「ネットワークの分かるIT人材」をいかに育成するか――IIJの新施策から考える

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2022年11月29日 07:02  ITmediaエンタープライズ

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右から、IIJの鈴木幸一氏(会長 Co-CEO)と久島広幸氏(技術顧問)

 「ネットワークは今や社会基盤となった。ひとたび障害が起きると、その影響は測りきれないほどになってきた。そうした中で、かねて懸念されてきたのが『ネットワークの分かる』IT人材が、とりわけ日本で数少ないことだ。インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)としてこの育成に取り組み、社会貢献を果たしていきたい」



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 IIJの鈴木幸一氏(会長 Co-CEO《共同最高経営責任者》)は、同社が2022年11月21日に開催した、新たなIT人材育成の施策に関する記者説明会でこう切り出した。



●「ネットワークの分かるIT人材」がなぜ不足しているのか



 IIJが同日発表した新たな施策とは、ネットワークの高度な技術を持つIT人材を増やす目的で、ネットワークとソフトウェア開発の両技術に精通したエンジニアを育成する「IIJアカデミー」を開設することだ。同アカデミーは2023年春に開講する予定となっている。



 IIJは2022年12月3日に創業30周年を迎える。「当社には日本のインターネットをけん引してきた事業者として、ネットワーク技術とソフトウェア開発技術の知見がある。これらを最大限活用して、未来に向けてIT産業の根幹を支えるエンジニアを育成することで、デジタル社会のさらなる発展に貢献していきたい」と鈴木氏は力を込めて話した(拡大画像)。



 同氏とともに、今回の取り組みの責任者として会見に臨んだIIJの久島広幸氏(技術顧問)はIIJアカデミーについて「一言で表すと『実践演習を通じて技術を習得する教育の場』だ」と説明した。



 受講者は2023年1月から募集を開始する。IIJアカデミーは2023年1月から受講者を募集を開始する。18歳以上のスキルアップを望む若手ITエンジニアやITエンジニアを志望する学生などを対象に、12週間にわたり実習を中心とした実践的な教育プログラムを提供する。経験豊富なIIJの現役従業員が実用的な知見を基に指導するのに加え、インターネット事業者ならではのプログラムとしてIIJの設備に触れながら技術を習得できる。当面は定員を20〜30人として、マンツーマン方式で受講者個々のレベルに合わせて指導していく計画だ。



 久島氏は、ネットワークの分かるIT人材が不足する要因について、「クラウドサービスやアプライアンス製品の普及に伴った各種ネットワーク機能のブラックボックス化が挙げられる。そのため、クラウドのユーザーインタフェースの操作には慣れているが、背後で動作するネットワークやソフトウェアの理解が乏しいといった問題が起きている」と指摘した。「こうした仕組みを理解して、高品質なソフトウェアを開発でき、『いざ』という時に対処できるエンジニアが、さまざまな企業で求められている。IIJアカデミーはその学びの場となる」と説明した。



●これからのデジタル社会にとって最も懸念される問題に



 IIJアカデミーの特徴について、久島氏は次の4つを挙げた。



1.実践的な実習中心の教育プログラム



 IIJが提供するサービスの開発、運用の現場で蓄積されたナレッジや事例を基に、ITエンジニアの実際の業務に有用な教育プログラムを実習形式中心で実施した。教育プログラムに必要な理論や知識は講義を通じて習得した上で、実習を通して課題解決やケース別の対応力向上を図ることができる。



2.マンツーマン方式で個々のレベルに応じた指導



 講師との面談を通じ、受講者の技術力や学習したい技術分野を考慮して個別の教育プログラムを作成する。担当講師が受講者のレベルと課題を踏まえ、個々に合わせた技術習得目標の設定やアドバイス、講義や演習のサポート、フォローアップを行う。



3.インターネット事業者ならではの設備環境が利用可能



 大規模な設備を運営するインターネット事業者ならではのスケールが体感できるネットワーク、コンピューティングリソースに触れながら指導を受けられる。一般では経験する機会が少ないデータセンターでの実地作業を体験する教育プログラムも計画されている。



4.経験豊富なIIJの現役従業員の指導を受けられる



 IIJのサービス開発、運用で豊富な経験を積んだ現役の従業員が講師チームを作って、実習の指導およびサポートを担当する。



 IIJの今回の取り組みで筆者が注目したのは、同社が育成しようとしているのが「ネットワークの分かるIT人材」、すなわち「ネットワークとソフトウェア開発の両技術に精通したエンジニア」であることだ。



 なぜ、単なるネットワークエンジニアではないのか。そこにIIJのインターネット事業者としての強いこだわりがある。



 鈴木氏はかねてインターネットのインパクトについて、「インターネットは『情報』と『通信』の技術基盤を共にすることによって、世界のあらゆる仕組みを変えてしまう技術革新だ」との持論を述べ、「インターネットはコンピュータサイエンスだ」と強調している。これはすなわち、「インターネットはITそのもの」という解釈である。



 IIJはネットワーク事業者と見られがちだ。しかし実は、上記の考え方に基づいて、インターネットをベースとしたネットワークサービスとシステムインテグレーションが事業の二本柱となっている。こうした立場から、同社は「IIJはネットワークの分かるIT人材の質と量において世界でもトップクラス」とする一方で、「その人材不足が今後ますます深刻な問題になることも痛切に感じている」と言う。



 会見の質疑応答で、「ネットワークの分かるIT人材の育成については、産官学でプロジェクトを組んで推進するくらいの大掛かりな取り組みが必要ではないか。それに向けてIIJアカデミーを皮切りに、IIJが旗を振るつもりはないか」とあえて大きな話に膨らませて質問した。すると、鈴木氏は次のように答えた。



 「重要なテーマではあるが、大プロジェクトとなるとさまざまなすり合わせが必要になるので、まずはIIJで進めていろいろな取り組みに広がっていけばいいと思っている」



 今後は他のネットワーク事業者のIT人材育成を積極的に支援していく考えだという。IIJにとってIT人材育成は教育事業の一環だが、鈴木氏は会見の中で幾度も「社会貢献」と表現した。ネットワークの分かる人材の育成は社会貢献だとの思いが強いのだろう。



 IT人材は、DX(デジタルトランスフォーメーション)やAI(人工知能)、データサイエンス、セキュリティなど、いずれの分野も不足しているといわれる。中でもネットワークの分かるIT人材の不足は、これからのデジタル社会にとって最も懸念される問題かもしれない。その意味で、IIJの取り組みは今後も注視していきたい。



著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功



フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。


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