル化できることだ。逆にいえば経理の一存で導入することは難しく、受注管理や請求書発行、費用の計上などの関連する業務を含めて全体の流れを可視化し、再構築しなければ効果は出ない。独自の入力方式を採用していため経理に敬遠されやすいことに加えて、これらの導入プロジェクトは経理や税理士が担ってきた業務範囲を逸脱する部分も多いため、導入までのハードルが高い。



 一方で、「取引」形式は一度理解してしまえば、発生・決済の対応関係が非常に管理しやすくなり、freeeに慣れていくと普通の会計ソフトが物足りなく感じてしまうのも事実だ。特に前受金・前払金の振替処理を「取引」の枠組みの中で行うことができる「+更新」機能などはfreeeでなければ利用することができないため、大きな魅力になっている。既存の会計ソフトの枠組みを壊したことで、アンチfreeeを生み出した一方で、多くのfreeeファンも発生し、着実にユーザーを伸ばしている。



 導入のハードルはやや高めであるが、アナログな処理が少ないIT企業や都市圏の企業と相性が良い。



●機能表よりも世界観のほうが大切だ



 ここまで、クラウド会計のMFクラウドとfreeeの特徴を掘り下げてきたが、自社にとって最適なものがどちらか判断する際の参考になっただろうか。この連載は価格表や機能比較表などは一切持ち出さないかわりに、それぞれのSaaSの機能や思想を「業務設計士」として経験を踏まえて解説していく企画である。もし気になったものがあれば、ぜひ資料請求をするなり、問い合わせをするなどして詳細な検討を進めてほしい。



 機能や価格は新しいツールを導入する際に重要ではあるが、SaaSは導入後もずっとアップデートされ続ける。そのSaaSがどの方向に進化していくのか、実現したい世界観に共感できるか、といったことの方が遥かに重要であると私は感じている。



 完璧なSaaSなど存在しない。自社の状況や組織体制、人員などを踏まえて、最も相性が良さそうなものを選ぶのがSaaS選定の鉄則だ。日本においては労働人口が年々減少していくことは確実であり、デジタル化による生産性の向上なくしては既存のビジネスを維持することすら困難な未来がもうすぐそこまできている。業務効率化のためにはSaaSの活用が欠かせないからこそ、より深く各SaaSを理解し、かつ、自社の業務も再度整理をすることで、スムーズな導入につなげることが重要だ。


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